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なぜ自動車窃盗団が「軽トラ」を狙うようになったのか…日本ではタダ同然の車両が100万円以上で売れるワケ

プレジデントオンライン / 2024年4月3日 14時15分

日本損害保険協会「第25回自動車盗難事故実態調査結果」より

「盗まれやすいクルマ」のランキング上位に軽トラックが入るようになった。一体なぜなのか。自動車生活ジャーナリストの加藤久美子さんは「軽トラは日本独自の規格で、小さいボディの割にパワフルで実用的だと北米やオーストラリアで人気が高い。盗難された車両は解体されて、不正に輸出されているようだ」という――。

■車両盗難のランキングには2種類ある

日本国内における自動車盗難認知件数は、年間約6万台が盗まれていた2000年前後をピークに、この20年で激減している。コロナ禍の影響もあり、2021年には5182台とピーク時の1割以下になった。しかし、その後は2022年5734台、そして2023年は5762台とじわじわと増え始めている。

ところで、日本国内で毎年発表されている自動車本体の盗難台数ランキングには2種類あることをご存じだろうか?

日本損害保険協会(以下、損保協会)が発表している「車名別盗難状況-車両本体盗難」と、警察庁生活安全課による「車名別盗難台数の状況」(未遂を含まない盗難認知件数)である。両者のランキングは同じ車名でも大きな違いがある。

【図表2】車名別盗難台数の状況(未遂を含まない認知件数)
警察庁「自動車盗難等の発生状況等について」(2024年3月発表)より

■アルファードとランクルが順位逆転

分かりやすくするために2023年のランキングを合体してみた。カッコ内の数字が損保協会発表の台数である。車名別ランキングや盗難台数に大きな違いがあることがお分かりいただけるだろうか?

1位 アルファード700台(364台)
2位 ランドクルーザー 643台(383台)
3位 プリウス 428台(307台)
4位 レクサスLX 261台(120台)
5位 ハイエース 187台(60台)
6位 キャリイ115台(――)
7位 ハイゼット 107台(――)
8位 レクサスRX 88台(42台)
9位 クラウン81台(53台)
10位 レクサスLS/スカイライン 71台(――)

というのも、損保協会のデータは「車両保険を支払った台数」であり、警察庁のほうは車両本体盗難で被害届が出された件数(=認知件数)だからだ。なお、未遂は含まれていない。

■認知件数では軽トラが上位に入っている

アルファードは2023年には700台が盗まれたが、そのうち盗難と認められて車両保険が支払われた台数は約半数となる364台、同じくランドクルーザーでは643台のうち383台が支払われている。

任意保険(自動車保険)を契約している車のうち、車両保険が付保されている割合は全国平均で7割弱だが、アルファードやレクサスLXなど高級車の車両保険付保率は8割以上とみられる。それにしてはずいぶんと盗難で保険が出るケースが少ないと感じるので大手損保に聞いたところ、「盗難の事実が認められない事案もありますので……」という返事だった。これはつまり、不正請求されるケースもほどほどにあるということらしい。

注目すべきは警察庁のランキングに軽トラックが入っていることである。

6位 キャリイ115台
7位 ハイゼット107台 ※ハイゼットは軽バンも含まれる

スズキ・キャリイもダイハツ・ハイゼットも車両保険の支払いランキングには入っていない。軽トラックに車両保険を付ける人がごくわずかということだろう。

■警察庁のランキングでは「隠れていた」

軽トラックの盗難が増えている事実に筆者が気づいたのには、確固たる理由がある。

筆者が自動車盗難の取材を本格的に始めたきっかけは、2020年5月に日本で盗まれたスポーツカー十数台のパーツやエンジンが、アメリカの日本車専門店で販売されていた事件だ。軽トラックがアメリカで人気という記事も、自動車メディアに書いて多くの反響があった。しかし、軽トラックの盗難が増えているという事実を知る機会はなかった。

というのも、警察庁のランキングは長い間、「自動車盗難等の防止に関する官民合同プロジェクトチーム」の公式サイト(2022年12月末で閉鎖)で1~5位のみ公開されていたからだ。1~5位となると、例年トヨタやレクサスが独占することになり、最近増えているスカイラインなどの国産旧車スポーツカーにおいては、どれくらい盗まれているのか不明だったのである。

■人気のスカイラインよりも盗難被害が多い

そこで、2022年12月、筆者も立ち上げメンバーとなっている「車両盗難厳罰化の会」の活動で法務省、財務省、警察庁、国交省など6省庁を回って諸々の要請をする機会があり、警察庁生活安全局長の山本仁氏(当時)に「認知件数のランキングをせめて10位まで公開してほしい」と直訴したのである。

その要請を受けて、警察庁から10位までの車名が初公表されたのが2023年6月。この時に軽トラの「キャリイ」「ハイゼット(軽バン含む)」が意外と多く盗まれていることが分かった。

2024年3月1日には最新のデータとして令和5年の認知件数ランキングが公表された。

キャリイは122台→115台と少し減ってはいたが順位は7位→6位、ハイゼットは95台→107台に増えて9位→7位になっている。いずれもこの10年、盗難が急増しているスカイライン(71台)よりも多い台数だ。

■小さいボディの割にパワフルで実用的

日本で盗難された車の多くは、解体されてパーツとして海外に不正輸出されるほか、最近ではYahoo!オークションやメルカリなど国内で販売される例も少なくない。事情通によると、日本の軽トラが大人気となっている北米やオーストラリア、インドなどに盗難された軽トラが解体されて不正輸入されている可能性が高いという。

なぜ、軽トラが海外で人気急上昇となっているのか。そこから説明しておきたい。

軽トラックは日本独自の規格(サイズ、排気量など)で、これまで海外で同様のクルマが日本から新車として正規輸出された例は、少なくとも過去30年間ではない。

というのも、軽トラは農業、林業、漁業など第一次産業に従事する方々が使うことを前提に設計されている。二人乗りにして荷台を広くとり、農道や林道、漁港に下る細い道でも使いやすいサイズとなっている。小さいボディの割にはパワーもあって、勾配のある道路もぐんぐん上っていく。4WDであればなおさら実用性が高まる。

アメリカ軍岩国基地で活躍しているマツダ・スクラムトラックPG
撮影=加藤博人
アメリカ軍岩国基地で活躍しているマツダ・スクラムトラックPG - 撮影=加藤博人

そして、値段はベースグレードなら70万円台(スズキキャリイKC受注生産)で購入できる。昨今、200万円を超える軽乗用車も珍しくないが、軽トラは、あくまでもシンプルな設計で機能最優先としているためお値段は据え置きなのである。

■アメリカでは農業や狩猟のパートナーに

では海外ではどのような使われ方をしているのだろうか?

軽トラが人気なのは、特に北米とオーストラリアである。

アメリカでは、広い農場や公園での作業やパトロールなどに使われている。また、狩猟のパートナーとしても人気が高い。山に入って捕獲した獲物を荷台にバサッと積んで家に帰れるのがすごく便利、という声もある。

また、実用車として「小さくてカワイイ顔してるのにすごいヤツ」という評価を得ているほか、近年は軽トラをカスタムして趣味の車として楽しむ愛好家も増え始めている。

アメリカでカスタムされた軽トラ
撮影=加藤博人

アメリカでカスタムされた軽トラ(SEMA SHOW2023にて。左・三菱ミニキャプ、右・ホンダアクティ)

- 撮影=加藤博人

ちなみにアメリカに輸入される軽トラは、原則として「25年ルール」(※)適用の車両となる。米国の軽トラ販売サイトには新車の軽トラも販売されているが、これは公道を走らず私有地だけで使うゴルフカートのような扱いで輸入されるイレギュラーな方法である。

※アメリカでは通常、右ハンドル車の輸入は認められていないが、製造から25年が経過していればクラシックカーとして輸入が可能になる。スカイラインや80スープラなどいわゆる「旧車スポーツカー」は、映画『ワイルド・スピード』やゲーム「グランツーリスモ」などの影響で、北米での人気が非常に高い。これら右ハンドルの旧車スポーツカーも、25年ルールによってアメリカに輸入されるようになった。

■左側通行のオーストラリアでも愛用されている

オーストラリアでも近年、日本の軽トラが人気となっている。

実はオーストラリアでは、自国の自動車産業を守る意味もあって、かつては中古車の並行輸入に高額な手数料を課していた。それが2017年に自動車メーカーが国内製造を終了したため、諸々の制限や高額手数料がほぼ撤廃され、中古車の輸入に関しても門戸が開かれることになった。

また、オーストラリアも左側通行の国であるが、日本とは違って左ハンドル車への規制が非常に厳しい。そのような事情もあって、日本から輸入される右ハンドルの中古軽トラが人気となっている。

使われ方はやはり広い農場や公園の維持管理を目的とするケースが主体で、米国のようにカスタマイズして楽しむ文化は成熟していない。

■窃盗団にとって最高に「おいしい車」

こうした海外での高評価に比例するかのように、国内の軽トラ盗難台数が増加している。日本の自動車窃盗の世界では、海外からのオーダーに従って国内の窃盗団が対象となる車を探して盗み、仕向け地に不正輸出する方式が一般的だ。

日本でバラバラにされた軽トラは、部品としてコンテナに詰められて送られ、目的地につけばそこでもう一度組み立てられて自動車として再生される。先進的な電子装置などが少なく、構造が単純な軽トラは組み立ても簡単である。そして高値で売れるのだから、窃盗団にとってはこの上なくおいしい車なのである。

なお、正規輸入された中古の軽トラは驚くほど高値で販売されている。走行距離10万キロ超、日本では車両本体価格5万円以下というタダ同然の個体も米国やオーストラリアでは100~150万円以上の販売価格となる。

■安価なセキュリティグッズでも有効かもしれない

構造がシンプルな軽トラは、ものの数分で盗めるという。そもそも、盗まれるという意識を持たない軽トラオーナーが多いため、鍵を付けたまま家の前や農道などに停めっぱなしということも珍しくない。窃盗団にとってはこの上なく盗みやすくて高く売れる、コスパの良い存在なのである。

では、盗まれないためにはどうしたらいいのか?

基本的なことではあるが、まずは施錠をしっかりして、盗難されやすい車だという意識をオーナー側で持つことが重要だ。

古い軽トラで買取価格が5万円以下の安価な場合は、お金をかけてセキュリティ装置をつける意味はあまりないともいえる。ただし、スカイラインGT-Rなどと違って軽トラは台数が多いため、一般的には数分で切断されて時間稼ぎにしかならないハンドルロックやタイヤロックなどの安価なセキュリティも、一定の効果があるかもしれない。施錠もされていない、簡単に盗める他の軽トラを探しに行く可能性が高いからだ。

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加藤 久美子(かとう・くみこ)
自動車生活ジャーナリスト
山口県下関市生まれ。大学時代は神奈川トヨタのディーラーで納車引き取りのバイトに明け暮れ、卒業後は日刊自動車新聞社に入社。95年よりフリー。2000年に自らの妊娠をきっかけに「妊婦のシートベルト着用を推進する会」を立ち上げ、この活動がきっかけで2008年11月「交通の方法に関する教則」(国家公安委員会告示)においてシートベルト教則が改訂された。育児雑誌や自動車メディア、TVのニュース番組などでチャイルドシートに関わる正しい情報を発信し続けている。「クルマで悲しい目にあった人の声を伝えたい」という思いから、盗難・詐欺・横領・交通事故など物騒なテーマの執筆が近年は急増中。現在の愛車は27万km走行、1998年登録のアルファ・ロメオ916スパイダー。

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(自動車生活ジャーナリスト 加藤 久美子)

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