「結婚=幸せの人は地獄さまよう」…裏切られ騙され利用されても全部ネタにして稼ぐタフな67歳女性の哲学
プレジデントオンライン / 2024年4月9日 11時15分
■20代で「復讐婚」結婚4年でバツイチになる
“オバ記者”として、雑誌を中心に健筆をふるっているベテランフリーライターの野原広子さん(67)は「バツイチ、子なし、貯金なし。肉親は故郷にいる弟のみ」と公言するという無頼派だ。高血圧と心臓病の既往症も抱え、数年前には卵巣の境界悪性腫瘍(良性と悪性の中間に位置づけられる腫瘍群)の手術も受けた。
基本、「女一匹狼」として生きてきた彼女だが、少し照れくさそうに「人並みの幸せをつかんだこともあるんです」と打ち明ける。
20代前半で、なんとエリート男性と結婚したというのだ。しかし、「最初から離婚確実と確信しながらの結婚だった」という。いったい、どういうことなのか。
「結婚は私によっては復讐だったんです。その対象は、『中卒で働け』と命令した継父、大学に行きたいと懇願したのに『ここだけの話にしておけ』と継父に話すのを封じた母。そんな両親に『私は大卒のエリートサラリーマンと結婚したのよ。仲人さんは有名大学の教授なんだから!』って言いたかった。それに私を手ひどくふった男にも『大手企業に勤める男と結婚したんだからね!』とアッカンベーをしたかったんです(苦笑)」
結婚にこぎつけるまでにさまざまなハードルがあったが、復讐を成就するために忍耐強く乗り越えた。それぐらい負のエネルギーがすさまじかったのだ。しかし同居していた姑らとの揉め事も加わり、当初の思惑通り、わずか4年で結婚生活は終わりを迎える。
■十二支の動物を10種類と言い張る継父との関係は最悪だった
前述の継父との関係性が「男」に対する不信と憎しみの原点だった野原さん。
実父は60年以上前に幼い彼女と弟、さらには借金を残して亡くなり、母は継父と再婚した。野原さんがおとなしかった10歳ごろまで継父は可愛がってくれたが、自我に目覚めた頃から野原さんは次第に彼に反抗するようになる。
何か意見をするたびに「親に口答えするのか? 誰に飯を食わせてもらっているのか?」と継父は怒鳴り立てた。決して手をだすことはなかったが、その怒鳴り声を恐ろしいと思ったのは、理屈が通らないからだったそう。
例えば、十二支の動物は何種類いるかという話題を家族で話し合いをした時。「十二支なんだから12種でしょ?」と誰かが言うと、継父は「そんな半端な数のワケがない。10だ!」と真顔で言い張る。挙句の果てに「親父を立てられないのか!」と威嚇したから始末に負えない。
反抗期真っ最中の彼女は「バカをどう立てるんだ?」と口に出さないまでも、顔に出ていたのだろう。中学生になると、二人の関係は最悪になり「生意気な娘に知恵をつけるとますます親父をバカにする。中卒で働け!」となったワケだ。今なら完全アウトの昭和の頑固オヤジの典型だったのか。
それではあんまりだということで、親戚のとりなしで、商店の住み込み店員になり、店から農業高校に通った。そのおかげで働くことはなんら苦にならなくなった。金がなくなれば働けばいい、ライターの稼ぎだけで足らなければ、他の仕事で補えばいい。その考えは今も変わらない。「私は、男に頼らずに生きてきたんだ」。野原さんのそんな強烈な矜持を筆者は感じた。
■男女の関係を、ビジネスライクに持ち込んでくる男
しかし、お金を稼ぐのは簡単ではない。これまでに普通の会社員が経験しない出来事にもたくさん直面してきた。
例えば、野原さんが40歳の頃。経営していた編集プロダクションが傾き、会社は清算に追い込まれた。ライターだけの収入ではおぼつかないので、とある芸人のマネージャーを兼業でやることに。取材で出会った人との縁で飛び込んだ世界は、面白くて、最初の数年間は順調だった。
そんなある日、何度か仕事をもらっていた企画会社の社長と2人、イベントの帰りの新幹線で横に並んで座っていた時に事は起こった。
「もうそろそろいいんじゃないか?」
出し抜けに社長は言った。どうやら深い仲になろうとの意味らしい。「何がです?」と野原さんが問うたところ、「君は子供じゃないんだから。それに●●さん(芸人の名)に対しても、マネージャーの君と僕が一枚岩だと思わせたほうが、君も仕事がしやすいでしょ?」と、いとも淡々と、商談をするかのように同衾(どうきん)を持ちかけてきたのだ。
対する野原さんは、それを突っぱねることもなく「う、うーん」とうなったまま、黙りこくった。
「その社長が私のタイプで、もっとロマンティックに口説いてくれたら、話は変わったかもしれません(苦笑)。物慣れていたので、今まで“商談”に乗る女性も少なからずいたのでしょう。芸能界は何か製品を作ったり、商品を売ったりするワケではありません。人間と人間のつながりだけで時には膨大な金額が動きます。その中で性行為が“実印”にも“認印”にもなりうるんです。私はハンコを押してまで芸能界に欲しいものはなかったからしなかった。それだけのことだと思います。ただ、出版界にもその手の話はあって、いわゆる枕営業で生き残っているライターもいるようです。ただ、私の周囲には見当たりませんけれど」と振り返る。
もちろん権力や腕力による強制的な性行為は許されるものではないが、男女の仲は五分と五分。計算をして、行為を受け入れる女性も存在する。野原さんはそんな世界をサバイブしてきたわけだ。
■男のステータスに目がくらみ、2度の結婚詐欺に遭遇
プライベートも決して順風満帆ではなかった。男運が悪いのか、はたまた男を見る目がないのか、前述した20代での離婚後、同棲した相手が借金まみれでホームレスになったこともある。それでもその後、一生添い遂げられる相手に出会いたいと結婚相談所に登録し、婚活やマッチングアプリも利用した。婚活歴約20年に及んだ中で、2回結婚詐欺にも遭遇したという。
「自称“京都の裕福なバツイチ漢方薬屋”という男性にプロポーズされたこともあります。ついに私も、恋とお金の両輪が回り始めたと舞い上がって、友人知人、仕事仲間にそのことを言いふらしましたが、結局彼が私に語った事は全てウソだったんです。また、70代で“米国陸軍と取引している通信機器会社の社長”を名乗る人とも会いました。『次の米国大統領の就任パーティーに同行してほしい』と言ったかと思えば『僕の会社に今月中に出資すると15%の配当を出します。まず1000万円どう?』と、怪しさ満載(苦笑)。その話は彼が経営する会社で行われたはずでしたが、そこは実はレンタルスペースでした」
24歳で結婚したときもエリートサラリーマンの元夫の肩書が魅力的だった。年齢を重ねてもなお、相手のステータスに目がくらんで、結婚詐欺にあったということなのか。ただ、いつも異性を求めて活動していたわけではない。
「私自身、孤独が時に蜜の味がすることも知っているから、20年間の婚活も本気度も足りなかった」と自己分析する。
「例えば婚活は、お相手のAさんとBさんのどちらがいい? という二択ではなく、AさんまたはBさんと、自分一人のどちらを選ぶのかという二択になるんです。そうなると結局、自分一人を選んじゃうんです。孤独のつらさを味わいつつも、一人の気楽さ・楽しさが身に染みていますから。それを婚活相手に指摘されたことがあるんですが、図星です。また、ある人から『俺との結婚がダメでも、どうせ(雑誌記事の)ネタにするんでしょ?』と呆れられたこともあります」
付き合った男性との揉め事で傷つきはするが、「別れた後、長雨の後の青空のような爽快感が訪れる」というから、タフというか生まれながらのポジティブな精神の持ち主なのだろう。
最終的に野原さんは「つくづく結婚は向いてない性格だ」と気づき、婚活市場から降りた。そして“うまくいかない結婚”が、人よりクリアに見えてくるようになる。
■結婚すれば、全ての不幸がチャラになると思っていないか?
野原さんは「結婚=幸せ」の図式に疑問を持っている。人間は結婚すると幸せになるという幻想に陥っていないかと。
「“幸せ”って本当にクセモノなんですよね。独身者が、結婚したら幸せになれると考える場合、それは独身である現在、自分は不幸か不遇の身であるということ。または家庭環境が最悪とか、恵まれない人間関係とかやりたくない仕事を抱えているということでしょう。で、結婚をしたらそれらの不幸がチャラとまでは言わないまでも、“結婚=全てうまくいく”に近いことを期待しているんです。特に女性は。それは甘いです」
もちろん、結婚して幸せな生活を送る人もいる。しかし、結婚してからの人生はとてつもなく長い。いつもいいことばかりとは限らないし、地獄からまた違う地獄に移行するだけのこともある。それを避けるには、相手に必要以上に期待をしないことが大事。相手を勝手に美化して嫌なところを見るたびに減点するより、最初の印象はイマイチでも「こんないいところがあるんだ」と加点していったほうがいい。
とどのつまり、人間は他者を自分の都合のいいようにしか見ていないことが多いのだ。
人が間違った要求をしがちなのは結婚だけではないと、野原さんは語る。
「友人も同じですよね。同性の友達は異性のそれより深く分かり合えると思い込んでいる節があります。お互いに価値観が合致していると思い込んでいると、ある時、食い違う部分が出ると一転、敵と見なして攻撃する事があります。また、何かを仮想敵にして、それに向かって悪口を言い合うことで仲が深まったとみなす人もいて、それを拒否するときつく当たってくることも。でも私はそういう人とは付き合えません」
人間は多面体であり、たまたま見た一面が合致したことで友情が成り立つ。合致する部分は絶えず変動するから、永遠の友情はないし、長く関係を続けようと思わなくてもいい。「合致しなければ離れていいのでは」と言う。
■自分一人で歩く醍醐味と孤独は決して悪いものではない
そして「他者と一緒に過ごすのは好きだけど嫌い」とも。矛盾するようだが、他者は喜びも憎しみも楽しさも面倒ごとも引き連れてくる。
親友だから、きょうだいだから、親子だから、夫婦だから永遠に仲良くしないといけない、という“〜せねばならない”という固定観念から自由になっていいと野原さん。特に自分を傷つける、あるいは面倒だと思われるような関係性であれば。
「だからといって『死ぬまでひとりでいる!』と腹をくくったわけではないです。同じ趣味を通して楽しい時間を過ごし、たまに一緒にご飯を食べるために行き来する間柄が理想です。だから相手は男女問いません。もしパートナーが見つからなければ、それはそれでけっこう。人間、死ぬ時は一人ですから。ただ、私は今まで時間をかけて相手との関係を育んでこなかった。今後それができたらいいなと思います」」
子供も夫も親もいない。寂しいから、不安だから、友達やパートナーを探すという考えはもはや野原さんにはない。
「友人やパートナーで本当の寂しさは埋められません。幸せは、人に頼らず、自分の力で作ったほうがいい。それに友達やパートナーは意図的ではなく、自然発生的な関係性を望みます」
だから、結婚=幸せと思っている若い人(若くない人にも)に、婚活を繰り返していた昔の自分にも野原さんは言いたいそうだ。「自分一人の足で歩く醍醐味と孤独は、決して悪いものではない」と。
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ファッション系出版社、教育系出版事業会社の編集者を経て、フリーに。以降、国内外の旅、地方活性と起業などを中心に雑誌やウェブで執筆。生涯をかけて追いたいテーマは「あらゆる宗教の建築物」「エリザベス女王」。編集・ライターの傍ら、気まぐれ営業のスナックも開催し、人々の声に耳を傾けている。
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(フリーランスライター・エディター 東野 りか 取材・文=東野りか)
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