「いい上司・仲間に恵まれ好きな仕事をしている」は危険すぎる…絶好調のときに陥りがちな"意外な落とし穴"
プレジデントオンライン / 2024年4月11日 15時15分
※本稿は、下園壮太『「がんばらない」仕組み』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■「逃げる」ことは、合理的に正しい
うつ症状のたちの悪いところは、多くの場合「頑張りすぎ」が原因にもかかわらず、うつになることで「頑張り度合い」がさらに加速するということです。
つまり一度うつ状態になると、負のスパイラルにはまってしまい、簡単に抜け出すことができなくなるのです。
もちろん、そこから自力で脱出することも不可能ではないですが、それによって生じた「トラウマ」や「自己否定」からは、簡単には逃れられません。
うつになる最大の危険性は、こうした“二次災害”にこそ潜んでいるともいえます。
ですから、ある程度症状が進行してしまったら、被害が大きくなる前に「逃げる」ということが何よりも重要になります。「仕事を辞める」ことがこれに相当するといえるでしょう。
うつが引き起こすリスクを鑑みれば、「一刻も早く逃げる」という選択肢には、一定の合理性があるということです。
さらに、そうして“頑張る熱”をいっときクールダウンさせる機会を持つことができれば、自身の「頑張る系システム」が好ましくない方向で機能していたことに気づくことができます。
その経験値が、次なる「頑張りすぎ」を防いでくれることでしょう。
とにかくみなさんにお伝えしたいのは、
「逃げることは、けっして恥ではない」
ということ。
本書は、そうした状況に陥ることを未然に防ぐための本ですが、もしもそうした状況に自分や身近な人が陥ったときのためにも、このことだけは覚えておいてください。
■「恵まれた環境」は、じつは危険
ここまでの話を読んで、
「自分はうつに追い込まれるようなブラック企業に勤めていないから、大丈夫」
と高を括っている人も、もしかしたらいるかもしれません。
しかし、「頑張りすぎ」という“症状”は、なにも心身の状態がマイナスに傾いているときにだけ“発症する”とは限りません。
どんなに頑張っても疲れないし、気持ちも上がる一方。
そういった“恵まれた環境”にあっても、頑張りすぎてしまうことが多々あるのです。
たとえば、スポーツにおいて、試合中にケガをしても“アドレナリン”の効果によって一時的に痛みを感じないことってありますよね。
それと同じで、人は「気持ちよく頑張れる」環境にいると、疲れをあまり感じなくなってしまいます。
そのことが、あなたの頑張りを制御するブレーキを取り払ってしまい、「気がついたら心身が疲れ切っていた」という状況を招いてしまうというわけです。
■「いい仲間に恵まれ、好きな仕事」は要注意
その種の頑張りすぎを未然に防ぐためには、「つい頑張ってしまう」シチュエーションを事前に理解しておく必要があります。
ここでは、知らず知らずのうちに陥りがちな、5つのシチュエーションをご紹介しましょう。
①いい上司、いい仲間に恵まれているとき
部活でも職場でも、人間関係がうまくいっていると、人はそのコミュニティ内の活動に精力的に取り組むようになります。好きな仲間たちに囲まれているからこそ、無意識のうちにオーバーワークに陥ってしまうことは少なくありません。
②好きな仕事、得意な仕事に取り組んでいるとき
好きな仕事をしていて、気持ちの下がる人はいません。また得意な仕事だと、成果も上がるので、もっと頑張りたくなります。おのずと連勤をしたり、徹夜をしてしまったりする可能性が高まります。
③きつめの締め切りがあるとき
締め切りというのは、ある種「頑張りたくないものを“無理やり”頑張らせる」ための仕掛けです。宿題にしろ、仕事にしろ、多くの人は締め切りを目の前にすると「なんとかそこまでに終わらせなくては」と感じ、アクセルを踏みます。結果的に、多少ムリをしてでも「頑張って終わらせる」ことを選択してしまうのです。
④目標をあと少しでクリアできそうなとき
「あと○分」「あと○時間」「あと○日」頑張れば、目標をクリアできる。そういうときは「もう少し、もう少し」とつい頑張ってしまいます。こうした“背伸び”が必ずしも悪いわけではありませんが、想像以上に自分に負荷をかけていることを忘れてはいけません。
■「絶好調のときほど、頑張りすぎに走る黄信号」
⑤自分に不安があるとき
「こんなレベルでは、評価してもらえない」「この程度の量だと、仕事が遅いと思われる」といった不安があると、頑張る以外の選択肢を取りにくくなります。不安を消し去るために、「ひたすら走り続ける」という選択を取ってしまうのです。
このように「頑張りやすい環境」が整っていると、人はつい頑張ってしまいます。
もちろん、苦もなく頑張れるときに、頑張らない手はありません。
ただし、そういうときは疲れを感じにくい状態になっているので、ときどき立ち止まって、客観的に自己分析をする必要があります。
たとえば、
「残業時間が上限を大きくオーバーしてない?」
「睡眠時間を削ってない?」
「休日出勤が続いてない?」
というふうに、自分の働き方を数値化してチェックするといいでしょう。
「絶好調のときほど、頑張りすぎに走る黄信号」
ということを忘れないでくださいね。
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心理カウンセラー
MR(メンタル・レスキュー)協会理事長、同シニアインストラクター。1959年、鹿児島県生まれ。防衛大学卒業後、陸上自衛隊入隊。1996年より陸上自衛隊初の心理教官として多くのカウンセリングを手がける。自衛隊の衛生隊員(医師、看護師、救急救命士等)やレンジャー隊員等に、メンタルケア、自殺予防、コンバットストレス(惨事ストレス)コントロールについての指導、教育を行なう。2015年に退官し、現在は講演や研修、著作活動を通して独自のカウンセリング技術の普及に努めている。著書に『寛容力のコツ』(三笠書房《知的生きかた文庫》)、『自衛隊メンタル教官が教える 心の疲れをとる技術』(朝日新書)、『「気にしすぎて疲れる」がなくなる本』(清流出版)など多数。
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(心理カウンセラー 下園 壮太)
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