いくら通報しても意味がない…フェイスブックの「なりすまし詐欺広告」が社会問題に発展した根本原因
プレジデントオンライン / 2024年4月14日 10時15分
■SNS型投資詐欺の被害額は約278億円
ZOZO創業者の前澤友作氏が、InstagramやFacebookを運営する米メタ社を提訴すると表明して話題になっている。自身を含めた著名人を騙る詐欺広告被害がFacebookとInstagram上で多発しているにも関わらず、対処が進まないことを訴えたものだ。同時に、自民党にも規制強化を求めている。
詐欺広告のほとんどは著名人を騙り、「儲かる話を無料で教える」としてLINEグループに誘導する。LINEグループでやり取りするうちに、投資名目でお金を騙し取られてしまうパターンがほとんどだ。その大半はFacebookとInstagramに集中している。
警察庁の発表によると、2023年におけるSNS型投資詐欺の被害は2271件、被害額は約278億円に上るという。
■「テレビにも出ている有名な人だから信じた」
「テレビにも出ている有名な人の広告だし、信じてしまった」と、被害に遭った50代女性はがっくりと肩を落とす。「いつもやり取りしている友だちの投稿の中に表示されていたし、嘘なんて思いもしなかった。堂々と出ているし、広告なのに嘘のはずがないって」
この女性も、Instagramの広告経由でLINEグループに招待されたが、参加者はみんな熱心で活気があったという。「おかげさまで儲かりました、ありがとうございます」という投稿も多く、信用できると考えた。
グループの主催者ともやり取りしたが、買うべき仮想通貨と買い方まで丁寧に教えてくれた。当初儲かっているように見えたが出金はできず、結局、数百万円の貯金を失ってしまったそうだ。
■「通報」してもなかなか消えない詐欺広告
筆者も、FacebookやInstagramなどで過去に何度も偽広告を見かけている。森永卓郎さんや近藤麻理恵さん、岸博幸さん、「池袋マルイ閉店」という詐欺広告もあった。どれも見かけるたびに「通報」してきたが、日を変えて何度も表示された。
調べると、SNSやメディアなどで、ご本人たちが「自分ではない、詐欺だから騙されないで」と訴えている。この記事を執筆しているたった今も、Facebookに岸博幸さんの詐欺広告、糸井重里さんのほぼ日大学の詐欺広告が表示された。
■利用された堀江貴文さんも巻き添え被害
早速通報したところ、「詐欺広告」という選択肢ができていた。以前はなかったので、それだけ通報が多いということだ。通報はAIの判定ツールの判断に使われているというが、その割に精度は低い。
同じく詐欺広告を出されている堀江貴文さんは、詐欺広告への対応を求めたところ、自身がオーナーを務める会社の正式な広告まで詐欺広告判定され、広告が表示されないようになってしまったという。その結果、売上が10分の1まで減ってしまったそうだ。
■「詐欺広告はなくせないから理解を」と開き直り
前澤氏は、昨年にはなりすまし詐欺広告に対する専門チームを立ち上げ、3月には通報窓口も開設。10日間で184件の被害報告もあり、被害総額は19億4899万円に上ったという。中には、1人で1億円以上の被害に遭った人もいた。
心を痛めた前澤氏がメタ社に対して対応を求めたときも、同社は「いろいろやるけど全ての詐欺広告を無くすのは無理だから理解して」と開き直る態度だったという。納得がいかない前澤氏は、Facebook Japanの味澤将宏代表に対してXで公開質問も送っている。
ご紹介したように著名人を騙るほか、AIで作成した投資を勧める偽動画広告や、投資を勧める日経新聞やみずほ証券などの偽広告というパターンもある。多くは広告経由でブラウザによるアクセスの場合に限り表示される仕組みであり、スマホのセキュリティアプリの検知も逃れてしまう。
著名人の偽広告対応に対しては、松本剛明総務大臣も問題視している。4月9日の閣議後記者会見では、プラットフォーム事業者に対して、利用規約を踏まえて適正な対応を求めると表明した。さらに、削除対応の迅速化、運用状況の透明化を求めるプロバイダ責任制限法の改正法案を今国会に提出。有識者会議で議論・検討を進めると同時に、プラットフォーム事業者や広告業界や広告主からもヒアリングしており、制度面も含めて総合的な対策の検討をするとしている。
■メタ社も対策を講じてはいるが…
メタ社は、広告宣伝ポリシーの中で、本人の許可なくして有名人の画像や動画を使ってはならないとしている。有名人の写真などを使った無断のプロモーション、不正な詐欺行為、クリックをさせる行為は禁じており、なりすまし行為をしたアカウントも削除している。
同社も悪質な業者がいることは把握し、ユーザーからの通報を受けて適宜措置を講じているという。シンガポールのデータセンターのAI判定システムによって広告が表示される前に詐欺判定を行い、コンテンツモデレーターが目視で監視しているというが、やはり詐欺広告はやまない。
ネットでは、基本的に個人でも簡単な審査で広告が出せてしまうことは大きいだろう。メタ社は、広告を出稿できるアカウントの設定を厳しくしたり、広告アカウントを開設したばかりの広告出稿額の上限を大幅に引き下げたりという対策を講じているというが、それでも効果にはつながっていない。
■日本対応が後回しになっているのではないか
また、これらの偽広告は、広告からLINEグループなどに誘導し、詐欺を働くという形を取っている。著名人を騙ってはいるものの、広告表現自体には違法性が問えないものが多い点も要因となっているようだ。
なお、Facebook Japanにはほとんど権限はなく、プラットフォーム上の広告の責任はメタ社にある。この問題も、日本の著名人をAIでチェックするなどの対応をすれば不可能とは思えず、単純に米国企業であるメタ社の日本対応が後回しになっていると考えられ、それが問題の根本にあるのではないか。だからこそ、冒頭のような被害者本人による提訴や日本政府による働きかけが必要となってしまっているのだ。
メタ社は年間売上高が前年比16%増の1349億ドル(約20兆円)、純利益は前年比69%増の391億ドル(約5兆7000億円)を計上するなど、過去最高益を上げている。この中には、日本の著名人詐欺広告での収益も含まれる。犯罪を見過ごしている責任は問われるべきであり、企業として一刻も早く対応する義務があるはずだ。
■中高年は詐欺広告への免疫があまりない
詐欺が拡大している背景には、中高年層へのスマホ・SNS利用の拡大がある。一方で、中高年層はネイティブ世代である若者と比べて、ネットコミュニケーションや広告にはあまり慣れていない。物価高や安い日本が話題になり、投資をしなければという雰囲気が高まっていることも影響しているだろう。
詐欺師側からすれば、低いコストで高額のリターンがあり、身元も辿られづらいため、このような詐欺は増えこそすれ減るとは考えにくい。提訴や規制強化で効果が出るまでは、自衛していく必要があるだろう。
では、被害を防ぐためにはどうすればいいのだろうか。
■まず検索すれば、詐欺と気づくことができる
広告を見かけたらまずは検索して、広告の内容が事実なのかどうか調べることが大切だ。著名人本人が、SNSなどで「詐欺なので注意してほしい」としていることも多い。著名人とLINEでやり取りする場合も、本人かどうかビデオ通話を求めると確認できる。相手がディープフェイクである場合は、横を向くなどの動きに対応できないので気付ける可能性が高まる。
お金を支払った後に取り戻すことは難しいので、支払う前に相談機関などに相談することもおすすめだ。
広告に出てくる画像は、他の使い回しのことがほとんどだ。画像検索をすれば、元画像が見つかることも多いので、検索してみよう。また、資金の振込先が個人名の場合はほぼ詐欺なので、覚えておくといいだろう。
■情報リテラシーを高めることが最大の防御
すべての詐欺に共通することだが、ニュースで詐欺のパターンを知ってリテラシーを高めておくと、被害に遭わずにすむ。普段からニュースに接して積極的に情報を得ておくことが、最大の防御につながるのだ。若者世代はニュースをあまり見ていないので、離れて住む家族は注意するよう伝えることをお勧めする。
「必ず儲かる」うまい話はない。少なくともお金の話が出たら警戒し、必ず詐欺を疑い、情報について信頼性を調べる習慣をつけることこそが大切だ。
万が一詐欺に遭ってしまった場合は消費者ホットライン(#188)、詐欺的な投資勧誘などに関する相談は金融庁の「金融サービス利用者相談室」(0570-016811)に相談してほしい。
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成蹊大学客員教授
ITジャーナリスト。書籍、雑誌、webメディアなどの記事の執筆、講演などを手掛ける。SNSや情報リテラシー、ICT教育などに詳しい。著書に『ソーシャルメディア中毒』『できるゼロからはじめるLINE超入門』ほか多数。「あさイチ」「クローズアップ現代+」などテレビ出演多数。元小学校教員。
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(成蹊大学客員教授 高橋 暁子)
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