渋谷区での摘発は入れ食い状態…都内をオラつく「違法電動モペッド」がちっとも減らない根本原因
プレジデントオンライン / 2024年4月17日 9時15分
■警察がようやく摘発に立ち上がる
私が呼ぶところの「電ジャラス自転車」、なかでも「違法電動モペッド」の蔓延に警察がようやく重い腰を上げた。
産経新聞(4月10日付)によると「モペット」と呼ばれるペダル付き原付バイクを巡る苦情が相次いでいることを受け、警視庁は10日、東京都渋谷区の神宮前6丁目交差点付近で公開取り締まりを行ったのだという。
あいも変わらず「モペット」表記には笑うしかないが(モペッドは、Pedal付きのMotorbikeつまり、Motor+Pedalだから、Mopedなのだ。モペッ「ド」)、それはさておき、この電動モペッドがあらゆるところで危険視されているのは誰もがご存じの通りだ。
警察官20人体制で1時間半にわたって取締りを実施したというのだが、そのたかだか1時間半の間に、無免許運転2件、ヘルメット未着用2件、歩道走行1件、ナンバープレート未装着1件が摘発された。合計6件。いずれも電動モペッド。もう入れ食い状態だったと言って間違いない。
合法か違法か見た目だけでは判別しづらいものは見逃す方針だったそうで、一目で「電動モペッドだ!」と丸わかりなのだけでこの件数だ。
■改めて、モペッドは自転車じゃない
今回の摘発は神宮前(渋谷駅と原宿駅の中間あたり)だったが、歌舞伎町と六本木で特によく見るという。私もそうかもと思う。
その理由は電動モペッド、なかでもファットなタイヤを履いたゴツくて黒くてオラオラな感じのやつ(よく見るタイプのヤツだ)、新米ホストなどが好んで乗り、そこから人気が爆発したからだ。
新米ホストにとって、これらの電動モペッドはスクーターと違って次のような特徴があると思われている。
◎早朝(=超深夜)酒を飲んでいても捕まらない
◎免許が要らない
◎ヘルメットも不要、髪型が崩れない
◎ガソリン不要、維持費が安い
最後の「ガソリン不要、維持費が安い」を除くと、全部間違ってる。飲酒運転はアウトだし、免許は要るし、ヘルメットも必須。オートバイとの違いは電動であるということだけだ。
そう、一番の問題点は、これらのモペッドは「自転車じゃない」という点だ。だからこそ今回の取り締まりでも無免許運転が2人摘発されている。スロットル回してハイパワーで走る二輪車。そりゃ自転車じゃないよ。
■ペダルがあっても純然たるオートバイ
これらの電動モペッド、ペダルはあるものの、電動モーターを備え、右手にはスロットルがついている。
実は現行法でもカテゴリー分けはすでになされていて、600Wまでは原付一種(白ナンバー)になり、1000Wまでは原付二種(ピンクナンバー)に分類される。
モーターがあってペダルもある。このモペッドというカテゴリーは何も今に始まったものじゃなく、あの本田技研の始まりも、いわばモペッド(バタバタと呼ばれていた)だったのだ。そこからオートバイメーカーとしてのホンダはスタートした。
ところが今回のこれらは純然たるオートバイ(原付)なのに、ナンバー登録をしていないし、保安部品(バックミラーやストップランプ、ウィンカーなど)がついていない。乗っている側もヘルメットをかぶってない。
要するに「整備不良のオートバイ」としての検挙なのだ。
■ナンバープレートを付ける金具があるのに…
そう思って、車体をよくよく見てみると、モペッド自体にはナンバープレートを付ける金具が付いている。
メーカー側は「オートバイのつもり」で売っているわけだ。
ところが、乗っている側はどうかというと、自転車のつもり、あるいは「自転車のつもりのフリ」で乗っている。捕まっても「自転車だと思ってた」だ。
ところが、もしも事故を起こしたとき「思ってた」じゃすまないのである。
■もし事故を起こしたら人生が終わる
モペッドに乗っていて歩行者を轢いたとする。その人が不幸にして亡くなったとする。
事情がどうであれ、ほぼすべての事故の賠償責任はモペッド側に課される。
なぜなら「無免許」で「無登録(ナンバーなし)」で「保安部品なし(整備不良)」で「ノーヘル」という、その違法だらけ状態で事故を起こしたのはモペッド側だから。
自賠責も任意保険も入っていないから(ナンバーを取っていないというのはそういうことだ)損害賠償は重くのしかかる。たとえ自己破産しても、免責にはならない。
数千万円、いや1億円を超えるかもしれない損害賠償は、ずーっと加害者本人が払い続けることになるのだ。
いいですか、モペッドに乗っている若者諸君。そのモペッドで事故を起こしたら、それ一発で本気で人生が終わる。それを分かって乗っているのだろうか。たぶん分かってないよね。
■「自転車として乗れる」と売る業者も大問題
こういう「ペダル付きの違法フル電動自転車=電動モペッド」を、ユーザーはどこで買うのか。もちろんネットで買う。
で、ネットにはどう記載されているか。ウェブサイトを見ると「本品は原付バイクです。免許を持って、ナンバープレートを付けて走ってください」などとある。
いちおう「原付として」売っているのだ。だが、ユーザーのほとんどは自転車として乗る。そしてメーカー側も心のどこかで「そうして手軽に乗ってくれ」と思っている。
先日、自転車の展示会で650Wのハイパワーが売りのオートバイっぽいモデルを見かけた。
「ネットで検索したらすぐ出てくるね。バイクみたいでカッコいいね。でも自転車として乗れるね。いま大人気ね」と、若い女性が中国語なまりで説明してくれた。筆者としてはため息しか出ない。
■「原付」が歩道を爆走している異常事態
また、港区某所の路上に放置されていた、写真1のこのモデルに関していうと、リアのフェンダーにナンバーを付けるための金具がある。このメーカーはあくまで「原付」として売ろうとしている。少なくともそういう体裁だけはとっている。
だが私は、路上において、同じブランドの同じモデルがナンバープレートを付けていた例を見たことがない。
逆に、これと同じものがスロットル全開にして広い歩道を爆走している例はしょっちゅう見る。
じつは今回に限らず、現在の自転車状況には顕著な特徴がある。それは自転車対歩行者の事故がこのところ爆増していることだ。
放っておいていいのだろうか。
いいわけがない。
警察による検挙もいいが、最初に手を付けるべきはどこからだろうか。わかりきっている。供給の根本を断つことだ。「ネットでの販売禁止、もし売るならば売る側がナンバーの代理登録をすること」あたりだろう。
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自転車評論家
1966年生まれ。東京大学工学系大学院(都市工学)修了、博士(Ph.D.環境情報学)。学習院大学、東京都市大学、東京サイクルデザイン専門学校等非常勤講師。毎日12kmの通勤に自転車を使う「自転車ツーキニスト」として、環境、健康に良く、経済的な自転車を社会に真に活かす施策を論じる。NPO法人自転車活用推進研究会理事。著書に『ものぐさ自転車の悦楽』(マガジンハウス)、『自転車の安全鉄則』(朝日新聞出版)など多数。
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(自転車評論家 疋田 智)
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