「大学院まで行ったので…」学歴自慢をはさんでくる老人とは大違い…松下幸之助が社員にした"声かけの種類"
プレジデントオンライン / 2024年5月1日 15時15分
※本稿は、和田秀樹『老後に楽しみをとっておくバカ』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■人と仲良くなりたいなら、アノ話はやめよう
歳をとって醜いとされることの1つに「自慢話が多くなる」があります。
とくに日本人は過去に生きているのか、と感じるほど、過去の自慢話が大好きです。
学歴自慢はまさにそれ。
「東大では……」
「灘高のやつらって……」
「大学院まで行ったので……」
学歴をひそかに自慢に思っているのか、関係ない雑談の端々(はしばし)にもさりげなく、出身校を入れ込んでくる方が数多くいます。
お酒が入ると「昔は女性にモテた」「男性からしょっちゅう声をかけられた」と昔モテた自慢をされる方も本当に多い。
あるいは「以前は大手商社にいた」「どこそこまでの役職を経験した」とすでに定年しているのに、過去のトロフィーを見せびらかすシニアの方も実によく見かけます。
こうした過去の自慢話は、聞かされるほうは苦痛でしかありません。
何かしら教訓めいた話があるならまだしも、たいていは、教訓や何かを教えるふりをして「自分はすごいやつだった」と自慢することが目的であるからです。
もとより、今のように世の中が成熟し、複雑化した中で、過去のノウハウがそのまま活きることは少ない。
そうした自慢話する相手と「仲良くなりたい」とは思われないでしょう。
■過去の話をしたいならば、「失敗談」を選ぶ
50歳を過ぎて、新しい人間関係を築きたいと考えたなら、とくに自慢話には気をつけなければなりません。
過去の自慢話は、しているほうからすると実に気持ちのいい行為なので、脳内に多幸感を感じさせるドーパミンが分泌されます。
自慢話をしているほうは、美味しいお酒に酔っているかのような気持ち良さを感じて話している。しかし、聞かされているほうは美味しくない酒に無理やりつき合わされているような地獄を感じている可能性が高いのです。
過去の話をしたいならば、「失敗談」を選びましょう。
人は他人の幸福な話よりも、不幸な話のほうに興味を抱きます。
著名人の幸せな恋愛や結婚はあまりニュースになりませんが、不倫や離婚の話は大きなニュースとなってSNSでも拡散されます。
工学博士である畑村洋太郎さんが提唱した「失敗学」をご存知でしょうか?
事故や企業不祥事など、世の中に起きた「失敗」を隠蔽(いんぺい)するのでも、罪を追及するのでもなく、客観的に検証して一般化し、教訓として同じ失敗を繰り返さず、失敗から学ぶノウハウとしていく学問のことです。
■世界三大失敗に興味を引き寄せられた学生たち
畑村先生が失敗学を思いついたのは、大学の授業で、当たり前のように建築工学の基礎の話をしても、学生たちが興味を持たないことがヒントになりました。
そこで、学生たちに世界三大失敗といわれる「タコマ橋の崩壊」「コメット飛行機の墜落」「リバティー船の沈没」といった失敗談を映像とともにまず見せました。
すると、そのダイナミックな失敗に興味を引き寄せられた学生たちは、その後の座学でも圧倒的に好奇心旺盛に聞き入ったそうです。
成功よりも失敗にこそ人を魅きつける力がある。そして、失敗をノウハウとして積極的に活かす術を模索し、体系化していったのです。
要するに、自慢話よりも失敗談。たとえば、何か教訓を伝えたいと思っているなら、失敗を交えて反面教師となりえるような体験談を話したほうがいい。
おもしろおかしく、自分の失敗を伝えたほうが、より興味を持ってもらえるのです。
■「無邪気に質問する」はシャイな人の特効薬に
「自慢話をするなと言われると何を話せばいいかわからない。失敗談もうまく話せるかどうか……」
「そもそも、この年になって新しい友人や人脈を作るために会話するのが億劫(おっくう)だ」
そう躊躇(ちゅうちょ)する方もいるかもしれません。
では、そんなシャイなあなたの特効薬になり、また、年齢を重ねたからこそ、初対面の人とのコミュニケーションでぜひ意識してほしいことが1つあります。
「無邪気に質問する」ことです。
歳をとると口数が少なくなる人は多いものです。
若い頃よりも、蓄積した知識はあるのですが、脳のインデックス(検索)機能が衰えるため、今すぐ口にしたい言葉を思い出せなくなり、会話の瞬発力がなくなることが理由の1つ。
とくに相手が若者であったりすると、自分の知らない話題についていくのが大変になることもあるでしょう。
しかし、コミュニケーションをとるときに、無理にこちらから話す必要はありません。話す言葉が見つからなかったり、知らない話題があったりしたときは「わからないので、教えてもらえますか?」と無邪気に質問するのです。
■歳を重ねてもはつらつとして若々しい人に共通の特徴
私は医師として、高齢者を中心に多くの患者を診てきました。
また、ある程度年齢のいった経営者や文化人の方々とも多くつき合っています。
こうしたシニアの中でも、歳を重ねてもはつらつとして若々しい人の特徴は、とにかく質問好きなことなのです。
質問は興味、関心がなければ浮かびません。好奇心がなければ、興味、関心も湧き立たない。つまり、多く質問をする人というのは、興味、関心を司(つかさど)る前頭葉が活性化している証拠でもある。
だから、年齢よりもずっと若々しく見え、また質問を重ねることで、さらに前頭葉を活性化させているのです。
経営の神様といわれた、パナソニックの創業者、松下幸之助さんもとにかく周りの人に質問したそうです。「あれはどうなってるんや?」「最近話題のあの人は、どんな人や?」「新しく出たあの商品は、何がええんや?」といった具合です。
相手が自分の孫ほどの年齢でも屈託なく、とにかく聞いて回った。また、自分より年上、しかもかの経営の神様に質問されて、それに答えるのは若い人たちにとっても刺激的で、うれしかったに違いありません。
そう、自分が知っていること、詳しいことを聞かれて、答えるのはとてもうれしいものなのです。
■自慢話だけして自分に酔っている老人ほど醜悪なものはない
だから、歳をとった人こそ、若者にどんどん質問したほうがいい。
「知らないと思われるのが恥ずかしい」「無知だと思われるとバカにされそうだ」。そうしたくだらないプライドは、くだらない「常識」と一緒に捨ててしまってください。
まったく逆です。
知ったかぶりをして、何も聞かず、自慢話だけして自分に酔っている老人ほど醜悪なものはありません。
むしろ、知っていることも知らないふりをして質問するくらいが、ちょうどいいのです。
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精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)
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