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東京に住んだことがある人の約4割は「また住みたい」と言う…統計結果からわかる「首都圏に人が集まる理由」

プレジデントオンライン / 2024年10月8日 16時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sanniely

なぜ首都圏に人が集まるのか。「いい部屋ネット 街の住みここちランキング2023」の企画・設計・分析を行う麗澤大学工学部教授の宗健さんは「東京に住んだことのある人の41.1%は『もう一度住みたい』と回答している。東京は住みにくいというのは作られたイメージではないか」という――。

■「東京」ではなく「首都圏」に人口が集中している

日本全体の人口が減少するなか、地方創生のためには東京一極集中を是正しなければならないという論調は多い。

しかし、そもそも集中しているのは「東京」ではなく「首都圏」であることが見過ごされている。

例えば、国土交通省の資料によれば、東京都の人口は全国の10.8%に過ぎず、これは主要先進国と比較しても、パリの18.2%、ロンドンの13.4%よりも低い。しかし、東京都ではなく一都三県でみれば人口比率は28.8%と49.6%が集中しているソウル都市圏に次いで高い集中率となる。

特に大学生数は、首都圏に全国の40.7%が集中しており、若年層が首都圏に集まる大きな要因になっている。文科省の資料によれば、そもそも道府県内で大学進学者の全員を収容できるだけの大学定員を確保しているのは、東京都と京都府だけであり、大学に行こうと思えば、東京か京都に行かざるを得ないのが現状だ。なお、東京都の大学に進学したからといって全員が東京都に住むわけではないのは当然だ。

このように、そもそも「東京一極集中」という言葉が誤解を生む余地があり、せめて「東京圏一極集中」と呼ぶべきで、本稿では、より正確な実態を表す「首都圏一極集中」という言葉を使う。

■住んだ経験はないけれど「東京は住みにくい」と回答

そもそも首都圏一極集中を是正しなければならない、という論調の背景には、「東京はごみごみしていて人が多く住みにくいのに、仕事があるから仕方なく住んでいる」というイメージがあるようだ。

実態はどうかというと、筆者が企画、設計、分析を行っている「いい部屋ネット 街の住みここちランキング特別集計 街の魅力度ランキング2023<都道府県版>」の結果からは違うイメージが浮かび上がる。

この調査は日本全国の約18万人から回答を得た大規模なもので、回答者の居住地への評価と、ランダムに表示された居住地以外の都道府県に対するイメージを集計してランキングにしたものだ。

首都圏の一都三県に関する主な項目の順位は以下の通りになっている。

【図表1】一都三県への「住んでいる人」の評価と「住んでいない人」の評価

イメージ通りに、東京都に対する非居住者評価は、「自然が豊か」が最下位の47位、「住みやすそう」もブービーの46位だが、「住んだことがある」「仕事で行ったことがある」「メディアでよく見る」は1位となっている。

「住んだことがある」「仕事で行ったことがある」が1位とは言っても、その比率は22%に過ぎず8割弱の回答者は住んだ経験がないのに「住みにくい」と思っている。

■住んだことがある人の4割は「もう一度住みたい」

実際、東京都に住んだことがあるかないかで、「住みやすそう」への評価を集計してみると、東京に住んだことがある人は34.9%がyesと回答しているが、住んだことがない人でyesと回答した人は17.1%に過ぎない。

同様に、東京に住んだことのある人は41.1%が「(もう一度)住みたい」と回答しているが、東京に住んだことがない人の「住んでみたい」にyesと回答した比率は21.6%と半分になる。

そして、居住者の評価では、生活利便性、交通利便性、行政サービス、親しみやすさは1位で、住み続けたいも13位で幸福度も6位となっている。

住んでいる人たちは、物価は高くて、人も多いが、利便性は高く、全体としては満足しており、割と住み続けたいと思っている、ということなのだ。

一方、神奈川県、埼玉県、千葉県は若干傾向が変わるが、全体としてはやはり住んでいる人たちの評価は比較的高い。

そのなかで、非居住者の評価で神奈川県は「住みやすそう」「住んでみたい」で1位となっているのは、「横浜」のブランド力の高さだろう。

横浜市
写真=iStock.com/CHUNYIP WONG
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/CHUNYIP WONG

■東京の住みにくさの象徴となった「待機児童問題」報道

さらに、首都圏、特に東京の住みにくさを効果的に伝えた報道としては待機児童問題があるだろう。

2016年に注目を集めた「保育園落ちた日本死ね!!!」という、気持ちはわからないでもないがとても品が良いとは言えないネットへのエントリーは流行語のトップテンにも入ったが、これは当時の待機児童問題への関心の高さを示している。

2016年4月の待機児童数は厚生労働省の資料によれば、待機児童数は全国で2万3553人で、前年から386人増加している。

しかし保育所等の定員は263万人(前年比10万3000人の増加)、利用児童者数も246万人(前年比8万5000人の増加)となっている。

この時の待機児童数のトップは横浜市で3764人、東京23区のトップは世田谷区の1320人だが、横浜市の保育所定員は5万9097人で利用児童数は5万8756人、世田谷区の保育所定員は1万2895人(利用児童数は資料に掲載がにない)だ。

ここから、保育所定員に対する待機児童数の比率を計算すると横浜市は6.4%、世田谷区は10.2%となる。

待機児童が数千人もいると聞けば、さも保育園を利用するのがとても難しいような印象を受けるが、(待機児童は0~1歳児が多いため、0~1歳児の収容人数に対する待機児童の比率はもっと高くなることには注意が必要だが)、実際には9割程度は問題無く利用できていることになる。

■「東京は住みにくい」はメディアの作ったイメージ

この9割という数字ではなく、待機児童数の絶対数だけを中心に報道する姿勢はとても科学的態度とは言えない。

そして、こども家庭庁の資料によれば、2024年4月時点の待機児童数は全国でわずか2567人と、2016年のほぼ1/10にまで減少しており、横浜市の待機児童はわずかに5人、世田谷区の待機児童数はわずか58名となっている。

しかし、あれだけ問題だったはずの待機児童が激減したという報道はあまりなされない。

このように、東京は住みにくいというのは、おそらく、長年にわたるメディア報道等によって作られたイメージなのだ。

その構図はおそらく、地方出身者が上京して来て首都圏のどこかで不満なく暮らしながら、(首都圏全体ではなく)東京はひどいところだぞ、これからは地方創生だ、と意識高く議論している、というものだろう。

■消滅可能性自治体から引っ越すと幸福度が上がる

「いい部屋ネット 街の住みここちランキング2023<総評レポート②>」では、消滅可能性自治体出身者の属性別の幸福度を集計しており、消滅可能性自治体に住み続けている場合に比べて、別の場所で暮らしている場合のほうが幸福度が高まる傾向があることがわかっている。

幸福度の上昇は、特に未婚の子どもなし女性で顕著だが、20~35歳未婚子どもなし女性について、消滅可能性自治体、その他の3つの組み合わせで集計したのが下表である。

幸福度は、非常に幸福だと思う場合は10、非常に不幸だと思う場合は1とする10段階評価の平均で、全体の平均は6.52、標準偏差は2.11である。

【図表2】20~35歳未婚・子供なし女性の主観的幸福度

最も幸福度が低いのは、消滅可能性自治体出身でそのまま消滅可能性自治体に住んでいる場合で、もっとも幸福度が高いのは、その他自治体出身者が一都三県に住んでいる場合である。

消滅可能性自治体出身者に着目すると、そのまま消滅可能性自治体に居住している場合よりも、その他自治体か一都三県に移り住んだほうが幸福度が高くなっている。

■一都三県に人が集まるのは「幸せになる」ため

平均の最低の5.79と最大6.35の差は0.56あり、全体の標準偏差が2.11であることを考えれば、偏差値換算で2.7の違いとなり小さな差ではない。そして、もちろんこの差は統計的に有意だ。

この傾向は、未婚女性だけのものではないが、一都三県に人口が集まる一つの背景になっていると言えるだろう。

これは、個々人が意識しているかどうかは別として、一都三県や福岡市等の政令市に人が集まってくるのは、一人一人が自分の可能性を信じて、幸せになろうとしている、ということだ。

だとすれば、個々人の意思に反して地方移住を勧めることは倫理的に問題があるはずだ。

■「一都三県の中心部・政令市」とそれ以外では生活スタイルが違う

地方と一都三県の各自治体や政令市では日常の生活スタイルも大きく異なる。

地方では日常の移動手段はクルマが中心だが、一都三県の多くの場所では電車を中心とする公共交通機関の比重が極めて大きい。

図表3は、筆者の2022年の論考「テクノロジーを地域の暮らしに溶け込ませるために」(人工知能学会誌, Vol.37No.4)に掲載した図を一部加工したものだ。

【図表3】「日常の交通手段に車を使っている率」と「よく飲みに行く率」
【図表4】「大卒率」と「テレワーク実施率」

図を見ればわかるように、一都三県は日常の交通手段がクルマである比率が非常に低く、一方でよく飲みに行く率が非常に高い。その傾向は特に東京23区で際立っている。

テレワークについても、一都三県と政令市は大卒率が高く、テレワーク率もそれなりにあるが(それでもせいぜい20%程度であり、テレワークは世の中全体でみれば特殊な働き方だ)、その他自治体では全く違う傾向になっている。

ここからわかることは、一都三県の特に中心部や政令市は多少傾向が似ているが、その他自治体の傾向は大きく異なる、ということだ。

ここまで日常の生活スタイルが異なると、移り住み、適応し、快適に、幸福感を感じながら暮らすことは思ったよりも簡単ではないかもしれない。

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宗 健(そう・たけし)
麗澤大学工学部教授
博士(社会工学・筑波大学)・ITストラテジスト。1965年北九州市生まれ。九州工業大学機械工学科卒業後、リクルート入社。通信事業のエンジニア・マネジャ、ISIZE住宅情報・FoRent.jp編集長等を経て、リクルートフォレントインシュアを設立し代表取締役社長に就任。リクルート住まい研究所長、大東建託賃貸未来研究所長・AI-DXラボ所長を経て、23年4月より麗澤大学教授、AI・ビジネス研究センター長。専門分野は都市計画・組織マネジメント・システム開発。

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(麗澤大学工学部教授 宗 健)

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