「睡眠薬を飲むとクセになる」というのはもう古い…心療内科医が仕事の忙しい時期に適量を服用するワケ
プレジデントオンライン / 2025年1月11日 17時15分
※本稿は、薮野淳也『産業医が教える 会社の休み方』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
■働きすぎ解消のため「休む」ときは、睡眠を重視すべき
働きすぎが良くないことは、疑う余地はありません。そして、働きすぎの対になるのが「休むこと」なのです。
休むこととセットであるのが、寝ることです。睡眠は、やっぱり大事です。長時間労働が脳血管疾患や心臓疾患のリスクを上げるように、睡眠不足がそれらの病気のリスクを上げること、さらにはそれらの病気による死亡リスクを上げることも、国内外のさまざまな研究で報告されています。
そもそも、睡眠時間が足りないと、翌朝、気持ちが悪くなったり、だるかったりしますよね。頭もスッキリしません。
クリニックに相談にいらっしゃる方のなかには、「12時には布団に入るのですが、ぐるぐると仕事のことを考えちゃって、2時、3時まで眠れないんです」「朝が来るのが怖くて、いつも3時ぐらいまでだらだら起きていて、途中で寝落ちして朝を迎えるんです……」などと、睡眠のことで悩んでいる方はとても多いです。
寝る時間はあるのに考え事をして眠れない。ぐるぐると思考が止まらず、寝ても眠りが浅く、夜通し浅い夢を見ていて、疲れが取れない――。
そうした状態で仕事に行っても、パフォーマンスは上がりません。睡眠不足のせいで仕事がはかどらないためにタスクが終わらず、さらに仕事に追われるようになる……と悪循環に陥りかねません。
その悪循環を断ち切るために「まずは睡眠を整えましょう」と、よく患者さんに提案しています。その際、睡眠薬を使うことも決して悪い方法ではありません。
■「睡眠薬を飲むとクセになりそう」というのはひと昔前の話
睡眠薬に対して、「クセになりそうで怖い」「ないと眠れなくなって、手放せなくなりそう」などとマイナスのイメージを持っている方もいるでしょう。でも、それはひと昔前の睡眠薬のイメージなのです。
少し前まで広く使われていた睡眠薬は、ベンゾ(ベンゾジアゼピン)系や非ベンゾ系と呼ばれ、脳の活動を抑えることで眠りやすくする薬でした。そうした睡眠薬の場合、確かに依存性があり、問題になっていました。
■依存性がほとんどないと考えられる新しいタイプの睡眠薬
でも、薬学の進歩とともに、依存性がほとんどないと考えられる新しいタイプの睡眠薬が出ています。例えば、オレキシン受容体拮抗薬というタイプの薬があります。これは、脳の覚醒を促すオレキシンという神経伝達物質の受容体を邪魔することで脳を睡眠へと誘います。
オレキシンという神経伝達物質は、専用の受容体にくっつくことで脳の覚醒を促します。その受容体が邪魔されることで、脳を覚醒しようという作用が弱まるので、眠りやすくなるのです。
ひと昔前のベンゾ系、非ベンゾ系の睡眠薬は脳のシグナルをバサッと切って強制的に睡眠にもっていくイメージでしたが、今のオレキシン受容体拮抗薬のような睡眠薬は睡眠と覚醒のバランスを整えて、自然な眠りに導くイメージです。
私が医学のトレーニングを受けた頃には、すでにこうした睡眠薬がファーストチョイスになっていました。私よりも上の世代の先生方でも、ほとんどの先生はちゃんと最新の医学を勉強されているので、依存性の少ない睡眠薬を処方されていると思います。
■薬の服用は、飲むリスクと飲まないリスクを考える
実は私自身も、この睡眠薬をときどき半錠飲んでいます。経験上、飲んだほうが寝つきも寝起きもいいのです。特に、仕事が忙しくて考えなければいけないことがたくさんあるような時期には、あれこれ考えて眠れなくなるよりも、1錠なり半錠なり飲んで、しっかり睡眠をとって、翌朝スッキリした頭で仕事をしたほうがずっとはかどります。ですから、量を調節しながら、上手に睡眠薬を使っています。
睡眠薬に限らず、どんな薬にも効果と同時に副作用があります。薬は肝臓や腎臓で代謝されるので、飲み続けることで肝臓や腎臓に負担をかけてしまうリスクは確かにあります。でも、それは、血圧やコレステロールの薬など、すべての薬にいえること。
血圧やコレステロール値が高い人がなぜ薬を飲むのかといえば、リスクよりもメリッ卜が大きいからですよね。睡眠薬も同じです。
眠れていなくて、そのために生活や体調に支障が出ているから、私たち医師は「睡眠薬を使いましょう」と提案するわけです。リスクとメリットを天秤にかけた結果です。それでも「薬は嫌です」とおっしゃる方には無理強いはしません。ただ、その一方で、絶対に睡眠薬を使ったほうがいい場面もあります。
■眠れずに困っているなら、薬でしっかり眠った方がいい
例えば、仕事に疲れ切ってメンタル不調に陥っているけれど、本人はどうしても仕事を休みたくないと言う。しかも、職場に相談しても、すぐには環境が落ち着きそうにもない。環境は変わらないし、休むという選択肢もないのなら、速やかに自分を整えるしかありません。それなのに、「薬は使いたくありません」と言われると困ってしまうのです。
自分を整えるという点でまず大事なのは、生活リズムを整えること。夜眠れなければ生活リズムはどんどん乱れていきます。でも、不眠というのは、睡眠薬を上手に使えばすぐに解決しやすいものです。そして、解決して眠れるようになれば、睡眠薬から卒業すればいいだけのこと。
ですから、眠れなくて困っているのであれば、そんなに構えることなく、積極的に使うべきだと私は思っています。
■メンタル不調で休職したら、とことん「寝る」のが正解
休職して寝る時間はたっぷりあるのに、眠れない。夜、布団に入って寝ようとしてもなかなか寝つけなくて、2、3時間経ってしまう。
そうした悩みはよく聞きます。そういう方はたいてい、「仕事は大丈夫かな」とか「職場のみんなはどう思っているんだろう」などと、考えても仕方のないことをぐるぐると考えてしまっています。答えのないことをぐるぐると考えているうちに時間が経って、夜が明けてしまうという方が多いのです。
そんな日々を続けていても疲れは癒えません。睡眠薬の力を借りてでも、しっかり寝ましょう。健康に働くには、寝る力は欠かせません。
逆に、たまっていた疲れがどっと吹き出し、夜も昼も時間に関係なく眠る方もいます。ハードに働いていた人があるときプツンと糸が切れたようになって、「休みましょう」という話になると、引き継ぎを終えて休職に入った途端、一日中ひたすら寝るということはよくあります。
普通は、日中に寝すぎると、夜に眠れなくなるものです。ところが、そういう方は昼にいくら寝ようと、夜にも眠くなります。これは、寝続けて体力を回復しているところなので、疲れが癒えるまで寝ましょう。
ただし、日中寝ることで夜眠れなくなるようになったら、やめてください。たっぷりの睡眠が必要な段階は過ぎたということですから、夜寝て昼間は活動するリズムに戻しましょう。
特に、復職間近になっても、時間かまわず寝てしまうのは絶対に避けなければいけません。あくまでも休職の最初の段階で、心と体の休養のために寝続けるのはOKということです。
■夜に眠れるようになったら、就寝起床のリズムを整える
眠れなかった人が夜眠れるようになり、昼も夜も寝ていた人がだんだん普通の睡眠に戻ってきたら、リズムを整えることを意識しましょう。
休職に入ったばかりの人は、まだまだ調子が悪くて、日中何もする気が起きないということはよくあります。それでも、テレビを見たり、YouTubeなどの動画を見たり、今できることを何でもいいのでしてください。そして、日中は起きて、夜は寝るというサイクルをしっかり固めていきましょう。
ポイントは、朝起きる時間を固定することです。仕事をしているときと同じように、始業に間に合う時間に起きること。朝起きる時間をいつもの時間に固定することができれば、健康的に働ける状態に一歩近づきます。
ところで、「昼寝はいいですか?」と、よく聞かれます。寝すぎて夜の睡眠に響くようでしたら、やめたほうがいいです。でも、学生時代、勉強の合間に机に突っ伏してほんの10分ほど寝たらスッキリしたという経験はありませんか? そんなふうに眠気を飛ばすような昼寝でしたら、まったく問題ありません。日中疲れたなと思ったら、10分から15分程度、昼寝をしてリフレッシュしましょう。
■昼夜逆転の生活にならないため、してはいけない3つのこと
朝、いつもの時間に起きるようになったら、今まで仕事に行っていた時間がぽっかり空きます。適応障害などで心を病む人はまじめな方、責任感の強い方が多いので、そういう方ほど「何をすればいいんだろう」と、悩みます。
私はいつも、「まずは好きなことをしてください」と伝えています。好きなことは、一人ひとり違います。その人にとって心身がリフレッシュするようなことであれば何でもいいのです。やりたいと思っていたけれど、今までできなかったことをやってみるのもいいでしょう。
ただし、一点だけ注意点があります。睡眠リズムが乱れるようなことだけはやめてください。例えば、昼間からお酒を飲む、深夜遅くまで動画を見続けたりゲームをしたりする、海外旅行に行くなど、睡眠リズムや生活リズムを乱して昼夜逆転につながることはNGです。
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産業医・心療内科医
1988年東京都出身。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、徳島大学医学部に入学・卒業。認定産業医、認定スポーツ医、健康運動指導士、健康運動実践指導者。大手企業の産業医として日本オラクルのほか、10社以上の産業保健業務に従事。2023年より、ビジネスパーソンのための内科・心療内科「Stay Fit Clinic」を開設し院長を務める。
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(産業医・心療内科医 薮野 淳也 構成=橋口佐紀子)
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