「暖房ガンガンなのに寒い家」はここが決定的に弱い…「最大200万円の助成」を使ってすぐに改修すべき2つの場所
プレジデントオンライン / 2025年1月10日 18時15分
■日本の家はなぜこんなに寒いのか?
寒い日が続いており、寒さに体が堪えている方が多いことと思います。
健康のためには、家を暖かく保つことが大切です。
世界保健機関(WHO)は、2018年に「住まいと健康に関するガイドライン」を公表し、この中で、「冬の室内温度は18℃以上」を保つことを強く推奨しています。残念ながら、多くの日本の住宅では、玄関・浴室・脱衣室等は18℃未満になっていますし、リビング等でも18℃未満になっている家は少なくありません。
筆者は、結露のない健康・快適な住まいづくりをサポートする会社を経営しています。本稿では、その専門家の立場から、寒い家に暮らす健康リスクや冬暖かい家にするためのポイントについて説明したいと思います。
■日本の住宅の断熱気密性能は圧倒的に低い
あまり一般の方は認識していないようですが、日本の住宅の断熱・気密性能は、他の先進国に比べて、極めて低い水準にとどまっています。
例えば、住宅の断熱性能を示すUA値の基準(値が小さいほど高断熱)は、冬の寒さが日本と同程度の他国で暖房が必要な地域の基準と比べると、非常に緩くなっています。
日本の6地域(東京・横浜・名古屋・大阪・福岡等の温暖地域)の省エネ基準は0.87[W/m2・K]です。それに対して、同じ気候区分の他の国の基準値は、韓国は0.54、スペインは0.51、米国カルフォルニア州は0.42、イタリアは0.40です。同じくらいの寒さの他の国・エリアと比較して、日本の断熱性能基準が圧倒的に緩いことがおわかりいただけると思います。
さらに、すきま風の少ない家であることを示す気密性能については、気密性能を示すC値(cm2/m2:値が小さいほど高気密)には、他国ではかなり厳しい基準が定められています。例えば、ドイツでは0.3[cm2/m2]、ベルギーでは0.4[cm2/m2]以下等の基準が定められています。それに対して、日本では過去に5.0[cm2/m2]以下という非常に緩い基準が存在していましたが、現在の日本には不思議なことにその基準すらなくなってしまっています。
つまりどんなに隙間だらけの家でも、クレームの対象にならないのです。はるかに厳しい基準を設定している諸外国とは大きな違いです。(関連記事〈まともな性能の住宅なら「床暖房」は必要ない…海外では違法建築レベルの「寒い家」を許す日本の政策の大問題〉参照)
■日本の冬はノルウェーよりもつらい?
ノルウェーのオスロに暮らす日本人の知人が、冬の日本に一時帰国して会った際、「オスロの冬よりも日本の冬のほうがつらい」と漏らしていました。
オスロでは、高気密・高断熱住宅が一般的で、彼も築40年以上の集合住宅に暮らしていますが、家の中は暖かくとても快適だそうです。家の中で過ごしている時に、体の芯が温まっている状態なので、氷点下の外に出てもしばらくはそんなに寒さを感じないそうです。冬に外に出るといっても、ほとんどはクルマに乗るまでのほんのひと時や、公共交通機関に乗るまでの短時間で、体の芯が冷える前に暖かい環境に入れるので、寒さがつらいとはあまり思わないそうです。
それに対して、日本では、帰国して東京郊外の彼の実家で過ごしていたそうですが、古い実家は家の中も寒く、家で過ごしていても体が芯から冷えてしまっているために、外気温はオスロよりもはるかに暖かいはずなのに、外に出るのがとてもつらく感じるのだそうです。
■実は夏の暑さよりも健康リスクが高い
このような家の断熱・気密性能の低さゆえか、日本では寒さに起因する死亡率が他国より高く、なんと約10%にも上るそうです。
2023年の日本の年間死亡者数は、約158万人でしたから、単純計算で、約16万人もの人が寒さに起因して死亡していることになります。
これは、英国の権威ある医学雑誌『The Lancet(ランセット)』に2015年に掲載された論文で指摘されていることです。論文では、世界の13カ国(オーストラリア、ブラジル、カナダ、中国、イタリア、日本、韓国、スペイン、スウェーデン、台湾、タイ、英国、米国)の7400万人強の死亡データを分析して、「適切ではない暑さ・寒さに起因する死亡が全体に占める割合」を算出しています。
日本の暑さ・寒さに起因する死亡率は、10.12%で、このうち寒さに起因する死亡率は9.81%、暑さに起因する死亡率は0.32%とされています。圧倒的に暑さよりも寒さのほうが、健康リスクが高いという結果でした。
また、他国の寒さに起因する死亡率は、日本より寒い地域ですと、カナダは4.46%、韓国は6.93%、スウェーデンは3.69%、英国は8.48%となっています。日本よりも寒い国に比べて、日本の寒さに起因する死亡率は非常に高くなっています。
またこの論文では、暑さによって引き起こされる身体的リスクは通常は即時に現れるのに対して、寒さによる影響は3~4週間続くと指摘しています。
■高血圧、動脈硬化、呼吸器疾患などのリスクも
「ヒートショック」という言葉は、少しずつ知られてきているようです。特に冬の入浴時のリスクを認識している方は多いと思います。消費者庁が以前出したニュースリリースによると、年間1万9000人もの方が冬の入浴時に亡くなっています。これは、交通事故死者数の7倍以上に上る人数です。(関連記事〈「ヒートショック溺死」は愛媛、鹿児島、静岡に多い理由…「暖房をつけても足元が冷える部屋」を放置してはいけない〉参照)
ですが、冬の家の寒さによる健康リスクは、ヒートショックだけではありません。上記の論文によると、寒さに起因して死亡に至る生物学的なプロセスは、主に心血管系と呼吸器系に悪影響を及ぼすことによるそうです。
寒さにさらされると、血圧や血管収縮、血液粘度、炎症反応などに影響し、心血管系にストレスがかかります。同様に、寒さは気管支収縮を誘発し、粘膜繊毛防御やその他の免疫反応を抑制し、局所的な炎症を引き起こし、呼吸器感染症のリスクを高めるということです。
そして、これらの生理学的反応は、暑さに起因するものよりも長く持続し、高血圧・動脈硬化・循環器疾患、呼吸器疾患等を招き、死亡リスクを高めます。これらによって、日本の死亡者数の約10%は、寒さに起因して死亡しているということのようです。つまり、1万9000人/年というヒートショックによる死亡者数は、そのごく一部にしか過ぎないということです。
■断熱改修を行うと血圧が下がる
日本では2014~2018年度にかけて、国土交通省の支援により、断熱改修などによる生活空間の温熱環境の改善が、居住者の健康にどのような影響を与えるかについて、医学・建築環境工学の観点から検証するかなり大がかりな調査が行われています。公表されている調査結果の一部をご紹介します。
まず、断熱改修工事を行うと、改修前に比べて、起床時の最高血圧が平均3.5mmHg、最低血圧が1.5mmHg下がったそうです。さらに、居間が18℃、寝室が10℃の家に比べて、居間も寝室も18℃に保つと、起床時の最高血圧が2mmHg下がるそうです。
なお、厚生労働省は、40~80歳代の国民の最高血圧を平均4mmHg低下させると、脳卒中死亡者数が年間約1万人、冠動脈疾患死亡者数が約5000人減少すると推計しています。健康寿命の増進には、血圧を下げることが重要なようです。
■トイレで夜に目が覚める回数が減る
寒い家で、夜中にトイレに何度も起きることが苦痛な方も多いと思います。同調査によると、断熱改修工事を行って、室温を上昇させると、トイレが近くなる「過活動膀胱」の症状を有する確率は、室温を改修前と同じレベルに維持したグループに比べて2分の1に低下するそうです。
夜、トイレに起きる回数が減って、暖かい布団の中で一晩中ぐっすり眠れるのは、幸せなことですよね。
冬の寒い家にこたつがあると、一度入ってしまうと、なかなか動かなくなってしまいがちだと思います。
断熱改修工事をすると、暖房費があまりかからなくなるので、こたつという部分的な「採暖」ではなく、エアコンによる部屋全体・家全体を暖める「暖房」がメインになる家庭が多いようです。その結果、身体活動量が明らかに増加します。特に65歳以上は、男女ともに住宅内での軽強度以上の平均活動時間が約34分前後増加しています。
当然、これも健康寿命の増進につながります。
■寒い家と暖かい家では健康寿命が4歳違う
冬の居間の室温が16℃以上に保たれている住宅の割合が50%未満の自治体、50~70%の自治体、70%以上の自治体で、高血圧性疾患、脳血管疾患、肺炎等の人口あたりの患者数を比較すると、明らかに、居間を暖かくしている住宅が普及している自治体のほうが患者数が少なくなっています。
このように、暖かい家は、ヒートショックリスク低減以外にも健康にいいのです。
国土交通省と慶應義塾大学伊香賀研究室が行った調査によると、暖かい住宅に暮らしている方々と寒い家に暮らす方々で比較すると、健康寿命が4歳違うといいます。これは、脱衣室で冬に寒いと感じる頻度で、寒冷住宅群と温暖住宅群に分けて、性別・学歴・経済的満足度・同居者の有無等の影響を排除するように統計的に処理して分析した結果だそうです。
わが国の平均寿命は、他国に比べてとても長いのですが、健康寿命はさほど突出して長いわけではありません。つまり、健康寿命を失ってから亡くなるまでの期間が長い国なのです。健康寿命を延ばすためには、家を暖かくすることが重要なのです。
■家の中での転倒リスクも減る
実は、高齢者にとっては、家の中での転倒・転落というのも大きなリスクです。東京消防庁のデータによると、年間3万人以上の方が住宅等の居住場所での転倒・転落により救急搬送されています。
厚生労働省の「主な不慮の事故の種類別にみた死亡数の年次推移」のデータを見ると、以前は交通事故死者数がダントツで多かったのですが、交通事故死者数は年々減少しており、それに対して、窒息、転倒・転落、溺死が年々増加しています。平成20年には窒息死がトップになり、交通事故、転倒・転落、溺死が拮抗しています。
また、高齢者が「要介護」になった原因では、認知症、脳血管疾患(脳卒中)、高齢による衰弱に続き、「骨折・転倒」は第4位で、全体の13%を占めています。
そして、年間3万人以上の人が救急搬送されている居住場所での骨折・ねんざ・脱臼は、図表9に示すように、暖かい家に暮らす人に比べて、寒い家に暮らす人のほうが、明らかに発生する確率が高くなっています。
寒いとけがをしやすくなるというのは、多くの方がなんとなく理解していることかと思いますが、寒いと筋肉が冷えることで血流が悪くなります。すると、筋肉自体が酸欠状態になり硬くなると柔軟性が低下するためだそうです。
家の中での不慮の事故を防ぐためにも、適切な室温を保つことは重要なのです。
■「最大200万円の助成」高断熱化できる2つの場所
断熱・気密性能の低い家で、家全体を暖かく保つことは、冷暖房光熱費を考えるとなかなか難しいことだと思います。家全体を均質な室温で健康・快適に過ごすためには、ぜひ、冷暖房光熱費が気にならなくなる高気密・高断熱の家に住んでいただきたいと思います。なお、YouTubeでも「建てる前に見て!断熱性能の真実」という動画を公開しています。参考にしてください。
欧米では、低廉な賃貸住宅でも高気密・高断熱住宅が当たり前なのですが、日本では残念なことに欧米レベルの高気密・高断熱住宅で暮らすことができるのは、性能にこだわって注文住宅を建てることができるごく一部の経済的にある程度ゆとりのある方に限られています。
ですが、比較的手ごろな費用負担で、ある程度高断熱にすることは可能です。窓や玄関ドアを高断熱のものにリノベするだけで、住宅の環境はかなり改善されます。
そして国は、「先進的窓リノベ事業」という補助制度(関連記事〈「ヒートショック溺死」は愛媛、鹿児島、静岡に多い理由…「暖房をつけても足元が冷える部屋」を放置してはいけない〉p4参照)で、既存住宅の窓などの断熱改修工事にかなり手厚い補助を行っており、2025年度は、最大200万円/戸が補助されます。
中でも東京都の「既存住宅における省エネ改修促進事業」は、高断熱窓の設置に対して、3分の1の助成(上限100万円/戸)が受けられます。国の制度と併用すると、最大6分の5の補助・助成率になります。
ぜひ、窓・玄関ドアだけでも断熱改修して、快適な住環境を確保し、健康寿命を延ばすことをお勧めします。
----------
住まいるサポート代表取締役/日本エネルギーパス協会広報室長
千葉大学工学部建築工学科卒。東京大学修士課程(木造建築コース)修了、同大博士課程在学中。リクルートビル事業部、UG都市建築、三和総合研究所、日本ERIなどで都市計画コンサルティングや省エネ住宅に関する制度設計等に携わった後、2018年に住まいるサポートを創業。著書に、『元気で賢い子どもが育つ! 病気にならない家』(クローバー出版)、『人生の質を向上させるデザイン性×高性能の住まい:建築家と創る高気密・高断熱住宅』(ゴマブックス)などがある。
----------
(住まいるサポート代表取締役/日本エネルギーパス協会広報室長 高橋 彰)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
「ヒートショック溺死」は愛媛、鹿児島、静岡に多い理由…「暖房をつけても足元が冷える部屋」を放置してはいけない
プレジデントオンライン / 2025年1月9日 18時15分
-
日本の「高断熱サッシ」は欧州では違法建築扱い…喘息とアレルギーを引き起こす「日本の住宅は高性能」の大ウソ【2024下半期BEST5】
プレジデントオンライン / 2025年1月7日 7時15分
-
寒い日のお風呂「ヒートショック」に要注意! 高血圧の人が安全に入浴するために気をつけたいこと6つ
マイナビニュース / 2024年12月23日 12時29分
-
窓の結露に悩む約3人に1人が「昨年より光熱費が上がった」と感じる傾向。住まいの断熱で解決できる「もったいない」発見サインは“結露”にあり。
PR TIMES / 2024年12月20日 13時0分
-
冬の寒さによる住まいの困りごとに関する調査を実施
PR TIMES / 2024年12月17日 16時15分
ランキング
-
1ヤマハ発動機、27年ぶりに企業ロゴを刷新 デジタル活用を意識
レスポンス / 2025年1月10日 15時57分
-
2エヌビディア、バイデン氏のAI半導体輸出規制強化案を批判
ロイター / 2025年1月10日 16時20分
-
3"7つの悪手"「中居正広氏の謝罪文」失敗の典型だ 反発は必然「危機管理の専門家」いなかったのか
東洋経済オンライン / 2025年1月10日 16時0分
-
4中居正広と松本人志に共通する"不信感"の正体 説明をせず、仕事復帰を宣言できる一体なぜ?
東洋経済オンライン / 2025年1月10日 18時30分
-
5アングル:ファーストリテ株、業績好調でも下げ突出 ちらつくウエート調整
ロイター / 2025年1月10日 17時7分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください