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光反応の教科書的理解を刷新 重原子含有分子で直接S0→Tn 遷移を実証

PR TIMES / 2020年3月11日 18時55分

物質に光を照射すると、分子内部でエネルギーが遷移し構造が変化します。この「光反応」を用いて様々な物質を創製する技術が注目されています。千葉大学大学院薬学研究院 根本哲宏 教授及び中島誠也 助教の研究グループは、可視光を照射したヨウ素含有分子において、これまで見過ごされてきた電子遷移である「S0→Tn」という機構が実際に進行していることを実証しました。さらに、ヨウ素含有分子以外の重原子含有分子においても、“一見”吸収できないはずの光で直接的なS0→Tn への遷移によって光反応が起きることを証明しました。この研究成果は、2020年3月9日に独化学会誌「Angewandte Chemie International Edition」オンライン版に公開されました。




研究の背景


[画像1: https://prtimes.jp/i/15177/406/resize/d15177-406-474191-0.png ]

 宇宙空間から無限に降り注ぐ太陽光は、地球上の有限な化石資源に依存しないエネルギー源です。近年ではその光エネルギーの中でも特に、取り扱いが容易で安全な可視光を利用した物質創製技術が注目され、研究開発が進められています。こうした技術では、光をエネルギー源として物質に起こる光反応をうまくコントロールして、狙い通りに物質の構造の変化を引き起こすことが重要です。
 しかし、近年、重原子の一つであるヨウ素を含有する分子が、本来分子が吸収できないはずの可視光によって光反応を起こしているという「謎」が存在していました(図1)。物質の光反応を完全に理解しコントロールするには、光反応を引き起こすメカニズムを更に詳細に調査し、この謎を解明することが求められていました
 光反応のメカニズムとして、これまでの教科書的な理解では、分子が光を吸収すると、原子核の周りの電子が移動し、分子の状態は吸収前の基底状態S0 から、吸収後にはS0→Sn→S1→T1という順序で遷移し、T1 の状態から光反応が進行することが知られていました(図2)。本研究チームは、これまで見過ごされていた遷移経路である直接「S0→Tn」遷移に注目し[1]、ヨウ素含有分子が可視光によって光反応を起こす背景には、「S0→Tn」遷移が働いているという仮説を立てました(図3)。


[画像2: https://prtimes.jp/i/15177/406/resize/d15177-406-211067-1.png ]



研究成果


[画像3: https://prtimes.jp/i/15177/406/resize/d15177-406-781452-2.png ]

1.ヨウ素含有分子における直接S0→Tn 遷移を証明


 直接「S0→Tn」遷移を観測・証明すべく、研究グループはまず、ヨウ素含有分子に対して光に関する様々な物理的特性を測定しました。吸収波長や蛍光発光、りん光発光などを詳しく調査したところ、S0→Tn遷移が進行していることを実証し、当該分子におけるこの遷移の進行を発光特性の測定によって初めて証明することに成功しました。


2.重原子含有分子で直接S0→Tn 遷移によって光反応が進行
 S0→Tn遷移を引き起こす光は、一見すると分子が吸収できない光のように観測されます(図4左)。そこで、
同研究グループは、ヨウ素含有分子以外の重原子含有分子[2]においてもS0→Tn遷移によって光反応が進行するのかを確かめるため、化学的な検証を行いました。その結果、ヨウ素(I)だけでなく、臭素(Br)やビスマス(Bi)といった重原子含有分子においても適用される一般的な現象として、一見吸収できない光をエネルギー源として、光反応に特有なラジカル反応が進行することが明らかになりました(図4右)。
 これらの結果から、上述の“謎”の答えは“直接的なS0→Tn遷移”であることを物理実験的にも化学実験的にも証明することができ、本仮説が立証されました。


[画像4: https://prtimes.jp/i/15177/406/resize/d15177-406-147804-3.png ]



研究者のコメント

 今回の研究を主導した中島誠也 助教は、次のように述べています。「今回の研究成果は、教科書の内容を刷新する画期的な発見です。技術的な応用面では、これまで光反応に用いられてきた紫外線は様々な分子を破壊し、反応の制御が困難でしたが、可視光による「直接S0→Tn遷移」を用いて反応条件をコントロールできるようになります。紫外線は、我々の皮膚や目にも有害であり、紫外線照射装置自体も特殊かつ高温を発生する危険な側面もありますが、可視光はより安全で、低エネルギーであるという利点があります。今後、様々な研究分野においてこの光反応の古くて新しい機構を用いることで、新たな分子デザインや反応デザインにつながることが期待できます」


研究プロジェクトについて

 本研究は、科学研究費助成事業(18K14863)、平成30年度ヨウ素学会研究助成、2019 年度笹川研究助成(2019-3004)、千葉大学グローバルプロミネント研究基幹の支援により遂行されました。
 また、本研究は東京大学大学院薬学系研究科・理化学研究所 内山真伸 教授、及び理化学研究所村中厚哉 博士との共同研究であり、ソフト分子活性化研究センター、千葉ヨウ素資源イノベーションセンターにおける研究プロジェクトの1つです。

論文情報

論文タイトル:A Direct S0→Tn Transition in the Photoreaction of Heavy-Atom-Containing Molecules
雑誌名:Angewandte Chemie International Edition
DOI:https://doi.org/10.1002/ange.201915181

用語解説

[1] 見過ごされていた遷移経路「S0→T1」
光反応において、S0からS1やSnを経ることなく直接的にTnへ遷移が進行することは、1960年代から観察されてはいたものの、 S0→Sn遷移よりも圧倒的(およそ1億倍!)に進行しにくいことから、これまで見過ごされていた遷移経路となっていました。
[2] 重原子含有分子
水素や炭素、窒素、酸素などの軽い元素と比較し、重い元素を含有する分子。臭素やヨウ素、ビスマスなど、周期表で下に位置する元素が重原子として挙げられます。

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