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ラグビー界に新たな勢力。W杯での躍動誓う“高卒”の日本代表戦士たち。学歴に囚われず選んだ進路を正解とできるか?

REAL SPORTS / 2023年9月4日 11時37分

2022年にラグビー「リーグワン」が発足し、今後、海外では主流である高卒トップリーガーが日本でも増えてくるかもしれない。9月に開幕するラグビーワールドカップに挑む日本代表のメンバー入りを果たした福井翔大やワーナー・ディアンズはその代名詞的な存在だ。当時“異色の高卒トップリーガー”として注目された彼らは、いかにして日本代表戦士の座を手に入れたのか?

(文=向風見也、写真=松尾/アフロスポーツ)

「目標にしたところに辿り着いたから…」元東福岡高校主将・福井翔大

新たな勢力が生まれている。今年9月からのラグビーワールドカップ・フランス大会へ臨む日本代表には、日本の大学を卒業せずにプロとなった若者が3名いる。

フランカーとして進境著しい福井翔大は、元東福岡高校主将。2018年に埼玉パナソニックワイルドナイツへ入った23歳だ。

入部当初は年の離れた先輩との関係に悩み、胃を壊して寝込んだことがあった。

「僕が(勝手に)怖がっちゃって」

近年は堀江翔太、松田力也ら代表常連組と、同じ専属トレーナーのもとで体を鍛えている。身長186センチ、体重101キロの体はコンタクトの際に軸がブレず、今年デビューしたテストマッチ(代表戦)の舞台でも首尾よくターンオーバーを決めていた。

いつしか同僚との関係性も変わったようだ。司令塔の5学年上の松田は「飲み仲間」だと冗談交じりに語り、報道陣を笑わせるようにもなった。

「目標にしたところ(ワールドカップ)に辿り着いたから、一生懸命やる。皆が僕のことをどう思っているかがわからないのでなんとも言えないですけど、このまま自然体で行きたいです」

目標は「世界一のロック」。向上心保つワーナー・ディアンズ

下積みがないまま代表入りをかなえた高卒選手には、ワーナー・ディアンズがいる。

父のグラントさんが千葉のNECグリーンロケッツ(当時名称)でトレーナーとなったため、中学2年で来日した。

流経大柏高時代に185センチだった身長を2メートル超にして、卒業後は「日本でやるのが一番成長できる」と決意。同世代の数多の選手がプロ契約を目指して競い合うニュージーランドの市場より、世界各地から集った名コーチが個々をしっかりと育成する日本の上位クラブに食指を伸ばした。

2021年に進んだ東芝ブレイブルーパス東京には、憧れのリーチ マイケルがいた。ディアンズは「ターゲットの人」と見るリーチに倣い、練習で全力を尽くし、ミーティングで積極的に意見をかわした。ブレイブルーパスで公式戦に出るよりも先に、代表初キャップを得た。

今年は故障に泣かされ夏の代表戦には不出場も、層の薄いロックの位置でぶっつけ本番での躍動が待たれる。サイズを生かしたキックチャージ、巧みなフットワークでの前進を繰り出せるか。目標は「世界一のロック」と大きく掲げ、向上心を保つ。

「自分のフィジカルスタンダードをもっと上げないといけない。ボールを持っていないときのスピードが遅いから、それをもっと速くしないといけない」

帝京大学を1年でやめ、地元・神戸でチャンスをつかんだ李承信

一度は大学に進みながらも若くしてプロとなったのは、2022年に代表入りの李承信だ。

通っていた帝京大学を1年でやめたのは2020年。折からのパンデミックで目指していたニュージーランド留学がかなわなかったものの、地元で活動するコベルコ神戸スティーラーズで機会をつかんだ。

同僚にはニュージーランドでキャリアを積んだアーロン・クルーデン、ヘイデン・パーカーがいた。2人と同じスタンドオフを担う李は、特にパーカーからキックの蹴り方、心構え、ゲーム制御のいろはを学んだ。

日本代表では前出の松田と定位置を争う。鋭い仕掛けを長所に、背番号10への定着を目指す。

「タフな状況で精度高くプレーすることを意識してやっています。評価は違う人が決めることですが(メンバー選考の権限はコーチ陣にある)、自分の色を持ってチャレンジして、結果として10番で出たいと思います」

海外とは流れが異なり、これまでは大卒選手が主流

これまでの国内出身者は、大卒後に現リーグワンのクラブで社員選手もしくは専業のプロ選手となるのが一般的とされてきた。いまでもその傾向は続くが、近年では高校卒業後にトップレベルに挑む選手も見られるようになった。

むしろ海外ではそちらが主流とあり、日本にも世界と似た状況になりつつあるとも捉えられる。その象徴が福井であり、ディアンズであり、李もそれに近い。

早くからトップレベルに挑むことには、視座を高めるメリットがある。

福井はワイルドナイツで十分な出場機会を得る前、20歳以下日本代表の主将となっていた。その際、アマチュアシーンと当時のトップリーグとの違いを生々しく語っている。

「試合前、めちゃくちゃ緊張するようになっちゃいました。高校ラグビーの時はなぁなぁのプレーでも通用したところがあったのですけど、(強度の高い)トップリーグでは気を抜いたら頭がぶっ飛んでいくんじゃないかと思ってしまう」

リーグワンのチームでは、海外出身のコーチや選手が身近にいる。日本の現役学生の若者より、英語で話すことに抵抗は少ない。

さらに2019年のワールドカップ日本大会時は、初めて8強入りした日本代表にワイルドナイツの選手が多く選ばれていた。

そのため、国際舞台で戦うことにも当事者意識を持てたと福井は言う。

「(努力次第でワールドカップに)行けるんだ、と」

もっとも、自分の歩んだ道だけが正解だとは言わない。フランス大会のメンバーには、元早大主将の長田智希がいる。

東海大仰星高時代からポジショニング、パスのスキルと判断、運動量といった無形の力が貴ばれてきた万能バックスは、大学シーンでの試合経験を経て2022年にワイルドナイツ入り。そのまま国内リーグワンの新人賞に輝き、ワールドカップイヤーに代表初選出を決めたのだ。

ワイルドナイツの長田と同学年でもある福井は、自らと違うルートから国際舞台に駆け上がった長田を「リスペクトしかない」と称賛。お互いに代表に定着する前にも、こう述べたことがある。

「僕がたまたまこの環境でやらせてもらっているだけで、皆、それぞれ絶対に頑張っている。自分がどれだけのことをやってきたかを(周りと)比べるのは違うと思うんです」

それぞれが選んだ進路を正解とするか、不正解とするかはその人次第。それは李が「選んだ道に後悔がないようにするには、(日々の)過ごし方が大事」と話してきたことからも明らかだ。

「まぁ、俺らは(指導者に)チョイスされる側やから」

ブレイブルーパスの採用としてディアンズの入部に携わった望月雄太氏は、普段、各地の高校生、大学生のプレーをつぶさに見て回る。

その上で、これから未来を切り開く若者たちへは「おこがましくて面と向かっては言えない」としつつこうエールを送る。

「自分だけで『通用する、しない』と考える自己評価ではなく、学校の先生をはじめとした他者評価も踏まえて自己分析ができるようになってほしいですね。その上で『俺ならできる』と考える子たちはぜひ、上のレベルにチャレンジしたらいい。もちろん高校の時点での自己分析が『もうちょっとだな……』ならば、大学でレベルを上げる方法も、海外へ留学する方法もある。福井も、こういう自己分析ができた上でワイルドナイツに行ったんだと思います」

奇しくもいまの日本代表にも、「自己分析」のできる選手が多そうだ。総じて首脳陣の視点と自らの視点をすり合わせ、いまのチームに必要な選手となるよう努めている。

李は代表初選出の際には「試されているのが伝わってきた」と置かれた立場を把握。日々の練習ではまず、チーム戦術の理解に努めた。長田も、自らのストロングポイントを聞かれてこう答えている。

「チームでの役割を理解して、応えていく。そういうところが自分の強みなのかなと、僕は感じています」

最年長の堀江も例外ではない。日本代表で過去3人の指揮官に仕え、このほど4度目のワールドカップに挑む37歳は、ファンにお馴染みの関西弁でこう口にしたことがある。

「言われたことをやることではなく、言われたことを上手にやるために個人の力を伸ばす。それはプロ選手として当たり前やと思っています」

好き勝手に「個人の力を伸ばす」のではなく、「チームから言われたこと」を高次で表現するために個人の力を伸ばす。独自のスキルや強靭な体も、どのチームでプレーするのにも必要なツールと捉える。

数年前、当時の代表に参加していたある選手が、堀江に相談を持ち掛けたことがある。その頃すでに発足していたジェイミー・ジョセフ現ヘッドコーチ体制のスタイル、方針に納得がいかず、もっとよりよい方法があるのではと悩んでいたからだ。

話した堀江自身は覚えているだろうか。その選手は、堀江のさりげない返事にタフな職業倫理を感じ取ったという。

「まぁ、俺らは(指導者に)チョイスされる側やから」

2023年8月28日。就任7年目のジョセフが、自身2度目のワールドカップへ向けて出場メンバーを確定させた。

個々のコンディションを鑑み、正式発表予定日の15日から追加発表と入替を重ねた末、ひとまず33名を「チョイス」した。

大会前の試合では1勝5敗と苦しんでいるものの、本番では各自が「チョイス」されたのにふさわしい仕事をする。しようとする。それぞれの責任感と帰属意識は、学歴と無関係に育まれている。

<了>







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