【マセラティ グレカーレ 新型試乗】直4エンジンの「モデナ」と700kmをともにして判ったこと…中村孝仁
レスポンス / 2024年4月3日 21時0分
「『グレカーレ』に乗ってみてくださいよ。ロングタームで」。こんな嬉しい申し出をお断りするはずもなく、中心的モデル「モデナ」を1週間お借りしてロングランを敢行してみた。
◆大排気量V8のような力強さの直4エンジン
ヨーロッパの自動車の車名は風に由来するものが多い。かつてVWはそのほとんどが風に因む名前であったが、最近はマセラティがそれに倣っているようでグレカーレという名称は地中海に吹く北西の風“Gregale”に由来するものだそうだ。何故gがcに変わったのかは知らない。余談ながら同じマセラティの上級SUVである『レヴァンテ』もこの地中海に吹く東風“Levante”から名付けられている。
それはともかくとして、「トロフェオ」に乗った時に100%マセラティのオリジナル車であるということが強調されていたが、このモデナに関しては少々様相が異なる。そもそもプラットフォームはステランティスがFCA時代に開発をした「ジョルジョ」と呼ばれるもので、元はと言えばアルファロメオ『ジュリア』や『ステルビオ』用に開発をしたものだ。その後ジープが『グランドチェロキー』に採用し、今度はこのマセラティ・グレカーレにも使った。
エンジンはというと、2リットル直4にeBoosterと呼ばれる電動コンプレッサーを装備し、ベルト駆動のISGを組み合わせたマイルドハイブリッド仕様である。そのICE部門、つまり直4ユニットは、ステランティスでは広くGME(グローバル・ミディアム・エンジン)と呼ばれ、基本的にこれもアルファのジュリアやステルビオと共有するものだ。ただし、チューンはマセラティが最強で330psと450Nmというパフォーマンスを持っている。
一応最大トルクは2250rpmというピンポイントで発生されることになっているのだが、実際に試乗してみると極低速からもりもりとトルクが沸き上がる感覚で、音だけ聞いていれば確かに4気筒なのだが、その力強さは大排気量V8のような感覚に陥るのである。
早朝にエンジンをかけるのは少々憚る。近所に『クワトロポルテ』のオーナーがいて、エンジンをスタートした瞬間にV8の強烈なサウンドが周囲を支配するのをよく聞いていたのだが、ピストンが半分になったところで、轟音は変わらず、かなり大きなエクゾーストサウンドに支配される。
力強さという点では文句なし。ボルグワーナー製のeBoosterはコンパクト且つタイムラグなしにトルクを出す点で、効率が良く非常に効果的な電動コンプレッサーである。こいつのおかげか、とにかく発進からも、あるいはパーシャルからもあらゆる場面で加速に移る際のタイムラグを感じない。
◆同じ土台を使っても、良いものは違うフィーリングを提供する
それにしてもフロント225/40R21、リアには295/35R21という極太タイヤを装着しているから、それなりに荒い乗り心地を想像していたものの、それは良い意味で見事に裏切られた。3種の走行モードがあって、ソフトな順からコンフォート、GT、そしてスポーツと切り替えが可能。切り替えはステアリングボスの右下につくダイヤルで行う。中央にはダンパーの切り替えボタンがあり、ノーマルからプッシュすると、スポーツに切り替わるが、ドライブモードでスポーツをチョイスするとはじめからスポーツダンパーになっているようである。因みにボスの左側につくのはアルファロメオ同様スターターボタンである。
で、このドライブモードでコンフォートもしくはGTをチョイスしている限り、乗り心地は十分に快適。それも路面を舐めるように常に4輪が強く接地している感覚をドライバーにもたらしてくれる。この感触は同じジョルジョプラットフォームを採用する、アルファロメオやジープ・グランドチェロキーでは味わったことのないもので、スピードの如何にかかわらず非常に安心感のあるドライブフィールをもたらしてくれる。ただ、足はそれなりに締め上げているのか、路面のアンジュレーションは忠実にボディに伝わってしまう。
今回は東名高速を使って豊橋まで行き、帰路は藤枝で降りてそこから国道1号線を使って沼津へ。そして再び東名で横浜までのルートと、自宅周辺の一般道を走り回ってみたのだが、1日で約500kmほどを走行しても全くの疲れ知らず。シートのサポートも程よく、ACCの使い勝手もなかなか優れていたので、ロングドライブはきわめて快適である。
まあ、ネガな要素を挙げるとしたら、燃費が予想したよりも低く、11km/リットルに届かないスコアで、こいつは少しいただけない。後はスタート直後のバオ~ンというエンジンサウンドも、最近の高性能系のクルマに付き物と言えば付き物だが、ちょっとはジェントルにしてもらいたいと思った。高性能の証ならば仕方が無いのだが。
同じ土台を使っても、良いものは違うフィーリングを提供するという典型を味わった気がした。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。
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