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ポール・マッカートニー×テイラー・スウィフト対談「誰かをそっと支えるような曲を書きたい」

Rolling Stone Japan / 2020年12月18日 17時0分

テイラー・スウィフトとポール・マッカートニー(Photo by Mary McCartney for Rolling Stone)

米ローリングストーン誌による特集企画「MUSICIANS ON MUSICIANS」で、話題の新作『マッカートニーIII』を本日12月18日にリリースしたポール・マッカートニーと、2020年を象徴するアルバムとなった『フォークロア』(米ローリングストーン誌が2020年の年間ベストアルバム1位に選出)と、その続編となる『エヴァーモア』を発表したテイラー・スウィフトの超豪華対談が実現。ソングライティングの秘訣、自宅でのアルバム制作、パンデミックを通じて学んだことなどを語り合った。

10月のある日、テイラー・スウィフトは予定時間よりもやや早く、ロンドンにあるポール・マッカートニーのオフィスを訪れた。「はやる気持ちを抑えつつ、マスクを着けた」後日彼女から送られてきたメールにはそう綴られていた。「最近はずっと家で仕事してたから、私は今日という日を楽しみにしていた。億劫じゃない遠足を待ちわびる子供みたいに」

1人でやってきた彼女は、髪のセットもメイクも自身でこなした。世界で最も有名なポップソングライターであるスウィフトとマッカートニーの2人は今年、異なる場所で似た動きを見せていた。マッカートニーはイギリスにある自宅で隔離生活を送りながら、ニューアルバム『マッカートニーIII』を完成させた。1970年に発表した初のソロアルバム『マッカートニー』と同様に、ほぼすべての楽器を自身で演奏したという本作には、彼のキャリア史上屈指の冒険心に満ちた楽曲が数多く収録されている。そしてスウィフトもまた、このタイミングで新境地を切り拓いた。ザ・ナショナルのアーロン・デスナーとの遠隔コラボレーションで完成させた『フォークロア』で、彼女はアリーナ級のポップを完全に放棄し、リッチなキャラクターに満ちた楽曲の数々を生み出した。同作は今年最大のセールスを記録したレコードとなっている。

対談の準備をしながら、スウィフトは『マッカートニーIII』を、マッカートニーは『フォークロア』を聴いていた。写真撮影の前に、スウィフトは彼の娘であるメアリー(今日の撮影を担当)とステラ(スウィフトが着用した衣装をデザイン、2人は親しい友人どうしでもある)と言葉を交わしていた。「ポールとはそれまでにも何度か会ってたの。大抵はパーティー会場でのステージ上なんだけど、それについては後で話すわ」彼女からのメールにはそうあった。「少ししてから、彼は奥さんのナンシーと一緒に姿を見せた。2人からはポジティブなオーラが出ていて、今日がいい日になるって確信したわ。写真撮影の間中、ポールはすごくリラックスしていて、スピーカーから流れるモータウンの曲に合わせて歌ったりしてた。何度かメアリーから『ちょっとお父さん! じっとしてってば!』なんて叱られてたわ。すごく素敵な一家だなって思った。彼のオフィスで対談を始める直前に、私は恐る恐るある頼み事をしたの。私の好きな彼の歌詞を書いてもらって、それにサインしてもらうっていうのだったんだけど、彼は快諾してくれた。どうせ転売するんだろっていう彼のジョークに声をあげて笑ったことは、きっと一生の思い出になると思う。それから私たちは、お互いの音楽について話し始めたの」

パーティーの記憶

テイラー:もし今年が予定通りに進んでいたら、私とあなたはどっちもグラストンベリーフェスのステージに立っているはずだったんですよね。でも現実には、私たちは隔離生活を送りながら、それぞれアルバムを作った。

ポール:その通り!

テイラー:私はすごく楽しみにしていたんです。過去にあなたと会って話した時のことは、どれもすごく楽しい思い出として残っているから。同じパーティーに参加していて、ごく自然に演奏が始まって。デイヴ・グロールがステージに立って、あなたは……。

ポール:確か君は彼の曲を弾いてたよね?

テイラー:そう、彼の「ベスト・オブ・ユー」っていう曲を弾きました。でもピアノだったから、中盤に差し掛かるまで彼は気づいてなかったみたいで。あの日はあなたが、みんなにとって最高の思い出を作ってくれましたよね。あんな風に、周囲の期待に応えて演奏することはよくあるんですか?

ポール:いろいろと理由があってさ。きっかけはリース・ウィザースプーン(『キューティ・ブロンド』などで知られる女優/映画プロデューサー)で、「今日は歌ってくれるんですか?」って言われて、「いや、それはどうかな」って返したんだけど、「そう言わずにお願いします!」みたいに頼まれてね。それも理由のひとつだった。

テイラー:そういう人がいてくれて良かった。彼女がいなかったら、あの夜が音楽で彩られることはなかったでしょうから。

ポール:うん、その通りだね。


ポール・マッカートニーとテイラー・スウィフト 2020年10月6日 ロンドンで撮影
Photograph by Mary McCartney for Rolling Stone. Produced by Grace Guppy. Lighting: Pedro Faria. Digital Tech: Alexander Brunacci. Retouching: The Hand of God. McCartney: Styling by Nancy McCartney. Grooming by Jo Bull. Jacket by Stella McCartney. Sweater by Hermès. Shirt by Prada. Jeans by Acne. Shoes by Stella McCartney. Swift: Top and jacket by Stella McCartney. Pants by Ulla Johnson. Boots by Dolce & Gabbana.

テイラー:どんなパーティーでも、「何か弾いてくれない?」って言われない限り、ミュージシャンって自分からステージに立とうとはしないですもんね。

ポール:ウディ・ハレルソン(『ナチュラル・ボーン・キラーズ』『ゾンビランド』シリーズなどで知られる俳優)がピアノで「レット・イット・ビー」を弾いてたんだけど、僕の方が上手いなって思った。だから「ウディ、ちょっと横にずれてよ」と言って彼と一緒に弾き始めたんだけど、すごく楽しかったよ。僕はダン・エイクロイド(『ブルース・ブラザース』『ゴースト・バスターズ』などで知られる俳優/脚本家)みたいな人がすごく好きなんだ。彼はミュージシャンじゃないけど音楽が大好きで、パーティー会場を歩き回っては「さぁさぁ、何か弾いてよ」なんて言ってるんだ。

コロナ禍での作曲「自分のために作る」

テイラー:あなたの新作を聴かせてもらったんですが、すごくいいと思いました。作曲からプロデュース、全ての楽器の演奏までをあなた自身が担当したそうですが、柔軟さが曲にすごく現れていると思います。「その気になれば全部自分1人でできる」っていう、あなたの才能を改めて見せつけられた気がしました。

ポール:僕自身はそんなつもりはないんだけどね。何年もやってるうちに、いろんな楽器の弾き方を覚えていったってだけでさ。僕の生家には父が弾いてたピアノがあって、自然と興味を持ったんだ。「ホエン・アイム・シックスティ・フォー」のメロディーなんかは、僕が10代の頃に書いたんだ。

テイラー:ワオ。

ポール:ビートルズがハンブルクにいた頃、いつもドラムキットが身近にあったから、僕は機会を見つけては「ちょっと叩いてもいいかな?」みたいな感じでプレイしてたんだ。練習するっていう感覚じゃなくて、ただ楽しんでた。だから僕は右手でプレイするんだよ。一番最初に手にした楽器はギターだったけど、ベースやウクレレ、マンドリンも要領は同じだ。それでいつの間にかいろんな楽器を弾くようになっていたけど、本当にしっかり弾けるのは2つか3つだよ。

テイラー:謙遜しているように聞こえますけどね。私はアルバムを聴いて、あなたが都会の喧騒から離れたところで隔離生活を送りながら、DIY的アプローチを身につけていく様子を思い浮かべたんです。私自身もパンデミックの間に、以前は誰か他の人にやってもらっていたことを自分自身でやるっていうメンタリティを身につけたんです。レコーディングがどんな風に進められたのか、すごく気になります。

ポール:僕は恵まれてるよ。自宅から20分くらいのところにスタジオを持ってるからね。ロックダウンの間、僕はメアリーと彼女の4人の子供と彼女の夫と一緒に、羊牧場の敷地内で隔離生活を送ってた。メアリーは料理が上手だから助かったよ。エンジニアのスティーヴと、機材を管理してくれてるキースにはスタジオに来てもらっていたけど、みんな互いにちゃんと距離を取って接してたよ。だからレコーディングは僕ら3人で進めた。ある映画の劇伴を担当することになってたから、まずはそのインストゥルメンタル曲を仕上げた。それが片付いた後、勢いで何となく作業し続けたんだけど、結局それがアルバムの1曲目になった。そこからどうするか少し考えた後、アイデアらしきものが浮かんだから、それを形にすることにした。大抵は作曲に使ったピアノかギターのパートから始めて、ドラムやベースを足していくうちにレコードの全体像が見えてきたから、それに沿って少しずつ音を重ねていった。楽しかったよ。

テイラー:すごくクール。





ポール:君のレコードではどうだったの? 君はギターとピアノを自分で弾いているよね。

テイラー:自分で弾いている部分もあるけれど、大半は私が大好きなザ・ナショナルというバンドのアーロン・デスナーとの共同作業だったんです。1年ほど前に彼らのコンサートに行ってアーロンと話した時に、曲作りのアプローチについて訊いたんです。私は好きなアーティストに会うと、いつも同じ質問をしていて。彼の答えはすごく興味深かった。「メンバー全員がそれぞれ異なる場所で暮らしているから、曲は僕が書いてる。それをリードシンガーのマット(・バーニンガー)に送って、彼がトップのラインを考えるんだ」。すごく効率的だって思ったから、いつか試してみたいアイデアとして頭の片隅に留めておくことにしました。「これはいつかやってみよう」みたいなアイデアを、私はいつもストックしてるんです。いつかアーロン・デスナーと曲を書くっていうのも、そのひとつでした。

ロックダウンが始まった時、私はロサンゼルスにいました。だから隔離生活を強いられてはいても、決して最悪の環境というわけではなかった。4カ月ほどそこに滞在したんですが、その時にアーロンにメールを送ったんです。「ロックダウンが続いている間に、一緒にレコードを作れないかと思ってて。私は今すごくクリエイティブなモードに入っていて、何かを作りたくてウズウズしてるの。うまくいくかどうかはわからないけど……」

ポール:うん、わかるよ。それが形になるかどうかは問題じゃなく、とにかくやってみることが大事なんだよね。

テイラー:そう。それに彼も、パンデミックのせいで頭がおかしくなってしまわないように、インストの曲を書き溜めていたらしくて。30曲分くらいをファイルで送ってもらって、一番最初に開いたのが「カーディガン」になったんです。そこからはノンストップで作業が進んでいきました。



テイラー:アーロンは曲を書き上げる度にフォルダにアップして、私がそれに歌を乗せるんだけど、その背景や曲名、どこをコーラスにするかといったことを彼に伝えてはいませんでした。最初のうちは来年の1月頃にアルバムとして発表できればと思っていたんですが、思った以上に早く完成して、結局7月にリリースしました。従来のルールはもう存在しない、そう思ったんです。以前の私は、本当にたくさんのことを気にかけていました。「この曲はスタジアムでどう響くか?」「この曲はラジオでヒットするか?」といったようなことを。でもふと思ったんです。そういうことに一切縛られなかったら、どういう作品が生まれるんだろうって。その答えが『フォークロア』だと、私は考えているんです。

ポール:仕事としてじゃなく、自分自身のために作ったレコードということだね。僕のアルバムにもそういう部分があるんだ。映画の劇伴曲を作り終えた後、以前からあったアイデアを形にすることも考えたけど、僕はひとまず帰宅することにした。少し経ってから、あの未完成のアイデアをどうするかっていう話になったんだけど、改めて聴いてみると「これは面白いものになるかもしれない」と思った。何の縛りもない状態で始まったから、「テープループをやってみよう。曲とそぐわなくてもいいや」みたいな感じで、ただ自分が興味があることをどんどん試していったんだ。テープループも含めてね。

それがアルバムになるかどうかは気にしなかった。自分なりに制御したつもりでも、曲が8分くらいに膨れあがったりするんだ。そんな時はいつも、「とりあえず今日は家に持ち帰るよ。メアリーが食事を作ってくれてるし、孫たちは今頃はしゃぎまわってるだろうしね」みたいにしてた。メアリーの夫のサイモンから「今日はどんな1日でしたか?」って聞かれたら、その日に録った曲を携帯でみんなに聴かせるんだ。それが習慣になってた。

テイラー:ものすごくアットホームですね。

ポール:8分は長いと思うかもしれないけど、僕は誰かに聴かせる曲が3分で終わってしまうとフラストレーションを覚えるんだ。だからつい長くなってしまうんだよ。

テイラー:ギアが入ると止まらなくなってしまうんですね。

ポール:自然と手が動き続けるんだ。家に帰って皆の前で1日の成果について報告するんだけど、作業途中のものを聴かせる場合もあれば、完成した曲を披露することもあったね。

すべてのパートを自分で演奏する意味

テイラー:気づいたことがあるんです。『マッカートニーⅠ』と『マッカートニーⅡ』、そして『マッカートニーIII』も、全部ゼロで終わる年に発表されていますね。

ポール:ディケイドの終焉の年にね。

テイラー:それには重要な意味があるんですか?

ポール:今回のアルバムが2020年に生まれたことは、特に意識していたわけじゃなかったんだ。2020年っていう年には、きっと誰もが大きな期待を寄せていたと思う。「素晴らしい1年になるに違いない! だって2020だよ? いかにも何かが起きそうじゃないか!」っていうさ。そんな中でコロナウイルスが大流行したわけだから、何かが起きるっていう予感は的中したわけだよ。悪い方にだけどね。「ポール、君はビートルズが解散した1970年に『マッカートニーⅠ』を、1980年に『マッカートニーⅡ』を出した」ってある人から言われた時に、僕はこう返したんだ。「2020年には『マッカートニーIII』が出るよ。やっぱり数秘術だ、って言われるかもね」


『マッカートニーⅠ』収録曲「恋することのもどかしさ」(Maybe Im Amazed)

テイラー:数秘術ってどこか象徴的ですよね。私は数字に神秘的なものを感じていて、自分の運命を決定づけているように思うんです。13と89は私にとって大きな意味を持っていて。他にもいくつか……。

ポール:13がラッキーナンバーだっていう人は多いよね。

テイラー:私にとってもそうです。私は(12月)13日生まれなので。まったくの偶然なんですけど、自分にとってすごくいいことが13日に起きることが多くて。どこかの標識でその数字を目にすると、それが自分の進むべき方向だって思うんです。たとえ今は辛くても、状況は良くなりつつあるって。うまく言えないけれど、私は数秘術に惹かれるんです。

ポール:不気味だよね、ぞっとするくらいにさ。そう言えば、89っていう数字はどこから来てるんだい?

テイラー:私は1989年生まれなんです。だからいろんな場所でその数字を見かけると、つい運命めいたものを感じて。

ポール:それはいいことだと思うな。自分にとって意味のあるものがあって、それを目にするたびに幸運の訪れを予感する。前向きですごくいいと思う。

テイラー:私の大好きなボン・イヴェールは、22っていう数字にこだわりを持っていて。それはそうと、ずっと聞いてみたかったことがあって。あなたはビートルズやウィングス、それに『エジプト・ステーション』もそうですが、これまでずっとバンドの一部だったり、周囲のミュージシャンたちとの繋がりを大事にしていたと思います。でも今回は自分1人で作品を仕上げたわけですが、スムーズに進みましたか?

ポール:以前にも経験してたからね。『マッカートニーⅠ』の時なんかは、ビートルズがもう存在しなかったから、ドラムキットやギターアンプを全部自宅に持ち込んで、自分1人でやるしかなかったんだ。だから最初からレベルの高いものを目指してはいなかったし、実際そうじゃないと思う。でも、あのレコードのカジュアルな感じが好きだって言ってくれた人は少なくなかった。深く考える必要がなかったからだろうね。すべてのパートを自分で演奏するっていうのをその時にやったわけだけど、その後自宅のスタジオにシンセサイザーやシーケンサーを導入して、あれこれと実験しながら作ったのが『マッカートニーⅡ』だった。そういうのが得意な人はいるもので、僕もそうなんだ。スティーヴィー・ワンダーやスティーヴ・ウィンウッドなんかもそうだね。そういう考え方ができるタイプっていうか。


『マッカートニーⅡ』収録曲「ウォーターフォールズ」

ポール:誰かと一緒に仕事をする場合は、相手のパフォーマンスに結果が少なからず左右される。でも自分1人でやる場合は、パフォーマンスのムラ具合だってある程度予想がつく。僕は次第にその面白さを理解できるようになったけど、一旦慣れてしまうと歯止めが効かなくなるところもあってね。僕はそういうやり方で作ったレコードを、ファイアーマンっていう名義で出してもいるんだ。

テイラー:いい名前ですね。

ポール:趣味みたいなものだね。

「やりたいこと」と「やってほしいこと」のバランス

ポール:僕もそうだったけど、若い頃は名声や世間からの注目を欲するものだ。ビートルズが有名になる前に、ジャーナリストたちにこんな手紙を送ったこともあった。(シリアスな声で)「僕らはセミプロのロックバンドで、きっとあなたのお眼鏡に適うと思います。僕は友人のジョンと共に、これまでに100曲以上書きました(嘘だったけど)。御社の新聞で僕らのことを取り上げてもらえないでしょうか」みたいなね。当時の僕は、有名になりたくて仕方なかったんだ。

テイラー:下積み時代ですね。そういう時期があったなんて、なんだか嬉しいです。

ポール:うん、誰しもそういう経験は必要だと思う。

テイラー:そうですよね。世間から認知されるようになった後で、そのイメージに縛られることなく何かを作ってみたいと思う時、別名を使うというのはいいアイデアですよね。プレッシャーから解放されて曲を書くのって、すごく楽しいから。

ポール:君にも経験があるのかい?

テイラー:ありますよ。

ポール:そうなのかい? 知らなかったな。それは広く知られていることなの?

テイラー:以前は秘密にしていたんですが、今はもう知られていると思います。Nils Sjöbergっていう、スウェーデン人男性に最も典型的な名前2つを並べた名義で曲を書きました。リアーナが歌った「ディス・イズ・ホワット・ユー・ケイム・フォー」という曲は私が書いたんですが、しばらくの間は誰も気づいてなかったみたい。プリンスが「マニック・マンデイ」を書いた時も、それが彼の曲だって世間が知ったのは何カ月か後だったっていうし。

ポール:うん、それって名声の力を借りることなく自分の実力を証明することでもあるよね。僕の当時の彼女の弟とその友達がピーター&ゴードンっていうバンドにいたんだけど、彼らに曲を提供したことがあるよ。あと、Bernard Webbっていう名義を使うこともあった。

テイラー:(笑いながら)グッドチョイスですね!すごくいい。

ポール:アメリカじゃBernardの発音が違うよね。ファイヤーマン名義でもレコードを作ったよ。ユースっていう名前のプロデューサーと一緒に作ったんだけど、いいやつですごくウマが合ったんだ。彼は僕の初期の作品のミックスをやってくれてて、それがきっかけで仲良くなった。ある日スタジオに行くと、「こんなのはどう?」って言って彼が作ったグルーヴを聴かせてくれてさ。「これにベースとドラムを乗っけてみようよ」っていう彼の提案に乗って、丸一日かけていくつか曲を録った。しばらくの間、ファイヤーマンの正体は誰も知らなかったけど、プレスした15枚は全部売ったよ。

テイラー:すっごいスリリング。

ポール:レコードを売ることが目的じゃなかったからね。

テイラー:自分自身のためのプロジェクトがあるっていうのはすごくいいと思う。2010年か2011年に、私は家族と一緒にあなたのコンサートに行ったんですが、何よりも印象に残ったのはエゴを一切排除したようなセットリストでした。ファンが期待するものを全部披露する、そんな内容でした。新曲もありつつ、ファンが過去に涙した曲、結婚式で使った曲、傷心を癒してくれた曲まで、あなたは全部演ってくれました。あの時以来、ファンの望むセットリストを組むということは私のモットーになったんです。

ポール:君はまさにそれを実践しているよね。

テイラー:今はそうしています。あなたのコンサートから学んだことは、私のキャリアにおいてものすごく重要だったと思っています。私は「ラヴ・ストーリー」や「シェイク・イット・オフ」をこれまでに3億回くらい演奏したけれど、ファンのために3億1回目のパフォーマンスをやろうって思えるようになったから。アーティストはエゴイスティックになることもあれば、私心を捨てられる時もあるけれど、その2つがうまく噛み合うこともあると思うんです。

ポール:子供の頃、ビートルズに入るよりもずっと前だけど、僕はコンサートに行くたびに「あの曲をやってくれますように」って思ってた。聴きたい曲が聴けなかった時は、すごくがっかりしたの覚えてる。僕の家はお金持ちじゃなかったし、そのチケットを買うのに何カ月分ものお小遣いをはたいていたからね。

テイラー:絆みたいなものですよね。ステージ上のアーティストが何を与えようとするたびに、オーディエンスはそれ以上の何かを返そうとする。手が真っ赤になるほど拍手をしたり、声が枯れるほど声援を送ったり。客席であなたのショーを見ながら、私はその繋がりを感じていたんです。あなたがビートルズの曲を演奏すると、父は涙を流していて、母は感動のあまり携帯の操作がおぼつかないほど手が震えていました。私と私の家族だけじゃなくて、ナッシュビルのオーディエンス全員にとって、あれは忘れられない夜になりました。私は辛い経験からよりも、喜びを通じて何かを学びたい。自分が大切にしていることから得た教訓は、ずっと忘れないと思うから。

ポール:素晴らしいね、君がそんな風に考えるきっかけになって嬉しいよ。そういうことをやりたくない人の気持ちは理解できるし、「ジュークボックスじゃあるまいし」なんて言う人がいるのも知ってる。でも僕は、お金を払ってショーを見に来てくれるオーディエンスをがっかりさせたくない。僕らのような立場にいる人は、足を運んだコンサートが期待外れであってもどうってことないかもしれない。でもごく普通の人々にとって、それはものすごく重大なイベントかもしれないんだ。だから僕は、彼らに満足してもらうためにできるだけのことをする。そして君が言ってくれたように、その経験が何かの糧になって欲しい。

テイラー:本当にそうですよね。あとはそのアーティストの現在地を知るためにも、私は新しい曲群も聴きたいって思います。

自分らしい人生を生きるために

テイラー:あなたの新作の歌詞についても、インスピレーションについて訊いてみたかったんです。私自身は『フォークロア』で、現実逃避とロマンチシズムをテーマにしました。自分が禁断の愛のパイオニアだったら、なんて想像しながら曲を書いてみたり(笑)。私はすっかり……。

ポール:”あなたに子供を与えたい”っていう歌詞、あれはその曲かい?

テイラー:あれは「ピース」っていう曲です。

ポール:「ピース」か、すごくいいよね。



テイラー:「ピース」は私自身の経験に基づいた曲なんです。あなたは有名人としての暮らしと私生活のバランスをすごく上手に保っていますが、私は誰かと出会って恋に落ちるということが怖くもあるんです。相手が地に足のついた暮らしを送っている人だと特にそう。私は不安に駆られながらも、常識を持った人間として理性的に行動するように努めています。でも、物陰に隠れていた20人くらいのカメラマンが私たちの車を尾行したり、プライバシーを侵害しようとすることを止めることはできないし、事実じゃない事柄が明日の新聞の見出しを飾ることを阻止することもできない。

ポール:それで、パートナーとの関係はうまくいってるの? 相手はそういったことを理解してくれてる?

テイラー:ええ、すごく。

ポール:そういう相手じゃなきゃ務まらないもんね。

テイラー:彼と付き合うようになってから、私はタブロイド紙で語られるようなものではない、自分の本当の人生を生きられるようになったって感じているんです。それは住むところや交流する人の選択、時には写真撮影を断ること、そういう部分にも現れていると思う。プライバシーの概念について説明するのって難しいけれど、単に正常な状態を保つことだと私は思っていて。「ピース」はそういうことを歌った曲なんです。「私たちのどちらもが切実に欲している正常さを手に入れることができなくても、納得しないといけないの?」っていうような。ステラは注目される立場にあったけれど、不思議なくらい平穏な幼少期を過ごすことができたってよく話しているんです。

ポール:そうだね、家族みんなが地に足のついた生活を送れるよう努力してきたつもりだよ。

テイラー:彼女は普通の公立校に通っていたそうですね。

ポール:そうだよ。

テイラー:あなたはマスクを被って、子供たちと一緒に「お菓子をくれないとイタズラしちゃうぞ!」って言ってたとか。

ポール:全員とね。正しい選択だったと思ってるよ。子供の頃にプライベートスクールに通っていた人たちは、少し世間離れしていたりするからね。そうはなって欲しくなかったんだ。彼女たちがやがて母親になる可能性を考えると、尚更そうだった。昔、メアリーにはオーランドっていう友人がいてね。ブルームじゃないよ。自分自身がそういう経験をしていた彼女は、彼にいろんなことを相談していたんだ。言うまでもなく、子供たちは学校で他の生徒たちからからかわれてた。誰かが彼女たちの前で、「ナーナナナ」なんて僕らの曲を歌ったりしてね。彼女たちはそういうのに、自分なりに対処しなくちゃいけなかった。

テイラー:自分のせいで子供たちが辛い思いをするかもしれないということを不安に思ったり、プレッシャーを感じたことはありましたか? そのことに悩んだりしましたか?

ポール:うん、少しはね。でも、当時は今とは状況が少し違ったからね。僕らは喧騒から離れたところで、半ヒッピーみたいな暮らしをしていたんだ。子供たちはごく普通の経験をしていたし、学校の友達を我が家に招いてパーティーを開いたりもした。ステラの誕生日に、彼女がクラスメイトをたくさん連れてきた時のことはよく覚えてるよ。子供たちはみんな、僕のことなんか気にかけもしなかった。最初こそ「あの人有名らしいよ」なんて言ってたけど、すぐに興味をなくしてたからね。ありがたかったよ。他の部屋を覗くと音楽が流れていて、ルークっていう名前の男の子がブレイクダンスをやってた。

テイラー:ワオ!

ポール:彼のダンスは見事だったから、子供たちが皆そこに集まってた。そんな感じだったから、ステラたちも浮いたりせずに済んだんだ。それに、僕は贅沢な暮らしをしているわけじゃないからね。本当に。誰かが家を訪ねてくると、少し恥ずかしく思うこともあるくらいだよ。

テイラー:そういうことも気にするんですか?

ポール:豪華な屋敷に住んでる人が来るときなんかはね。クインシー・ジョーンズが来てるってのに、僕はベジタリアンバーガーなんかを出してるみたいなさ。自分で調理したやつをだよ。リンダを亡くした後で、再婚する前の話なんだけどね。彼みたいな人を招くと、こんな風に思ってしまうんだよ。「クインシーはきっとこう思ってるんだろうな。『彼はどういうつもりなんだろう? 家は小さいし、贅沢品なんかまるで見当たらない。しかもキッチンで食事するなんて! なんでダイニングルームがないんだろう』」みたいなね。

テイラー:その会は楽しそうですけどね。

ポール:僕はそういう人間なんだ。不器用だし、派手な暮らしは性に合わない。田舎に大きな屋敷を買って、豪華な調度品を揃えるとか、そういうことに興味がないんだ。それよりも動きやすい服装のまま散歩に出かけたり、気が向いたら裸で過ごすこともできるような環境の方がいいんだ。

テイラー:『ダウントン・アビー』のような環境じゃそうはいかないですもんね。

ポール:(笑いながら)その通り。

「悲しみ」は「温もり」にもなり得る

テイラー:歌詞についても訊いてみたかったんです。今みたいな未曾有の非常事態の中で作品を作る上で、まず歌詞が出来上がることってありました? それともメロディが先ですか?

ポール:両方同時に浮かぶ場合が多いかな。いつもそうなんだけど、決まったパターンがないんだ。僕とジョンは「2人のどちらが作詞担当で、どちらが作曲を担当しているのですか?」ってしょっちゅう訊かれてたけど、僕はいつも「2人ともどちらもやる」って答えてた。僕らに決まったやり方はないし、それを求めていないってことをよく口にしてたよ。フォーミュラっていうのは、確立した瞬間に放棄するべきなんだ。

今回のアルバムでも、そんな風にして生まれた曲がいくつかあった。深く考えずにピアノを弾いていると、ちょっとしたアイデアが浮かび、それが次第に膨らんでいった。そうすると、歌詞が自然に浮かんでくるんだ。(『マッカートニーIII』の「ファインド・マイ・ウェイ」のメロディーを口ずさみながら)「進むべき道は自分で見つける。意識ははっきりしてるんだ」っていう風にね。自分がその曲のことを既に知っていて、歌詞を思い出そうとするような感じ。周囲のちょっとしたことがヒントになる場合もあるよ。正座や惑星、金星の軌道なんかについて書いた本があって……

テイラー:その曲って「ザ・キス・オブ・ヴィーナス」ですよね。

ポール:そうだよ。「ザ・キス・オブ・ヴィーナス」っていうフレーズがすごく気に入ったんだ。あの曲はその本に載ってた、そのフレーズの響きから生まれたんだ。宇宙の構造についての本なんだけど、各惑星の軌道とか、すべてのパターンをトレースすると睡蓮の花のような形になるんだ。

テイラー:ワオ。

ポール:神秘的だよね。



テイラー:本当にそうですね。今は暗い話題ばかりだからこそ、余計にそういう不思議なものを求める気持ちが強くて。私は裁縫の教本を読んだり、何百年も前の出来事についての映画を観たりすることで、そういう刺激を得ているんです。最近はパニックを誘発しそうなニュースばかりだから、惑星や星座に惹かれる気持ちはよくわかります。

ポール:『フォークロア』を作っている時もそんな風に感じてた?

テイラー:そうですね。かつてないペースで本を読んでいたし、映画もたくさん観ました。

ポール:どんな本を読んでいたの?

テイラー:ダフニ・デュ・モーリエの『レベッカ』とか。あれはすごくお勧めです。他には過去、つまり今はもう存在しない世界のことを描いた本をたくさん読みました。あのアルバムの曲では「悟り」(epiphany)とか、そういう以前から使ってみたかった壮大で華やかで魅力的な言葉を積極的に使いました。以前は「これはポップスのラジオ向きじゃない」みたいなことをいつも考えていたんですが、今回のアルバムを作りながらこう思ったんです。「一体何を気にしてたんだろう。もはや何もかもがカオスなら、使いたい言葉を迷わず使うべきだ」って。

ポール:その通りだね。君も本で目にした言葉に感化されることがある?

テイラー:そうですね、好きな言葉はたくさんあります。「挽歌」(elegies)とか「顕現」(epiphany)、それに「離婚した女」(Divorcée)とか。響きが気に入った言葉に出会うたびに、ノートにリストアップしてるんです。

ポール:「マジパン」っていうのはどう?

テイラー:すごくいいと思います。


ポール・マッカートニーとテイラー・スウィフト 2020年10月6日にロンドンで撮影。撮影: メアリー・マッカートニー、スウィフト着用のセータードレスデザイン: ステラ・マッカートニー

ポール:ついこないだ、「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」で「カレイドスコープ」っていう言葉を使ったことを思い出したんだ。

テイラー:私もその言葉は大好きです! 『1989』の「ウェルカム・トゥ・ニューヨーク」っていう曲で使いました。「カレイドスコープ」っていう響きがとにかく好きで。

ポール:好きな言葉があるっていうのは、歌詞を書く人にとってはすごく大切なことだよね。誰かが誰かに向けた言葉、僕にとって歌詞はそういうものなんだ。僕はよく、元気がない誰かのために曲を書いているように感じる。きれいごとを並べたり、革命を訴えたりするんじゃなく、誰かをそっと支えるような曲を書きたい。これまでの人生で、僕自身が何度も音楽に救われてきたからね。それが僕のスタンスであり、インスピレーションなんだ。

10代の頃、リヴァプール時代の友達と移動式遊園地に遊びに行った時のことを思い出すよ。学校の友達で、2人とも当時流行ってた小さな斑点模様のジャケットを着てた。

テイラー:今回の撮影で、私たちもお揃いの服を着ればよかったですね。

ポール:ああいう生地の服を見つけてくれたら、喜んで応じるよ。それで、リヴァプールのセフトン・パークっていうところに来てた移動式遊園地に2人で遊びに行ったんだけど、そこにものすごく綺麗な女の子がいたんだ。有名人とかじゃないけど、とにかく美しかった。その場にいた誰もが彼女に目を奪われてて、夢の中の出来事のようだった。でも僕が頭痛を覚え始めたから、彼の家に行くことにした。頭痛なんて滅多に経験したことがなかったんだけどね。何をすべきかわからなかったから、とりあえずエルヴィスの「恋にしびれて」をかけたんだけど、曲が終わる頃には頭痛はすっかり収まってた。僕はあの時、音楽の持つ力を知ったんだよ。

テイラー:すごくパワフルなエピソードですね。

ポール:見知らぬ人に呼び止められて「病気で苦しんでいた時、あなたの音楽をたくさん聴いて元気づけてもらいました。おかげで今はすっかり元気です」なんて言ってもらえると、やっぱり嬉しいからね。あるいは子どもたちから「試験勉強の時に慰めてもらいました」って言ってもらえたり。ずっと机に向かって勉強してると気が滅入るから、音楽をかけたりするじゃない? 君のファンもたくさん、同じような経験をしているはずさ。それって、彼らをインスパイアしたってことなんだよ。

テイラー:私もそういうことを目標にしているつもりです。皆いろいろな形でストレスを感じているから、そういう人たちをそっと抱きしめるようなアルバムを作りたかった。すごく温かい、お気に入りのセーターのような。

ポール:「カーディガン」じゃなくて?

テイラー:そうですね、着込んだ上質なカーディガンのようなもの。あるいは、幼い頃の思い出を喚起するような何か。悲しみって、温もりになり得ると思うんです。もちろんトラウマやストレスになることだってあるけど、私はそういうのとは異なるベクトルの悲しみを描こうとしていたんです。ノスタルジアや、落ち込んでいる時にとる自己防衛のような。今はきっと誰もが、多かれ少なかれ辛い思いをしているはずだから。孤立って、自分のポジティブな想像の世界に逃避する機会になると思うんです。

「自分の力でなんとかしよう」という姿勢

ポール:多くの人が君と同じように感じていたと思う。親しい人に「こんなことを言うべきじゃないのかもしれないけど、実はこの隔離生活を楽しんでるんだ」って言ったら、「言いたいことはわかるけど、他の人に言っちゃダメだよ」って釘を刺された。大勢の人々が苦しんでいるんだからね。

テイラー:人生には他人任せにしている部分がすごく多いと思うんです。自分でコントロールするのを完全に放棄している部分が。(隔離生活で)それが浮き彫りになると同時に、日頃アウトソーシングしていることの多くは自分でできるんだってこともはっきりしたと思う。

ポール:素晴らしいね。僕がシンプルな暮らしを大切にしている理由も、本質的には同じだ。何かに不具合が起きた時、多くの人は修理を誰かに任せようとするけれど、自分でなんとかしてみようっていう姿勢が大切なんだ。

テイラー:金槌と釘を持ち出して。

ポール:画を壁に飾るとか、その気になれば誰にでもできることだ。ビートルズが解散した後、僕たちはスコットランドにある本当に小さな牧場で暮らしていた。その時のことを今振り返ると、ほんの少しだけ恥ずかしく思うんだ。「誰か掃除をしてくれる人はいないのか?」なんて思っていたからね。

でも、あそこでの暮らしを経験して本当によかったと思ってる。ビートルズでアップル・レコードを立ち上げた頃、僕はクリスマスツリーなんかも誰かに買いに行かせてた。でも、しばらくしてこう思ったんだ。「クリスマスツリーは自分で買いに行く。それが当たり前だから」って。店に行って、店員さんに「それをください」って伝えて、自分で持って帰ってくる。些細だけど、とても大切なことだと思うんだ。

スコットランドで暮らしてた時にテーブルが必要になってカタログを見てたんだけど、ふとこう思ったんだ。「自分で作ってみよう。木工は学校で学んだし、蟻継ぎの要領だって分かってる」ってね。それで実際にやってみた。キッチンで材木を削り、蟻継ぎの接合部を作った。釘は必要なくて、接着剤を使うんだ。うまく接合するかどうか、すごく不安だった。「たとえこれがうまくいかなくても、いつか必ず成功させる。だから後戻りはしない」そんな風に自分に言い聞かせた。結果的に、すごくいい感じのテーブルに仕上がったんだ。素晴らしい達成感だったよ。

最近ステラと一緒にスコットランドに行ったんだけど、「あれ見つかった?」って訊くと彼女はノーって言った。一応自分でも探してみることにしたんだけど、誰も覚えてない様子だった。ある人に「物置のひとつの隅に木がたくさん転がってたから、その中に混じってるかも。薪として使っちゃったかもしれないけど」って言われたんだけど、薪になるような木じゃなかったんだ。みんなで探して、見つけた時はものすごく嬉しかったね。「僕のテーブルだ!」なんて声をあげてしまうくらい。他の人には退屈なエピソードかもしれないけどさ。

テイラー:そんなことないですよ! すっごくクール!

ポール:自分のことは自分でやるっていうことが、当時の僕にはすごく重要なことに思えたんだ。君はさっき裁縫の話をしてたけど、君のような立場にある人の多くは、そういうのを誰かにやらせようとするはずだから。

テイラー:実は今、周りでちょっとしたベイビーブームが起きてて。つい最近、友人の何人かが妊娠したんです。

ポール:君くらいの年齢なら、不思議ではないよね。

テイラー:生まれてくる彼女たちの子供のために、何かを手作りしたいって思って。それでモモンガのぬいぐるみを自作して、友達の1人に贈ったんです。別の友達にはテディベアのぬいぐるみを送って、少し前にはシルクに刺繍をした赤ちゃん用のブランケットを作り始めました。すごく凝ったやつ。あと、最近は絵もたくさん描いていて。

ポール:どんな絵を描くの? 水彩画?

テイラー:アクリルか油彩です。モチーフが花の時は水彩絵具を使って、景色を描くときは油彩絵具を使います。丘の上にポツンと立ってる、小さなコテージを繰り返し描いていて。

ポール:ロマンチックな夢みたいだね。

架空のキャラクターと想像力

ポール:でも君のいう通り、夢を見ることはすごく大切だし、今は特にそうだと思う。現実逃避の手段が必要なんだ。「逃避主義」っていう言葉にはネガティブなイメージがあるけど、今は絶対にそんなことはないと思う。本を読んでいると、目を上げて現実に戻ってくる瞬間までその世界に没入することができる。それって素晴らしい体験だと僕は思う。僕は寝る前に本を読むことが多いんだ。現実の世界に戻ってきて、そのまま眠りに落ちる。ファンタジーや願い事に満ちた夢を見るのって、すごく素敵なことだと思う。

テイラー:登場人物を自分で作り上げるんですよね。私は今回のアルバムで初めて、架空のキャラクターや、実在する他人を主人公にした曲を書いたんです。「ザ・ラスト・グレイト・アメリカン・ダイナスティ」っていう曲の主人公は、ものすごく壮絶な人生を歩んだある相続人女性で……。



ポール:それは架空のキャラクターなの?

テイラー:実在した人です。私が今住んでいる家で昔暮らしていた人で。

ポール:実在した人なんだね。あの曲を聴いて、「これは誰のことなんだろう?」って思ってたんだ。

テイラー:レベッカ・ハークネスっていう人で。私はロード・アイランドに家を買ったんですが、彼女は昔その家を所有していたんです。私はそれがきっかけで彼女のことを知ったんですが、彼女はスキャンダラスなことで広く知られていて。私は彼女に、自分と共通する部分を感じたんです。あと実は、「エリナー・リグビー」にも影響を受けていて。ある街に住む人々の人生が交錯してひとつの物語を成すっていうのを、私は自分の曲で長い間やっていなかったんです。私の音楽はずっと、ものすごくパーソナルなものだったので。

ポール:うん、ずっと恋人との別れについての曲を書き続けるわけにはいかないもんね。

テイラー:風向きが変わるまではそういう曲を書いていたんですけどね(笑)。今でもそういう曲を書くこともあるし。私はクールな別れの曲が好きなんです。私の友達の誰かが世界のどこかで別れを経験するたびに、そういう曲を書きたくなっちゃうんですよね。

ポール:ジョンとのことを思い出すよ。僕たちはフォーミュラを確立しないように意識してた。だから今でも、僕には決まったやり方っていうのがない。その時の気分次第なんだ。だからあるキャラクターになりきって曲を書くっていうのは大好きなんだけど、「これは誰をモチーフにしているんだろう?」っていつも思うんだ。「エリナー・リグビー」は、僕が子供の頃に知ってたある老女がモデルになってる。どういうわけか、僕は何人かのおばあちゃんとすごく仲良くしてたんだ。家族でもないのに、どう知り合ったのか覚えてないんだけどさ。どこかでばったり会うたびに、彼女たちの買い物に付き合ってたんだ。

テイラー:素敵ですね。

ポール:楽しかったよ。座っておしゃべりするたびに、彼女たちはすごく興味深い話を聞かせてくれた。それが僕のお気に入りの時間だった。僕は戦時中に生まれたから、彼女たちが参加した戦争にまつわるエピソードも多かった。よく会ってた女性の1人が鉱石ラジオを持ってたんだけど、僕は興味津々だった。戦時中は多くの人がそういうラジオを自作してたんだ、鉱石を使ってね。(「トワイライト・ゾーン」のテーマを口ずさむ)

テイラー:初めて聞きました。知ってたら掘り下げようとしたかも。

ポール:ウイルスとロックダウンで何もかもが制限されている今って、驚くほど戦時中の状況と類似点が多いんだ。誰もが影響を受けてるっていう点においてもね。エイズやSARS、鳥インフルエンザも深刻だったけど、被害を受けたのは一部の人々だった。でも今の状況には、文字通り世界中の誰もが影響を受けてる。それはこのウイルスに固有のことだと思う。イギリスは数多くの戦争を経験し、女王やチャーチルだけじゃなく、僕の両親も巻き込まれた。誰もその影響から逃れられないからこそ、1人1人が自分なりに乗り切る術を見つけないといけない。君が『フォークロア』を、僕が『マッカートニー Ⅲ』を作ったようにね。

テイラー:大勢の人がパンを焼き始めたらしいですね。気を紛らわせられるなら何でもいいってことですよね。

ポール:昔の人が鉱石ラジオを作ったようにね。後で一応調べてみるけど、確か本物の鉱石を使ってたはず。鉱石ラジオなんて大げさな名前をつけたもんだって思ってたけど、僕らを魅了する本物のクリスタルが実際に使われてるんだ。

テイラー:ワオ。

ポール:そのクリスタルが受信機の役目を果たすんだ。2局の電波をキャッチすることができた鉱石ラジオは、当時の人々の主な情報源になってた。「エリナー・リグビー」では、そのお婆さんのことを考えながら自分の好きな言葉を紡いで、「結婚式が行われた教会でお米を拾い上げた」り、マッケンジー神父が「靴下を編む」っていう情景を描いた。彼は敬虔なキャラクターだから、よりストレートに「聖書を用意した」とすることもできた。でも「靴下を編んだ」としたほうが彼の個性が現れると思ったし、より想像力を掻き立てる。音楽のマジックって、そういうことだと思うんだ。真っ暗で何もないところから、一輪の美しい花を生み出すような。刺繍も同じだね、そういう意味では。

テイラー:テーブルを自作することも。

ポール:その通り。

人生の哲学「きっと何とかなるさ」

テイラー:あーあ、グラストンベリー50周年のステージであなたと共演できていたら、きっとすごく楽しかっただろうなぁ。

ポール:本当にね。僕は君にゲストとして登場してもらおうと思っていたんだ。

テイラー:本当ですか? 誘ってくれたらなって思っていたんです。自分からお願いするつもりだったし。

ポール:「シェイク・イット・オフ」を一緒に演りたかったな。

テイラー:それ、きっとめちゃくちゃ楽しかったんだろうなぁ。

ポール:キーもちゃんと知ってるよ、ドだ。

テイラー:私があなたを尊敬する理由のひとつは、何があっても音楽を思いっきり楽しもうとしているのが伝わって来るからなんです。楽器を弾いたり曲を書くことを、あなたは心の底から楽しんでいるのがわかる。それって素晴らしいことだと思う。

ポール:僕らはすごくラッキーだよね。

テイラー:本当に。

ポール:君に覚えがあるかどうかわからないけど、僕は「なんてこった、ミュージシャンになってしまった」って感じなんだよね。

テイラー:分かります。これが自分の仕事だなんて信じられない。

ポール:つい先日、メアリーに僕の好きなビートルズのエピソードのひとつを聞かせたんだ。当時はロンドンとリヴァプールを頻繁に行き来していたんだけど、その日は猛吹雪だった。ロンドンでの仕事を終えて、僕ら4人と運転手を兼ねてたローディーはヴァンに乗り込んだ。吹雪は強まる一方で、前方が見えないくらいだったんだけど、途中で車がスリップして土手に入ってしまった。全員「うわぁっ」なんて叫びながら斜面の一番下まで滑り降りたけど、幸い車がひっくり返ることはなかった。問題はどうやって元の道に戻るかで、ヴァンだし雪が積もってたから、坂を上っていくのは論外だった。全員で小さな輪になって、どうすればいいのか考えを巡らせていたら、誰かがこう言ったんだ。「きっと何とかなるさ」(Something will happen)。その一言に、僕はものすごく勇気付けられた。まさに人生の哲学だよ。

テイラー:「きっと何とかなる」

ポール:そして実際に何とかなった。僕らは車を残して坂を上り、通りかかったトラックを呼び止めて乗せてもらったんだ。ローディーのマルはヴァンを回収し、全部片付けた。僕のキャリアはずっと、その哲学に基づいているんだ。何とかなるって信じ続けた結果、いつしかミュージシャンでソングライターになっていたんだ。

テイラー:素敵ですね。

ポール:くだらなくも素晴らしいよね。でもパニックになって「一体どうしたらいいんだ」なんて頭を悩ませている時に、その言葉は魔法のような力を発揮するんだ。

テイラー:「きっと何とかなる」

ポール:その通り。今日はありがとう、すごく楽しかったよ。

テイラー:こちらこそ! 素晴らしい話をたくさん聞けて、とても楽しかったです。


ポール・マッカートニー
『マッカートニーIII』
2020年12月18日発売


①1CD スペシャル・エディション
2,500円+税
赤ヴァージョン・ジャケット写真
日本盤のみボーナス・トラック4曲収録、SHM-CD仕様、解説・歌詞対訳付


②1CD
2,200円+税
日本盤のみSHM-CD仕様、解説・歌詞対訳付
試聴・購入:https://paulmccartney.lnk.to/McCartney3


テイラー・スウィフト
『エヴァーモア』
配信中
国内盤CDは2021年1月リリース予定
試聴・購入:https://umj.lnk.to/Taylor_evermore

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