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Aimerが語った「歌をデザインする」の真意

Rolling Stone Japan / 2021年4月14日 18時30分

Aimer(Courtesy of SME Records)

今年9月にデビュー10周年を迎えるシンガー・ソングライターのAimerが、通算6枚目のアルバム『Walpurgis』をリリースした。

北欧にて行われる夜の祝祭「ヴァルプルギス」をタイトルに掲げた本作は、TVドラマ『あなたの番です』の主題歌「STAND-ALONE」や、TVアニメ『炎炎ノ消防隊弐ノ章』のオープニングテーマ「SPARK-AGAIN」といった既発曲以外は全てコロナ禍で制作されたもの。「四季の移ろいをアルバムに封じ込める」という本作のテーマは、コロナ禍で季節を奪われてしまった私たちへの贈り物のようにも感じられる。

Aimer自身、何度も訪れているアイスランドの手付かずの大自然を彷彿とさせるような、この壮大なスケールのアルバムを彼女はどのようにして作り上げたのだろうか。常にファンの「孤独」と寄り添ってきた彼女は、このアルバムで何を伝えたかったのか。その真意に迫った。

─RSJでは、昨年9月に通算19作目のシングル「SPARK-AGAIN」をリリースして以来のインタビューとなります。この半年余りの間、Aimerさんはどんな日々を過ごしていましたか?

Aimer:前作を出した後も、世の中の状況は日々刻々と変わっていて。私自身のスケジュールも決まっては流れ、仕切り直してはまた流れの繰り返しで。そういう未曾有の事態の中、もがき続けていたというか。特にライブがなかなか出来なかったのはつらかったです。昨年11月に配信でライブを行ったことは、自分の中では大きな一歩ではありましたが、それでもやはり「思うように進めていないな」という気持ちがずっと続いていましたね。

でも、昨年の終わりにこのアルバムが完成して。残念ながら、今年1月に開催予定だった横浜アリーナのライブは流れてしまったのですが、「ここから先は、明るい方へ自分を持っていきたい」という気持ちが、去年に比べたら持てているかなという感じですね。

─本作『Walpurgis」に収録された楽曲は、既発曲以外はそんなコロナ禍で制作されたもの?

Aimer:そうです。当初はもっと前にリリースする予定だったのですが、それも延期になって。ただ、その分たっぷりと時間をいただいたので(笑)、「今、聴いてほしいアルバムにしよう」「今だからこそ意味のあるアルバムにしよう」という思いが強くなっていきました。

─聴かせていただき、本当に素晴らしい作品だと思いました。コンセプチュアルであると同時に、とても壮大な自然の力をイメージさせるというか。それは、北欧の祝祭である「ヴァルプルギス」をアルバムタイトルに掲げていることにも起因しているのかなと。Aimerさん自身も何度か足を運んでいる、アイスランドの剥き出しの自然の猛々しさ、繊細さみたいなものを感じました。

Aimer:ありがとうございます。今作に関しては色々と思うことがあり過ぎて、言葉にするのがなかなか難しいところがあるのですが。まず、今年の9月でデビュー10周年を迎えるにあたって、自分が今まで辿ってきた道や接してきたもの、吸収してきたことを、本作に集約することが出来たかなと思っていて。「集大成」というと大袈裟かもしれないですけど、今の自分が出せるものは全て出し切れたかなという手応えはありますね。タイトルを『Walpurgis』にしたのも、今まで出会ってくれたファンのみんなと一緒だから辿り着けた、祝祭のようなアルバムにしたいという思いがあったからです。

─「集約できた」というのは、Aimerさんの表現の中で特にどの面ですか?

Aimer:これまでの活動で私が何を大切にしてきたかというと、やはりそれは「歌」なので、そこが大きいと思います。この10年間で、曲に応じた歌がデザイン出来るようになってきたというか。


たくさんの歌を届けるために必要なこと

─「デザイン」ですか。

Aimer:私はまだまだ完璧とは程遠いのですが、例えばその曲のリズムやグルーヴ、あるいはコード感に対してどう歌を合わせていくのか、どういう音階を通って歌を形作っていくかによって、同じ曲でも聞こえ方が全く変わってくるじゃないですか。だからこそシンガーによって、いろいろな個性が生まれるわけですよね。その部分をある程度自分でコントロールして、より誰かの心に刺さるように、そしてその曲が「音楽」として一番魅力的になるよう、細かいニュアンスまで歌を形作っていく。私はそこを、今までずっと考えながらやってきました。その積み重ねによって、昔とはまた一つ抜けたレベルまでいけたのかなと思っていますね。

─「誰かの心に刺さるように歌う」というのは、ただエモーショナルに、心を込めて歌えばいいだけじゃないのですよね。歌をデザインしたり、アーティキュレーションをコントロールしたり、そういうテクニカルな側面がとても重要なのだなと改めて思います。

Aimer:「エモーショナルに歌えば誰かの心に届く」というのは、もちろんそういうこともあるとは思います。ただ、例えばその1曲はそれでよくても、ずっと継続的に、たくさんの歌を届けるとなると、単にエモーショナルなだけでは難しいのかなと思います。もちろんそれを、感性でやってのけてしまう人もいるんですけど。

私はよく、この「声」を褒めていただくことが多いのですが、どういう音色で鳴らすかによって、全然違う声にもなれるし、天才では全然ないからこそ、真にエモーショナルなところまで辿り着くには、天才の先人たちの歌を聴いて、自分の歌をデザインするということが必要で。それをこの10年間ずっとやってきた気がしますね。

─語弊があるかもしれないのですが、すごく職人っぽいなあって思います。

Aimer:いや、嬉しいです(笑)。そうありたいと思っているし、「この人の歌って、流して聴いているとすんなり聴けるけど、実は緻密にデザインされているんだな」と思ってもらえたら何よりだなという気持ちでやってきたところもあるので。……って、ついインタビューで赤裸々に語ってしまいましたが(笑)。

─ありがたいです(笑)。今回、Vaundyとのコラボも驚きでした。

Aimer:もともとVaundyくんの音楽が好きで。特に彼の歌が好きだったので、こちらからラブコールを送ったんです。そしたら最初の顔合わせの時に、「小学生の頃から聴いてます」と言ってくれて。年月の経過に多少ショックを受けつつ(笑)、すごく嬉しかったですね。それで、こうやって曲を書いていただくことになりました。今回は、彼の得意とする「ちょっと跳ねるようなリズム」が欲しくて、そのことは打ち合わせの段階でお伝えしましたね。



─こんなソウルフルに歌うAimerさんも新鮮でした。

Aimer:そうおっしゃっていただくことが多いんですけど、自分では分からなくて(笑)。この曲に関しては、ディレクションも全てVaundyくんにお願いして、ある意味では彼の色に染まりにいったところもあるので、それが今までにない歌い方に聞こえたのかもしれないですね。Vaundyくんも「これまでのAimerさん像を壊したい」とおっしゃってくれたので、「新鮮」と感じてもらえたのなら私たちの試みは成功です(笑)。

ただこの歌い方は、もともと私の中にあったものではありました。”忘れちまえよ くっだらない夜に踊ってさ”みたいな、ちょっと投げやりな言葉遣いとか引き出しとしてあったんですけど、それを今回Vaundyくんが引っ張り出してくれたなと。


「夜のアルバム」を作ろうと思った理由

─個人的に、今作で最も好きな曲は「トリル」 だったのですが、この曲はどのようにして作られたのでしょうか。

Aimer:この曲は、跳ねたリズムや温かみのあるギターの音などに助けられているのですけど、昨年、こういう世界になって悲しいニュースが多かったときや、亡くなった人のことを考えていた時に作った曲なんです。歌詞の中で韻を踏んだりすることによって、重くなり過ぎないようにしました。なので、歌詞をすごく読み込んで聴くのと、言葉を響きと捉えて聴くのとでは受け止め方がかなり違うというか。すごくポップにも、すごくヘヴィにも、どちらにも取れる曲にしたいとは思いました。

私自身もすごく手応えを感じたし、プロデューサーの玉井健二さんもこの曲を気に入ってくれて。他の曲だと、最初はシンプルなところから「どうやって上物を足して、キラキラさせていくか?」を考えることが多いのですけど、この曲は極限まで音を削ってシンプルにすることを考えました。ギターは名越由貴夫さんに弾いていただき、歌もグルーヴや乗り方などすごく神経を使いました。実は歌もすごく難しくて。アルバムの中でも一、二を争うくらい難易度の高い曲でしたね。



─梶浦由記さんによる書きおろし曲「wonderland」の、ちょっとエスニックな雰囲気もアルバムのアクセントになっていますよね。

Aimer:梶浦さんは、音楽家なら誰しも興味深いと思える独自の作風がありますよね。今作では「春はゆく」と「wonderland」の2曲をご一緒させてもらったんですけど、ある意味では梶浦さんにお任せして作っていただいたら、偶然にも本作の世界観と共鳴したというか。そもそもヴァルプルギスという祝祭は古代ケルトが発祥なので、そういうところと偶然リンクしたのが面白かったです。だからこそ、他の曲でもスコットランドをイメージさせるようなサウンドを入れても、アルバム全体を通した時にバランスが良くなったかなとも思っていて。そういう意味でも梶浦さんに感謝していますね。



─「ever after」は、ストレートでシンプルなラブソングのようで、孤独を抱えるファンへの想いを歌っているようにも感じました。

Aimer:そういうふうに感じてくれる人もいたら嬉しいです。人との絆や繋がりは、生きる上でなくてはならないものだし、反面それを意識した時にこそ「孤独」に襲われることもあるじゃないですか。でも、その孤独を大事に思う気持ちも持っていたくて。夜をテーマにしたアルバムですが、心温まるような曲が欲しいなと思っていた時に、作品とのタイアップもあってタイミング良くこの曲が生まれました。



─誰かの「孤独」に寄り添ったり、あるいはご自身の「孤独」に向き合ったりすることを、これまで以上に意識しましたか?

Aimer:私がデビューして最初に出した『Sleepless Nights』(2012年)は、「一人ぼっちの夜を過ごしている人に寄り添いたい」という想いを込めたアルバムでした。そこからライブ活動をスタートして、みんなで一緒に楽しむための場を作りたいという気持ちからアップテンポなナンバーにも挑戦していた時期はあったけど、原点を辿れば私の音楽は孤独な場所から始まっていて。それを好きでいてくれている人は、今もすごく多いなとも感じているんです。

それぞれがそれぞれの孤独を心に持っていて、あるいはそれと戦っていたり、大切にしていたり、自分一人の世界を良い意味でも悪い意味でも心に持っている人が、私の曲を聴いてくれていることが多いので、今回は久しぶりに「夜のアルバム」を作ろうと思ったんですよね。


光も闇も巡っていくもの

─このアルバムが「夜の祝祭」をテーマにしているのは、昼間にみんなで集まってワイワイ楽しく騒ぐというよりは、一人ひとりがちゃんと孤独を抱えながら集まることに意味があるというか。そういう祝祭を人々は欲しているし、Aimerさん自身も必要としているのかなと思いました。

Aimer:ありがとうございます。やっぱり「夜の祝祭」の方が「昼のカーニヴァル」より神聖な響きがありますよね。おっしゃる通り、そもそも「ヴァルプルギス」をタイトルに掲げようと思った時、すでに「Torches」という曲は作ってあったんですけど、ファンの人たちがそれぞれにトーチを掲げて、私がみんなを先導して夜を進んでいくような、そんなイメージがありました。一人ひとりのトーチが一つの大きな篝火となり、夜に燃えている。アルバムのアートワークもそういうイメージで作っていただいています。一人ひとりの眠れない夜に寄り添いつつも、「みんなと一緒に進んでいく」というところが今までと違うんですよね。

─音楽朗読劇『ALCHEMISTRENATUS ~Homunculus~』のために書き下ろされた主題歌「hollow-mas」も、アルバムの中で異彩を放っています。

Aimer:タイトルの「ハロウマス」は、「ヴァルプルギス」と対になるお祭りの名前です。古代ケルトの人たちが1年を暖季と寒季に分けて、寒季から暖季、つまり闇から光に移動するタイミングで開く祝祭がヴァルプルギスで、暖季から寒季、つまり光から闇にいくタイミングで開く祝祭がハロウマスという世界観なんです。実はこのアルバムも、光から闇へ、闇から光へと螺旋を巡っているようなイメージで曲順を考えていて、聴き進んでいくと季節を巡るようになっています。

─そんな構造になっていたのですね。

Aimer:最初は単純に「夜の祝祭」という意味だけでヴァルプルギスをタイトルに付けたのですが、調べれば調べるほど古代ケルト人の考え方にユニークなものがたくさんあって。光と闇、生と死は常に対立するものと考えられがちだけど、実は循環しているし隣り合わせにあるものなのだというのも、古代ケルト人の考え方です。コロナ禍で、多かれ少なかれ精神的にも肉体的にも辛い状況にいる中、光も闇も巡っていくものという考え方に、少なくとも私は救われたし、それをこのアルバムで表現できたらいいなと思っていました。

─「四季」をテーマにしたのは、コロナ禍で季節を奪われた私たちへの贈り物という気持ちもありましたか?

Aimer:ああ、「贈り物」と言っていただけるとすごく嬉しいです。コロナ禍になり、今まで当たり前のように続くと思っていたことが一変してしまい、置き去りにされた気持ちでいた人は多いと思います。だけど、絶対に時は過ぎていくし、季節は巡っていくということは、一概に悲しいこととも言い切れないというか。取り方によっては救いにもなると思ったんですよね。人生には光もあれば闇もある。季節が巡るのは当たり前のことだけど、その当たり前が奪われた今、このアルバムから季節を感じてもらい、「自分は、やっぱり生きていこうかな」と思ってもらえたら本当に嬉しいです。

─このアルバムに壮大な自然のエネルギーを感じるのは、季節の循環、光と闇の循環をテーマにしているからなのかもしれないですね。最後の曲「Walpurgis」の、”季節よ 進め 君は美しい”というフレーズで終わるところは、今のお話を象徴しているのかなと思いました。

Aimer:アルバムの最初と最後を同じタイトル曲にしたのも、アルバム自体を螺旋状にしたかったからです。デビュー10周年をこのタイミングで迎えるのって、「すごく不運だったな」と捉えることもできるけど、考え方によっては「絶対に忘れられない、特別な10年になったな」とも言える。みんなとただ会うことが、こんなに困難に感じられたことは今までなかったから、また会えた時には喜びはひとしおだと思います。私がこうして10年続けてこられたのは、出会ってくれたみんなのおかげなので、その感謝の気持ちを何らかの形で伝えるときまで、何があっても生きていてほしいと心から思います。

<INFORMATION>


『Walpurgis』
Aimer
SME Records
発売中
https://aimer.lnk.to/Walpurgis

完全生産限定盤(CD +3 Blu-ray)
SECL-2660~2664 / 価格:9,000円(税別)
 
初回生産限定盤A(CD + Blu-ray)
SECL-2665~2666 / 価格:4,800円(税別)
 
初回生産限定盤B(CD +DVD)
SECL-2667~2668 / 価格:3,600円(税別)
 
通常版(CD only)
SECL-2669 / 価格:3,000円(税別)アナログ盤(完全生産限定・2枚組)
品番:SEJL-57~58 / 価格:5,000円(税別)

収録内容:
M01:Walpurgis -prologue-
M02:STAND-ALONE…TVドラマ『あなたの番です』主題歌
M03:cold rain…TVアニメ『魔道祖師』羨雲編エンディングテーマ
M04:トリル…短編アニメ「夜の国」主題歌
M05:地球儀 with Vaundy
M06:SPARK-AGAIN…TVアニメ『炎炎ノ消防隊 弐ノ章』OP主題歌
M07:wonderland…DS Automobiles”DS 7 CROSSBACK E-TENSE”CMソング
M08:Torches…TVアニメ『ヴィンランド・サガ』エンディングテーマ
M09:marie…「ハプスブルク展」イメージソング
M10:ever after…ドラマ「ホットママ」主題歌
M11:hollow-mas…音楽朗読劇『ALCHEMIST RENATUS~Homunculus~』主題歌
M12:季路…TVアニメ『魔道祖師』前塵編エンディングテーマ
M13:春はゆく」…劇場版『Fate/stay night[HF]』Ⅲ.spring song 主題歌
M14:Walpurgis







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