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KIRINJIが体現するポップスと社会の繋がり「もっとライトな感覚で歌ってもいい」

Rolling Stone Japan / 2021年12月2日 18時20分

KIRINJI・堀込高樹(Photo by Kana Tarumi)

2021年より堀込高樹のソロ・プロジェクトとなったKIRINJIが、今年4月の配信シングル「再会」、映画『鳩の撃退法』主題歌の「爆ぜる心臓 feat. Awich」を経て、この2曲も収録したニューアルバム『crepuscular』を完成させた。コロナ禍の社会が反映された本作には、抑制されたフィーリング、ささやかな希望に加えて、”陰謀論”や”闇落ち”といった言葉も歌詞に含まれている。かつてなく冒険的なアルバムの制作背景を尋ねた。

【画像を見る】堀込高樹 撮り下ろし写真(記事未掲載カットあり)


—スタッフの方からいただいたメールによると、「ギリギリまで完成形が見えないレコーディングでした」とのことですが。

堀込:そうなんですよ(苦笑)。

前回のインタビューでも、セミの喩えから苦戦してそうなのは伝わってました。

堀込:曲を書く時間はたくさんあったのですが、色々な仕事と並行しながら作っていくのが大変でした。それこそ映画『鳩の撃退法』のキャンペーンとか、ワンマンがあって(8月開催の「KIRINJI SPECIAL LIVE 2021 ~SAIKAI~」)。そうなると、(制作の)モードに入って、1回それがリセットされて、またモードに入って……となるので、ゾーンに入るまでに時間がかかってしまう。それもあって、なかなか思うように捗りませんでした。曲が出来上がっても、妙に気張ってるように感じたり。

―「なんか違う」みたいな?

堀込:それこそ、最初は「『cherish』の感じをもう少しやりたいな」と考えて、ダンサブルな曲をいくつか作ってみたんです。でも、これだと『cherish』と一緒になってしまいそうな気がしたんですよね。それもどうかなと。

―ということは、作ってみたけど未収録の曲もある?

堀込:そんなに多くはないですけどね、2〜3曲くらいかな。それらは面白味がないからナシにして、もうちょっと時代の空気やムードを反映させたものにしようと。この2年間における自分のテンションと言いますか。あとは、先に出した「再会」と「爆ぜる心臓」が両極端だから、その間を繋ぐものを揃えることも意識しましたね。そこで方針を定めるのにも時間がかかってしまいました。


Photo by Kana Tarumi

―そんな経緯もありつつ、『cherish』とはまた音楽的に異なるトライアルを実践しているように映りました。

堀込:「再会」のリバーブ感もそうだし、「爆ぜる心臓」も空間的な面白さがありますよね。どこか全体的にモヤがかかっている感じ。前回、「ソフトなサイケ感」について軽く話しましたよね。

―「ダンサブルでボトムがしっかりあるけど、ウワモノはサイケ感をもつポップス」ですよね。

堀込:そうそう。あの時は、「なんか言わなきゃ」と思って適当に言ったのですが(笑)。

―(笑)。

堀込:でも、そのあとに「あ、悪くないかもな」と思いだして。全体を通底するものとして、いいアイデアかもしれないなと。そこから「ただの風邪」では、デモテープを作りながら「サビで一気にリバービーな感じにしたら面白そう」とか、「気化猫」もスロウなファンクっぽいけど、上はフワフワにしたり。そういうサイケ感を念頭におきながら作っていきました。

―それは西村ツチカさんの作品を用いたジャケにも反映されていますよね。「ただの風邪」の歌詞にもある、”不思議な夢の中にいるような”サイケ感。

堀込:うん、そうですね。


『crepuscular』通常盤ジャケット

―近年のKIRINJIは、冒頭の1曲目がアルバム全体のモードを示してきた印象があって。今回は「ただの風邪」のミニマルなシンセがまさしく象徴的だと思いました。

堀込:あれはデモを踏まえて、(鍵盤奏者の)宮川純くんがProphet-6の実機を持ってきて、スタジオで「これどうですかね?」と弾いてくれたものです。僕のデモはもう少し打ち込みっぽかったのですが、スティーヴィー・ワンダー的なニュアンスと言うか、ファンクな感じが出てますよね。宮川くんは「サンダーキャットっぽいですよね」と話してましたが、そこは自分では意識してなかったので意外でした。もともとはベニー・シングスみたいな、スッキリしたポップスにしようと思って作り始めた曲だったので。

―あとはドリーミーな雰囲気。「曲調そのものはオーセンティックでも、音像が変わることで印象も違ってくるはず」と前回話していましたよね。「ただの風邪」も、サビのコーラスはキリンジみたいなのに、印象がまるで違う。

堀込:フレーズはいつもの感じですけど、音の処理というか響かせ方が全然違いますから。

―「時代の空気を反映させる」という話もありましたが、「ただの風邪」というタイトルや、歌詞の熱にうなされてる感じはどういった背景があるのでしょう?

堀込:僕自身はこの2年間で一度も風邪をひいていませんが、次男があるとき熱を出して。「やばい、コロナかも」ということで保健所や病院に電話したんです。それで診断してもらったら「お腹の風邪ですかね」とのことで、「ただの風邪でよかったね」という話を家庭内でしました。きっと、こういうやり取りがウチだけでなく、いろんなところであったと思うんです。もちろん、その一方で亡くなってしまった方もいらっしゃいますが……。

―ええ。

堀込:「ただの風邪」という曲名が発表されたとき、「コロナはただの風邪」と言い張る人を揶揄する歌だと思われたかもしれませんが、個人レベルでさっきのような会話があったはずで。そちらのほうを切り取った曲です。

コロナ時代の抑制されたフィーリング

―「曖昧me」でも『cherish』までのサウンドも継承しつつ、今までやってこなかったようなアプローチを見せていますよね。

堀込:現行ラテンポップのプレイリストを聴くと、どの曲も基本的にリズムパターンが一緒なのに、割と飽きずに聴けるんですよね。「なんなんだろう、これ」と思って。それで調べたら細かく色々やっているんですよ、パーカッションの種類が違うとか。そういうのを自分もやってみようと始めてみたら、どちらかというとブラジルっぽくなってしまった。カエターノ・ヴェローソとかMPBみたいな。どうしようかなと思ったけど、「まぁいいか」って(笑)。

―3年前の「時間がない」では”残り半分て短すぎるね”と歌っていましたが、「曖昧me」では”俺 今 いくつだっけ”と繰り返されている。

堀込:40歳を超えたくらいから、1つとか2つとかの境目がよくわからなくなって。「俺50歳だっけな、49歳だっけな、あれ?」みたいなことがあるんですよ。

―(笑)。もちろん、この曲で歌われているのはコロナ禍での曖昧な時間感覚ですよね。

堀込:ここ1、2年で、歳が1つ失われた感じがして。『cherish』は2年前に出したはずなのに、「去年出したよな?」と思ってしまうような感覚。自分の歳を勘定するときも「いや違う、もうあれから2年経ってる」みたいに混乱してしまうというか。そういう「失われた1年」が裏のテーマとしてあります。


Photo by Kana Tarumi

―アルバム全体に反映されたコロナ時代の空気を、高樹さんはどんなふうに受け止めていますか。「しんどい」みたいな感じ?

堀込:ライブがなくなったり思うように活動できなかったりして、「困ったな」とは思いましたが、「しんどい」というよりは……自分で自分を抑制する癖がつくみたいな。それが嫌だなって思いました。

―”心はリミッターがかかったまま”(「再会」)みたいな。

堀込:それに世の中も抑制的になったというか。お店を早く閉めないといけない、店に入る度に消毒しないといけない、どこに行くのもマスクを着けないといけない。どれも間違いではないけど、そうやって抑制を強いられるのが嫌だな、面倒だなって。これは誰しも感じてきたことだと思いますが。

―そういう抑制されたフィーリングが、アルバムの収録曲にも出ているような気がします。

堀込:思いっきりアガる曲がないですしね。グルーヴはあるけどウキウキした曲調ではない。たぶん、それを今やっても白々しいものになる気がします。だからこそ、明るいノリの曲を書こうと思えなかった部分もあって。

―最初の話にもあったように。

堀込:そう。コロナ禍で自分の置かれている状況、世の中のあり方や空気。そういうのが自分の思っていた以上に反映されているんだなって。アルバムを作り終えてから思いましたね。

「薄明」のささやかな希望

―アルバムタイトルの『crepuscular』は、シングル曲「薄明 feat. Maika Loubté」がモチーフになっているそうですね。まず、「薄明」というのはどこから出てきたんですか?

堀込:あの曲のサビに”雲の切れ間から降る光の帯を”という一節があるのですが、そういう状態をなんていうのかなと思って調べてみたんです。そしたら、「薄明光線」というのが出てきて。最初はこれにしようかなと思ったのですが、「誰か使ってるかな」と調べてみたら、この言葉を使ったアルバムや曲がちょこちょこ出てきて。(笑)。昔の曲だったら別にいいかなと思ったら、割とここ1、2年の曲ばかりだったんですよね。みんな、ちょっとした希望を求めているんだなって思いました。



―わかる気がします。

堀込:だから、狙いは悪くないんだろうけど「お前もか」って感じ(笑)。それで別の言葉を探そうとしたら、クレプスキュール(Les Disques Du Crépuscule)という昔のレーベルを思い出しまして。

―やはり、そうでしたか(笑)。

堀込:それで調べたら、英語では「crepuscular」と書くらしいと知って。光が降り注ぐという意味もあるしピッタリだなと。曲調も、狙ったつもりはなかったですが……。

―クレプスキュールも連想させるフレンチ・ポップス風ですよね。このサウンドはどこから持ち込まれたものなんですか?

堀込:この曲は、ヨーロッパっぽい感じのメロディーとかハーモニーが先に出来上がりました。あとはフレンチ・エレクトロのプレイリストをよく聴いていました。Paradisの「Toi Et Moi」という曲がすごく好きで。

―高樹さんが昨年作成したプレイリスト「killer tunes protect you」にも入ってましたね。

堀込:「ああいうのをやりたいな」って漠然と思っていました。そこからメロディーもヨーロッパっぽい雰囲気になったので、自分が歌うより他の人にお願いしたいなと考えたときに、Maikaさんをラジオで知って。フランス語が使えるというのもあってお願いしました。



―あとはアルバム全体の演奏面で、若く才能あふれるミュージシャンの貢献が目立ちます。

堀込:ベースの千ヶ崎(学)くん以外は初めての人ばっかりだったので。ドラムは今回3人も参加しているし(伊吹文裕、橋本現輝、石若駿)、角銅真実さんにマリンバを叩いてもらったりして。いろんな人に関わってもらいながら作ることができました。

―角銅さんが参加したインスト曲「ブロッコロロマネスコ」は、続く「爆ぜる心臓」への流れも含めて絶妙でした。

堀込:あの曲が出来たとき、音色をどうしようか悩んだんです。幾何学的なメロディーを人懐っこい感じで聴かせたくて、そこで浮かんだのがマリンバでした。ステレオラブとかフランク・ザッパみたいな匂いも少しあるから、中音のパーカッションでリズミカルな感じにするのがよさそうだなと。それで角銅さんにお願いしました。


Photo by Kana Tarumi

―ソロ・プロジェクトになったことは、今回のアルバムにどんな影響を与えたと思いますか?

堀込:それぞれ得意な人にやってもらっているので、録音が早いんですよね。それもあって、曲調そのものは落ち着いたものが多いですが、割とフレッシュで骨太な仕上がりになったと思います。

あとは、KIRINJIという名前を掲げてやることの意味ですよね。いろんな人に関わってもらいながら作っていくのは、堀込高樹という個人より、KIRINJIというプロジェクトの方がやりやすいなって思いました。今回、(フィーチャリングは)MaikaさんとAwichだけでしたけど、今後は他の方にメインヴォーカルもお願いして、自分は曲だけ作るというやり方もいいのかなとか。いろんな展望も見えてきています。

「もっと気軽に話せるといい」

―最後に聞かせてください。「first call」には”陰謀論”や”闇落ち”といった言葉が出てきますよね。「薄明」にも”スワイプ”や”セルフィ”と出てくるように、近年のKIRINJIは同時代的なワードチョイスも特徴的ですが、ここはみんな驚く部分だと思います。

堀込:陰謀論は……抗えないですもんね、ある意味ウイルスみたいなもので。YouTubeとかで「坂本竜馬に資金を提供したのは誰だ?」みたいなCMが出てくるじゃないですか。それで「なになに?」と気になってクリックすると、そういう本の紹介になったりして。「これは変だ」と早めに気づけばいいけど、うっかり興味本位で見ちゃったりすると、一気にそっち側のテリトリーへと引っ張られてしまうから恐ろしい。

―そういう言葉も用いつつ、”人は孤独な生き物 でも孤立してたらいけない”と歌っているところにグッときました。

堀込:結局、コミュニケーションが失われているから気づけないわけですしね。


Photo by Kana Tarumi

―今日の日本において、”陰謀論”みたいな言葉が歌詞に盛り込まれたり、こういう問題がポップミュージックで扱われたりする事例はほとんどないはずで。そこはバランスの取り方も難しそうですが、どんなことを意識しましたか?

堀込:深追いはしない、ということですね。例えば陰謀論に染まっている人を歌ったりするのは、さすがに追い込みすぎな気がして。「陰謀論って怖いよね」ぐらいに留めておくと、それによって喚起ができるし、もしそういうことに傾いてしまった人がいたら「あ、俺そうかな?」ってなるかもしれない。ポリティカルなことや倫理的なことに関しては、「だからダメなんだ」「これが最高なんだ」と押しつけるのではなく、断罪しない、白黒つけようとしないのが大事かなと。

世の中には絶対、いろんなトピックが溢れてるわけだから、そこへ触れずに恋愛の歌とか、自分の悩みとかばかり歌って済ませるというのも面白くない気がして。自分自身とそういう社会的な問題は常に繋がってるわけだから。割とライトな感覚でやってもいいんじゃないかなって思います。

―今の話で思い出しましたが、10月の衆議院選挙の前日に「明日は選挙、投票行きましょう」とツイートしてましたよね。「ミュージシャンは政治を語るな」という声もありますが、僕はすごく嬉しかったです。ミュージシャンというより個人としての発信だったとは思うんですけど。

堀込:あれは個人的なものですね。実際、僕は50代なので、人口のボリュームゾーンなんですよ。その世代の人たちが「世の中をこうしたい」と思って行動に出れば、結構そっちに傾くと思うんですよ。今回の投票率は約55%らしいから、国民のほぼ半分が行ってないわけですよね。そこで「行きましょう」と呼びかけるのは、世の中を自分が考えるいい方向に進めるために、微力ではあるけど有効なのかなと思ってツイートしました。

さっきも言ったように、こういうことが気軽に話せるようになるといいなって思います。「自分はこう考えてるよ」っていうのを、もっと軽い気持ちで言えるようになるといいですよね。

【関連記事】
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KIRINJI
『crepuscular』
2021年12月3日先行配信
2021年12月8日CD発売
リリース詳細:https://kirinji-official.com/contents/463547


初回限定盤(SHM-CD+DVD):¥4,070(tax in)


通常盤(SHM-CD):¥3,300(tax in)


「KIRINJI TOUR 2021」
【大阪公演】
12月7日(火)なんばHatch
OPEN 18:00 / START 19:00

【東京公演】
12月15日(水)Zepp DiverCity(TOKYO)
12月16日(木)Zepp DiverCity(TOKYO)
OPEN 18:00 / START 19:00 (両日とも)

■Member
堀込高樹(Vo/Gt/Key)
千ヶ崎学(Ba)
シンリズム(Gt)
橋本現輝(Dr)
岸田勇気(Key)
矢野博康(Perc/Manip)
MELRAW(Sax)

■チケット料金(全席指定席・税込・ドリンク代別)
・S席(前方席):9,900円
・A席(一般席):8,800円

ツアー詳細:https://www.kirinji-official.com/contents/463225

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