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ロバート・グラスパーが語る、歴史を塗り替えた『Black Radio』の普遍性

Rolling Stone Japan / 2022年4月26日 18時0分

ロバート・グラスパー(Photo by Mancy Gant)

大ヒットを記録した衝撃作『Black Radio』でブラックミュージックの常識を塗り替えたロバート・グラスパー。ジャズの新しい地平の先には、どんな未来が広がっていたのか。最新作『Black Radio III』をリリースし、5月14・15日開催「LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL」でヘッドライナーを務める彼に、ジャズ評論家の柳樂光隆がインタビュー。

ロバート・グラスパーが2012年に発表した『Black Radio』は歴史を変えた作品だった。ジャズ、R&B、ヒップホップといったジャンルの壁を越えて2010年代の音楽シーンを活性化させたばかりでなく、トレンドの移ろいが激しいこの時代に、発表から10年が経過した今も影響力が衰えないタイムレスな名盤でもある。

今年発表されたシリーズ最新作『Black Radio Ⅲ』には、ハービー・ハンコックいわく名実ともに「シーンのリーダー」となったグラスパーが育み、広げてきたコミュニティの豊かさがそのまま収められている。そこには祈り、怒り、時に悼みながら、アフリカン・アメリカンのコミュニティへの貢献を模索し続けてきたアティテュードも反映されている。グラスパーがこの10年間、自然体の活動を通して起こしてきた「メロウな革命」を体現する作品とも言えるだろう。

なぜ『Black Radio』シリーズは色褪せぬ輝きを放ち続けているのか。その「普遍性」についてグラスパーが語ってくれた。



タイムレスな音楽を生み出す信念
「俺はトレンドを追わない」

―10年前に『Black Radio』が発表されたとき、このタイトルはフライト・レコーダーの別名に由来するものだと語っていました。タイトルに込められている意味を改めて聞かせてください。

グラスパー:このタイトルは10年前に込めた意味に加えて、今では新たな意味を持つようになったと思っている。もっと様々な視点で読み取ることができるようになった、という意味だ。一つ目は、前にも話したように飛行機の(レコーダーである)ブラックボックス。なぜなら、ブラックボックスはどんな事故があってもきちんと記録が残るようになっている。素晴らしい音楽もそうあるべきだと俺は思うからね。

そしてもう一つは、ブラック・ピープルのためのラジオはこうあるべきだと俺自身が感じるラジオ番組だ。つまり、アフリカン・アメリカン・ミュージックをやるってこと。俺たちは今まで本当に幅広いスタイルの音楽を提供してきた。ヒップホップ、R&B、ジャズ、ゴスペル、他にもたくさん。そんなふうに(自分たちが提供してきた)音楽が落ち合う場所がここなんだ。これこそがブラック・レディオ。なぜって、あらゆる黒人音楽が一同に介してミックスされているんだから。


左から『Black Radio』(2012年)、『Black Radio 2』(2013年)

―時代を超えて聴き継がれ、なおかつ広く親しまれる音楽ということですよね。あなたがこれまで手がけてきた作品は、どれもその二つを両立させてきたと思いますが、どうしてそれが可能だったのでしょう?

グラスパー:俺はただ、自分の音楽に正直でいたいと思ってるだけなんだ。(曲やアルバムを)タイムレスにするレシピなんて存在しない。ただ音楽的に正直でいると、たくさんの人々が受け入れてくれて、たくさんの人々が愛してくれる。そして永遠に残っていくものになる。自分自身に対して誠実でないものを俺は作らない。常に正直な思いで作っているし、共演するアーティストとも正直に向き合っているし、誠実で個性的なスタイルのアーティストを起用するように心がけている。だからこそ、それぞれの作品が違うのさ。(参加している)誰一人としてトレンドを追いかけていないから。俺はトレンドを追わないんだ。

―たしかにそうですよね。『Black Radio』シリーズも同時代性はあるけど、いい意味で過去との繋がりも感じられる。

グラスパー:俺も新しいテクノロジーに頼りながら音楽を作っているし、特にコロナ禍ではそれがなければレコードは作れなかった。でも、新しいものだけではなく、ある程度古いものもキープしているんだ。(Zoomの画面越しに自分のプライベート・スタジオの様子を見せて)ほら、いろんな楽器や機材があるだろう(笑)。ローズ(・ピアノ)も当然置いてあるし、こっちにはMoog One(アナログ・シンセサイザー)もある。

音楽的にもそう。俺が好きな90年代や2000年代のソウル全盛期がもつフィーリングをずっとキープしているけど、その一方で新しい音楽のなかにある、俺が好きな要素を取り入れることもやり続けている。俺は自分が好きじゃないものは絶対にやらない。「好きじゃないけどクールに見えるから仕方なくやるか」なんてことには手を出さない。それに俺は(業界内でも)古株になってきているから、古き良き部分も保ちつつ、良いバランスを生み出すことを考えている。



―ミックステープとして発表された2019年の前作『Fuck Yo Feeling』にもゲストが多数参加していて、歌やラップが入っていました。「『Black Radio』シリーズと何が違うんだろう?」と思った人もいるかもしれません。両者の違いはどんなところにあると言えそうですか?

グラスパー:さっきも話したように、『Black Radio』はよりラジオらしい作品。かたや『Fuck Yo Feelings』はジャムセッションが基になっている。(『Black Radio Ⅲ』にも参加している)クリス・デイヴ、デリック・ホッジと一緒にジャムって、そのあとに俺が「シンガーを入れてみよう!」と提案して歌を後付けしたんだ。だから『Fuck Yo Feelings』では歌が重要だったわけではなく、ジャミングが最優先だった。でも『Black Radio』は歌が最優先。まずは歌ありき。そこが主な違いだね。

―『Black Radio』と『Fuck Yo Feeling』を聴き比べて、大きな違いを感じたのがミックスでした。『Black Radio』シリーズではどんな音作りを意識しているのでしょう?

グラスパー:『Black Radio』はラジオ向けの歌ものという前提があるから、ラジオに乗せた時に他の楽曲と競合することを頭に入れてミックスしなければならない。ミックスが完璧にオンエア対応になってないといけないんだ。ラジオ局(のディレクター)が曲を聴いて、ラジオ向けにミックスされていないと感じたら、彼らが曲をかけてくれることはない。たとえいい曲だとしてもね。(例えば)アデルの曲とか、H.E.R.の曲とかと並べた時に、音的に合わないとかからない。

だから『Black Radio Ⅲ』では、今までより少しポップなミックスを施した。意図的にボーカルがもうちょっと前に出るようにミックスしてあるんだ。そうすることでラジオでかかる他の曲とマッチするから。それに今ではみんながプレイリストで聴くようになった。だから、曲が立て続けにかかる。ある曲が終わったらすぐに自分の曲がかかって、その直後に誰かの曲がかかる。それに合わせたミックスをしなければならないわけだ。以前はプレイリストなんて重要じゃなかったけど、今では最重要案件になってる。なんでもプレイリスト、プレイリスト、プレイリストってね(笑)。だから、そこに合わせてミックスする必要があるわけさ。

『Black Radio』が提示する
トップレベルであることの基準

―『Black Radio Ⅲ』ではシンガーやラッパーの参加人数が増え、ロバート・グラスパー・エクスペリメント名義のバンドで録音した過去2作と異なり、演奏面を支えるミュージシャンも多数クレジットされています。さらにはコロナ禍の影響もあったはずで、これまでとは違う制作プロセスになったのではないでしょうか?

グラスパー:イエス! いつもより大変だったよ(笑)。アーティストと一緒にスタジオに入ると、その場のノリでちょっとしたことを思いついたりできる。「オーイエー、そうそう、いいね」みたいな感じで、一緒に考えながら作ることができる。リモートではそういうマジックが生まれないよね。一緒にクリエイティブになって作ることができない。だから、「これが曲だよ」ってデータを送って、向こうがボーカルを入れたのを送り返してきて……というプロセスだった。例えリアルタイムでやり取りしながら作業していたとしても、同じ部屋で一緒に作る時の閃きやマジックが生まれないのは事実。それでも、この『Ⅲ』には素晴らしいアーティストたちが参加してくれているから、(リスナーは)気づかないんじゃないかな。同じ部屋に集まって作ったように感じるだろうし、きっと気に入ってもらえると思う。だからこそ発表することにしたんだ。いいアルバムになったと自負している。

―とはいえ、『Black Radio』みたいな作品をリモートで作るのは大変そうです。

グラスパー:プロデューサーとしての立場でいえば、間違いなくこれまでよりハードな作品だった。アーティストを遠隔でプロデュースするのって本当に難しいんだ(笑)。特にパンデミック真っ只中だったのはしんどかったよ。アーティストにもいろいろいて、コロナ禍でスタジオにこもって作りまくるのが最高に楽しいって人もいれば、こういう状況で気が滅入っていてインスピレーションが沸かないと落ち込んでるとか、アーティスティックになれないとか言って、「スタジオに入るのは来週かな、それか2週間後になるかも」みたいな人もいた。そもそも、いつになるかどうするかもわからない……みたいな人もいた。実を言えば、『Ⅲ』に参加したいと言ってくれたアーティストは他にも何人かいたけど、彼らは(参加できるほど)クリエイティブになれなかったんだ。本当に厳しい時期だったよね。


Photo by Mancy Gant

―ここからはゲストについて聞かせてください。 『Black Radio』シリーズにはこれまで多くのR&Bシンガーが参加してきました。その人選はかなり幅が広く、レイラ・ハサウェイからエリカ・バドゥ、BJ・ザ・シカゴ・キッドまで、様々な世代やコミュニティからシンガーが起用されています。この人選にはどんな意図があるのでしょうか?

グラスパー:俺はアーティストの偉大さ(greatness)を線引きするための基準を確立しようとしているんだ。今は誰でもアーティストになれる時代だし、誰でもレコードを売ることができる。才能がまったくなくてもね! だからこそ、俺がやることそのものが何かしらの基準となって、レベルを見極められるようにしたいと思っている。『Black Radio』を聴けば、一級品のレベルがどういうものかがわかるようにね。そこが重要なんだよ。


レイラ・ハサウェイ
「ダニー・ハサウェイの娘」という枕詞も不要なトップ・ヴォーカリスト。バークリー出身で、ジャズもR&Bも自由自在。スナーキー・パピーとの2013年共演曲「Something」では同時に複数の声を出してハモる、マルチフォニックな歌唱でグラミー受賞。歌手としてただ一人、『Black Radio』3作すべてに参加。

―R&Bという括りでもう少し掘り下げると、フェイス・エヴァンス、ブランディ、クリセット・ミッシェル、メイシー・グレイ、インディア・アリーなど、あなたや私がまだ学生だった90〜2000年代にヒットを生み出したシンガーを多く起用していますよね。

グラスパー:自分が一番好きな時代だからね! 高校生の時、俺が生まれて初めて書いたジャズ・ソングは、ブランディの曲をサンプリングして作ったんだ。ブランディ、フェイス・エヴァンス、メアリー・J・ブライジはずっと大好きなアーティスト。ちょうど俺が高校生だった時代の、まさに俺のサウンドトラックなんだよ。当時から彼女たちは本当に素晴らしいシンガーだと思っていた。実際にあの時代は素晴らしいシンガーが多かった。本当に素晴らしいR&Bシンガーたちが生まれた時代だと思う。

―しかも、彼女たちは長いキャリアを経て、今も実力をキープしていることを『Black Radio』で証明している。そういった点もこのシリーズの素晴らしさだと思います。

グラスパー:今は「歌う」ということがあまり重要じゃない時代になってしまった。だからこそ、俺は素晴らしいシンガーたちを起用し続けているんだ。それこそが今の時代に足りないものだと思うからね。今日のシーンでは残念なことに、そういう要素は重要視されなくなってしまったから。

―「歌う」という観点で気になっていたのが、『Black Radio』シリーズの収録曲は、例外もありますけど遅い曲が多いですよね。スロウ、もしくはミディアムのテンポが多い。どんなに上手なシンガーやラッパーが参加している時も、みんなゆったりしたテンポで表現してきた印象です。

グラスパー:それは意図的ではないかな。ただ、自分が速い曲を好きじゃないだけ(爆笑)。正直わからない(笑)。でも、俺はダンサブルな曲とかやらないだろ?(目を瞑って上のほうを見ながら、ゆっくりと伴奏をする振りをして)そもそも俺はスロウな曲が好きだから。それに、スロウな曲にはいろんなことができる余白があるしさ。だから結果的にそうなってしまうだけだ。スロウ〜ミッドテンポが俺の好みってことだね。

挑戦の場としての『Black Radio』
シリーズにおける変化と一貫性

―あとはゲストの話でいうと、今回の『Ⅲ』にエスペランサ・スポルディングが参加していたのは意外でした。

グラスパー:どこが意外なの?

―今までこのシリーズで、『2』に参加したノラ・ジョーンズを除いて、ジャズ・カテゴリーの人は起用してこなかったですよね。だから、エスペランサとグレゴリー・ポーターの参加に驚いたんです。

グラスパー:彼女はジャズの枠を超えて、幅広いサウンドをやるようになってるからね。以前と少し違ったこともやってみたいと思ったんだ。それにNYのブルーノート・ジャズ・クラブでのレジデンシー(昨年10月1日〜11月7日にかけて行われた長期公演。33夜で全66回のショーが行われた)をやってた時に、彼女がゲストで参加してくれた夜もあった。一緒にショーをやったからなおさら「彼女はジャズだけではなく、もっと別のサウンドでも歌える」と確信してたんだ。エスペランサが歌っている曲(「Why We Speak」)はかなりジャジーだろ? ジャミロクワイみたいなジャズ・ファンクのヴァイブなんだ。この曲は彼女だからうまくいったし、やる前からうまくいくと確信してた。

それに今回は、いつもと少し違ったこともやってみたかった。『Black Radio』では毎回必ず、少し違うことをやるようにしている。『Ⅲ』でいえばジャヒ・サンダンス(グラスパーが「俺のサウンドの一部」と呼び、ライブにも帯同しているDJ)が一緒にプロデュースしてくれた、ミュージック・ソウルチャイルドの「Everybody Love」もそう。俺にとって初のハウス・ソングだ。




エスペランサ・スポルディング
20歳でバークリー音大の最年少講師となった逸話もある21世紀ジャズ屈指の才能。歌、ベース、作編曲の全てが最高峰。Qティップと組んだR&B寄りの2012年作『Radio Music Society』など、作風は多彩でハイブリッド。プリンスからジャネール・モネイまで幅広く交流。現在は音楽家兼ハーバード大学教授。(Photo by Samuel Prather)

―では、グレゴリー・ポーター参加の経緯は?

グラスパー:昔から一緒にやろうって話はしていたんだ。彼とはコロナ禍が始まる前、ブルーノート・ジャズ・クルーズで一緒だった。そこで俺のバントとグレゴリーが共演したんだ。そのときに俺たちはやっぱり何かやらなきゃダメだって話をして、俺はグレゴリーに「R&Bを歌わせてみせる」と言ったんだよ。彼はジャズを歌わせたら最高だけど、あの声はR&Bをやっても最高だと思ったからね。彼は今こそ幅を広げるべきタイミングだと思ったんだ。だから、「俺がR&Bのアルバムをプロデュースする」と言ったら、彼も「OK」と返事してくれた。でも、その前に『Black Radio』に参加してもらうと伝えたんだ。

その後、彼はレデシーとツアーを回っていたんだけど、パンデミックの影響でキャンセルせざるをえなくなって時間ができた。そこで俺は閃いたわけだ。「グレゴリーとレデシーに一緒に歌ってもらおう!」ってね。しかも幸いなことに、二人は俺のスタジオで録音することができた。ちょうどコロナのピークが一旦去って、色々と緩和されて大丈夫になってきた時期だったから、二人同時にスタジオに入ってもらうことができて最高だったよ。



グレゴリー・ポーター
パワフルな歌唱が話題を呼んだ2010年のデビュー作『Water』でいきなりグラミー賞にノミネート。ドン・ウォズがブルーノート社長に就任する際、真っ先にレーベルへ招き入れたのは有名な話で、2013年作『Liquid Spirit』は全世界で100万枚を売り上げた。今や誰もが認める現代ジャズ・ヴォーカルの代表格。

―ジェニファー・ハドソンについても聞かせてください。彼女は素晴らしいボーカリストであると同時に、『ドリームガールズ』『リスペクト』といった映画で素晴らしい演技を見せてきた実力派女優でもあります。

グラスパー:彼女は俺のショーに遊びに来たり、ステージに上がって歌ってくれたこともあった。そのときに絶対一緒にやらなきゃならないと確信したんだ。だから彼女のことはずっと頭の片隅にあった。次に『Black Radio』を作るときはジェニファーに参加してもらおうと思っていた。ジェニファー・ハドソンは(1981年のミュージカル版)『ドリームガールズ』でジェニファー・ホリディが演じた役を、映画で演じて「And I Am Telling You」を歌っただろ? 実を言うと、俺が有名アーティストと生まれて初めてやったギグはジェニファー・ホリディだったんだ。俺が高校生のとき、ジェニファー・ホリディがショーでヒューストン(グラスパーの地元)に来たんだけど、彼女のピアノ・プレイヤーが飛行機に乗り遅れて来れなくなった。それでスタッフが俺の高校に来て、「これからジェニファー・ホリディのコンサートで弾いてくれ」って俺をクラスから呼び出したんだ。それで「And I Am Telling You」をジェニファー・ホリディのために弾いた。だから、これですべての縁が繋がったという感じだね。




ジェニファー・ハドソン
2006年の映画デビュー作『ドリームガールズ』で共演のビヨンセ(グラスパーと同じ高校出身)を圧倒し、2021年の『リスペクト』ではアレサ・フランクリンみずから本人役に指名。いつの時代にも通用する歌唱力は、幼少からゴスペルで鍛え上げたもの。女優としてアカデミー賞、歌手としてグラミー賞を獲得。(Photo by John Shearer/WireImage)

―『Black Radio』にはこれまでコモン、Qティップ、ヤシーン・ベイなど伝説的なラッパーが参加してきました。『Ⅲ』ではそのリストにD・スモーク、ビッグ・クリット、タイ・ダラー・サインなどが新たに加わりました。先ほど「俺はトレンドを追わない」と語っていたように、あなたがラッパーを選ぶ理由は人気や知名度ではないと思います。今回加わったラッパーたちのどんなところが相応しいと考えて起用したのでしょうか?

グラスパー:彼らは伝えなければならない意見を持っている。そして彼らは根っからのアーティストだと思う。つまり真のアーティスト。一般には受け入れられないようなことを言ったりもするけれど、どれも言及されるべき耳が痛い正論だったりする。スーパー・ドゥーパー・ドープで最高に才能溢れたアーティストたちで、俺が絶対に一緒にやりたいと思った人たちばかりだよ。

例えば、タイ・ダラー・サインとはずっと一緒にやりたいと思っていた。だって彼は、EDMワールドにもいて、ヒップホップ・ワールドにもいて、ニューR&Bワールドにもいて、オールドR&Bも大好きで、どこにでも出没する。しかも何をやっても上手いんだ。マジで才能に溢れたアーティストだと思う。だから彼とは絶対にやりたかったし、実際にドープなコラボレーションになった。彼に限らず、俺が起用するアーティストは全員、俺が素晴らしいと思うアーティストで、一緒にすごいものを作ることができる人たちばかりだ。人気の度合いは関係ないんだ……まあ、多少は誰だかわかるようでないとダメだけど(笑)。誰も知らない新人アーティストだけを起用した『Black Radio』もいつか作りたいと思ってる。でも、今の時点ではこの形でやっていきたい。俺自身がもっと上に登り詰めていくことで、初めて無名の存在を引き上げることができるからね。



タイ・ダラー・サイン
YGが2010年にリリースしたシングル「Toot It and Boot It」への好演で注目を集め、ドレイクやテラス・マーティンなど多くの作品に参加してきた西海岸のシンガー。ラップのような歌い方でクラブ・バンガーもこなす一方、オーガニックな曲でソウルシンガー然とした情熱的な歌を聴かせる一面もある。(文:アボかど)

「今」と「歴史」を反映してきた
グラスパーの音楽が変えたもの

―リード・シングル「Black Super Hero」には、キラー・マイク、BJ・ザ・シカゴ・キッド、ビッグ・クリットの名前がフィーチャーされています。さらに、DJジャジー・ジェフやリサ・ハリス、あなたやデリック・ホッジの子供も参加している。そんなふうに出自や年齢がバラバラなゲストが集まっていることは、この曲が伝えたいメッセージと関係ありそうですか?

グラスパー:どこの出身だろうが、どこで育っていようが、どこで暮らしていようがアメリカにおける黒人のストーリーは同じなんだ。アメリカで黒人でいるということは、生まれた時から「人生をしくじる」ようなシステムのもとで生きていくことを強いられるようになっている。それがアメリカなんだ。アメリカのシステムそのものが、黒人はまともに生きていけないようにできている。だからこそ、尊敬できる存在や希望を与えてくれる存在、勇気づけてくれる存在が必要なんだ。”Black Super Hero”こそが、手を差し伸べ、励まし、奮い立たせてくれる存在であり、俺たちにはそういう存在がいるんだってこと。アメリカのどこの街にいようと、黒人であれば必ず潰されそうになる。でも、周りには必ず立ち上がるために手を差し伸べてくれる人がいるんだ。



―メッセージ性でいうと、『Black Radio』シリーズでは毎回スポークンワードが使われていますよね。グラミー賞を受賞した『2』の収録曲「Jesus Children」でも入っていましたし、『Ⅲ』ではオープニングの「In Tune」だけでなく、H.E.R.が歌う「Better Than I Imagined」でもミシェル・ンデゲオチェロの語りが挿入されています。

グラスパー:俺は音楽をバックに語りが入るときの、その質感が好きなんだ。どんなにディープなことを歌っていても、歌だとそのメッセージが伝わりづらかったりする。でも、スポークンワードだとみんな言葉に耳を傾けるだろ? メロディを歌っていないだけで言葉が直に入ってくる。ニーナ・シモンがプロテストの手段として使っていた理由もそこなんだ。スティーヴィー・ワンダーもそうだよね。だから、特に重要なことを伝えたいときにこの手法を使うんだよ。「この言葉をしっかり聞いてほしい。理解できないかもしれないし、見落とすこともあるかもしれない。それでも聞いてみてほしい」ってことだね。



―最初にタイトルの由来について、「ブラックボックスはどんな事故があってもきちんと記録が残るようになっている」と話していましたよね。それは音楽遺産を未来に継承することだけでなく、「その時代にアメリカで起きた社会的な問題を記録しておく」みたいなことのメタファーでもあるのかなと思ったんですが、いかがですか?

グラスパー:ニーナ・シモンはこんな名言を残している。「時代を反映させることはアーティストの責務である」。これは俺たちの責務なんだ。時代を記録せずにどうして自分をアーティストと呼べるんだ? アーティストは自分たちが生きている時代を記録しなければならない。これはとても重要なことだ。多くの人々が歴史を研究していく一方で、同時に歴史の削除も進んでいる。今、俺たちが知る歴史がそうだ。真の史学者であるなら、「今」を保存しておきたいだろ? それこそが真の歴史になるわけだから。だから俺が音楽をやるときに必ず意図しているのは、今現在起こっていることを象徴したものにすること。時には少しだけ、時には多く。それは曲によって違うけれど、俺の曲を聴いたら、「これは2011年頃だな」「これは2013年だな」「2022年だな」と必ずわかるはず。そう気づかせてくれる何かしらの要素を入れているんだ。

―『Black Radio』はその後の音楽シーンを塗り替えた歴史的な作品で、ミュージシャンの演奏の価値を高めたことが、このシリーズの大きな意義だと思います。あなた自身は、このシリーズの功績についてどんなふうに考えていますか?

グラスパー:ハイレベルの音楽アートが高く評価される道を拓いたと思っている。グラミー賞でも、『Black Radio』の影響で新しいカテゴリーができたほどだ(2013年に新設された最優秀プログレッシブR&Bアルバム部門を指すと思われる)。R&Bカテゴリーではあるけど、「R&B・アンド・ビヨンド」と呼ぶべき音楽に、新しい可能性を広げるきっかけになった。そのおかげでスナーキー・パピー、ジ・インターネット、ハイエイタス・カイヨーテのようなバンドたちの「居場所」ができた。サンダーキャットだってそうだ。

それ以前のブラックミュージックには、小さな枠しか与えられていなかった。グラミー賞を取りたかったり、ノミネートされたりしたければ、決められた形の音楽をやらなきゃならないと思い込まされていた。クリス・ブラウンみたいな音じゃないとダメとか、「こういうサウンドでないと認めない」みたいな感じで、(先進的なアーティストの)入り込める場所が存在しなかったんだ。でも、『Black Radio』が高く評価されたおかげで新しい場所が生まれた。今ではサンダーキャットみたいな不思議系であっても大丈夫と思えるようになったんだ。たくさんの道が切り拓かれたのは素晴らしいことだよね。特定の枠にハマる必要なく、自分らしくやっていいんだと思えるようになったわけだから。もちろん、グラミー賞がすべてではないけど、いい傾向だと思う。


Photo by Masanori Naruse

―最後の質問です。この世を先立ってしまったアーティストのなかで、もし今も健在だったら『Black Radio』に起用してみたかったシンガーはいますか?

グラスパー:うーん……(考え込んで)ダニー・ハサウェイ。 

―その理由は?

グラスパー:ダニー・ハサウェイを選んだのは、ダニー・ハサウェイだから(笑)。彼は演奏もできるし歌えるし、スティーヴィーみたいにマルチ・プレイヤーだ。俺と彼のマインドを合わせたら最高のものが作れたと思う。それからニーナ・シモン。特に今の時代だからこそ彼女がいいんだ。彼女は聴く人が気づかないようにプロテスト・ソングを作ることができる奇才。本当に賢くすり抜ける技を持っている。今の時代にはその才能が必要なんだ。

―ひょっとしたら、ゴスペル・シンガーだったお母さんのキム・イヴェット・グラスパーを挙げるかなと思ってました。

グラスパー:ああ! 実は頭のなかにあったけど、誰も俺の母親がどんなシンガーか知らないから記事にするにはちょっとな、と思って考え直したんだ(笑)。『Canvas』(2005年の2ndアルバム)に入っている「I Remember」の冒頭で、母の歌声を少し引用したことがあるしね。もちろん、母とはやりたいよ。

―そういえば、また相関図を作りました(笑)。

グラスパー:(日本語で)ありがとうございます! 5月に日本で会おうな!

【関連記事】ロバート・グラスパー『Black Radio III』絶対に知っておくべき5つのポイント



ロバート・グラスパー
『BLACK RADIO III』
発売中
日本盤SHM-CD  税込価格:¥2,860
視聴・購入:https://Robert-Glasper.lnk.to/BlackRadio3PR


ロバート・グラスパー単独公演
※どちらも1日2回公演
2022年5月11日(水)ビルボードライブ大阪
http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=13318&shop=2
2022年5月13日(金)ビルボードライブ横浜
http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=13319&shop=4



『LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2022』

日程:2022年5月14日(土)、5月15日(日)
11:00 開場 / 12:00 開演(予定)

会場:埼玉県・秩父ミューズパーク
〒368-0102 埼玉県秩父郡小鹿野町長留2518
会場アクセス:https://www.muse-park.com/access#map

チケット:
一般・指定席(前方エリア)1日券 16,000円(税込) ※両日SOLD OUT
一般・芝生自由1日券 13,000円(税込)
中学生高校生・芝生自由1日券 6,000円(税込)
駐車場1日券 3,000円(税込) ※5/14(土)SOLD OUT
シャトルバス利用券(往復)料金未定 西武秩父駅⇔会場(約15分)
※小学生以下は、芝生自由エリアに限り保護者1名に付き1名まで入場可
※駐車券はイープラスのみで販売
※シャトルバス利用券の詳細は追ってお知らせいたします

出演:
5月14日(土)
DREAMS COME TRUE featuring 上原ひろみ, Chris Coleman, 古川昌義, 馬場智章
セルジオ・メンデス
SIRUP
Ovall - Guest : SIRUP, さかいゆう, 佐藤竹善(Sing Like Talking)
aTak
チョーキューメイ
kiki vivi lily

DJ
YonYon
松浦俊夫
沖野修也(KYOTO JAZZ MASSIVE / KYOTO JAZZ SEXTET)
Licaxxx

5月15日(日)
ロバート・グラスパー - Robert Glasper (key) / David Ginyard (b) / Justin Tyson (ds) / Jahi Sundance (DJ)
SOIL&”PIMP”SESSIONS - Guest : SKY-HI、Awich、長塚健斗
Nulbarich
Vaundy
WONK
Answer to Remember - Guest : KID FRESINO, ermhoi, Jua, 黒田卓也
Aile The Shota

DJ
柳樂光隆(Jazz The New Chapter)
DJ To-i(from DISH//)
DJ Mitsu the Beats
みの

各プレイガイドにてチケット発売中
https://eplus.jp/lovesupreme/

公式サイト:https://lovesupremefestival.jp

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