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フジロック総括 「洋楽フェス」復活の熱狂、浮き彫りになった新たな課題

Rolling Stone Japan / 2022年8月8日 19時30分

ジャック・ホワイト(Photo by David James Swanson)

7月29~31日にかけて開催されたフジロックは、海外アーティストを迎えて3年ぶりの通常開催。前夜祭を含めて7万人近い来場者を記録し、大いに盛り上がった。音楽ライター・小池宏和が3日間の模様を振り返る。

【画像を見る】フジロック22 ライブ写真まとめ(記事未掲載カット多数)

「特別なフジロックから、いつものフジロックへ」。今年3月、「早割」こと早期割引チケットの受付スケジュールとともにフジロック・フェスティバル事務局から発せられたのが、前述の表題を掲げた「FUJI ROCK FESTIVAL 22開催にあたって」のステートメントだった。2020年は開催中止、2021年は国内アーティストのみの出演によるウィズコロナ時代のフェスのあり方を模索し、議論を巻き起こしながらの開催となった。今回、2年ぶりに「早割」を復活させたことも、「いつものフジロック」に向けた意思表示のひとつだったろう。

出演アーティストが順次発表される一方、会場での完全キャッシュレス決済という新たな試みがアナウンスされるなど、感染症対策も含め順調に開催本番へと向かっていた。しかし、7月に入ると首都圏を中心に新型コロナウイルスの感染者数が急増。フジロック開催の直前には、WHO(世界保健機関)によって直近の1週間に日本の新規感染者数が世界最多にのぼったことが報じられる。また、開催直前・開催中も、体調不良によるアーティストの出演キャンセル(必ずしもコロナ陽性の検査結果によるものではないが)が相次いだ。不運というより他にないが、より慎重な姿勢が求められる中での開催となったわけだ。



開催本番にあたる7月29日・30日・31日。前夜祭を含めて筆者は全日程に参加したが、フジロック会場の感染症対策は周到に講じられていた。至る所に手指の消毒液が設置され、水場には常にハンドソープが補充してある。ライブエリア前方では、ソーシャルディスタンスを確保するための目印が設置され、水分補給のためのソフトドリンク以外は飲食禁止。マスク着用は必須(ただし、熱中症対策として開放的な空間であれば外してもよい、というもの)。もちろん、大声での発声は自粛が求められる。各ステージではライブが行われるたびにMCが登場し、以上の注意事項アナウンスをしきりに繰り返していた。並々ならぬ労力が注がれていたのは明らかだ。

突然の不運と困難を前に、参加者側にも柔軟かつ協力的な姿勢が求められる、極めてハードルの高い開催になったことは否めない。そこでは、海外アーティストや海外からの参加客も多いフジロックならではの、文化的な理解や姿勢の違いも浮き彫りになった。それでは以下、各日の来日アーティストのパフォーマンスを中心に、レポートを進めていきたい。


1日目・7月29日(金)

最大規模ステージであるGREEN STAGEのヘッドライナーは、ニューヨーク出身の人気バンドであるヴァンパイア・ウィークエンド。グループとしては、2018年のフジロック出演以来となる日本でのステージだ。序盤こそ、外部スピーカーへの出力不良でライブ中断というハプニングがあったものの、その後は明瞭なバンドアンサンブルによってユニークなポップソングを連発し、オーディエンスを魅了する。心をくすぐるように軽妙な響きではあるけれど、以前よりも重心のしっかりした頼もしい演奏だ。エズラ(Vo, Gt)が前回のフジロック出演を回想しつつ、披露されるのは「2021」。静謐で厳かな演奏がドラマティックに展開し、トーキング・モジュレーターも駆使して幻想的にフィニッシュする。本編終盤は人気曲できっちり盛り上げ、フィールドに地球儀型のバルーンも投入されたアンコールの最後はボブ・ディラン「Jokerman」をロックステディ風にカバー。チャーミングなポップサウンドはそのままに、トラブルをものともしない佇まいとサービス精神が際立つステージだった。


ヴァンパイア・ウィークエンド

この日、朝一番のGREEN STAGEを盛り上げたのは、モンゴル出身のメタルバンドであるザ・フー(THE HU)。2本のエレクトリック馬頭琴や口琴、そして雄々しいコーラスといった土着の音楽エレメントに強い誇りを伺わせる表現スタイルが実に格好いい。フジ帰還を果たしたオーストラリアのハイエイタス・カイヨーテは、筆者の移動時間の都合上少ししか観られなかったけれども、エキセントリックなブルーの衣装に身を包んだネイ・パーム(Vo。急遽ソロ名義でのフジ2日目出演も決定)を中心にエレガントな演奏とハーモニーワークが映える新作モードを見せてくれた。


ハイエイタス・カイヨーテ


ボノボ

WHITE STAGEに出演したニューヨーク出身のラッパー/プロデューサーであるJPEGMAFIAは、なんと香川トヨタ自動車のツナギを拝借・着用して登場。自らトラック出しをしつつ、勢いよくステージ上を跳ね回ってラップする。DTMミュージシャン界隈からも注目を浴びるトラックメイキングは奇抜なことこの上ないが、通訳を介してのMCや、カーリー・レイ・ジェプセン「Call Me Maybe」をアカペラでカバーする一幕もあり、フィジカルなエンターテイナー精神が存分に発揮されていた。ニューアルバム『Fragments』を携え、5年ぶりにWHITE STAGEへと帰ってきたUK出身のボノボ(BONOBO)は、今回もバンドセットで、エレクトロニックとオーガニックが溶け合う魅惑のライブを披露した。そして、米カリフォルニア出身のバンドであるドーズ(Dawes)は、「苗場音頭」(前夜祭の盆踊り)を出囃子にFIELD OF HEAVENに登場。キャッチーなアメリカン・フォーク・ロックを基調としながら、インプロヴィゼーションやジャムで変幻自在に高揚感を育んでしまう。そのライブ演奏の柔らかな支配力は逃れ難いものがあった。

2日目・7月30日(土)

この日のGREEN STAGEヘッドライナーはジャック・ホワイト。過去にはザ・ホワイト・ストライプスとザ・ラカンターズ、ソロ名義でフジ出演、デッド・ウェザーのメンバーとしても来日経験があり、今回のフジロック前にはテレビ出演でも話題となった現行ロックシーンのスターである。今年は『Fear of the Dawn』、『Entering Heaven Alive』という2作のソロアルバムを発表してのフジ出演。辣腕バンドの演奏も凄まじいのだが、それが霞んでしまうくらい、キャリアを広く見渡す選曲の、多彩で逐一刺激的なジャックのギタープレイが強烈だ。「Taking Me Back」にしても、リスナーと真っ向対峙する武装としてのギターが響き渡る。有難い恩恵のみならず、ときには畏怖さえもたらすジャックは、まさに神としてそこに君臨していた。高度な演奏技術を追い越してしまう気迫が、確かにそのサウンドに宿っていたのだ。


ジャック・ホワイト

インド出身のスラッシュメタル/ラップ・ミクスチャー・バンドであるBLOODYWOODは、ボーカル2人のドスの効いた煽りも手伝って、絶好の目覚ましアクトであった。訛りのあるスクリームやラップはそのまま彼らのアイデンティティを表出させ、何しろメンバー全員の面構えがすこぶる格好いい。出身や表現スタイルは違えど、前日のTHE HUと共通するロックバンドの魅力を溢れ出させていた。UKの人気バンドであり、ここ数年の間に傑作アルバムを量産してきたフォールズは、まさにその収穫期を迎えているかのような充実のライブを繰り広げる。ポストパンク/ダンスロックを起点にキャリアを重ねて15年以上、視覚的な演出こそ皆無だが、音の華やかさだけで広大なライブ空間を満たしてしまう。序盤にロックなアタック感を見せておいて、恍惚のダンスタイムに持ち込み、熱狂のジャムで締め括るという流れも鉄壁であった。


フォールズ

日本のバンドマンたちとも縁深い台湾のFire EX.(滅火器)は、エモーショナル・ハードコアから骨太なビッグメロディまで、懐の深いライブを披露。終盤にはTOSHI-LOW(BRAHMAN / OAU)もボーカルでゲスト参加し、母国の英雄であるFire EX.の功績を称えた。USの若手シンガーソングライターであるスネイル・メイルは、オアシスの初期バンドロゴと「Live Forever」の文字が描かれたTシャツ姿で登場。ポストグランジ的なダウナーなメロディと、伸びやかで風通しの良いメロディを自由に行き来する、地域性を突破した現代的なソングライティングの幅が持ち味だが、それ以上に力強く艶のある歌声が成長の証を刻みつけていた。


Cornelius

RED MARQUEEを早々に入場規制にしてしまったアーロ・パークスは、民族的/セクシュアリティのバックグラウンドを文学的に落とし込んだ表現で注目を集めてきたアーティストだが、シャーデーを彷彿とさせる優美にしてキュートな音楽性がライブエリアを一息に包み込む。まるでRED MARQUEEが丸ごとアーロと恋に落ちるような体験であった。そして、WHITE STAGEのトリを飾ったのはライブ活動復帰のCornelius。終盤しか観ることができなかったけれども、徹底してCorneliusでしかあり得ない美意識に物言わせるパフォーマンスは、「Star Fruits Surf Rider」や「あなたがいるなら」まで、絶大な説得力に満ち満ちていた。

3日目・7月31日(日)

最終日のGREEN STAGEヘッドライナーは、2020年の来日公演が無念の中止となっていたUSのシンガーソングライター、ホールジー。そのため日本でのステージは2016年以来となる。現在も最新ワールドツアーの真っ只中というスケジュールだ。盛大な花火の打ち上げで開演。しかし、バンドの機材が置かれただけの殺風景なステージは、自ずとホールジー自身が激しく動き回り、オーディエンスの視線を集めなければならない構造になっていた。決して声量に物言わせるタイプのシンガーではないけれども、ストーリーテリングとサウンドに込めた激しい感情の蠢きを全身で表現する。余裕や貫禄ではない、トップスターの意地を全力で見せつけるショウだ。キャリアを見渡すヒット曲のつるべ打ちのみならず、リバイバルヒットとなったケイト・ブッシュ「Running Up That Hill」のカバーもステージ一面に揺らめく炎の中で披露した。


ホールジー

相変わらず、これが本当にライブなのかという精微な人力ダンスグルーヴを奏でていたのは、UK出身のトム・ミッシュ。ブラックコンテンポラリーからネオソウル、現代ジャズまでを見渡しながら、過不足なくキャッチーなサウンドをデザインするさまには溜息が漏れる。今やファッション・アイコンとしても注目を集めるUSのジャパニーズ・ブレックファストは、WHITE STAGEで伸び伸びとその独創的なポップ観を描き出す。犬の顔をあしらったトップスを身に纏い、笑顔で巨大な銅鑼を打ち鳴らすさまも楽しそうだ。白昼夢のようなサウンドから軽快なオルタナビートポップ、そして映画『恋する惑星』にフィーチャーされたフェイ・ウォンの「夢中人」(オリジナルはクランベリーズ「Dreams」)もカバーするという、サブカルファンの心をくすぐりまくるステージだ。


トム・ミッシュ

流暢な日本語MCを交えながら、洒脱なファンキーポップとアクロバティックなマスロックを使い分ける台湾のエレファント・ジム。小雨のそぼ降る中、アナドルロックと呼ばれるトルコ由来の力強いサイケロックでオーディエンスの体を揺らしてくれたオランダのアルトゥン・ギュンは、フジロックが得意としてきたワールドワイドなフォーク・パンクやエキゾ・サイケの最新枠といったところだろう。夜のRED MARQUEEに出演したモグワイは、ミニマルなシンセサウンドをフィーチャーしたモードを見せながらも、分厚いギター音響で迫るテーマパーク・アトラクションのようなライブ体験は不変。ラストは「Mogwai Fear Satan」で完璧に締め括った。

全員がTシャツにハーフパンツという、ライブキッズのような装いで登場したUKのブラック・カントリー・ニュー・ロード。しかし、メンバーが交代でリードボーカルを務める新体制、しかもすべて新曲というトライアルを繰り広げたステージは、若者たちがトラッド/フォークの広大な裾野から音楽の神秘的な力を抽出しようとする、このバンドの根源的思想に触れるような大熱演であった。タイラー・ハイド(Ba)は、最後に感極まって涙を見せる。また、凱旋を果たすように2度目のWHITE STAGEへと登場したスーパーオーガニズムは、ニューアルバム収録曲を中心に遊び心たっぷりなポップショウを繰り広げるのだが、不敵にして挑発的、パンキッシュな節回しひとつで温度感を決定してしまうオロノ(Vo)の存在感がやはり痛快だ。最後には、オーディエンスや友人をステージに招き入れて賑々しく「Something for Your M.I.N.D.」を放つ。そしてWHITE STAGEの3日間を締め括ったのはムラ・マサだ。ソウルフルな女性ボーカルを迎えたステージで、いびつさも込みでダンサブルにグルーヴする。スケールアップした華やかさと安定感が見事だった。


ムラ・マサ

「いつものフジロック」。本来であれば、それはオーディエンスの歓声や歌声を取り戻すきっかけでもあったはずだ。筆者もそう願っていた。しかし、急変した日本の状況下で、それを達成するのは難しかった。今日、日本と海外ではライブ開催・運営の基準が大きく異なっている。そもそもアーティストたちは、本分としてライブを盛り上げようとするものだし、歓声や歌声は起こりうるものだ。今回のフジロックにおいても、多くの場面で実際にそうなった。一筋縄ではいかない、新たな課題が浮かび上がったわけだが、今後のライブ/エンタメのために、そして次回以降のフジロック開催のために、我々は対話を続け、この課題と真摯に向き合っていかなければならない。


フジロック公式サイト:https://www.fujirockfestival.com/

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