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プロの料理 美村里江のミゴコロ

産経ニュース / 2024年4月23日 14時21分

美村里江さん

多忙な時以外は自炊で、1人暮らし開始から数えると素人料理も20年以上。料理好き仲間で情報交換などしても、なんとなく「家族の好物」「いつもの味」「いつもの食材」に偏っていく。そうして自分の味に飽きてくる。

医療機関はまだ気を抜けないと聞くが、大ざっぱな「世間」的にはようやく新型コロナが日常生活に紛れてきた。1人の感染で作品に参加する100人単位に影響が出る、そんな懸念もやや薄れ、飲食店へ行こうかなという考えも浮かぶようになった。

とろける中トロやら、特別な方法で熟成させた牛肉の希少部位やらの高級食材。そんな贅沢(ぜいたく)もいいが、私がいつも感激するのは、自分が普段作っているような料理が、プロの技で一級品の領域に高められた一皿である。

今回は特にそうだった。

関西の名店で修業された若い店主のお店へ行ったのだが、自分が演じる板前の役に経歴が近いのでそこを選んだ。

清潔感がありながら華美ではなく、季節の野草が飾られた落ち着く空間。調理の見えやすい席で磨き上げられた厨房(ちゅうぼう)を眺めていると、早速1品目が置かれた。

六角の小鉢になじみのある食材が和物として入っている。高級店の1品目としては控えめな見た目…と思いつつ、口に運んで跳び上がった。

イカ、お揚げ、三つ葉を、出汁(だし)とたっぷりのかぼす果汁を加えた大根おろしでみぞれあえにしたもの。

ランクの違いはあれど、どこのスーパーでも手に入る食材。高い物はひとつもない。みぞれあえもよくある家庭料理で、自分でもよく作る。

それなのに、全く知らない味がした。金色の出汁が全食材の特徴をはるか上空へ押し上げた、という感じで唾液があふれて止まらない。よく見ると、イカには目視しにくいほどの繊細な隠し包丁が入っていたりするのだが、それをあからさまに出さず味覚で感嘆させる小鉢に魅了された。

その後も旬のおいしい魚や野菜が続き、夢のような時間であった(板前仕事がよく見えるよう、ありがたいお心遣いもいただいた)。

それでも、やはり1番はあのみぞれあえかな…と思い返していた翌朝、再びの衝撃。

お土産としていただいたクマのそぼろ飯。冷やご飯でも臭みや脂っこさゼロで、力強い旨味(うまみ)だけが凝縮されていた。

また違う角度でのプロの仕事にしびれ、幸福感に浸った。

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