阪神大震災 被災地の企業11社が備蓄食の詰め合わせBOX開発 おいしく食べて循環
産経ニュース / 2025年1月10日 10時30分
阪神大震災から30年―。通販大手のフェリシモ(神戸市)が、被災した神戸、芦屋、西宮の3市に本社を置く企業10社の備蓄食を詰め合わせたセットを発売した。被災者へのアンケートをもとに「ふだん食べてもおいしいもの」を組み合わせた。賞味期限が近づくとメールなどで通知。食べきって半年ごとに更新と備蓄を循環させることで減災に対する意識の持続を期待している。
商品名は「備蓄でお守りKOBE BOX2」。令和5年12月に4社の備蓄食セットで販売開始。6年12月、第2弾として10社に拡大した。
阪神大震災、東日本大震災などの被災者約500人にアンケート。「とにかくお米が食べたかった」「野菜不足で便秘になった」「しんどい気分を楽にしてくれるおやつは大事」など、実体験にもとづく声をもとに食品を選んだ。
神戸の海や山、ポートタワーなど建物のイラストをあしらった箱に、ビーフシチュー、サケの塩焼き、野菜と果物のジュース、クッキーなど1人前3食分の食事とおやつを詰め合わせた。
これら備蓄食に冷蔵庫内の食材や身近な食品を加えて調理すると、2~4人分の食事に増やせる。レストランのシェフによるレシピをまとめた冊子も同封した。
賞味期限を通知
備蓄食といえば、とかく賞味期限の長さを優先し、味は後回しになりがち。今回はふだん食べてもおいしいものを厳選した。賞味期限は最短7カ月。忘れないよう期限が近づくと、お知らせのメールやはがきが届く。何事もなく過ごせたら食べきり、次の半年用に食品を更新し、備蓄を循環させていく。
販売はウェブで。価格は1箱3200円(税抜き)。うち30円は基金として運用され、被災地の支援に役立てられる。
フェリシモは、自然災害の復興支援を社業の一つととらえた活動を続けてきた。防災、減災の関連商品を販売する一方、売り上げの一部を基金として運用し、被災地の支援事業に役立てている。
「お客さまとともに考え、行動」の30年 フェリシモ 矢崎和彦社長
阪神大震災が起きた平成7年、フェリシモは本社を大阪から神戸に移転した。矢崎和彦社長は「決断に一切迷いはなかった」と言い切る。矢崎氏にこの30年を振り返ってもらった。
フェリシモは昭和40年、大阪で創業。通販事業の発展のため「ファッション都市」を宣言した神戸を第二の創業の地に選んだ。
移転は平成7年2月に予定していたが、1月17日に震災が神戸を襲う。入居予定のビルが「折れた」との情報が入り、矢崎氏は神戸に駆けつけた。情報は誤りで、建物の安全性は確認できた。
「結婚式前日に花嫁がけがをしたからといって結婚を白紙にするなんてことはしない」
そんな例えで社員に移転の決行を宣言、鉄道や道路などインフラが復旧した9月に引っ越した。
顧客からは「大丈夫か」と問い合わせが相次いだ。それは「商品が無事届くのか」というよりも神戸を心配してくれる声で、支援物資や義援金が続々と届いた。
「単なる売る人、買う人という関係を超えた絆を感じました」
義援金は約4千万円にのぼり、日本赤十字社に寄付。さらに支援を継続してもらうため「毎月100円義援金」を顧客にお願いしたところ、7年から6年半で総額4億円を超えた。被災した10市10町のまちづくり協議会やNPOに意見を求め、地域が必要とする事業にお金を使ってもらった。
平成23年3月11日午後2時46分、神戸の本社ビルが大きく揺れた。東日本大震災の発生である。
「今度はわれわれがお返しする番だ」。矢崎氏は大阪での打ち合わせを切り上げて帰社した。その時の光景が今も忘れられない。社員が集まり、会議室のホワイトボードに書き込んでいた。今すぐやるべきこと、誰が、どの部署が何をやるのか。優先順位と役割分担を次々に決めていた。
「社長不在でも勝手に動いていた。社員を心から頼もしく思いました」。社員が続々と被災地に向かう。「どこから来た」「神戸から来た」。手を取らんばかりに喜んでもらえたという。
「当事者だからこそわかること、できることがあります」
震災の7日後、「東日本大震災100円義援金」を立ち上げた。10年後、「もっとずっときっと基金」へと名称を変え、支援対象を岩手、宮城、福島の3県から日本全国へと広げた。
その後は復興支援にとどまらず「防災」「減災」にも取り組むようになり、防災グッズの企画、開発、販売も手がけるようになった。「お客さまとともに考え、行動する」スタイルが確立されていった。
能登半島地震から1年。矢崎氏は能登に伝えたいことがある。「神戸を見てほしい。絶対に戻る。良くなっていく。みんながそう思って行動すると、そうなるんです」
震災を経験してフェリシモは変わった。この30年で学んだものは数知れない。
「あの時、迷わずに来てよかったと思います」(安東義隆)
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