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東洋の大スケールを表現 100年建築の「大阪倶楽部会館」 紳士の社交場 歴史紡ぐ 大大阪 モダン建築を歩く㊤ 大阪俱楽部(1924年)

産経ニュース / 2024年5月7日 10時30分

かつて大阪の街が繁栄を極めた時代があった。市域の拡張によって規模、人口ともに当時の東京市を抜き去り、日本一の大都市に躍り出たのは今からおよそ100年前の大正14(1925)年。御堂筋の拡幅や地下鉄などのインフラ整備も急ピッチで進み、大阪は産業や金融、文化の拠点が集積する「大大阪」へと発展を遂げた。そんな黄金期の一端を今に伝える遺産のひとつが、戦前に建てられた会員制俱楽部の建築だ。今も現役で使われ続ける大阪の3つの俱楽部建築の歴史をたどりながら、その魅力を探ってみたい。

想像の翼広げる

大阪の中心部に位置する淀屋橋。再開発ラッシュに沸くオフィス街の一角に、大阪俱楽部(国登録有形文化財)はある。茶褐色の外壁タイルや技巧をこらした窓の意匠が重厚な雰囲気をただよわせ、現代的なビル群の中で異彩を放つ。

たとえば、正面に並ぶ4本の石柱。柱といいながら建物から独立して立っておりオブジェのようだ。先端には怪獣を思わせる彫刻があるが、風化が進み正体はわからない。玄関ホールに足を踏み入れると、正面には邪鬼をかたどった泉盤。邪鬼の口からは水が出る仕組みになっている。

「邪鬼はにらみを利かせる門番のような役割でしょうか。石柱や怪獣の彫刻の意味については見当もつきません」。大阪俱楽部の田中耕治事務局長は話す。

機能的・合理的な現代建築ではまず見られない不思議なオブジェの数々。それらを鑑賞しながら自由に想像の翼を広げられることが、大阪俱楽部をはじめとするレトロ建築の魅力のひとつかもしれない。

自由様式を実践

会員制社交俱楽部はヨーロッパ発祥のシステムだ。日本では、明治13(1880)年に福沢諭吉が東京で設立した交詢社が最古とされ、その後も政治家や外交官らが集う俱楽部が次々に誕生した。

大阪俱楽部は、大阪に社交の場が少ないことを憂えた中橋徳五郎(大阪商船社長)や鈴木馬左也(住友家総理事)ら実業界の有志が大正元(1912)年に設立。活動拠点の会館には、談話室や食堂のほか、レクリエーションの場として撞球(どうきゅう)(ビリヤード)室や囲碁室などが設けられた。

現在の会館は、初代の建物が火災で焼失した後に再建された2代目。大阪ガスビルディング(国登録有形文化財)なども手がけた建築家、安井武雄が設計し、関東大震災の教訓を生かして耐火・耐震を重視した堅牢(けんろう)な建物を完成させた。

竣工(しゅんこう)当時、「南欧風ノ様式ニ東洋風ノ手法ヲ加味セルモノ」(『建築雑誌』458号)と解説された大阪俱楽部の建築様式。建築史家で大阪公立大の倉方俊輔教授は、「大学卒業後に満州に渡り、大規模な建築を手がけてきた安井にとって東洋風の意味するスケールは日本国内にいて想像するよりも大きなものだったのではないか」とし、会館前の独立柱はインド風、玄関ホールの邪鬼の造形にはスペインの様式からの引用がみられると指摘する。

俱楽部としての品格を保ちつつ、南欧と東洋が交差する特異な空間を成立させた大阪俱楽部の建築。特定の様式にとらわれない「自由様式」を提唱した安井の手腕を感じさせる作品だ。

時代の流れ対応

大阪俱楽部では、毎週水曜に午餐(ごさん)会が開かれている。昼食後に有識者による講演を聴くメンバー向けの催しで、昭和27年以来3400回超を数える。過去には、政財界から中曽根康弘や松下幸之助、思想・宗教分野から鶴見俊輔や高田好胤、作家では今東光(こんとうこう)や山崎豊子と各界を代表する人たちも講師を務めた。

紳士の社交場として長らく活動してきた大阪俱楽部だが、令和5年度からは女性メンバーの受け入れを始めた。会館トイレの洋式化を進めるなど、時代の流れに対応した動きも本格化させている。新しい伝統が生まれる日も、そう遠いことではないのかもしれない。

時代の変遷を見届けてきた現会館は今月19日、竣工100年の節目を迎える。(荒木利宏)

大阪俱楽部

・大阪市中央区今橋4丁目4の11

・竣工 大正13(1924)年5月19日

・構造 鉄筋コンクリート造(地上4階、地下1階)

・設計 片岡建築事務所(安井武雄)

・国登録有形文化財、大阪市指定文化財

・公開見学会を開催(有料、年6回)。06・6231・8361

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