迫る拠点病院からの退去期限 大阪の性暴力救援センター 被害者に寄り添える運営模索
産経ニュース / 2025年1月11日 17時31分
存続危機にあるNPO法人「性暴力救援センター・大阪SACHICO」(サチコ、大阪府松原市)の運営を巡り、大阪府が本格的な検討を始めた。民間病院を拠点に24時間相談に対応してきたが、医師らへの負担集中を懸念する府側は病院外に拠点を置き、複数の病院と連携する枠組みを想定。サチコは現在の拠点病院から3月末での退去を求められており、現場が納得した形で移行できるかが焦点だ。
サチコは平成22年、阪南中央病院を拠点に、性暴力被害者の相談を年中無休で受け付ける全国初のワンストップ支援センターとして開設された。病院拠点型ゆえに被害直後の初期対応が可能で、カウンセリングや法律相談、警察への仲介といった専門的な支援を総合的に受けられる。
「あなたは悪くない」
「何をされたのか、自分の言葉で話すことがどれだけ残酷か。(サチコがなければ)娘の負担を考え、回復を諦めた」
昨年12月4日、サチコを支援する市民団体が開いた記者会見。娘が小学1年の時に教員から性暴力を受けた母親は声を絞り出した。
被害の把握は犯行から数年後、この教員が逮捕されてからだった。いったい、どうすれば…。絶望の中で助けを求めたのがサチコだった。
性暴力被害者にとって、警察や医療関係者らとの面談のたびに自身の体験を説明させられることは二次被害につながる。サチコで娘が打ち明けた話は病院側と共有された。医師から「あなたは悪くない」と声をかけられ、「診察室から出てきた娘のほっとした表情が忘れられない」と母親は明かす。
当時追い込まれていた母親も、相談するまでは死の選択が頭にちらついた。サチコでケアを受けた今、「生きているのはサチコのサポートがあったから」と語る。
昨年4月から診療休止
サチコで受ける相談はセクハラや性的虐待、不同意性交など幅広い。開設から昨年3月までの14年間の累計で電話は5万2198件、来所は1万4610件に上る。
しかし医師の残業規制が強化された「2024年問題」で病院側の協力を得るのが難しくなり、同年4月から診療機能は休止状態。今年3月末での退去を迫られている。
市民団体は公的病院を拠点にした形での存続を求め、府も受け入れ先を探したが、手を挙げる病院はなかったという。専門の知識や技術を持つ医療従事者が必要な上、24時間対応など負担が重いのが理由。このため府は拠点を病院外に移し、府内の公的・民間の協力病院計10カ所と連携して相談に対応する枠組みを整備する方向という。
協力病院でも事件の証拠になる体液の採取、緊急避妊薬の処方など必要な処置は可能だ。ただ、多いときで30人いたサチコの支援員は15人に半減し、被害者に同行して病院側と情報を共有するのは難しい。サチコの久保田康愛(やすえ)理事長は「被害者のペースに合わせて支援員が寄り添うことが欠かせない」と強調する。
大阪府は関与強化
こうした状況で、府は関与を強化する方針だ。これまではサチコに補助金を支給してきたが、「責任を持って進める」(吉村洋文知事)ため、性暴力被害者支援を府の主体事業と位置づけ、サチコに委託する方式に切り替える。
府は昨秋、ワンストップ支援センターの持続可能な運営を議論するワーキンググループを発足。男性や性的マイノリティーも対象にした支援機能強化を盛り込んだ素案を今春までにまとめる。
久保田理事長は「委託方式への切り替えは一歩前進だが、サチコが何を目指して活動しているのか、協力病院に理解してもらい、連携を深めることが大事だ」と話した。(藤谷茂樹)
国主導で専門医療機関設置を
広島大の北仲千里准教授(社会学)の話
サチコは病院拠点型のワンストップ支援センターとして多くの性被害者を受け入れ、専門的な知識を持つ医師とともに支援のノウハウを蓄積してきた。大阪府が提案する相談センター中心連携型にする場合、同水準の支援を協力病院と構築できるかが課題となる。
まずは協力病院での医師の専門性が問われる。適切な診断や証拠の採取・管理を行わなければ、被害者が警察に被害を申告しても捜査できないことがあるためだ。各所に協力病院が分かれるため、病院や警察などに被害者と同行する支援員の負担も大きくなる。
ただ、病院拠点型では医師や看護師の負担が大きいことも事実。被害者の診療は精神的な負担に配慮して診療時間外に行ったり、ほかの患者に比べて時間をかけたりし、捜査や訴訟への協力を求められることもある。
病院側は使命感から協力してきたが、医師の働き方改革もあり、現状維持が難しくなっている。十分な支援態勢を構築するには、全国各地の都市部だけでも、国が主導して性被害者向けの専門医療機関を設置すべきだ。(聞き手 山本考志)
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