1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. カルチャー

教師は、教師になった人の人生を踏みにじる仕事…なぜ教員志望は減少しているのか「人がこんなに大事にされていないことに危機感」

集英社オンライン / 2023年7月5日 12時1分

教師不足、ひいては給特法の問題について当事者とも言える「教員志望の学生」は、この現状をどう捉えているのだろうか。「日本若者協議会」代表理事を務める室橋祐貴氏に、教員志望の学生を対象にしたアンケート調査から見えた「教員志望の学生の本音」を『先生がいなくなる』(PHP新書)より一部抜粋・再構成してお届けする。

ベテラン教員が大量退職と特別支援学級のニーズ高まり

教員の労働環境がいよいよ限界を迎えつつある。

各県内の教員が大幅に不足しており、1学級当たり児童数を増やすなど、子どもにも悪影響を及ぼそうとしている。

例えば沖縄県では、教員不足を背景に一部の公立小中学校で2023年度の1学級当たり児童数が35人から40人に引き上げられる可能性が出てきていた。山口県では、公立中の2、3年で1学級の生徒数の上限を35人から38人に増やすことが決まった。



教員不足が起きている理由はさまざまだが、ベテラン教員が大量退職を迎えたこと、特別支援学級のニーズが高まり、必要な教員数も増えていること、そして教員志望の学生が集まっていないことが大きい。

なぜ教員志望の学生は減少しているのか

文部科学省が2022年1月末に発表した調査結果によると、2021年4月時点で、全国の公立学校1897校で、2558人もの教員が不足。

2022年9月、文部科学省が公表した公立学校教員採用選考試験(2021年度実施)の調査結果によれば全体の競争率(採用倍率)は3.7倍と、1991年と同じ過去最低となった。さらに、小学校の競争率は2.5倍と過去最低を更新した。約10年前、2011年の4.5倍と比べると、半分近くの倍率にまでなっている。

なぜ教員志望の学生が減っているのか? 2022年、筆者が代表理事を務める日本若者協議会では、当事者である教員志望の学生(211人)を対象にアンケートを実施した。

それによると、志望者が減っている理由として、94%の回答者が「長時間労働など過酷な労働環境」を挙げた。さらに、2割の回答者は教員を目指すのをやめたと答えている。

教員志望だった学生「学べば学ぶほど教員を目指さなくなった」

教員志望の学生が減っている理由として、複数回答で最も多かったのは、「長時間労働など過酷な労働環境」で94%だった。次に、「部活顧問など本業以外の業務が多い」が77%、「待遇(給料)が良くない」が67%と続いた。

さらに「現状の教員の労働環境についてどう思っていますか?(自由記述)」という質問では、ほとんどの回答者が記述し、問題意識の高さがうかがえた。その中でもよく指摘されたのが、「残業代が支払われない」「長時間労働が大変で、やりがい搾取になっている」「部活動の顧問が大変」な点である。いくつか回答をピックアップしよう。

「教員になりたいという気持ちはありましたが、あまりにも多すぎる業務、当たり前になっている残業。それに対する残業代は給特法により固定。働き方改革は果たして形ではなく本当に教員のために行われているのか。そんな事ばかり日々のニュースで見ます。大学でもたくさん学びました。入学時は教員を目指していた友人たちも、学べば学ぶほど教員を目指さなくなっていきました。今の労働環境では、正直やりがいだけではやっていける自信がありません。(大学生・3年)」

「両親が教師ですが、人生のほとんどの時間を仕事に充てていて、自分の家庭を大切にする余裕がないことが何より辛いと思います。何か家族イベントがあるごとに謝っていて、何のための人生かと思うことがよくあります。教師は、教師になった人の人生を踏みにじる仕事です。(大学生・2年)」


『先生がいなくなる』より

プライベートの犠牲の上に成り立っているが、そこに対価は発生していない

「ストレートで大学院に通いながら中学校非常勤も勤めている立場で回答する。教員がする仕事なのか、境界線があやふや。時に警察の真似事をして生徒指導を行っていることもあり、疑問に思う。部活動もさながら、生徒同士のトラブルの為に教員は定時以降残って対応することもあり、プライベートの犠牲の上に成り立っている指導である。

しかしそこに対価は発生していない。給特法の4%など今の教育現場には全く似合っていない。対価を与えず結果ばかりを求め、それも教員のプライベートの時間の犠牲のもと成り立つ教育は破綻しているとしか言えない。私は教育に強い憧れを持ち志願して院まで進学したし、教育学部及び研究科では満足のいく研究や経験を積むことができたが、教員になる気はない。(大学院生・2年)」

教員の残業代が出ない根拠になっているのが、給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)の存在である。

残業代を払わない代わりに基本給の4%を「教職調整額」として支給すると定めており、結果的に長時間労働に歯止めが利かず、教員の業務過多を生み出している。

現在、政府や自民党内ではこの給特法をどうするかの議論が行われており、自民党内の改善案では三つあると報じられている。

自民党の三つの改善案、そのうち二つには問題点

一つ目は、給特法を廃止し、会社員と同じように時間に応じた残業代を支給する。

二つ目は、給特法を維持しつつ、現在は基本給の4%となっている教職調整額を十数%まで引き上げる。

三つ目は、この二つの「折衷案」だ。給特法を維持し教職調整額については4%から数ポイント引き上げた上で、学級担任や部活の顧問を務めたり、主任の職に就いたりしている教員に相応の手当を上積みする。

まず、二つ目の案では、現状の長時間労働を肯定することになるため、長時間労働の維持もしくはさらなる延長を招きかねない。

三つ目も同様で、長時間労働の是正にはつながらないことに加え、先進的な学校改革をさまざま行った麹町中学校が、固定担任制を廃止したように、学校側が担任を決めるよりも、生徒が相談したい相手にする形のほうが望ましい。そう考えると、三つ目は、生徒目線が入っていない役割分業を固定化させる施策になる可能性が高い。

一連の教員の働き方改革の最大の目的は、あくまで子どもの教育環境のためである。さらに、給与ではなく、長時間労働を若者が避けていることを考えると、目指すべき方向は、一つ目の、給特法を廃止し、残業をさせない方向に進むべきではないだろうか。

軽視される「ケア」…人がこんなに大事にされていないことに危機感

何より、教育という国家の基盤を作る領域において、人がこんなに大事にされていないことに危機感を覚える。教員に限らず、保育士や介護士、看護師など、人手不足になっている領域に共通しているのが、「ケア」の仕事という点である。対価が支払われない家事や子育て、介護などの「アンペイドワーク」を含め、ケアを受けない者はいない。にもかかわらず、ケア活動もケア活動を担う人々も、あまりに軽視されすぎている。

仕事の機械化が進み省人化される一方、人間にしかできない仕事である「ケア」の社会的位置付けを見直すべき時期に来ていると感じる。それが結果的に、教員不足の解消や少子化対策の強化にもつながるのではないだろうか。

最後に、「教員志望をやめた」学生の声を紹介したい。「教員を目指すためには趣味や学業以外の学習の時間、また研究の時間を4年間も犠牲にしなければならない。その対価として得られるのは安い賃金と重い責任。国家において非常に重要な教育という領域においてやりがい搾取と言わざるを得ない実情。(大学生・4年)」

「労働環境、待遇の改善が見通せず、自分自身を殺すことに繋がりかねない。(大学生・4年)」

この状況を放置していては、「先生がいなくなる」日はそう遠くない。

『先生がいなくなる』 (PHP新書)

内田 良、小室淑恵、田川拓麿、西村 祐二

2023/5/16

1,078円

208ページ

ISBN:

978-4569853468

◆教員不足の原因は、長時間労働を生み出す「給特法」にある!
◇教育現場を残業地獄から救う方策を各専門家が徹底議論!


近年、「教員不足」が加速している。
小学校教員採用試験の倍率は過去最低を更新し続けており、倍率が1倍台、「定員割れ」の地域も出始めている。

その原因は、ブラック職場と指摘される「教師の長時間労働」、そして、教師の長時間労働を生み出す「給特法」という法律にある。
給特法の下では教師はいくら働いても「4%の固定残業代」しか得られず、そのために「定額働かせ放題」とも揶揄されている。

この状況を一刻も早く改善するため、
現役教諭、大学教授、学校コンサルタントら専門家が、「給特法」の問題点の指摘および改善策を提案。
教育現場を残業地獄から救うための方策を考える。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください