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たった1年で1000万円→2000万円。業者も「常軌を逸した価格の上がり方」と驚く“国産旧車バブル”の裏側とは(前編)

集英社オンライン / 2022年5月19日 11時1分

今、国産の旧車が恐ろしい価格で取引されている。この30年間、日本は物価下落が続くデフレに悩まされていたが、旧車マーケットはまるで30年前にタイムスリップしたかのようなバブル現象が起こっている。約10年前から価格は右上がりで、特にこの数年間では2〜3倍になる個体も珍しくない。「旧車バブル」について業者と所有者に話を聞く。

「1年かそこいらで値段が2倍」

映画『007』シリーズに登場し、海外のオークションで1億円以上の値段で落札された“ボンドカー”のトヨタ2000GT、日本を代表するスポーツカーとして世界中で人気のスポーツカー、フェアレディZ初代モデルのS30、ハコスカの愛称で親しまれたニッサンの初代GT-Rやケンメリと呼ばれた2代目のGT-R……。

日本を代表する旧車、トヨタ2000GT。ヤマハの協力を得て開発され、1967年に発売。新車価格は238万円で累計337台生産。日本が舞台となった映画『007は二度死ぬ』でボンドカーとして採用された

ニッサン フェアレディZ。1969年発売の初代S30は「ポルシェの半値で同等の走り」と評され、国内のみならず、アメリカやオーストラリアなどでも高い人気を誇った。発売当時、最も安いモデルは84万円

1960~70年代に生産された国産スポーツカーは、10年ほど前からすでに世界的に高い人気を誇っていた。しかし、ここ3年ほどの間に日本の旧車の価格が急激に高騰。驚きの状況が生じているという。

「僕のお客さんでフェラーリは屋外に置いてカバーをかける程度で、ニッサンのフェアレディ240ZG(1971年発売)はしっかりと屋根付きのガレージに置いてあるという方がいます。普通、逆じゃないの?って思いますよね(笑)。

あとこの間まで同じくフェアレディの240ZGに乗っていたお客さんがいて、中古車屋に行ったら、フェラーリのコンバーチブル(オープンカー)の360モデナがあったそうです。それをフェアレディと交換してくれと言ったらしてくれたそうです。しかも手元に数十万円も返ってきたと言っていました。ちなみに、その中古車屋が購入したフェアレディZを1250万円で売りに出したら、即売だったそうです」

そう語ったのは、フェアレディZをはじめとするニッサンの旧車を主に扱っている「スピードショップ クボ」(東京都足立区)代表の久保亨さんだ。1975年創業の老舗旧車ショップの久保さんでさえ、「今の価格の上がり方は異常です。正直、どこまで上がるかわからない」と語っている。

「例えば、フェアレディ240ZGは7~8年前までは500〜600万円で買えました。でも今は1000万台後半から2000万円。4倍近くになっています。同じ時代に発売されたケンメリの2000GT(1976年型)は1年かそこらで値段が2倍になっているのを見ました。1000万円だったのが2000万円。驚きで言葉がありません。初代スカイラインと2代目のレース仕様車GT-Rならまだしも、(2000GTは)そこまで人気のあるモデルではなかったのですが」

「スピードショップクボ」の久保亨代表

日本のモータースポーツ黎明期にツーリングカーレースで伝説を残したスカイラインGT-R。1969年に登場した「ハコスカ」は世界中で人気があり、今では3000万円以上が当たり前。生産台数200台を切るケンメリのGT-R(1973年発売)はもはや言い値の世界。5000万円とも1億円とも言われる

旧車イベントの会場で2000万円以上の値が付いた1976年型のスカイラインハードトップ2000GT。稀少なGT-Rにつられる形でこのモデルも価格が高騰し、わずか1年で価格が2倍となったという

旧車ショップ代表が明かす高騰のワケ

では、なぜここまで国産の旧車の価格が高騰しているのだろうか。久保さんはいくつかの理由をあげる。

「アメリカの『25年ルール』というクラシックカーの登録制度による要因や、映画『ワイルド・スピード』やレースゲーム『グランツーリスモ』などに登場する新旧の国産スポーツカーが人気になっていることがあります。旧車は発売から年数が経ち、現存する数が減っているという稀少性も確かにあるでしょう。また、若い頃に憧れていたクルマをリタイア後に購入するケースや、昔のクルマはデザインに特徴があってカッコいいと言って買う若い人も確かにいます。しかし、ここ数年の異常な値上がりは完全に投機目的です。古いというだけでの便乗値上げもあります」

「25年ルール」では、アメリカ国内で原則として通行できない右ハンドルのクルマが、初年度登録から25年以上経過すれば、クラシックカーとして公道を走らせることができる、と定めている。そのためこの登録制度をクリアした、たくさんの日本の旧車がアメリカに輸出されているのだ。

特に2014年に国内専用車だったスカイラインR32型(1989年発売)のハイパフォーマンスモデルGT-Rが解禁となると、爆発的な人気となり、かなりの数のGT-Rがアメリカに渡った。国内での中古車が激減し、25年ルールが適用される前には国内で100万円以下の価格で購入できたGT-Rの値段が今では1000万円を超えることも珍しくない状況になっている。

国産「ネオクラシック」に熱い視線

GT-Rに影響される形で同時代のスポーツカーの値段も上がっていった。トヨタのスープラ、マツダのRX7、ホンダの初代NSX、三菱のランサー・エボリューション、スバルのインプレッサなど、1980〜90年代にかけて製造された“ネオクラシック”と言われるクルマにも今、大きな注目が集まっているのだ。その中でも特に価格が上がっているのは、「大排気量」「マニュアル車」「限定モデル」の3つの条件に当てはまるスポーツカーだという。久保さんは語る。

「世界中の自動車メーカーが電動化にシフトし、今後はCO2をたくさん輩出するガソリン車のスポーツモデルはもう作られません。だから稀少価値があって上がると踏んで、お金持ちが旧車やネオクラシックのスポーツカーを購入しています。最近、フェラーリやポルシェなどを扱っている中古車ディーラーのラインナップにも日本の古いスポーツカーが一緒に並べられています。そういうクルマを買う富裕層が投機目的でほしがっているんです。実際、ホンダの初代NSXやスバルのインプレッサ、マツダのRX7などの限定モデルは常軌を逸した価格の上がり方です」

ネオクラシックを代表するクルマが1989~94年に製造されたR32型スカイラインGT-R。当時、16年ぶりに登場したGT-Rだが、新車価格はシリーズの中では451万円とお手頃だった photo by Nissan

ネオクラシックで最も高額で取引されている一台、ホンダの初代NSX-R後期型。この数年で価格が倍増し、市場では程度のいいクルマは5000万円以上で取り引きされているという photo by Honda

希少車や絶版車の販売を行う「ビンゴスポーツ」(名古屋市)の営業スタッフは「ネオクラシックの価値が上がっているのは日本に限らず、世界的な傾向です」と説明する。

「ネオクラシックは今まで安すぎたと思います。近年、空冷エンジンのポルシェ911(1963〜93年生産)を始め、ネオクラシックのスポーツカーの値段が世界的に上がっています。ひと昔前までは、自動車オークションの一番人気は“馬車”でした。馬車とは文字通りに馬車のようなボディにエンジンが付いた、自動車創成期のクラシックカーです。あとはF1マシンなどのレーシングカー。でも、それらのクルマは動かすのが大変ですし、値段もそれほど上がっていません。今はトレンドが変わってきて、動くクルマが人気。ネオクラシックは乗っていて楽しいし、投機にもなりますし、資産としての流動性も高い。今の状況をキープしておけば、絶対に損はしないので、富裕層が購入しているのだと思います」

「安くなるかな」と思ったら2倍に高騰

実際にネオクラシックカーを持つ人に話を聞くことができた。2年半前に2002年最終型のホンダの初代NSX-Rを購入したという神奈川県在住の男性だ。まだ30代だが仕事で成功し、子どもの頃に憧れたていたホンダNSXの最強モデルを思い切って買ったのだという。

「僕がクルマを探し始めた3年ほど前でもすでに最終型のNSX-Rの値段は高騰しており、中古車サイトでも程度のいいものは3000万円オーバーになっていました。初期型(1992年型)のNSX-Rでも2000万円くらい。僕はたまたま3000万円を切る値段で、知り合いの業者から購入することができました。でも今では最低でも4000万円、場合によっては5000万円以上で販売されています。初期型でも3000万円です。今の値段だったら、もう買えなかったと思いますので、ギリギリ間に合いましたね」

そう笑顔で話した男性だが、憧れのNSX-Rを入手する少し前に苦い経験をしたという。彼は1998年にスバルから発売された初代インプレッサの限定モデル、22B STIバージョンの中古車を購入しようとしていた。このモデルはスバルが世界ラリー選手権で3連覇を達成したラリーカーの外観を、同社のモータースポーツ部門のスバルテクニカインターナショナルが再現し、走行性能も追及したハイパフォーマンスモデルだ。当時の新車販売価格は500万円で、限定400台が販売された。

「インプレッサの限定車が中古車サイトに掲載されていたんです。最初に見たときの価格は400万円くらい。『ちょっと高いな、もう少ししたら安くなるかな』と思っていたら、次にサイトを見たときには価格が2倍以上の1000万円超えに。そしていつの間にかサイトから消えていました。そしたら最近、このモデルがイギリスで4000万以上で販売され、すぐに買い手が見つかったというニュースを見ました。あのとき、買っておけばなぁ……と後悔しています」

1992年発売のスバル初代インプレッサ(22B STIバージョン)。ラリーの盛んなヨーロッパで高い人気があり、4000万円以上の価格で販売されたことが話題になった photo by Subaru

この男性が購入したNSX-Rは売値がそもそも数千万と高額で、誰もが簡単に手を出せるクルマではない。しかし、後編で紹介する男性の話は、まるで「わらしべ長者」のようだ。普通のサラリーマンが安価で買った国産中古車が、気がついたらとんでもない価格になっているというのだ。

取材・文/川原田 剛
撮影/五十嵐和博
取材協力/旧車イベント「スタルジック2デイズ 2022」

ニッサン フェアレディZ432 Rは、初代Zの最高峰グレードとして設定されたZ432をレース仕様にチューニングしたモデル。1970年発売。生産台数が数十台と言われるZ432Rは現在、7000~8000万円

世界初の2ローターロータリーエンジンを搭載したマツダ コスモスポーツ。1967年発売。石原慎太郎氏がオーナーだったことでも知られる。当時の新車価格は148万円。現在の中古車市場では800〜1000万円

「エスハチ」の愛称で高い人気を誇るホンダS600。当時の価格は約50万円で、現在の中古車価格は500万円以上。ホンダ初の乗用車スポーツカーS500が発売された翌1964年に排気量をアップしてリリースされた

1983年~1987年に生産されたトヨタ カローラレビン/スプリンタートレノ(AE86型)。通称「ハチロク」。漫画『頭文字D』の主人公が乗っていたことで知られる。新車時価格は150万円台で程度のいい中古車は800万円にもなる

1981~86年に生産された6代目スカイライン、RSターボ。1983年に登場した2000ターボRSは、人気刑事ドラマ『西部警察』の劇中車としても使われた。後期型は「鉄仮面」という愛称で親しまれた。レストア済の車両は今でも500万円以上で取り引きされる

1978年に誕生したマツダ サバンナRX-7。軽量なボディにロータリーエンジンが搭載されたスポーツカー。空力性能を追求するために採用されたリトラクタブルヘッドライトも特徴。当時新車価格は169万円で、現在は400万円以上

WRC参戦のベース車両として開発された三菱の本格スポーツ4WDセダン、ランサーエボリューション。通称ランエボ。3弾目は大型のリアウイングが特徴で、WRCでトミ・マキネンがドライバーズタイトルを獲得した記念すべきモデル。中古車は約300万円だが、今後値上がりは必至 photo by Mitsubishi

1991~92年に2万台の限定生産されたニッサン フィガロ。バブル末期、ニッサンはBe-1、パオ、エスカルゴなど先進的なデザインの「パイクカー」と呼ばれる一連のクルマを発売。今でもイギリスやアメリカなどで愛好家が多い

1981年~86年に発売されたホンダの小型車シティ。トランクには折りたたみ型の50㏄バイク、モトコンポを搭載する斬新なモデル。実はシティ以上にモトコンポが高騰。モトコンポは新車価格8万円で10年ほど前には5~6万円で購入できたが、今では50万円オーバー

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