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女子学生への公然セクハラ、シャワー室の盗撮、頻発する窃盗事件…問題だらけの防衛大でそれでも私が4年間退校せずに全うすることができた理由【学生たちの証言】

集英社オンライン / 2023年9月6日 9時1分

現在、防衛大学校が置かれている状況には改善されるべき点が多々あるものの、任官辞退した防大の卒業生は、「防衛省・自衛隊を役立たずの組織、酷い組織だと即断してほしくない」と話した。彼女が防大で4年間を全うすることができた理由とは…。任官辞退者と現役防大生への取材からお伝えする。(前後編の後編)

学生舎で頻発する窃盗事件

現役の防大生である立花さん(仮名/女性)【6】からも、前編で語ってくれた任官辞退者の本田さん(仮名/女性)と似通った証言が出た。

「心臓が弱いとのことで、しばしば全身痙攣を起こす学生がいました。突然倒れて、医務室に担ぎ込まれたりするのに、指導官は『仲間なんだから、十分注意して目を離すな』と言うばかり。
もしも居室で命を落とすような事態になったら、学校はいったいどう責任をとるつもりだったのでしょうか。心配だったので、夜間は交代でずっとその学生を見守っていました。そのせいで3か月以上、居室の全員が寝不足です【7】
しばらくして、その学生は退校しましたが、どうしてもっと早く手を打ってくれなかったのか。結局、その子の両親のクレームが怖くて、私たちに押しつけようとしたんじゃないですか」

横須賀にある防衛大学校走水海上訓練場

さらに深刻な問題があると、立花さんは証言した。入学希望者の減少に苦しむ防大が「見かけの退校者数を抑える」ために、不適格な学生への処罰を控え、放置しているというのだ。

「皆さんが思っている以上に、学生舎では窃盗が頻発しています。盗まれるのは現金やスマートフォンが多いですが、まず指導官に言われるのは『証拠がないんだから、仲間を泥棒扱いするな。警務隊を呼ぶ前に、居室の全員でよく話し合え』です。けれど、窃盗は手癖なので、話し合ったってなくなりません。
さっさと警務隊を呼んで、持ち物を検査すれば、たいてい一発で(犯人が)わかります。前の居室でも、その前の居室でも、だいたい特定の学生がいる部屋で窃盗が起きていますから。それで最終的に警務隊を呼んで犯人がわかっても、大した処罰を受けないんです」

そう言って、立花さんは現在進行形のトラブルを列挙した。

酔った男子学生が嫌がる女子学生にセクハラ

「6月に第2大隊前の路上でおこなわれたバーベキューで、酔った男子学生が衆人環視のなかで、嫌がる女子学生の身体を無理やり触り続けるという事件がありました。最終的には、周囲の学生らに制止されましたが、指導官は警務隊に報告せず、学生の風紀委員が点呼の際に口頭注意したのみです。

また、4月に4大隊で起きた3階シャワー室の盗撮事件。これは警務隊が扱いましたが、隠しカメラを設置して女子学生の裸を撮影して、盗撮したデータを他の学生たちと回覧した主犯の学生ふたりは、中隊の学生長と副学生長でした。それなのに、彼らは反省部屋(服務室)に入れられただけで、いまだに在学しています。本来は、退学相当じゃないですか。もっと酷いものでは、67期(今春卒業した期)の女子学生に対する性的暴行事件もありました」

この証言を受けて、編集部は防大に事実確認をおこなった。まず、第2大隊前の路上でおこなわれたバーベキューにおける「性的暴行」について、防大はこう回答した。

〈現在、細部の調査を慎重に進めているところであり、判明した事実関係に基づき、厳正に対処致します〉

そして〈学生から報告を受けた指導官は、なぜ自ら対応するのではなく、加害行為の処理を中隊(学生)に委任したのでしょうか〉との編集部の問いかけに対しては、〈被害学生が警務隊に対する被害届の提出を希望しなかったことから警務隊には通報していません〉と回答した。

だが、「被害者が希望しなかったから、指導官は通報しなかった」という釈明は、まさに〈細部〉のごまかしそのものであると、立花さん(前出)は怒りを露わにした。

「時系列がまったく違います。まず指導官は、彼女(被害学生)の話をまともに聞こうともせず、中隊(学生)に任せました。これが発端です。その一方的なやり方にショックを受けた被害学生と、怒った4学年の部屋長たちはその後、自分たちで警務隊に通報しようとしたんです。ところが、通報の直前になって被害学生のフラッシュバックがさらに悪化しました。
彼女は心配してくれた部屋長たちを巻き込みたくなくて、警務隊への通報を諦めたのです」(立花さん)

女子学生専用のシャワー室での盗撮事件について、主犯とされる中隊学生長および副学生長に対して〈現在までにどのような処分がなされたのか〉という編集部の質問に対して、防大は次のように回答した。

〈現在、細部の調査を慎重に進めているところであり、判明した事実関係に基づき、厳正に対処致します〉

67期の女子学生に対する性的暴行事件については〈調査の結果、判明した事実関係に基づき、厳正に対処しました〉(防大)とのことだが、具体的にどう〈対処〉したのかは開示されなかった。

防大は「惰性と同調圧力に満ちた場所」

任官辞退者の本田さん、現役学生の立花さんが口にしたのは――防大のガバナンスが「法治」ではなく「人治」に傾斜しているという――等松教授の告発に通ずる指摘である。

等松教授は学生間指導を「悪しきリーダーシップ」の産物と見ていたが、問題はさらに根深い。ふたりの証言からは、悪しきリーダーシップというより、防大執行部や事務官、指導官たちの無責任な人治のツケが、学生たち(学生間指導)に回されている実態がうかがえる。

防衛大学校 走水海上訓練場

苦労の絶えない学生舎生活をやり抜いた本田さんやその同期たちが、揃って幹部候補生学校に進むことを“辞退”した理由は、決して“軍隊”が怖くなったからでも、学費の免除が目的だったからでもない。防大の「人治」に翻弄され、疲れ果ててしまったからなのではないか。

「多くの指導官は、自分の任期交代まで平穏に過ごせればそれでいい、と考えているのでしょう。自分の監督不行届きということにされたくないために、学生をなだめ、次年度の中隊替え、卒業を待つ。それも仕方のないことだと思います。ひとりで対抗するには、あまりにも惰性と同調圧力に満ちた場所です。

私が、4年間あの場所にいて思ったのは『はたして、ここは何を育てたいのだろうか』ということでした。学業時間の確保とか一斉喫食や清掃が辛いといった、そういったことも問題なのかもしれませんが、『どのような学生』を育て、『どのような能力』を身につけさせたいのかの方針を明確にしないまま『学生間指導』などというものを要求するから、指導官も上級生も困惑するのだと思います。

今のカリキュラムのままでは、幹部候補生学校に進んだとき、知性や教養では一般大学からの入校者に劣り、戦技では部隊の曹士の皆さんに劣る、という、いかにも中途半端な卒業者が量産されるだけになってしまうのではないでしょうか」(本田さん)

「曹士の人柄や態度、実践に感銘を受けたから4年間を全うできた」

それでも、本田さんは最後に言った。

「世間、国民の皆さんには、防大の置かれた状況だけをみて、防衛省・自衛隊を役立たずの組織、酷い組織だと即断していただきたくはありません。等松先生の告発も、その後の専門家の論説や記事も、国防における防衛省・自衛隊の重要性を『ゆるぎない前提』として『改善するため』になされている議論でしょうから。

【シリーズ:防衛大論考――私はこう読んだ】で等松教授の論考について言及した石原俊教授

『改善』を目指す取材であるため、私も主として『問題』についてお話ししましたが、指導官として補職されてこられた方々には、毅然と、そしてフェアに学生を監督する素晴らしい幹部自衛官の方々も、たくさんおられました【8】

私が防大で4年間を全うすることができたのは、毎年の訓練でお目にかかった部隊の皆さん、とくに曹士の人柄や態度、実践に感銘を受けたからです。尊敬すべき下士官の皆さんの前に、堂々と立てるほどの研鑽を積めなかった自分を恥じる気持ちもあります。

このような状況下にあっても真面目に頑張ってくれている方々や、私がお世話になった方々のためにも、さまざまな現状から目を背けず、本館の方々に一考していただくことを祈ります」

衷心より発せられた彼女の言葉は、はたして「本館」に届くだろうか。

#1 適性のない学生と同室で…集団生活の“地獄”も併せて読む

【6】編集部は当該の学生に面会し、身分確認をおこなった。匿名での情報提供が条件とされたため、個人特定につながる情報を一部変更した。

【7】居室の構成は、年間に3度入れ替えがおこなわれる。


【8】「学生舎の監督管理は特殊な職域なので、指導官の中には、真摯に向き合ったがために、学生と同じように心身を病むかたもいらっしゃいます。理想を申し上げれば、指導官として補職される際には、学生管理のための一定の教習課程を設け、防大内に指導官の悩みに答える『第3者機関のカウンセラー』を置くのが効果的ではないでしょうか」(本田さん)

※「集英社オンライン」では、本記事や防衛大学校に関しての取材協力者や情報を募集しています。下記のメールアドレスかTwitterまで情報をお寄せ下さい。

メールアドレス:shueisha.online@gmail.com
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