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「親が軽度の認知症でも呼び寄せないのが吉」「血圧・血糖値ほんとの基準」精神科医が指摘する間違いだらけの老化予防

集英社オンライン / 2024年3月6日 8時1分

親の認知症が発症したら、「家に呼んで一緒に住もう」と考える子は多いだろう。だが高齢者にとって生活環境の変化は、ストレスとなり、認知症の悪化に繋がる可能性すらあるそうだ。高齢者にとって本当に必要な知識が満載の書籍『老化恐怖症』より「正しい認知症のトリセツと血圧・血糖値の知識」について一部抜粋し、紹介する。

#1

認知症の診断を受けた家族がすべきこと

厚生労働省の認知症患者数の推移予測では2025年に認知症患者は730万人になると予測されています。これにMCIと呼ばれる軽度の認知障害を含めると、1000万人の大台を突破することは確実でしょう。

現役世代からすれば、それほど身近な存在となりつつある認知症が、自分の親の身にいつ起きるかと不安になることもしばしばだと思います。


親の「呼び寄せ同居の拒否」は正しい

では、離れて暮らす親御さんの認知症が疑われる状態、または病院を受診して初期の認知症であるとの診断を受けた場合、子供はどうすればいいか。

特に親御さんがひとり暮らしをしている場合、真っ先に思い浮かぶのは、子供が親を引き取って同居を始める「呼び寄せ同居」かもしません。そのほうが親の生活の面倒をみやすいし、これから起きるであろう、いろいろなことにも対応できそうです。

しかし、当の親御さんが「同居を拒否する」場合も少なくないようです。「知らない土地に引っ越すなんて嫌だ。住み慣れた家にこのままひとりで暮らすほうがいい」と。

実は、そうした親御さんの判断は、認知症への医学的な対応という観点からも正しい面があります。

高齢者の精神医療に30年以上取り組み、臨床現場で6000人以上の高齢者を診療する一方、認知症患者の「家族会」の運営にも携わってきた私の経験から言えば、「認知症の診断を受けた家族が最初にすべきこと」は「当面は何もしない」が正解だからです。

認知症が初期の段階で心がけるべきは、「ただ見守る」。この段階では、認知症患者に対する接し方や置かれた環境を変えないことこそ、一番の介護法になります。本人に病名を告げる必要すらなく、できるかぎり「昨日と同じように今日を過ごす」、そして、「今日と同じように明日を過ごす」ことが、認知症の進行を防ぐ一番の方法なのです。

実家近くの親戚や近所の人を頼る

むしろ、「呼び寄せ同居」にはリスクのほうが大きいでしょう。ただでさえ、歳をとれば誰しも記憶力が落ちます。また、脳の前頭葉の機能が落ちると新しい環境への適応能力も低下します。そうした状況で、離れて暮らす親御さんを初期の認知症の段階で引き取ると、おおむね認知症の悪化につながることは間違いないでしょう。

「リロケーション・ダメージ」という専門用語があるほど、住み慣れた環境を離れることはストレスや適応の障害の原因になり、認知症を悪化させます。

特に、田舎から都会への呼び寄せ同居は、かなりの確率で失敗すると言えます。元々住んでいた土地であれば多少なりとも近所付き合いがあったものが、都会への引っ越しでそれが失われてしまう。それは、新たな環境に適応しにくい高齢者や認知症患者にとってのダメージは大きいでしょう。

新しい場所に馴染めず、やがて外出しなくなり、認知機能や運動機能が衰えれば、それまでできていたことができなくなるのは容易に想像がつきます。そうであれば、「呼び寄せ同居」のリスクを負うより、今の家にお互いが住み続けながらできる対策を考えるほうがいいのです。

ある程度以上、認知症が進んだり身体機能が衰えてきたりしたら、公的介護保険の訪問介護サービスなどの利用が考えられます。そうなる前の段階では、たとえば親御さんの住む家が遠方で、月に1回や半年に1回程度しか様子を見に行けないような状況なら、近くにいる親戚や近所の人にうまく頼るのはどうでしょうか。

「いや本当に申し訳ないのですが、僕が仕事の関係で半年にいっぺんくらいしか帰ってこられないので、うちの親を見てやってくれませんか」と頭を下げて、月に幾らかでも「本当に少ないのですが」と包んで渡してみる。相手は「お金なんていらないよ」と言いながらも、悪い気はしない人のほうが多いと思います。

そのようにしてひとり暮らしの親御さんの周囲の人と連携がとれ、目をかけてくれる人がいてくれるだけで、子供側の安心感もだいぶ違うだろうと思います。

「今できること」を続ける

私は、初期の認知症はもちろん、何年かして中期に進んだとしても、大きな問題が生じていないときは、それまでのひとり暮らしを続けることが認知症患者にとって大事だと考えています。

毎朝、同じ時間に起きて、自分で布団をたたみ、お茶をいれて、飼い猫に餌をあげる──そうした何気ない日常の作業が、認知症の進行を遅らせることがわかっています。

一般的なイメージからは、「認知症のひとり暮らしは火の始末などが疎かになり危ない」と思われるかもしれませんが、実は、脳機能にとっては「今できること」を続けるほうがメリットが大きい。脳機能の低下で新しいことは覚えられなくなっても、自分の身の回りのことをする手順に関する記憶は残ることが多いからです。

そうした上で、近所の人や親戚などの周囲の「見守り」があれば、無事にひとり暮らしを続けてもらうことは十分可能なはずです。実際、地方には、認知症の症状が進んでいるのにひとりで元気に暮らすお年寄りが大勢います。

また、意外に知られていませんが、高齢者の場合、ひとり暮らしよりも家族と同居するほうがうつになるリスクが高く、自殺率も高いとの統計があります(福島県精神保健福祉センターHP「高齢者の自殺の実態」2013年掲載)。

「家族に迷惑をかけている」という自責の念が、本人を苦しめるのかもしれません。そうしたことからも、「呼び寄せ同居を拒否する」親御さんの判断は、間違っていないと言える場合が多いのです。

「健康診断・がん検診を受けない老親」の
病気予防の鍵

老親の健康状態を心配し、健康診断の受診を勧めている子供世代も多いかもしれません。しかしながら、「健康診断を受けたからといって長生きできるわけではない」という視点を118ページでもご紹介しました。職場などでの定期健康診断が当たり前になってから50年くらい経ちますが、その間、健診を受け続けてきたのが、今の80代の男性です。言わば、「健診の走り」の世代で、この世代の男性は健診(の内容や結果、信頼性など)を絶対視する傾向が強いと感じています。

一方、今の80代の女性は専業主婦やパート勤務が多く、職場などでの定期健康診断はそもそも受けてこなかった人のほうが多い。

先述のように、もし健康診断を受けることが長生きに寄与するなら、男女の平均寿命の差は縮まるか、逆転していいはずなのに、定期的に健診を受けてきた男性よりも、受けてこなかった女性のほうが平均寿命が延びています。

つまり、長生きには健診が意味をなしていないといえそうです。たしかに、健診はがんの早期発見・早期治療などにつながることはありますが、歳を重ねた70代、80代以降の場合はがんの進行も遅く、そうしたメリットが減じてしまうのが実情です。

健診での「正常」「異常」の判定とは

また、健診では数値が「正常」か「異常」かを見ますが、この境界が問題です。健診の「正常」は多くの場合、年齢を考慮せずに平均値を中心に高低95%圏内の数値を示しています。「異常」はその数値から外れて、高すぎる場合や低すぎる場合に判定されます。

基本的に、誰しも高齢になれば検査データで異常値が出やすくなるはずです。しかし、それがそのまま病気につながるかどうかは、実は医者にもわかりません。正常値で病気になる人もいれば、異常値でも病気にならない人もいるからです。

数値は本来、人それぞれで、年齢や性別、体型はもちろん、体質や環境、職業によっても変わってきます。数値が悪いからといって正常値に近づけるよう薬をのみ始めたらどうなるか。それまでの健康が損なわれるリスクが高まる可能性もあるのです。

また、「将来の病気の予防のため」に実施する健康診断ですが、歳をとればとるほど、意味が薄れていく、という現実もあります。どういうことか、一例を挙げましょう。

何のために「血圧」「血糖値」を下げるのか

日本人の死因トップが「脳卒中」だったのは、1960〜1970年代とその前後の数年間です。この時期は、血圧が140や150まで上がると、血管が耐えられずに破れて出血してしまうケースが多かったようです。その頃までの日本人は栄養状態が悪かったため、タンパク質が足りないせいで血管の弾力性が足りず、わずかな血圧上昇でも破れやすかったのだと推測されます。

ところが、栄養状態の良くなった現代では、私自身が血圧220の状態を5年続けても大丈夫だったように、動脈瘤がない限り、血圧200程度でも血管が破れることはまずありません。戦後に脱脂粉乳などを飲まされて育った現在の70〜80代の人も含め、栄養状態の良くなった現代日本人の血管は、脳卒中が死因1位だった昔に比べて丈夫と言えるのです。

もちろん、血圧にも個人差があります。仮に180で頭痛や吐き気、めまいなどがあるなら、その人にとって180という数値は高すぎるということになり、生活改善や薬で下げる必要があるでしょう。

そもそも、「血圧」や「血糖値」を何のために下げるのかといえば、一般的には動脈硬化の予防です。将来、命にかかわる病気の脳梗塞や心筋梗塞にならないために、血圧や血糖値をコントロールして動脈硬化を予防したり、血管の状態をしなやかに保ったりする目的です。

将来の病気予防のために、現在40代の人が、50代や60代になって心筋梗塞にならないために健康診断を受けることは多少の意味があります。しかし、すでに70〜80代の人が、(平均寿命を迎える)10年後や20年後の動脈硬化を心配することには、それほど意味はないでしょう。数値を下げる薬の副作用のリスクのほうが私は気になります。それよりはがんの予防のために免疫力を高めるほうがいいと私は考えます。

「がん」の早期発見も不要?

がん検診を受けてがんを早期発見し治療に進むことも、80代以上なら考え直してみてもいいと思います。どこかにがんが見つかると、手術で切除できるかどうかが治療の第一歩ですが、80歳を過ぎた高齢者の場合、手術による切除が正しいかどうかは一概に言えません。

若い頃と違い、手術のダメージからの回復に時間がかかったり、手術前の元気を取り戻すことが難しいのが大きな理由です。先述のように、日本のがんの外科治療のよくないところは、がん細胞だけでなく、転移が疑われる周辺の臓器まで切除してしまうことだと私は思います。

歳をとるほどがんの進行は遅くなるので、私は80歳を過ぎたらがんの早期発見・治療のためのがん検診は受けないほうがいいと思っているくらいです。

では、80歳を過ぎた高齢者の健康にとって、大事なことは何か。それは「栄養状態を良くする」ということに尽きるでしょう。好きなものを好きなように食べられるうちは、心身ともに健康でいられるはずです。

がんが手遅れになるまで見つからないことが多いということは、放っておけば何の症状もない、ということです。治療をしなければ手遅れにはなるが、手遅れで見つかるまでは元気でいられる。特に80代以上の高齢になるほど、がんの早期発見を境に健康状態がガクッと落ちることが多いようです。

だから、80歳を過ぎたら健康診断やがん検診を無理強いするのではなく、親御さんの日々の食事を気にかけるなど、栄養状態をよく保つように補助してあげるのが一番ではないでしょうか。


写真/shutterstock

老化恐怖症(小学館)

和田 秀樹

2024/2/1

1012円

192ページ

ISBN:

978-4098254651

ベストセラー精神科医による最新老化対策

まだまだ現役……のつもりが、体力・気力の低下や心身の不調に苛まれることが増えてくる50代から60代。若い頃にはバブル景気の勢いもあって“イケイケ”だったが、定年を前にした今、思い通りにいかない自分の健康や仕事、夫婦関係、実家の老親のことで頭を抱え始める人は多い。これまで他人事だった「老いの恐怖」をどうすれば乗り越えられるのか。ベストセラー作家の著者が高齢者専門の精神科医の立場から説く──。

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