資生堂が1500人の希望退職者を募集…「ツバキ」「ウーノ」を1600億円で売却しても収益性を高められなかった理由と目指す次のステージ
集英社オンライン / 2024年3月20日 17時0分
資生堂が、日本事業を統括する資生堂ジャパンにおいて、1500名もの希望退職者の募集を行うと発表した。2022年末時点の日本事業の全従業員は11185人。13%もの人員削減を断行することになる。資生堂は人材配置適正化や生産性向上を目的としての、コスト削減目標金額を、2024年で30億円、2025年においては70億円に設定している。世界に誇る日本の老舗化粧品メーカーに何が起こっているのか?
シャンプーなどパーソナルケア事業売却も効果が薄く
2023年12月期は前期比8.8%の減収だった。営業利益に至っては4割も減少している。業績好調だった2019年12月期の営業利益は1138億円。現在はその1/4以下だ。資生堂が苦戦している様子は、本業で稼ぐ力を見る営業利益率の推移によく出ている。2019年12月期の営業利益率は10.1%だった。その後、コロナ禍で1%台まで低迷するも、2021年12月期に4.0%まで回復する。
なお、資生堂は2022年12月期第1四半期から国際会計基準であるIFRSを採用している。そのため、開示された数字を単純に比較できるものではないが、下のグラフは日本の会計基準と合わせるため、純粋に売上高から原価、販管費を引いて営業利益と営業利益率を独自に算出している。
利益率が高まった2021年、資生堂は大胆な経営合理化を進めていた。
その最たる例が「ツバキ(TSUBAKI)」、「ウーノ(uno)」などのパーソナルケア事業の売却だ。2021年にヨーロッパの投資ファンド、CVCキャピタル・パートナーズに1600億円で事業譲渡した。
その他にも、化粧品ブランド「ベアミネラル(bareMinerals)」、「バクサム(BUXOM)」、「ローラ メルシエ(Laura Mercier)」をアメリカの投資ファンドに770億円で売却した。「ドルチェ&ガッバーナ(Dolce&Gabbana)」のグローバルライセンス契約も解消している。
その甲斐あってコスト削減効果が生まれた上、アメリカとヨーロッパでの増収が寄与したことも相まって営業利益率は高まった。しかし、すぐに稼ぐ力が削がれてしまう。主戦場である日本と中国がなかなか回復しないのだ。
中国人観光客の爆買い消失が痛手
資生堂は日本で1/4、中国で1/4を稼ぐという収益構造をしている。
日本の売上高は、2019年12月期が4515億円だった。2023年12月期は2599億円である。「ツバキ(TSUBAKI)」などのパーソナルケア事業の2019年12月期の売上高は554億円だ。事業譲渡の影響を加味しても、十分に戻っていないことになる。
資生堂の売上構成比率はドラッグストアの方が大きいが、百貨店の化粧品売場は戦略的に重要なチャネルの一つだ。しかし、状況は厳しい。資生堂の日本の売上高が戻らない理由の一つに、百貨店化粧品市況の悪化があるだろう。
百貨店化粧品売上は2018年に550億円を超え、2019年は600億円に近づいたものの、コロナ禍で350億円まで急減した。
結局のところ、メーカーにとってうれしい得意客の大半は、百貨店で買い物をするアジア圏の海外観光客だったのである。しかも、中核にいたのは中国人観光客だ。
2019年12月の中国人観光客は71万人で、全海外観光客の3割を占めていた。それが2023年12月は31万人で全体の1割にまで縮小している。しかも、今の中国人観光客は、爆買いに象徴された強い消費意欲が消滅している。景気の冷え込みが影響しているのだ。
百貨店による手厚いサービスは人気が下火に
いまや日本人の8割はドラッグストアで化粧品を購入している。NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューションは、全国18~69歳を対象として化粧品についての調査を行っている(「化粧品購入行動に関する調査結果」)。それによると、2022年にドラッグストアで化粧品を購入する人の割合は83.9%。3年前もこの比率は変わっていない。
一方、百貨店は4.5ポイント低下して20.7%となった。コロナ禍以降、日本人もデパートの化粧品売場からは遠ざかっているのだ。
Amazonや楽天などのECモールサイトは好調だ。9.1ポイント上昇して33.0%となっている。
百貨店の化粧品販売は、専門のアドバイザーが提案するコンサルティング型の販売方式だ。それが定価でも売れた理由であり、資生堂は販売員の質の向上に力を入れてきた。しかし、現在は棚に陳列するだけのドラッグストアやECモールが主要な販売チャネルとなっている。こうなると、コストパフォーマンスが重視され、従来の提案型のビジネスモデルが通用しない。
資生堂の人員削減は、旧来型の化粧品販売の方法が転換点を迎えたことを物語っている。
中国の国産メーカーが存在感を発揮する時代に
中国もさえない。
資生堂の2019年12月期、中国の売上高は2162億円。2023年12月期は2479億円だ。コロナ前比で14.7%増と勢いがないのだ。
ジェトロによると、中国の化粧品市場は2023年が5169億元。2019年比で21.5%増加している。資生堂は市場拡大ペースに乗り切れていない。化粧品の最大手といえばフランスのロレアルだが、中国では肌質が似た日本の化粧品の支持が高かった。しかも、資生堂のような日本の大手メーカーは高品質で安全性が高く、清潔なイメージが醸成されていた。
2019年1月の資生堂の中国の店頭売上が前年同月比20%超で成長するなど、かつては勢いがあった。
資生堂はいまの中国のビジネスが不調な要因として、ALPS処理水の海洋放出後の日本製品買い控えを挙げている。この説明だと短期的な影響のように見えるが、様相はもっと複雑で深刻だ。法整備が進んで、中国国内のメーカーのシェアが拡大しているのである。
ジェトロによると、中国の化粧品関連の新規企業数は2018年が140万社、2020年は281万社、2021年には440万社となった。
2023年1-11月の中国化粧品輸入額は、日本が前年同期間比17.2%の減少。フランスは4.2%、イギリスは35.5%、アメリカは21.9%それぞれ減少している。中国政府は2021年1月に「化粧品監督管理条例」を施行。化粧品成分と製品、製造、広告、サプライチェーンなどに関する明確な要件を規定した。規定を設けて国産ブランドの標準化を図ったのだ。
しかも、中国側は外国メーカーに対し、原料の全成分を登録するよう求めているという。企業秘密が丸裸にされてしまうのだ。
資生堂に勝算があるとしたら
ただし、資生堂には勝算がある。富裕層に向けた付加価値の高い商品の強化だ。
中国の景気は冷え込みが顕著で、化粧品市場の拡大は緩やかになると予想される。その中で、安定的に利益創出ができる構造を構築しようとしているのだ。拡大路線から安定利益へと路線を大きく変更した。
中国国内の化粧品メーカーと過度な競争を行なうと、価格プロモーションに頼らざるを得なくなる。シェア拡大に目を奪われて、利益率が低下するのは日本のメーカーにありがちな罠だ。資生堂は経営改革を機に次なる成長ステージに移行しようとしている。
日本においても、ECの強化やドラッグストアの自由体験型モデルへの転換など、タッチポイントを増やす取り組みを行なっている。生まれ変わる資生堂からは成長が期待できるだろう。
取材・文/不破聡
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