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斉藤由貴「卒業」の印象的すぎるイントロに隠された感動的秘話…制作陣が目指した、それまでにないアイドルの「多様性」とは

集英社オンライン / 2024年3月29日 11時0分

1985年のリリース以来、卒業ソングのスタンダードとして愛され続けている斉藤由貴の「卒業」。先に役者としてデビューしていた斉藤は、歌うことには当初、積極的ではなかったという。しかし、ディレクターや作家陣の熱量に感銘を受け、やがてその世界観に共感していった。リリースから39年。改めて「卒業」制作の舞台裏を振り返る。

「卒業」のクールさがしっくりきた

――デビュー曲が「卒業」というタイトルに決定したと聞かされたとき、どんな思いを抱かれましたか?

斉藤由貴(以下同)
 ちょうど私自身が高校の卒業式を控えていたので、すごくタイムリーな曲を作ってもらったんだな、と思いましたね。

――松本隆さんの書かれた歌詞を初めてご覧になったときのことは覚えていますか?



私という人間のことをちゃんと見ようとしてくださっている歌詞だなと感じました。その当時の女性アイドルといえば、かわいい路線とかカッコいい路線とか、いくつかパターンのようなものがありましたが、自分がそのどこかへ簡単に振り分けられてしまうのは違うと思っていたんです。

その点、「卒業」の歌詞には、どちらとも断言できないような印象があって。

――斉藤さんは、デビューの際のオーディションで、あみんの「待つわ」を歌われたそうですね。

はい、そうでした。

――「待つわ」の主人公の女性が、苦しさを耐え忍びながら男性の愛を求めて待つタイプだとすると、「卒業」の主人公は、むしろ「待たない」というか、これからを案じながらも、ひとりの個人としてあくまでクールな視点を持った女性ですよね。そういう女性像についてはどう思いますか?

すごく素敵だなと思った記憶があります。ふだんから、自分の感情をあからさまに表現するとか、全部を表に出しちゃう感じでもなかったし。ただ一方で、いろんなことに感じやすくて余計なことを考えちゃうタイプだったんですね。同時に、中島みゆきさんの歌のように、激しく情念的なものにも惹かれてもいたし、自分がそういった多面性を持つことも意識していましたから。

だから、「卒業」という曲のクールさ、そこに見え隠れする感情の発露の奥ゆかしさのようなものもしっくりきたんだと思います。

――「卒業」の主人公も、一言で「こういう人物」とは言い表せない奥行きや多面性を感じさせます。

《ああ 卒業式で泣かないと 冷たい人と言われそう でも もっと哀しい瞬間に 涙はとっておきたいの》というサビの歌詞にも表れているように、かわいい盛りといわれがちな18歳くらいの少女が歌うにしてはちょっと冷ややかというか、俯瞰的なものの見方をしている歌詞。それって、当時のアイドルの曲ではあまりないタイプのものだったと思います。

――斉藤さんご自身の卒業式の体験にも重なり合う部分があったのでしょうか?

それが……最近になって気付いたんですけど、私、自分の卒業式のことを全然思い出せないんですよ(笑)。涙を流したかどうかすらも記憶になくて。なんとなく覚えているのは、卒業式後のホームルームの様子と、それが終わって下校していくときのことくらいで。自分でもなぜだろうと思うし、不思議なんですけどね(笑)。

技術を伝えず景色で伝えるディレクション

――斉藤さんが歌手として活動していくにあたっては、当時のポニーキャニオンのディレクターである長岡和弘さんの存在もとても大きかったと思います。「卒業」のレコーディングにあたっては、どんなアドバイスがあったんでしょうか?

長岡さんのディレクションって、多分普通とはちょっと違っていて、歌の技術的なことはあんまり言わないんです。

「校舎は木造で、下駄箱の下にはスノコが敷いてあって、下校のときにはそこで生徒たちが上履きを脱いでいる感じだね」みたいに、曲の背景にあるイメージを膨らませてくれるような言葉が多かったですね。「この日は青空だけど、ちょっと雲がぼんやり広がっているような天気かなあ」とか。

それは多分、歌う人の特性にあわせて言ってくれていたんだと思います。私は当時、俳優として先にデビューしていて、「歌をやりたい!」って強く思っていたわけじゃなかったんですよ。だから、そういう私の背景をわかってくれた上でアプローチしてくれた。それが私としてもすごく助かったし、とても感謝しています。

――歌う際には、現実の自分を投影するというより、あくまで物語の主人公を演じるような心づもりだったということでしょうか?

はい、そういう部分はあったと思います。ありがちな言い方になってしまいますけど、歌に同化するというより、自分の中のひとつのフィルターを通して物語を歌っているというか……。そのほうが、この歌が伝えようとしていることを、稚拙なりにも上手く掴めるんじゃないかと考えていたんだと思います。

――稚拙どころか、1曲のポップソングとして、すごく普遍的な魅力が備わっているように感じます。

「売れるものを作る」という視点だけだったら、長岡さんももっと直接的なディレクションをしたと思うんです。彼自身、甲斐バンドのベーシストとして下積み時代から長く音楽活動を行なってきた人だから、売上や実績の大切さもとてもよく理解していたと思います。

けれど、音楽を伝えるというのはそれだけじゃないよね、という気持ちも強くあったんじゃないでしょうか。ポニーキャニオンから私をデビューさせることになったときにも、私に対してそういう可能性を感じてもらえたのかもしれません。

印象的なイントロは筒美京平によるもの

――いきなり私事になってしまい恐縮なのですが、実は20年近く前に長岡さんからディレクションのイロハを教わった経験があるんです。

あら! そうなんですね!

――そのときに、何よりも音楽への愛に溢れている方だなという印象を強く受けました。

うんうん、本当にそうですね。私も人生の半分以上、それこそ何十年も表現に関わりながら生きてきましたけど、カッコつけてみたり、反対にハングリーになりすぎてみたりしても、最終的に一番大事なのは、純粋に伝えたいと思う何かがあるかどうかだと思うんです。そこで嘘をついてしまうと決して続かない。

だから私にとって、「この人らしいやり方で表現の道を開いてあげたい」と思ってくれる方々が側にいてくださったというのは、とてもラッキーだったと思います。

――そういう意味では、作曲の筒美京平さん、編曲の武部聡志さんの力もとても大きかったわけですよね。

もちろんです。そうそう、今から数年前、ちょうどデビュー35周年コンサートの準備をしているとき、「卒業」のあのアレンジについて驚かされることがあったんですよ。

デビュー当時、初めて武部さん編曲のオケを聴いたとき、イントロのアルペジオがとても素敵で、スゴい編曲だなあと思ったんです。以来、あれは武部さんの考えたフレーズだと思い込んでいたんですけど、長岡さんが当時のテープを整理してくれて、元の筒美さんのデモ音源を聴いてみたら、なんとあのフレーズが最初から入っていることに気づいて…全然知らなかったので、驚きました。

やっぱり筒美京平さんという人はスゴかったんだなと改めて思わされましたね。その上で、そのフレーズを特徴的なシンセサイザーの音にして、ああいう風に活かした武部さんもさすがだなあ……って。

この時期の空気の中、学校の廊下を歩いていくような感じというか……。校舎で繰り広げられる物語のイメージがパーッと開いていくような曲、アレンジですよね。

取材・文/柴崎祐二

斉藤由貴が『卒業』が若い世代に刺さっていることに「なぜだろう」としか感じられないワケ…「私には残りの時間でどう過ごしていくかのほうがずっと身近なこと」〉へ続く

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