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阪神・青柳自主トレ“門下生”はなぜブレイクするのか? 村上に続き、今季は岡留が覚醒…ドラフト5位の”たたき上げエース”が説く、1軍での生存戦略

集英社オンライン / 2024年3月29日 16時0分

日本一連覇を目指す阪神タイガースの開幕投手、青柳晃洋。そんな“虎のエース”が主宰する合同自主トレに参加した選手がいま、続々とブレイクしている。ドラフト5位からプロの世界で成りあがった男が語る、「勝てるピッチングの真髄」とは。青柳と意見交換を重ねる野球評論家&ピッチングデザイナーのお股ニキ氏が書きつづる。

 “門下生”が続々とブレイクする“チーム青柳”

今季、球団史上初の日本一連覇を目指す阪神タイガースにおいて、開幕投手の大役を2年連続で務める青柳晃洋。

“虎のエース”の影響力はマウンド上だけに留まらない。過去2年間、自身が主宰する合同自主トレ“チーム青柳”が、チーム内外で密かなブームを起こしているのだ。

2021年に最多勝のタイトルを獲得し、2022年には投手三冠にも輝いた青柳は、2023年1月に後輩を引き連れて静岡・沼津で合同自主トレを初開催。前年よりも参加人数が増えた今年1月の合同自主トレも大盛況だった。

昨季は青柳合同自主トレ“門下生”である阪神の後輩投手、村上頌樹が前年1軍未登板ながら、MVP&新人王を獲得するほどに飛躍。また、青柳と帝京大学時代の同級生でもある西村天裕(ロッテ)も合同自主トレに参加し、昨季44試合登板で防御率1点台とキャリアハイの成績をあげた。

青柳合同自主トレ“門下生”たちが毎年のようにプロ野球界でブレイクする背景には、いったい何があるのだろうか――。

「僕みたいな変則投法の言うことなんて誰も聞かないですよ」

合同自主トレでは、技術やフィジカルの向上はもちろん、メンタル面の強化にも重点を置く。青柳自身がドラフト5位からの“たたき上げエース”としてブレイクした経験を活かし、参加する選手たちにそのノウハウを惜しみなく伝授している。

青柳の投球理論の根幹にあるのは、「とにかく力まず、楽にボールに力を伝えること」と、「上半身を開かず、足を着いてから投げること」のふたつの極意だ。

シンプルだが、ピッチングの真髄であり、核心をついている。足を着いてから地面の力を受け、上半身は開かずに捻転差を生み出すことにより、ボールに最大限の力を伝えつつ、ケガのリスクを減らした、安定感のある投球が可能になる。

体への負担も軽減できるうえに、力いっぱい投げる必要がなくなるので、たとえ調子を落としてもなんとかなるのだ。かつて制球に苦しんでいた青柳も、8割の力で投げる脱力投法を会得してからはコントロールが安定した。

その一方、選手それぞれの投げ方を尊重し、特定のフォームを強要することはしない。


「僕みたいな変則投法の言うことなんて、誰も聞かないですよ」

青柳はそうやって謙遜しながらも、後輩たちのピッチングを真摯に見守る。「足を着いてから投げているか」「体重移動の方向がしっかりとホームに向かっているか」という2点だけはしっかりと確認して伝えているという。

後輩・村上を覚醒させた一言

昨季、“チーム青柳”に初参加してブレイクを果たした村上に対して、青柳はずっともどかしさを感じていたという。それまで2軍では2年連続でタイトルを獲得するなど、素晴らしい技術や感覚を持ちながらも“1軍の壁”に阻まれていた村上に、かつての自分の姿を重ね合わせていたのだ。

そこで、青柳自ら村上を合同自主トレに誘った。自身もプロ入り3年目に“1軍の壁”を感じた経験から、「その壁は自分自身で作りあげてしまっているもの。1軍と2軍にそこまでの差はない」と伝えた。

「ここに集まっているのは(ストレートが)145キロ~150キロくらいの連中です」

大谷翔平(ドジャース)のように160キロを超えるストレートや、スウィーパー、フォークをストライクゾーンへアバウトに投げればいいというわけではない。とはいえ、先発投手であれば7回2失点でも及第点であり、すべてのボールを完璧に投げなくてもいい――。

かつて、メジャー355勝投手のグレッグ・マダックスが「パーフェクトではなくグッドを目指せ」と語っていたが、青柳も同様の金言を後輩に授け、マインドブロックを取り払った。

ピッチングセンス抜群の村上は“師匠”のアドバイスを受けると、すべての球種の精度や制球力はそのままに、球威や球速が大幅に向上した。昨季は7回パーフェクトピッチングを披露した先発初登板(4月12日の巨人戦)から自信をつけ、自ら作りあげてしまっていた“1軍の壁”を取り払うことで覚醒。一気にMVP&新人王へと駆け上がった。

“青柳自主トレ門下生”岡留がブレイクの予感

もうひとつ、青柳自主トレの特徴がある。青柳が帝京大学時代から師事し、自身の体を知り尽くしているトレーナー内田幸一氏の存在だ。青柳の体の動きや考え方に合わせて、オーダーメイドで対応してくれるという。

昨季は体が思うように動かなくなり、可動域が狭まっていたが、合同自主トレでの入念なウォーミングアップによって復調。その上でビルドアップに成功し、体重は5キロ以上も増加した。

もともと精悍な体つきの青柳だが、これまでよりもひと回りほど大きくなり、球速もアップ。今季はすべての球種を思い通りに操れており、昨季は乱れていた制球も安定。「浮き上がるようなストレートの球威にも今季は期待してほしい」と自信をのぞかせる。

また、昨季フル稼働した村上はその疲労を感じさせず、今季もキレや強度を維持できている。抜群の制球力は健在で、“2年目のジンクス”の心配は無用。完璧なフォームから繰り出される切れ味鋭いボールを、今季も披露してくれるだろう。

そして、“青柳自主トレ門下生”で今季大注目なのが岡留英貴だ。青柳と村上同様、ドラフト5位入団の大卒3年目の右腕は身体能力は抜群。「なんでもできる」と青柳が絶賛するほどだ。

昨季はマスターできなかった「足をついてから投げるタイミング」を今季は掴みつつあり、制球が安定。浮き上がるような軌道のストレートは力まずに投げても最速152キロを計測し、フォークやツーシームも鋭く、スライダーもいい。

岡田彰布監督も「1年であんだけ変わるものなんやな」と高く評価し、春季キャンプの投手MVPに選ばれた。昨季ブレイクしたリリーフ左腕、桐敷拓馬のように飛躍する可能性が高く、最終的には“右の勝ちパターン”にまで食い込んでくるかもしれない。

他球団では、生田目翼(日本ハム)に注目だ。青柳や岡留同様、アングルの低いフォームで球威があるだけに、マインドや投球技術を覚えることでさらに伸びていく可能性もある。

いよいよ新シーズンが幕を開けるが、今季は“青柳自主トレ門下生”の活躍から目が離せないだけでなく、青柳自身も防御率4点台に終わった昨季の悔しさを払拭する一年になるだろう。まずは、昨季の日本シリーズ第7戦からの“連投”となる今季開幕戦で、“虎のエース”が捲土重来を期す。


取材・文/お股ニキ 撮影/小池義弘

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