〈日本版ライドシェア解禁〉アプリの評価制度で「マナーの悪い客」と「親切でないタクシー運転手」が淘汰される日がやってくる? 今後期待されるシームレスなサービスとは
集英社オンライン / 2024年4月22日 11時0分
日本では4月から、客を自家用車で有料で運ぶライドシェアがようやく一部解禁となったが、海外に比べるとかなり遅れをとっていることは否めない。ダークツーリズムの第一人者である井出明氏が、世界各国でのライドシェア体験を綴る。
アプリで顧客人気ランキングも一目瞭然
今年4月から自家用車で客を有料で運ぶライドシェアが一部解禁となった。ただ、ライドシェアはドライバーが一般人のため、安心、安全面で不安が残るという声があるのも事実だ。
そのため、日本ではライドシェアは白タク行為と呼ばれ、道路運送法で禁止されてきた。とはいえ、私の海外体験からいえば、ライドシェアはさほど悪いものではない。
20世紀の終わりごろから海外に出るようになってほぼ四半世紀になる。観光の研究にフォーカスするようになって、その機会は非常に増えたが、コロナが流行するまで、私の海外旅行の思い出といえば、白タクを含めたまさに世界中のタクシー運転手たちとの戦いの歴史であった。
タイでは目的地とぜんぜん違うところに連れて行かれたし、ポルトガルでは意図的に遠回りされ、ロシアでは誘拐されかけるなど、タクシーに関してはあまりいい思い出はない。
日本国内でも、乗車拒否はもちろん、渋滞が見込まれると突然ここで降りろと言われたり、目的地が近いとわかったとたん運転手の態度が露骨に悪くなるなどの嫌な思いをしたユーザーは多いだろう。
客としては文句の一つも言いたくなるものの、国土交通省は、運転手をクレームから守るという趣旨で、公共交通における匿名の運行を進めるようだ。日本のタクシーでは見慣れた助手席の向かいにある運転手のネームプレートも、時とともに消えゆく運命にあるのだろう。
だが、これは世界のライドシェアアプリの向かう方向性とずれているように感じる。ライドシェアアプリの多くは、運転手の顔写真と名前が明記されており、顧客人気ランキングも一目瞭然となっている。
ライドシェアアプリのドライバーたちは、名前を背負うからこそ仕事に真摯に向かうところがあるようで、匿名化される日本の公共交通サービスが良い方向に向かうのかはまだわからないといえる。
エチオピアで一番優しいのはタクシーの運転手さんだった⁉
先日、トランジットでエチオピアのアジスアベバに寄った。途上国の大都市ではロクな記憶がないのだが、トラブルを最大限回避すべく、ここでもライドシェアアプリを入れて現地に赴いた。
エチオピアは決済システムが不十分で、このライドシェアアプリも、目的地を入力すると乗る前に金額が表示され、それで納得したドライバーが迎えに来て、降りるときにキャッシュで払うという仕組みであった。これを利用すればアムハラ語がわからなくても問題なく乗れるので、フル活用することになった。
ただしこのとき、私は結構やらかしてしまって、似た名前の違うホテルを地図上でタップしてしまっていたようだ。地図アプリの上では誤りがないのだが、周りの風景がどんどんさびれていく。これは何か違うと車を止めてもらい、ドライバーにホテルの予約メールを見せた。
彼は英語が読めないようだった。しかし、ホテルの電話番号らしきものを見つけるとすぐさま電話をし、無事に正しい目的地へと私を送り届けてくれた。
さて、支払いの段になって、どうすればよいのか悩み、英語が話せるホテルのドアマンに間に入ってもらって聞いてもらった。公式にはアプリに表示された料金以外のカネを受け取ってはいけないようで、「あとはチップで」という。それで5ドルを追加で渡そうとするとそこには満面の笑みがあった。
ホテルで、「タクシーの運転手はみんな親切だった」という話をしてみたところ、「アプリの評価ランキングが配車の優先順位に影響するので、いまはみんな親切」ということだった。
私はその後、ヨハネスブルクで開催された観光とITの学会にでたのだが、ライドシェアアプリについては、日本のように解禁するかどうかというレベルではなく、運転手と客のマッチングを含め、よりよいサービスをいかに提供するかという議論が中心であった。
客もまた運転手に評価される仕組みもあるようで、「運転手に嫌われる客は、タクシーが来ないという状況もありうる」という説明は、運転手と客の関係を公平に保つという趣旨で大きくうなずかされた。
ライドシェアアプリでは、客もまた評価され、選ばれる立場に立つわけで、妙なクレーマーはタクシーに乗れず、自分で自分の首を絞めることになるのである。
海外ではライドシェアアプリで買い物や宅配も
さて、ヨハネスブルクといえば、一時期は殺人事件が日常茶飯事で、世界で最も危険な場所という風評が立っており、私も身構えていたが、ライドシェアアプリの先駆であるUberを使っていたところ、危険は軽減できるように思えた。
アプリには、緊急ボタンが付いており、そこをクリックすれば本部のほうですぐにその車に対応をするそうで、ホテルに知らないタクシーを呼んでもらうよりもはるかに安心感がある。
そういえば、昔、ロサンゼルスを訪れたときに、流しのタクシーが全くなく、ホテルに車を呼んでもらったが、空港までの道中、運転手に「ニューヨークみたいに手を上げた客を乗せないの?」と聞いてみたところ、「紹介のない見ず知らずの人間を乗せるなんて、危ないじゃないか」という話になり、交通文化の違いを実感した。
ライドシェアの場合は、ドライバーも客も、配車システムにある程度の氏素性を握られているわけで、多少プライバシー保護の懸念は残るものの、安心感はやはり強い。実際、今やロサンゼルスでもライドシェアサービスは、安心、安全な交通手段として普及している。
ヨハネスブルクの学会では、東南アジア8か国、500都市以上で利用されているライドシェアアプリ「Grab」も話題だった。単に配車だけではなく、日常の決済機能も兼ね備えたスグレモノで、タクシーに乗ってちょっと買い物をして、ご飯を食べて返ってくるという行動が、シームレスに同一アプリでできるようになっている。
ほかにもネットショッピングや料理の宅配もカバーしており、日本ではこのレベルのプラットフォームは未だ存在しない。4月に東京と京都の一部で、ライドシェアサービスが限定的に解禁になったばかりだが、これを機会に単に交通の仕組みだけではなく、よりユーザーサイドに立った本質的イノベーションが生まれることを祈っている。
文/井出明
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