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急速な展開を見せる「日本版ライドシェア」の全面解禁に、タクシー業界からは猛反発。普及への最大の課題は「地域住民への説明不足」にあり?

集英社オンライン / 2024年4月10日 17時0分

「日本版ライドシェアが一部解禁」。最近こうした報道をよく目にする。しかし、日本ではまだ認知度の低いサービスのため、そもそも「ライドシェア」とはいったい何なのか、よく理解できていない人も多いかもしれない。なぜ急速に解禁される流れとなっているのか、その背景と現状の問題点を、自動車産業界ジャーナリスト・桃田健史が解説する。

「ライドシェア」とはいったい何か?

昨今注目されている「ライドシェア」とは、第一種運転免許しか持たない、またはタクシーなど事業車を運転できる第二種運転免許を持つ人が、白ナンバーの自家用車を使って旅客運送行為をすることを指す。

これまでは、一部の例外を除き、いわゆるこうした「白タク」行為は道路運送法で禁止されてきた。現在でも世界中の多くの国・地域で白タク行為は違法となっているが、2010年代に入ってから米国西海岸で新規事業による業態再編のブレイクスルーが起こった。



その背景にあるのは、スマートフォンの普及と、ITを活用し旅客運送の最適ルートを解析する技術の発達だ。これにより、ライドを必要としている人と提供する人をスマホ上でマッチングするビジネスモデルが実現可能となり、代表例として「Lyft(リフト)」や「Uber(ウーバー)」が創業した。

ただし、その創世記においては、米国でもライドシェアは旅客運送事業として違法であったため、慈善事業という形をとっていた。利用者は寄付を建前として法の網目をくぐったが、タクシー業界からは猛反発を食らった。

その後、ライドシェア事業者は米国各地でロビイ活動を続け、結果として多くの州や地域で合法ビジネスとして認められるようになっていった。

こうした米国発のライドシェアビジネスにグローバルで投資マネーが集まるようになり、欧州、中国、東南アジアなどでも類似のビジネスが広がっていった。だが、国によって法的な解釈が違ったり、またはライドシェアの規制強化に動いたりするなど、その対応に差があるのが実状だ。

急速に進んだ「日本で一部解禁」の背景

海外でのライドシェア拡大を受けて、日本でも2010年代からライドシェア関連ベンチャーが数社立ち上がった。このうち、株式会社Azit(アジット)の「CREW」は国土交通省からの通達を受けて、米国のライドシェア創世記のように慈善事業としてスタート。しかしながら、コロナ禍の影響も重なり、収益性が上がらず2020年に事業を休止した。

なお、Uberと中国・DiDi(ディディ)については、日本でタクシー・ハイヤーの配車アプリとして一部地域で普及してきたが、ライドシェアとしてはUberが試みた一時期の実証試験を除いて行なってこなかった。

そんな日本のライドシェアの潮目が、2023年になって変わる。

複数の有力政治家が、日本におけるライドシェア解禁の必要性を公の場で発言するようになり、また神奈川県の黒岩祐治県知事は出演した民放テレビ番組で「神奈川版ライドシェア」構想を発表した。

日本でのライドシェアに大きな転機が訪れたのは、2023年10月。

岸田文雄首相が臨時国会の所信表明演説で「ライドシェアの課題に取り組む」と明言。これを受けて、国の規制改革推進会議でライドシェア解禁に関する具体的な議論が11月からスタートした。河野太郎デジタル大臣は早期に取りまとめを行なうとし、12月末には「中間取りまとめ」を発表するに至った。

ただし、議論は全般的に「ライドシェア導入ありき」というスタンスが目立ったため、タクシー業界のみならず、各方面から「議論のプロセスに違和感がある」という声が上がっている。

その「中間取りまとめ」の内容は、大きく分けて3つある。

1つ目は、「タクシー事業の変革」だ。これは、タクシーの需要と供給をデータ化し、事業の最適化を進めるというもの。これと併せて、第二種運転免許試験の規制緩和や、同免許を所持するパートタイムドライバー採用の拡大、そして北海道ニセコ町を先行事例とした期間限定で他の地域からドライバーとタクシーを補完する仕組みを社会実装していく流れが生まれている。

2つ目は、道路運送法第78条第3号の制度の修正について。これは「自家用有償旅客運送」と呼ばれる、いわば「従来の日本版ライドシェア」を指す。

実は同78条第3号では「福祉目的」、同78条第2号では公共交通が不便な「交通空白地」で、地域住民らによる自家用車での旅客行為を認めている。これが、冒頭に示した「一部の例外」にあたる。

この「福祉目的」を拡大解釈し、タクシー事業者が運用・管理する形で新たな仕組みを創設。2024年4月から、タクシーが不足する場所や時期、時間帯において新たにライドシェアを実施することを目指すとした。一般的には、これを「一部解禁」と称している。

そして3つ目が、いわゆる「ライドシェア新法」に関する2024年6月に向けての議論だ。タクシー事業者以外の者もライドシェアに参入できるとしており、これは事実上の「全面解禁」を意味している。

この点においてはタクシー業界から大きな反発が起きている。また、一部解禁・全面解禁によらず、第一種運転免許しか持たないドライバーの運転に対する安全性や、乗車中の犯罪のリスクなどについての懸念が根強く残っているのが実情だ。

課題は「地域社会の未来」に向けた議論のあり方 

2024年4月2日にはUber Japanがタクシー会社と提携して東京・神奈川・愛知・京都での展開を発表するなど、着々と進んできた日本版ライドシェアの導入。現時点における最大の課題は「地域住民が置いてけぼり」になっている点だ。

日本はいま、少子高齢化、都市への人口集中、高度経済成長期に拡大した都市周辺住宅地における生活環境の低下、そしてバスやトラックドライバー不足など物流における「2024年問題」に直面しており、次世代に向けて大きな社会変革は必須である。

そうした厳しい社会現実の中で、地域交通の抜本的な変革は待ったなしの状況だ。

だからこそ、地方部ではこれまで、同じ方面へ向かう複数の乗客が相乗りする「乗合タクシー」や、スーパーマーケット・薬局・福祉サービス事業者等が自前でマイクロバスを運用するなど、公共交通の代替案を導入してきた。

最新の事例としては、ITを使って乗客の日時・目的地から移動ルートを算出し、効率よく配車する「AIオンデマンドバス」の普及も進んでいるところだ。

さらに、自動運転についても9年半にも及ぶ関係各省庁が連携する国家プロジェクトを経て、国土交通省が全国各地の市町村を支援した社会実装を目指して動き出している。ただし、自動運転は万能な“打ち出の小槌”ではなく、利用できる場所は限定的だと言わざるを得ない。

こうした多様な地域交通を、どのように組み合わせて、また持続的に運用していくかは、地域交通を担う市町村の責務だ。もちろんその中にはライドシェアも含まれるのだが、多くの地域で住民に対する説明が不足していると筆者は感じている。

地域住民は当面、ライドシェアの利便性とリスクについて理解を深めるとともに、その導入が及ぼす地域社会の変化についても考えていくべきだ。


文/桃田健史

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