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133億光年離れた銀河から「21cm線」を観測 最も遠い記録を大幅に更新

sorae.jp / 2023年1月31日 20時30分

電波天文学で観測される波長の1つに「21cm線」があります。これは中性の水素原子から放出されるスペクトル線であり、波長がほぼ21cmであることからそう呼ばれています。

水素は宇宙に最も多く存在する物質であり、21cm線は地上の電波望遠鏡でも観測可能です。水素から放出されるスペクトル線の値そのものは不変であるため、観測された波長のズレは天体自身の運動によるドップラー効果や宇宙の膨張による結果であると見なせます。21cm線は宇宙の物質の分布や運動を調べるためにとても優れた重要な観測対象ですが、極めて微弱な信号であることから、21cm線を保護するためにこの波長付近のあらゆる電波の放出が国際的に禁じられているほどです。

21cm線が微弱な理由は、21cm線を放出する条件を個々の水素原子が滅多に満たさないからです。そのため、約50億光年(共動距離、以下同様)よりも遠い銀河から個別の21cm線を検出するのは極めて困難であり、これまでの最高記録は地球から49億光年離れた「COSMOS J100054.83+023126.2」という銀河でした。

【▲ 図1: インドのプネーにある巨大メートル波電波望遠鏡は、21cm線やそれより長い波長の電波を観測対象としている。観測対象の電波の性質から、滑らかな反射面を持たずとも骨組みの間に張られたワイヤーで電波を受信できるため、独特の外観を持つ。 (Image Credit:Giant Metrewave Radio Telescope / Tata Institute of Fundamental Research / National Centre for Radio Astrophysics) 】

【▲ 図1: インドのプネーにある巨大メートル波電波望遠鏡は、21cm線やそれより長い波長の電波を観測対象としている。観測対象の電波の性質から、滑らかな反射面を持たずとも骨組みの間に張られたワイヤーで電波を受信できるため、独特の外観を持つ。 (Image Credit:Giant Metrewave Radio Telescope / Tata Institute of Fundamental Research / National Centre for Radio Astrophysics) 】

マギル大学のArnab Chakraborty氏とインド科学研究所のNirupam Roy氏の研究チームは、インドのプネーにある電波望遠鏡「巨大メートル波電波望遠鏡(GMRT)」のデータアーカイブの中から、これまでの記録をはるかに上回る遠方の銀河から届いた21cm線を観測しました。この銀河「SDSS J0826+5630」は、今から89億年前の時代に存在した、地球から見て133億光年の距離にある銀河です。これは、宇宙誕生から49億年後の時代に存在していた銀河であることを意味します。SDSS J0826+5630は、若い宇宙に典型的な、活発な星形成が行われている銀河であると推定されています。

今回、21cm線の検出のカギとなったのは「重力レンズ効果」です。一般相対性理論によれば、重力は時空の歪みであると表現されます。光は空間をまっすぐ進む性質がありますが、時空が歪んでいるとその歪みに沿って進みます。私たち観測者と観測対象の銀河との間に、時空の歪みの源となる別の銀河があると、進む向きを曲げられた光が観測者のところで一か所に集まることがあります。あたかも凸レンズで光を焦点に集中させたように見えることから、この現象は重力レンズ効果と呼ばれています。

【▲ 図2: 画像中心部にある赤い点が、今回観測されたSDSS J0826+5630。 (Image Credit: Chakraborty & Roy) 】

【▲ 図2: 画像中心部にある赤い点が、今回観測されたSDSS J0826+5630。 (Image Credit: Chakraborty & Roy) 】

SDSS J0826+5630の場合、私たちとSDSS J0826+5630の間に別の銀河があることで重力レンズ効果が発生し、信号の強度が約30倍に増幅されていました。もしも重力レンズ効果がなければ、これほど遠方の銀河からの21cm線を観測することはできなかったと考えられます。

また、SDSS J0826+5630は恒星の総質量が正確に推定できる条件を満たしていました。遠方の銀河における恒星の総質量の正確な推定が一般的に困難であることを考えれば幸運なことであり、その値は太陽の約38億倍であると推定されます。これに加えて、今回21cm線を測定できたことにより、銀河を覆っている水素ガスの質量を太陽の約90億倍と推定することができました。この値は恒星の総質量のほぼ2倍に相当します。恒星と違って輝かない水素ガスの質量を推定できたことで、星形成が活発な銀河の構造などの推定に役立つ情報が得られました。

また、今回のSDSS J0826+5630の分析結果から、遠方の銀河の21cm線の強度は、銀河に含まれる中性水素原子の量に大きく依存することが推定されます。銀河は地球から遠ければ遠いほど、地球に届く信号の強度は急激に弱くなりますが、遠い宇宙……言い換えれば若い宇宙にある初期の銀河であるほど21cm線を放出する中性水素原子を多く含む傾向にあると推定されるため、信号強度の低下を補える可能性があります。今回の研究結果は、重力レンズ効果が働いている他の銀河でも、21cm線が見つかる可能性を提示しています。

 

Source

Arnab Chakraborty & Nirupam Roy. - “Detection of H I 21 cm emission from a strongly lensed galaxy at z ∼ 1.3”. (Monthly Notices of the Royal Astronomical Society) News Staff. - “Astronomers Detect Radio Signal from Strongly Gravitationally Lensed Galaxy”. (SciNews) Ximena Fernández, et.al. - “Highest Redshift Image of Neutral Hydrogen in Emission: A CHILES Detection of a Starbursting Galaxy at z = 0.376”. (The Astrophysical Journal Letters)

文/彩恵りり

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