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内部海に由来? エウロパ表面の二酸化炭素分布をウェッブ宇宙望遠鏡で特定

sorae.jp / 2023年9月23日 17時44分

木星の衛星エウロパには地球の海水の2倍という大量の水をたたえた内部海が氷の外殻の下に広がっているのではないかと考えられていて、生命が存在する可能性も指摘されています。今回、その内部海の水に炭素が含まれている可能性を示した2つの研究成果が発表されました。ご存知の通り、複雑な化合物の材料となる炭素は地球の生命にとって非常に重要な元素のひとつです。

【▲ NASAの木星探査機「ジュノー」の可視光カメラ(JunoCam)で撮影された衛星エウロパ(Credit: NASA/SwRI/MSSS/Thomas Appéré)】

【▲ NASAの木星探査機「ジュノー」の可視光カメラ(JunoCam)で撮影された衛星エウロパ(Credit: NASA/SwRI/MSSS/Thomas Appéré)】

アメリカ航空宇宙局(NASA)ゴダード宇宙飛行センターのGeronimo Villanuevaさんと、コーネル大学のSamantha Trumboさんをそれぞれ筆頭とする2つの研究チームは、「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope:JWST)」の「近赤外線カメラ(NIRCam)」によるエウロパの観測データを分析した結果、表面の特定の地域に二酸化炭素(CO2)が集中して存在することを突き止めました。両チームの成果をまとめた論文はScienceに掲載されています。

ウェッブ宇宙望遠鏡を運用する宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)によると、二酸化炭素はエウロパ表面のタラ地域(Tara Regio)やポーイス地域(Powys Regio)に集中して分布していました。これらの地域は外殻の一部が崩壊したことで形成されたとみられる「カオス地形(chaos terrain)」として知られています。エウロパ表面の約4分の1を覆うカオス地形は地質学的に若く、亀裂・尾根・流氷のようにブロック化した氷で構成されています。

【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)で観測した木星の衛星エウロパ。白く見える部分はタラ地域(中央~右)とポーイス地域(左下)。ウェッブ宇宙望遠鏡は主に赤外線の波長で観測を行うため、画像の色は取得時に使用されたフィルターに応じて着色されている(Credit: NASA, ESA, CSA, G. Villanueva (NASA/GSFC), S. Trumbo (Cornell Univ.), A. Pagan (STScI))】

【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)で観測した木星の衛星エウロパ。白く見える部分はタラ地域(中央~右)とポーイス地域(左下)。ウェッブ宇宙望遠鏡は主に赤外線の波長で観測を行うため、画像の色は取得時に使用されたフィルターに応じて着色されている(Credit: NASA, ESA, CSA, G. Villanueva (NASA/GSFC), S. Trumbo (Cornell Univ.), A. Pagan (STScI))】

エウロパでは「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope:HST)」などの観測データをもとに水蒸気のプルーム(水柱、間欠泉)が噴出していると考えられており、タラ地域に関しては塩化ナトリウム(NaCl、食塩の主成分であり地球の海水にも含まれている)の存在が2019年に報告されています。また、カオス地形ではエウロパ表面から内部海へと酸素が運び込まれている可能性も指摘されているなど、エウロパの表面と内部海の間では物質が循環している可能性が考えられます。

参考:エウロパの関連記事一覧

【▲ エウロパの表面を覆う外殻の断面を示した図。中央右側にカオス地形が描かれている(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

【▲ エウロパの表面を覆う外殻の断面を示した図。中央右側にカオス地形が描かれている(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

両チームはNIRCamで検出された二酸化炭素について、隕石の衝突などによって外部から供給されたものではないことを分析結果が示していることから、エウロパ内部から比較的最近になって表面に供給されたものだと考えています。つまり、検出された二酸化炭素はエウロパの内部海に由来する可能性があるというのです。

STScIによれば二酸化炭素はエウロパの表面では安定せず、地質学的に若いカオス地形に集中して分布することから、内部から最近供給されたと考えても矛盾しません。エウロパの二酸化炭素そのものは過去にも検出されていたものの、それが内部海に由来するのか、それとも外部からもたらされた物質に由来するのかを判断することは今までできなかったといいますから、今回の成果は内部海の化学的性質を探る上で大きな一歩となりそうです。

いっぽう、Villanuevaさんのチームはエウロパから噴出しているとみられる水蒸気のプルームも探したものの、今回の観測データからその証拠は見つかりませんでした。ただし、プルームは常に噴出しているとは限らないため、今回の観測ではたまたま検出されなかった可能性があります。Villanuevaさんの研究チームに参加した全米天文学大学連合(AURA)のHeidi Hammeさんは「私たちがウェッブ宇宙望遠鏡で観測を行った時にはエウロパのプルームは検出されなかった、100パーセントの自信を持って言えるのはそれだけです」とコメントしています。

【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)で観測したエウロパ(一番左)と、NIRCamの面分光ユニット(IFU)モードで観測したエウロパ(左から2~4番目)。特にタラ地域に二酸化炭素が集中して分布する様子が示されている。左から2番目と3番目は結晶質の二酸化炭素を示し、4番目は他の物質と混合し非晶質(アモルファス)な形態の二酸化炭素を示している(Credit: NASA, ESA, CSA, G. Villanueva (NASA/GSFC), S. Trumbo (Cornell Univ.), A. Pagan (STScI))】

【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)で観測したエウロパ(一番左)と、NIRCamの面分光ユニット(IFU)モードで観測したエウロパ(左から2~4番目)。特にタラ地域に二酸化炭素が集中して分布する様子が示されている。左から2番目と3番目は結晶質の二酸化炭素を示し、4番目は他の物質と混合し非晶質(アモルファス)な形態の二酸化炭素を示している(Credit: NASA, ESA, CSA, G. Villanueva (NASA/GSFC), S. Trumbo (Cornell Univ.), A. Pagan (STScI))】

STScIによると、今回の研究ではNIRCamの面分光ユニット(IFU)モードによるエウロパの観測データが分析されました。このモードでは直径3128kmのエウロパに対して320km×320kmの解像度でスペクトル(電磁波の波長ごとの強さ)が得られ、表面のどこにどのような物質が存在するのかを特定することが可能だといいます。またHammeさんによると、ウェッブ宇宙望遠鏡によるエウロパの観測にはほんの数分しかかからなかったといいます。

なお、エウロパは2023年4月に打ち上げられた欧州宇宙機関(ESA)の木星系探査機「JUICE」や、NASAが2024年10月の打ち上げを目指して準備を進めている探査ミッション「エウロパ・クリッパー(Europa Clipper)」の探査対象となっています。今回の両チームによる研究成果は、JUICEやエウロパ・クリッパーのミッションにも活かされるかもしれません。

 

Source

Image Credit: NASA, ESA, CSA, G. Villanueva (NASA/GSFC), S. Trumbo (Cornell Univ.), A. Pagan (STScI) NASA - NASA’s Webb Finds Carbon Source on Surface of Jupiter’s Moon Europa STScI - NASA’s Webb Finds Carbon Source on Surface of Jupiter’s Moon Europa ESA - Webb finds carbon source on surface of Jupiter’s moon Europa ESA/Webb - Webb finds carbon source on surface of Jupiter’s moon Europa Villanueva et al. - Endogenous CO2 ice mixture on the surface of Europa and no detection of plume activity (Science) Trumbo and Brown - The distribution of CO2 on Europa indicates an internal source of carbon (Science)

文/sorae編集部

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