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猛スピードで拡大中? ウェッブ宇宙望遠鏡が観測したウォルフ・ライエ星のリング

sorae.jp / 2025年1月24日 21時12分

こちらは「はくちょう座(白鳥座)」の方向約5300光年先の星「Wolf-Rayet 140」(ウォルフ・ライエ140、以下「WR 140」)です。画像の中央で明るく輝いているのがWR 140で、その周囲には塵(ダスト)のリングが星を取り囲むように幾つも存在しています。

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の中間赤外線観測装置「MIRI」で2023年9月に観測された「Wolf-Rayet 140(ウォルフ・ライエ140)」(Credit: Image: NASA, ESA, CSA, STScI; Science: Emma Lieb (University of Denver), Ryan Lau (NSF's NOIRLab), Jennifer Hoffman (University of Denver))【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の中間赤外線観測装置「MIRI」で2023年9月に観測された「Wolf-Rayet 140(ウォルフ・ライエ140)」(Credit: Image: NASA, ESA, CSA, STScI; Science: Emma Lieb (University of Denver), Ryan Lau (NSF's NOIRLab), Jennifer Hoffman (University of Denver))】 2つの大質量星が形作った塵の多重リング

その名が示すように、WR 140は「ウォルフ・ライエ星」の一つとして知られています。ウォルフ・ライエ星は大質量の恒星であるO(オー)型星が進化した姿で、恒星のなかでも短い約1000万年以下とされる生涯を終えつつあります。ウォルフ・ライエ星では恒星風として星の外層から大量の水素が放出され失われたことで、高温の内層がむき出しになっているとみられています。

WR 140を構成するウォルフ・ライエ星(左)とO型星(右)、太陽(左上)の大きさを比較した図(Credit: NASA/JPL-Caltech)【▲ WR 140を構成するウォルフ・ライエ星(左)とO型星(右)、太陽(左上)の大きさを比較した図(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

WR 140は実際には単一の星ではなく連星で、ウォルフ・ライエ星に進化した恒星(質量は太陽の約10倍)と、別のO型星(同・約30倍)が約8年周期で公転し合っているとされています。2つの星から流れ出た恒星風どうしが衝突し、圧縮されたガスから炭素を豊富に含む塵が生成されて広がることで、連星を取り囲むような同心円状のリングが形成されたと考えられています。

ただし、連星の軌道は細長い楕円形をしているため、塵が生成されるのは2つの星が接近する期間に限られます。2つの星が離れている期間は塵の生成が止まるため、画像の左上には塵のリングが途切れた暗い領域が生じています。

【▲ WR140を構成する2つの恒星の軌道と、接近した時に塵が生成される様子を示した動画】
(Credit: NASA, ESA, CSA, Joseph Olmsted (STScI))

拡大し続けるリングの変化をウェッブ宇宙望遠鏡が捉えた

冒頭の画像は「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope: JWST)」の「中間赤外線観測装置(MIRI)」で2023年9月に取得したデータを使って作成されました。ウェッブ宇宙望遠鏡は赤外線の波長で主に観測を行うため、公開されている画像の色は取得時に使用されたフィルターに応じて着色されています。

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の中間赤外線観測装置「MIRI」で2022年7月(左)と2023年9月(中央)に観測された「Wolf-Rayet 140(ウォルフ・ライエ140)」と、各画像の右上部分を拡大してリングの変化を示した画像(右)(Credit: Image: NASA, ESA, CSA, STScI; Science: Emma Lieb (University of Denver), Ryan Lau (NSF's NOIRLab), Jennifer Hoffman (University of Denver))【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の中間赤外線観測装置「MIRI」で2022年7月(左)と2023年9月(中央)に観測された「Wolf-Rayet 140(ウォルフ・ライエ140)」と、各画像の右上部分を拡大してリングの変化を示した画像(右)(Credit: Image: NASA, ESA, CSA, STScI; Science: Emma Lieb (University of Denver), Ryan Lau (NSF's NOIRLab), Jennifer Hoffman (University of Denver))】

ウェッブ宇宙望遠鏡が捉えたWR140の塵のリングは合計17本。2022年7月と2023年9月に取得されたWR140の観測データを比較すると、リングが約1年というわずかな間にもはっきりわかるほどの速度で拡大している様子が見えてきます。

ウェッブ宇宙望遠鏡を運用するアメリカの宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)によると、リングが星から遠ざかる速度は光速の1%に近い毎秒2600km(=毎時936万km)以上だといいます。塵のリングはやがて散逸してしまうため、ウェッブ宇宙望遠鏡のMIRIで捉えることができたのは放出されてから130年ほど経ったものが限界です。WR140は最終的に数十万年かけて数万のリングを生成すると予想されています。

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の中間赤外線観測装置「MIRI」で2022年7月(左)と2023年9月(中央)に観測された「Wolf-Rayet 140(ウォルフ・ライエ140)」のアニメーション画像(Credit: Image: NASA, ESA, CSA, STScI; Science: Emma Lieb (University of Denver), Ryan Lau (NSF's NOIRLab), Jennifer Hoffman (University of Denver))【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の中間赤外線観測装置「MIRI」で2022年7月(左)と2023年9月(中央)に観測された「Wolf-Rayet 140(ウォルフ・ライエ140)」のアニメーション画像(Credit: Image: NASA, ESA, CSA, STScI; Science: Emma Lieb (University of Denver), Ryan Lau (NSF's NOIRLab), Jennifer Hoffman (University of Denver))】

その後はどうなるのでしょうか。大量の塵を放出したウォルフ・ライエ星は超新星爆発を起こして恒星としての生涯を終えるか、爆発することなく崩壊して直接的にブラックホールを形成すると考えられています。超新星の場合、放出された塵は爆発に巻き込まれることで一部または全てが吹き飛ばされます。一方、直接ブラックホールになった場合、塵はそのまま残ることになります。

塵の粒子ひとつのサイズは人間の毛髪の太さの100分の1程度しかありませんが、地球をはじめとする岩石惑星はこうした塵が数え切れないほど集まることで形成されました。塵の起源やその行方を理解することは、私たち人類の存在を理解することにもつながる重要な取り組みなのです。

WR140の将来を確実に予測するのは不可能ですが、研究者はブラックホールが形成されるシナリオを期待しているといいます。ウェッブ宇宙望遠鏡の観測データを使ってWR140を調査した研究チームに参加したアメリカ国立科学財団(NSF)国立光学・赤外天文学研究所(NOIRLab)のRyan Lauさんは「天文学における主要な疑問の1つは、宇宙のすべての塵がどこから来るのかということです」「もしもこのような炭素に富む塵が生き残るなら、その疑問に答える手がかりとなるかもしれません」とコメントしています。

ウェッブ宇宙望遠鏡が観測したWR140の新たな画像は、STScIをはじめアメリカ航空宇宙局(NASA)や欧州宇宙機関(ESA)から2025年1月13日付で公開されています。

短命の恒星「WR 124」 X線宇宙望遠鏡チャンドラの打ち上げ25周年記念画像から(2024年8月9日) 巨大な星のペアが描いた17本のリング。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が撮影(2022年10月19日)

 

Source

STScI - Webb Watches Carbon-Rich Dust Shells Form, Expand in Star System NASA - Webb Watches Carbon-Rich Dust Shells Form, Expand in Star System ESA - Webb watches carbon-rich dust shells form, expand in star system ESA/Webb - Webb watches carbon-rich dust shells form, expand in star system

文・編集/sorae編集部

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