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人類が新たに開いた扉。「ブラックホールの直接撮影」に成功。”シャドウ”を捉える

sorae.jp / 2019年4月11日 12時11分

この画像は、人類が初めて撮影に成功したブラックホールの姿。今これを目にしている私たちの人生を超えて、長く語り継がれることになります。

国際協力ブロジェクト「イベント・ホライズン・テレスコープ(Event Horizon Telescope : EHT)」は2019年4月10日、おとめ座銀河団にある楕円銀河「M87」の中心に超大質量ブラックホールが実在することを、世界中の電波望遠鏡群による観測とそのデータ解析によって証明したと発表しました。

公開された画像には、波長1.3mmのミリ波による観測で浮かび上がったリング状の輝きが写っています。その中央、ぽっかりと空いた穴のように見える部分は、ブラックホールの強力な重力によって作り出された「ブラックホールシャドウ」と呼ばれる影。この影こそが、ブラックホールの存在を証明する鍵となるのです。

ブラックホールは極めて密度の高い天体であるため、その周辺には内側に入った光(電磁波)が外に脱出できなくなる限界の距離が存在します。この距離を半径として描いた仮想の球体は「事象の地平面(英:event horizon)」と呼ばれています。

電磁波が出てこられないので、事象の地平面よりも内側がどうなっているのかを電磁波で知るすべはありません。ですが、事象の地平面よりも外側であれば、理論上は電磁波による観測が可能です。事象の地平面はブラックホールによって生み出されたものであるため、これを観測することができれば、そこにブラックホールが存在すると証明できるのです。

この証明に挑んだのが、今回発表を行ったEHTです。EHTは、光をも吸い込んでしまうブラックホールの強力な重力をうまく利用した観測を試みました。

ブラックホール周辺の電磁波は、強い重力によってその進み方が大きくねじ曲げられます。「重力レンズ」と呼ばれる効果です。この効果によって、本来の進行方向であれば地球には届かなかったはずの電磁波も、向きが変わって地球に届くようになります。

電磁波がねじ曲げられる程度は事象の地平面に近づくほど大きくなりますが、近づきすぎるとブラックホールを周回するように捉えられてしまったり、その中に吸い込まれてしまったりします。その結果、ブラックホール周辺の電磁波は、事象の地平面よりも少し大きなリング状に観測されると予想されました。

下の画像は、ブラックホール周辺における重力レンズ効果の模式図です。虫眼鏡の真ん中に光を通さない部分があって、そこだけ影のように黒く見えるとイメージすればわかりやすいでしょうか。

この「影のように見える部分」、すなわちブラックホールシャドウを撮影できれば、結果的に「ブラックホールが存在する」と証明できるわけです。ただ、ブラックホールシャドウを撮影するには、とてつもなく高い解像度を持った望遠鏡が必要でした。

今回観測の対象となったM87までの距離はおよそ5,500万光年で、その直径は12万光年ほど。中央からは灯台の明かりのようなジェットが8,000光年にわたって噴出しています。

ブラックホールシャドウを捉えるには、そのジェットの発生源にひたすらズームしていかなければなりません。結果的にM87の超大質量ブラックホール周辺で撮影されたリングの見かけの大きさは42マイクロ秒角と極めて小さく、これは「月面に置いた野球のボールを地球から見る」のと変わらない小ささでした。

そこでEHTでは「アルマ望遠鏡」をはじめとした世界8か所の電波望遠鏡をリンクして、地球サイズの電波望遠鏡を使ったのと同じ効果が得られる「VLBI(超長基線電波干渉計)」という手法を活用しました。得られた解像度はリングよりも小さな20マイクロ秒角で、「月面のゴルフボールを見分けられる」レベルに達します。

VLBIによるM87の観測は2017年4月5日、6日、10日、11日に実施。観測によって得られたデータはおよそ500テラバイトと膨大であり、地球の大気による影響や観測装置を由来としたノイズなども考慮して、慎重に解析が続けられました。その結果が、冒頭に掲載したブラックホールシャドウを捉えた画像へとつながったのです。

VLBIによってズーム撮影された範囲は、こちらの画像に示されています。M87(左上)のジェットの根元にある明るいエリア(右上)をさらに拡大した先に、ブラックホールシャドウを縁取るリング(下)が輝いていました。

今回の観測成功によって、あくまでも一般相対性理論にもとづく理論上の存在でしかなかったブラックホールを、電磁波によって直接観測できることが証明されました。

また、リングの直径が判明することで、ブラックホールの質量を今までよりも正確に求められるようになります。今回観測されたM87の超大質量ブラックホールは、太陽の65億倍の質量を持つことがわかりました。

しかし、観測によって新たな謎も浮上しました。ブラックホールシャドウの周辺にはリングこそ写っているものの、8,000光年の長さを持つM87のジェットにつながる構造が見当たらないのです。いかにしてジェットが生み出されているのかは、今後の課題として残されたままです。

昨年12月に恒星間空間へ到達したと発表されたときの「ボイジャー2号」までの距離が180億km、およそ0.002光年なので、M87のブラックホールシャドウは太陽系が簡単に収まってしまうほどの大きさということになります。EHTが扉を開いた「ブラックホールの直接撮影」、次にその姿を見せるのは、どのブラックホールになるのでしょうか。

 

Image credit: EHT Collaboration
https://eventhorizontelescope.org/
https://www.miz.nao.ac.jp/eht-j/
文/松村武宏

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