2019年に見つかった2つの小惑星、約300年前に別の天体から分裂してできたばかり?
sorae.jp / 2022年2月11日 21時18分
チェコ科学アカデミー天文学研究所のPetr Fatkaさんを筆頭とする研究グループは、2019年8月に見つかった2つの小惑星について、今から約300年前に別の天体から分裂してできたばかりの可能性があるとする研究成果を発表しました。2つの小惑星は共通の母天体(ある天体の元になった天体)から形成されたと考えられています。
■2つの小惑星は約300年前に同じ彗星から分裂してできた可能性Fatkaさんたちの研究対象となったのは、小惑星「2019 PR2」および「2019 QR6」の2つです。推定される直径は2019 PR2が約1kmで、2019 QR6はその半分。2つの小惑星は非常に似通った軌道上(※)にあり、約13.9年周期で太陽を公転しています。
※…近日点距離:約1.2天文単位、遠日点距離:約10.4天文単位。NASA/JPLの小天体データベースより
これまでのFatkaさんたち研究グループによる分析の結果、2019 PR2と2019 QR6は、過去数百万年以内に共通の母天体から分裂したことが明らかになっていました。かつては同じ天体の一部だったとされる2つの小惑星ですが、分裂から年月を経た現在では約100万kmの距離を隔てているといいます。
研究グループは今回、2019 PR2と2019 QR6の形成と進化の歴史を探るべく、2つの小惑星の軌道を過去に向かって遡るための分析を行いました。その結果、冒頭でも触れたように、2019 PR2と2019 QR6は約300年に母天体が分裂して形成された可能性が示されました。「このような若い小惑星のペアが見つかったことに、とても心が躍ります。天文学的なタイムスケールでいえば、昨日どころか今朝起きたことのようです」(Fatkaさん)
分析に用いるデータを取得するために、研究グループはアリゾナ州のローウェル天文台にある「ローウェルディスカバリー望遠鏡」(口径4.3m)など、複数の望遠鏡による追加観測を実施しました。また、2019 QR6を発見した観測プロジェクト「カタリナ・スカイサーベイ」が発見前に取得していた14年分の観測データも、今回の分析に用いられています。
研究グループによると、2019 PR2と2019 QR6のように対をなす小惑星の大半は、自転速度が速くなった小惑星から分裂したことで形成されたと考えられています。無数の岩塊がゆるく集積してできた小惑星(ラブルパイル天体)が高速で自転すると、小惑星から1つまたは複数の破片が分裂することがあるといいます。分裂した破片は、母天体となった元の小惑星と良く似た軌道を保ちます。
ところが、高速自転にともなう分裂を考慮した従来のモデルでは、現在の2019 PR2と2019 QR6の軌道を完全には説明することができないといいます。重力やヤルコフスキー効果(※)とは何か別の作用が働いたに違いないと考えた研究グループは、母天体に彗星を想定したモデルを新たに開発。このモデルを用いて分析を行ったところ、水蒸気や一酸化炭素のガスを噴出する彗星の活動によって、2つの小惑星が現在の軌道に入ったことを説明することができました。
※…ヤルコフスキー効果:太陽に温められた天体の表面から放射される熱の強さが場所によって異なるために、天体の軌道が変化する効果のこと
ただ、現在の2019 PR2と2019 QR6は、彗星としての活動を示していません。研究に参加したローウェル天文台のNicholas Moskovitzさんは「どのようにして単一の母天体が個別に活動する天体のペアに分裂し、わずか300年で今日見られるような不活発な天体に移行したのかは、依然として謎に包まれています」と語ります。
謎を解くためには追加観測が欠かせませんが、14年弱で公転する2019 PR2と2019 QR6は現在太陽から(すなわち地球からも)離れつつあります。Fatkaさんによると、再び望遠鏡で観測するには2033年まで待たねばならないとのこと。2つの小惑星に起きたことをより深く理解するには、もうしばらく時間がかかりそうです。
関連:史上2例目、2020年発見の小惑星が「地球のトロヤ群小惑星」だと確認される
Source
Image Credit: ESO/M.Kornmesser/L. Calçada ローウェル天文台 - YOUNGEST PAIR OF ASTEROIDS IN SOLAR SYSTEM DETECTED(王立天文学会月報とarXivへのリンクあり)文/松村武宏
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