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「漫然と野球をやっていた」広岡達朗の指令によりアメリカへ飛んだ工藤公康の“覚醒前夜”

日刊SPA! / 2024年3月13日 15時51分

カリフォルニアリーグとは、メジャー、3A、2A、1Aのなかの一番下に属するリーグ。かつては1Aを二つや三つ持っていた球団もあった。

工藤は、リリースされた選手各々に挨拶がてら今後のことを聞いてみると、全員が同じことを言うのに驚いた。

「なんで辞めなきゃいけないんだ。俺はたまたま今回、結果が出なかったけど、決して能力がないわけじゃない。俺はやればできる人間なんだ。今回はたまたまそうなっただけで、 また練習して、必ずメジャーに上がってアメリカンドリームを手に入れるんだ。俺はそれだけのことをできる人間なんだ」

自分のことを、何の疑いもなく強く信じている。

「こういう思いでベースボールをやっているのか……」

彼らの強い覚悟と意志に、工藤は衝撃を受けた。工藤にとってそれまで飯を食う手段が野球であって、野球をしてどうこうしたいという明確な目的がなかった。

「こんな漫然と野球をやってる自分ってどうよ……」

自問自答した。1Aの選手たちが日に日にリリースされる姿を見て、生きることは試練だとつくづく感じた。

工藤の小利口の特性は、先を見通せる力がある分、どこか冷めた目で物事を見てしまう。表向きの物怖じしない性格はひとつの側面であって、現実を俯瞰することで見切ってしまう自分もいた。

物怖じしない姿を見せていた工藤だが、実のところ、プロに入った当初はあまりのレベルの差を感じ興冷めしていた。自分のすぐ上に誰々がいて、その下が誰々で……俯瞰して物事を見る性格ゆえ、自分が今どの位置にいるかも工藤にはわかった。一軍でバリバリ投げるためにはローテーションピッチャー以外の全員を抜いていかなくてはならない。そんなのは土台無理な話だし、何年か経ったらトレードで出されて一、二年で終わるんだろうなと、どこかで自分を見切っていた。一年目から一軍で投げさせてもらったといっても、左のワンポイントでデータがないルーキーだったからであり、本当の意味で通用しているとは思っていなかった。

◆工藤は心に訴えかける「俺はどうしたいんだ? 何をやりたいんだ?」

1Aで頑張るマイナー選手たちのひたむきなプレーとメンタルに心を揺り動かされた工藤は、ここでようやく本気になって自身を見つめ直した。

「俺はどうしたいんだ? 何をやりたいんだ?」

俯瞰して考えるのではなく、自らの心に訴えかけた。

その答えさえ出れば、あとはその目的のためにどうすればいいのか逆算していけばいい。そして何よりも、己を信じること。その地域地区の天才たちが集まっているのがプロの世界。能力が高いやつの集団であることくらい最初からわかっている。高卒ルーキーとして一軍で少し投げさせてもらっただけで、まだ何もしていないのに諦めている自分が小っ恥 ずかしくなった。

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