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「バンザーイ! バンザーイ!」広岡退任に沸き立った選手たち。そのときチームリーダーの石毛宏典は複雑な気持ち…

日刊SPA! / 2024年3月16日 15時52分

八五年一一月八日、西武ライオンズ広岡達朗監督辞任。 この日を最後に、広岡は二度とユニフォームを着ることはなかった。

石毛にとって、広岡の第一印象は最悪だった。広岡が監督に就任した直後の合同自主トレでのことだ。

「お前が石毛か。去年新人王を獲ったらしいけど、下手くそやな」

なんだ!? 喧嘩を売られているのかと思った。

「あなたこそ、玄米を推奨してますけど、痛風らしいじゃないですか 」。そんなことを面と向かって言いたかったが、もちろん我慢する。とにかく噂通りの嫌なやつだと思った。 売られた喧嘩は買うしかない。石毛は、広岡と口を利くのを止めた。

そうとは知らない広岡は、控えのショートである行沢久雄や広橋公寿を捕まえて熱心に指導している。守備コーチの近藤昭仁も加わり、なにやら活気付いた雰囲気になっているのが遠目からでもわかる。平然を装おうにも、どうにも気になって横目でチラチラと見てしまう。

「違う、そうじゃない」「そうだ、もう一度!」。広岡の檄が飛ぶ。

その練習を端から見ていると、選手たちがみるみる上達しているように思えてしまう。石毛はひとり取り残されている気分に陥った。監督に睨まれることに抵抗はないが、他の選手が上達することにもどかしさを感じる。石毛は不本意ながら自ら広岡に歩み寄ることにした。

◆「お前だって長く野球やりてえだろう」

「監督、僕にも教えてください」

帽子を取って非礼を詫びた形をとる。

「ようやく気づいたか、入れ」

広岡は、待ち構えていたかのように言う。

少しでも広岡と関わった者なら誰でも知っているが、広岡流の守備特訓の第一段階として、ごく基礎的な練習からやらせるのが定番だ。広島、ヤクルト時代と同じように、最初 はゆっくり転がしたボールを捕らせることから始める。ゆっくりボールを転がしたと同時 に大声が飛ぶ。

「石毛、こう(最初から構えて捕るのではなく、上から摑むように)捕れ!」

なんでそんな捕り方をさせるのかわからなかった。とりあえず言われたとおりに上から摑むように捕ろうとしたら、ボールが抜けていった。捕れなかったのだ。

「ほら見てみろ、こんなボールなのに捕れねえだろ。下手くそ」

石毛の表情は一変した。小っ恥ずかしかった。

上から摑むように捕るためには、相当腰を下ろさなければならない。次からは、腰をがっちり落として慎重に捕った。しばらく続けてから広岡は石毛を呼び寄せた。

「お前だって長く野球やりてえだろう。将来指導者になりてえだろう。今のお前は我流なんじゃ。三〇ぐらいまでは今のやり方でもできるかもしれんけど、三〇過ぎたら、その身のこなしではまともに野球ができなくなるし上手くならん、指導者もできない」

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