「バンザーイ! バンザーイ!」広岡退任に沸き立った選手たち。そのときチームリーダーの石毛宏典は複雑な気持ち…
日刊SPA! / 2024年3月16日 15時52分
石毛は広岡を真摯な目で見つめ、監督の言わんとしていることを汲み取ろうとした。広岡の目には怖いほどの強い力が宿っていた。
広岡が、なぜ口酸っぱいほどに基礎と言うのか、石毛は考えてみる。まずは原点に立ち返るために学生時代を振り返ってみた。そういえば、中学高校大学社会人と指導をきちんと受けた記憶があまりない。なぜならば、持って生まれた才能で、指導を受けずとも他のチームメイトより上手くできてしまっていたからだ。それは石毛だけに限らず、七〇年代のプロ野球選手は、各々が持っている才能、センス、感性だけで投げたり打ったりしていた。それこそ遊びの延長で野球をやっているのが普通だったからだ。
若いうちは体力があるから自己流でも四、五年はできるけれども、所詮自己流では長続きしないというのが広岡監督の考えだ。頭でわかっていても体で覚えないと、人間は進化していかない。石毛は何とか理解しようと、広岡の教えを全身全霊で吸収しようとした――。
(次回へ続く)
【松永多佳倫】
1968年生まれ。岐阜県出身。琉球大学卒。出版社勤務を経て2009年8月より沖縄在住。最新刊は『92歳、広岡達朗の正体』。著書に『確執と信念 スジを通した男たち』(扶桑社)、『第二の人生で勝ち組になる 前職:プロ野球選手』(KADOKAWA)、『まかちょーけ 興南 甲子園優勝春夏連覇のその後』、『偏差値70の甲子園 ―僕たちは文武両道で東大を目指す―』、映画化にもなった『沖縄を変えた男 栽弘義 ―高校野球に捧げた生涯』、『偏差値70からの甲子園 ―僕たちは野球も学業も頂点を目指す―』、(ともに集英社文庫)、『善と悪 江夏豊ラストメッセージ』、『最後の黄金世代 遠藤保仁』、『史上最速の甲子園 創志学園野球部の奇跡』『沖縄のおさんぽ』(ともにKADOKAWA)、『マウンドに散った天才投手』(講談社+α文庫)、『永遠の一球 ―甲子園優勝投手のその後―』(河出書房新社)などがある。
―[92歳、広岡達朗の正体]―
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