辻本茂雄(2)後にも先にも一度だけあったNSC解散 救いの神は元相方「茂ちゃん、もう一回やろう」
スポニチアネックス / 2024年4月22日 13時8分
【辻本茂雄インタビュー(2)】
◆絶望の中でうっすら差した光◆
―競輪選手を目指されていたのに、膝に腫瘍が見つかって断念せざるを得なくなりました。その時の気持ちは察して余りあります。
「いや、もうどん底で、頭は真っ白。競輪選手になることしか考えてなくて、修学旅行も国体と重なるから行ってないくらい。だから絶望でした。自暴自棄になってたばこも酒も覚えて、取材では言えないようなこともして(笑い)。まあ人に迷惑をかけるようなことはしなかったですけど」
―吉本という選択肢はどこから来たのでしょうか?
「用事で難波に来た時にNSC(吉本総合芸能学院)の入学案内を見たんです。その頃、心斎橋2丁目劇場の盛り上がりがニュースで流れていて、そういえばニュースで見たなあと思って。芸人にまったく興味はなかったんですが、夢を追いかけてきたんで、もう一回違う世界で夢を追っかけてみよう、と思ったのがきっかけです。本気でお笑い目指してた人には失礼な話なんですけど」
―NSCに入られて、まったくお笑いの経験がない状態で、周囲の人と自分を比べたりはしなかったのでしょうか?
「そんときね、めちゃめちゃ人数少なかったんですよ」
―そうなんですか?
「というのも、なんばグランド花月が建設中やったんで稽古場が2丁目劇場やったんです。めちゃくちゃ狭いし、授業も3つだけ。新喜劇の台本書いてた先生の授業と、発声の授業、殺陣の授業だけ。漫才の発表もない。今ではとても考えられへん(笑い)。しかもね、入ってすぐの8月に解散になるんです」
―え?解散?
「後にも先にも途中解散はうちの期だけですわ(笑い)。9月から2丁目劇場で番組が始まるから、稽古場がない。でも、せっかくこうやって集まったんやから1カ月に1回、ミーティングでもしながら頑張ろう!と社員の人に言われたんですが、全く連絡ありませんでした」
―(笑い)
「さあ、どうしよ?です。アメリカ村の古着屋でバイトしてたんですが、芸人の夢も終わりかなあ、と思ってたところでした。相方の阪上くんが古着屋に来てくれたんです。“茂ちゃん、もう一回やろうよ”って。もし、彼が来てくれなかったら続けてなかったでしょうね。古着屋で頑張って、アメリカ行って古着の仕入れとかしてたのかもしれないです。彼がそう言ってくれたのは本当にうれしくて、感謝してます。いまだに連絡もとってますね」
―ただ、コンビは数年後に解散するんですよね?
「名古屋でネタ番組があったんで、阪上くんが早めに新大阪に来てくれと言うんです。マジメやなあ、ネタ合わせしたいんやな、と思ってたら、“茂ちゃん、おれやめようと思ってんねん”ですわ(笑い)うそやん?いま?早朝から?」
―(笑い)
「彼の中で何歳までに売れへんかったら芸人辞めるというのがあったみたいです。でも、ぼくは“早よ言えよ!”とはならなかった。彼の人生を背負っていくことはできひんし、ちょうど新喜劇も入った頃やったから、“わかった、1人で頑張るわ”って言いました。その後、彼はイベント会社に就職しました」
―違う世界で頑張られたんですね。
「そうですね。部長とかになってるのかな?転職はしてて同じ系統の会社ですけど、今は仙台にいます」
◆人生は人との出会いで決まる◆
―それにしても、波瀾万丈な人生。
「そうなんですかねえ。ただ、人生は人との出会いで決まるということは実感しています。阪上くんだったり、寛平兄さんだったり。テレビのバラエティーに出してもらうようになったのは、上沼恵美子さんが“あの子のツッコミおもろい”と言ってくれたからですし、ぼくのキャラクターの“茂造(白髪のおじいさん)”を深掘りできたのは、やしきたかじんさんが“あのキャラはおもろい。大事にせえよ”と言ってくれたからやし」
―今は何か目標はありますか?
「今年60なので、来年還暦ツアーを全国でやりたいですね。老化が激しいんですけど(笑い)。ただ、今は秋にリフレッシュできるんです。座長の頃は1年間ほぼ休みなしでしたが」
―家族サービスとかされるのでしょうか?
「嫁とは結婚記念日や誕生日などは食事に必ず行ってますね。今は子どもも手が離れたので。娘はロサンゼルスなんです」
―それはタイムリーな場所(笑い)。
「ドジャースタジアムまで自転車で8分らしいです」
―えー、そんなに近いんですか?
「娘も楽しみって言ってました。嫁も大谷好きなんです。まあ、ぼくは舞台があるから行けないでしょうけど(笑い)」
=終わり
【取材を終えて】実は取材前、けっこう緊張していた。かつて、記者仲間から「辻本さんとの取材はけっこうピリピリする」という話を聞いていたからだが、実際に会ってみると、とても穏やかな語り口。持ち前の厳しいツッコミが飛んでくることもなかった。
ずっと闘ってきた芸人人生。脂の乗っていた30代、40代は常に緊張感を持ち、それがオーラとして表れていたのかもしれない。難しい時期を何度も乗り越えてきたからこその穏やかな空気感なのだろう。酒井藍やアキら現座長も全幅の信頼を置くレジェンド。まだまだ新喜劇には欠かせない。(江良 真)
◇26日から主演舞台「茂造セレクト」を京都・よしもと祇園花月で上演する。09年から続く「茂造の夜芝居」シリーズの集大成作品だ。過去の公演で好評だったエッセンスを取り入れながら、辻本最強のキャラクターが暴れ回る。中堅・若手中心のメンバーで、周囲を生かす辻本の腕も見どころのひとつ。5月6日まで。
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