「ニクソンショック」の再来!? トランプ政権、緊急事態宣言で一律関税か【播摩卓士の経済コラム】
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2025年1月11日 14時0分
2度目となる大統領就任式を控え、トランプ次期政権の政策づくりが本格化しています。目玉政策である関税賦課政策について、米メディアは、政権発足後すぐに『緊急事態宣言』を出し、全世界一律に付加関税を課すことを検討していると報じました。
グリーンランド購入など言いたい放題
大統領選挙での当選後、しばし沈黙を守っていたアメリカのトランプ次期大統領は7日、記者会見を開きました。「デンマーク領のグリーンランドを購入したい」、「パナマ運河のアメリカへの返還を求める」、「カナダは51番目の州に」、「メキシコ湾の呼称をアメリカ湾に」などと、領土拡張への野心を隠さず、目的達成のためには軍事的経済的威圧も辞さない姿勢を示しました。まさに言いたい放題の炸裂ぶりでした。
こうしたやり方は、1期目でも十分見てきたので、トランプ氏の正確な胸の内を詮索したところであまり意味はありません。自分の力を見せつけ、怖れさせ、いずれあり得る個別の取り引きを有利に進めるための舞台作りだと見るのが妥当でしょう。
記者会見ではウクライナとロシアの停戦について、これまで「就任後24時間以内に実現する」と言っていたものを、「就任後半年で」といきなり主張を大きく後退させました。実現の難しさが分かって来たからでしょう。
そうした中で、自らの岩盤支持層である労働者層に直ちにアピールする政策が、各国への関税賦課政策で、就任直後に発動されるのではないかとの見方が広がっています。
『緊急事態宣言』で一律輸入関税か
アメリカのCNNテレビは8日、トランプ次期大統領が就任後に、1977年制定の「国際緊急経済権限法(IEEPA)」に基づく『緊急事態宣言』を出し、それに基づいて、全世界に対して一律に輸入関税を課すことを検討していると報じました。
この法律では、アメリカ経済に異例かつ重大な脅威がある場合に大統領が緊急事態を宣言して外為取引や貿易を規制できることになっていて、発動されれば初めてのケースになるということです。
特定の国や製品に対して、報復的な関税を課す仕組みは、他にも通商法や関税法にありますが、選挙中にトランプ氏は、すべての国に対し10~20%の輸入関税をかけると主張しており、全世界、全製品に対して一律の関税上乗せをするには、上記のような緊急事態と認定する以外、法的根拠が見いだせないのでしょう。
戦争が起きているわけでも、国際収支危機に直面しているわけでもなく、経済一人勝ち状態のアメリカ経済のどこが緊急事態なのかと言いたくもなりますが、この手法であれば、議会を通す必要もなく、大統領の宣言だけで実現可能です。アメリカの労働者を輸入品から守るために立ち上がったと、スタートダッシュでアピールする狙いです。関税については、やはり本気だと見るべきでしょう。
ニクソンショックで採用された輸入課徴金
ジャーナリストで帝京大学教授の軽部謙介氏は、1971年のニクソンショックにトランプ関税政策の原型があると、指摘しています。ニクソンショックとは、1971年8月15日に、ニクソン大統領が「新経済政策」を発表し、ドルと金の交換(兌換)を停止したものです。これを機に国際通貨体制は、戦後の固定相場制から変動相場制へと大きく転換することになるのですが、ニクソン大統領の「新経済政策」には、ドルを防衛し国際収支を改善するために、輸入課徴金を10%追徴することが盛り込まれていました。トランプ氏が主張する「すべての輸入品に10%の追加関税」と実質的には同じことです。
軽部氏の取材によれば、当時の各国の在米外交団の間では、この10%輸入課徴金を免除してもらうべく、アメリカに好意的な政策を採る国が出るのではないかと、疑心暗鬼が広がったとのことで、トランプ政権への「擦り寄り」を連想させる、今の状況とよく似ています。
結局、71年の輸入課徴金は、その後、通貨調整を決めた「スミソニアン会議」をもって撤廃されたのですが、後から振り返れば、輸入課徴金は、過度のドル高を是正し、各国に通貨高を求めさせるための『脅しの道具』として使われたことになります。輸入課徴金や追加関税を、自国に有利な秩序づくりのために使うのは、アメリカの「お家芸」なのかもしれません。
輸入関税を何のために使うのか
トランプ次期大統領が、個人的には、自国輸出の妨げになるドル高を望んでいないことは広く知られていますが、さりとて、ニクソンショックの時のように、追加関税をドル高是正の通貨調整のために使おうとしているという「証拠」は、今のところありません。
では一体、トランプ氏は一律輸入関税を何のために使おうとしているのか。現段階で精緻な構想があるわけではなく、今後、各国との個別の取り引きを有利に進めるためのお膳立てとみるのが常識的なのかもしれません。トランプ氏の頭の中では、要求の中身は、防衛努力でも、貿易黒字削減でも、市場開放でも、何でもありなのでしょう。
トランプ氏が「ドル高是正」に舵を切ることはあるか
為替について言えば、市場関係者の間では、トランプ政権の関税政策や大型減税は、インフレ圧力を強め、ドル高がさらに進むだろうとの見方が一般的です。その意味では、トランプ氏の金利安、ドル安志向とは、方向性は全く逆で、この点こそが、今のトランプトレードの最大の矛盾点でしょう。いつトランプ氏が、ドル高是正を言い出すのか、サプライズへの警戒は怠れないように思えます。
播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)
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