指導者の遠慮は「選手に伝わる。だから…」 片岡安祐美が考える、男性指導者と女子選手の理想の関係
THE ANSWER / 2024年4月11日 11時33分
■「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」オンラインイベント第3部に登場
国連が「女性の生き方を考える日」と定めた3月8日の国際女性デーに向け、「THE ANSWER」は女性アスリートの今とこれからを考える「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」を開催した。その一環として「“つながり”がつくる、私たちのニューノーマル」と題して行われたオンラインイベントに元女子野球日本代表でクラブチーム・茨城ゴールデンゴールズ(GG)監督の片岡安祐美さんがゲスト出演。イベント終了後はインタビューにも応じた。今回は「男性指導者と女性アスリートのコミュニケーション」をテーマに登場したイベントの模様を紹介。専門家に中京大学教授の來田享子さん、男性指導者代表に名古屋経済大学女子サッカー部監督の三壁雄介さんを迎え、男性指導者が女性アスリートを指導する上での課題について議論を交わした。(全2回の記事の第1回、文=THE ANSWER編集部・山野邊 佳穂)
◇ ◇ ◇
ジェンダー平等の浸透やセクシャルハラスメントの課題が取り沙汰される現代。「これまでと現代の指導で変化が求められていると感じることはあるか」という問いからトークセッションは進んだ。
小・中・高と男子の野球チームで白球を追い、卒業後も2005年から萩本欽一さんが監督を務める男子のグラブチーム・茨城GGでプレーした片岡さん。2010年から選手兼任監督となり、2014年には全日本クラブ選手権で日本一に導いた。結婚・出産を経て、今年創設された茨城GG女子チームの監督にも就任。「時代が変わり、ゴールデンゴールズの女子チームの監督もやるようになって、言葉のチョイスを間違えないようにというのをすごく感じています」と話す。
現役時代、紅一点で野球に打ち込んできたから抱えた葛藤もある。「私の場合は特殊かもしれませんが、チームメートや選手、仲間として見てもらいたくて、『特別扱いはしないでくれ』と訴えていた。『女のくせに』はずっと言われて育ってきた。小学校の時には、『何で片岡は女のくせに筋肉モリモリなの?』とクラスの男子に言われたこともあったけど、嫌な思いはなかったです」と明るく語った。
今ほど世間に浸透する前から、ジェンダーに対して敏感だった。ただ、男女の体に違いがあるのは事実。女性特有の課題である「月経」について「現役時代、月経について自ら男性指導者に伝えた経験はありますか」と質問を受けた片岡さんは「ないです!」ときっぱり。
幸い月経痛は重くなかったというが、苦労したのは練習中にトイレに行くタイミング。高校時代は「(経血が)漏れてしまうかもしれない」という不安から練習に集中できないこともあった。大人に近づく難しい年頃で、周りはみんな男性。月経を理由に練習を休むなんてもっての外だった。常に平然を装うあまり、「片岡って(月経)きてないんじゃないの?」と、男子部員から言われたこともある。
來田教授が「男性は聞いてはいけない、女性は隠さないといけない風習・習慣が根付いてきた」と語ったように、自然と社会に蔓延してきた月経への“タブー感”。パフォーマンス向上のために指導者が把握したくても、セクシャルハラスメントと捉えられる恐れもある。感じ方には個人差があり、一筋縄ではいかない。
オンラインイベントで議論を交わす片岡さん(右上)
■女性アスリートにとって「月経は後回しにしてはいけないこと」
大学の女子サッカーチームの監督を務める三壁さんは、アプリやノートを活用して部員の月経について把握してきたが、記入を忘れたり、続かなかったりする部員もいたという。片岡さんは指導者が選手のコンディションを把握することは重要としながらも「自分が女性で生まれて、スポーツをやっている。月経は後回しにしてはいけないこと。本当に見て見ぬふりをしてはいけない」と力説。誰かに見せるためではなく、一人の女性として選手自身で把握することを求めた。
パフォーマンスの向上はアスリートにとって重要だが、その前に一人の女性であることを忘れてはいけない。「私は(選手時代に)見て見ぬふりをしている立場だったので、すごくだめなことをしてしまっていたと痛感している。自分が自分の体を知るためには絶対に(月経の管理を)やっておいた方がいいし、スポーツにおけるパフォーマンスも確実に上がると思う」。女性アスリートの先輩として、次世代にメッセージを送った。
男性だからではなく、女性同士でも意外と知らない互いの月経事情。「月経を食事、睡眠などの一部と位置付けて自分自身で管理できるようになれば、特別なことではないと分かる。そうすれば恥ずかしさも変わってくるのでは」と來田教授。女性アスリートの指導者向けの検定やテキストも出ており、片岡さんも「選手だけでなく、選手と指導者のみなさんが聞く講習会があったらいいな」と要望した。
イベントでは女性アスリートを指導する男性指導者からの質問も寄せられた。「女子学生との距離の詰め方に困っています」という悩みには女子学生ではなく、一人の選手として向き合う重要性を強調。「指導者の遠慮は選手に伝わる。遠慮があるからこそ、何気ない一言が嫌な気持ちにさせることもあるのでは」。男子選手を指導してきたからこその意見を伝え、言葉や場所を選ぶ配慮は必要でも、過度な遠慮は逆効果であることを示した。
「女性アスリートは男性アスリートよりも自信を高めにくいと感じたことがありますか」という質問には、実際に指導した男子選手のエピソードを紹介。「練習中に何も言われなかった選手が『安祐美さん、俺には何もないんですか。何も言われなかったので』と言ってきた。『良かったよ、ナイスプレー』と伝えると安心した顔で戻っていった」。男と女の性別ではなく、一人ひとりの個性の問題。性別で区別しないことの大切さを説いた。
1時間に渡って行われたトークセッション。片岡さんはイベント終了後、「指導経験もなく、マネジメント、コーチング業の勉強をしたことがないまま24歳でいきなり監督になった。三壁さんや來田先生が仰っていたことが勉強になった。大事なのは、一人の人間として扱うこと。性別や年齢、生まれ育った場所ではなくて目の前にいる一対一として向き合うことが大事なんだとすごく感じました」と振り返り、新たな学びを得た様子だった。(THE ANSWER編集部・山野邊 佳穂 / Kaho Yamanobe)
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