今の日本じゃ虐待死は防げない!? 「もっと困ったら相談に来て」が母親の心を折る現実
LIMO / 2020年8月6日 10時0分
今の日本じゃ虐待死は防げない!? 「もっと困ったら相談に来て」が母親の心を折る現実
児童虐待で幼い子供たちが犠牲になったというニュースが流れるたび、「また、母親か…」「実の母親なのに…」「どうして、もっと早く家族・友達といったまわりの人や施設を頼らなかったのか?」という声が多く飛び交います。
そこで今回は、シングルマザー期間が10年以上と長く、周囲にもシングル家庭の多い筆者が、虐待死を招いてしまう環境の現実を伝えたいと思います。
児童虐待の実情
まずは、加害者である虐待者について、また実際の虐待死亡例から虐待の起こりやすい養育環境についての実情をみていきます。
「実母」が約半数を占める児童虐待
厚生労働省が発表している「児童虐待の状況等」の主たる虐待者の推移を見てみると、平成11年から27年までの16年間は、実母が50%以上を占めています。また、平成28年・29年についても50%に近い割合を占めているなど、母親による虐待の深刻さが浮き彫りとなっています。
一方、近年は実父による虐待も40%前後に迫っており、注意が必要な状況です。それに対して養父(実父以外の父)が虐待者として占める割合は平成29年で全体の6%前後と意外に低く、報道される残忍な暴力やネグレクトなどから強く印象に残ることを実感させられます。
虐待が起こりやすい養育環境
少し古い資料にはなるものの、平成16年に厚生労働省が発表した「児童虐待死亡事例の検証と今後の虐待防止対策について」を参考に、虐待の起こりやすい要素を探ってみました。
すると、支援が必要となりやすい要素の半数以上を占める養育環境の上位には、ひとり親や内縁関係にある家庭が挙げられ、子連れ再婚もなどもあわせると相当な割合にのぼることがわかります。
こうした調査を見ると、児童虐待死亡事例で大きな割合を占める虐待者には、「未婚を含むシングル経験のある母親」と言えるでしょう。実際、2回の離婚を経験し、合計10年以上ものシングル期間に乳幼児を育てた経験がある筆者からすると、納得のいく調査結果です。
ただ、残酷な虐待により亡くなった子供たちはもちろんのこと、加害者となった母親にも同情の余地があることを伝えたいと思い執筆に至りました。
虐待を止められない世間の意識
日本には「我慢する」ということを美徳とする意識がまだまだ残っています。けれども、支援を必要とするとき、そういった「我慢をする」精神は自分自身を責めることに向い、支援を求めようとする気持ちを折ってしまうことも少なくありません。
加害者となった母親は、事件を起こす前に家族や児童福祉施設に子供のことで相談をしていたり、育児協力者がいないというケースも多いようです。
助けを求めても、「もう少し頑張ってみましょう」「もっと困った状況になったら相談に来て」などと言われてしまうと、なかなかもう一度声を上げるというのは難しいでしょう。なぜなら、相談に行ったそのときこそが、「本当に大変で、助けてほしい」と強く思っている状況である可能性が非常に高いからです。
「事件を起こした母親が悪い」と責めることは簡単なことです。一方で、子育てや仕事・家事のストレスから精神的に追い詰められるまで我慢を強いている世間の考え方や仕組みもまた、虐待を生み出している原因と言えるのではないでしょうか。
過労から抜け出せないワンオペ育児の日々
シングルマザーの場合、毎日が「ワンオペ育児」です。生活収入は自分だけが頼りなので、毎日、朝から夜まで働いて、帰ってきたら赤ちゃんをお風呂に入れてミルクをあげてオムツを替え、それから自分の食事などを済ませます。
それだけでなく、言葉の通じない赤ちゃんは何かを伝えようと突然に泣き出しますし、日によっては夜中に何度も起きて泣きやまないことも少なくありません。泣き声に対する近所からの苦情に怯える気持ちも大きく、自分で生んだ子を泣き止ませることができない不甲斐なさだけが広がっていきます。
少し落ち着いたかと思えばすぐに調子を崩して保育園にも通えず、仕事にも行けず、いつクビを切られるかもわからない毎日…。
たとえ自分の体調が悪くなったとしても保育園も病院も預かってはくれないから、体調が悪いまま子供と病気をうつし合いして、40%ぐらい体調が回復したら仕事へ行く。そのため、ずっと疲れが取れない状態が続くというのが、筆者も体験した、自分の両親を頼ることができないシングルマザーの日常です。
保育園や児童相談所に頼れない現実
保育園は仕事をしている時間だけしか預かってもらえないため、仕事の前に子供を預けて仕事が終われば迎えに行きます。平日の18時を過ぎると「延長保育」といって延長料金が発生したり、土曜日には土曜保育の届け出を出したりする必要があるなど、勤務時間以外に預けることは現実的に難しいものです。
民間がやっている一時保育などは1時間700円以上と高額ですし、認可保育園の一時保育などは実施が平日のみで短時間しか預かってもらえないことがほとんどです。
数時間の休憩すら取れない日々に頭がおかしくなりそうになり、子育てに追い詰められたときに泊まりで預かってもらえる保育園や児童相談所に相談したこともありました。
しかし、結局は話を聞いてくれるだけ。どれだけしんどいと訴えても「しんどいですね」「つらいですね」と言ってくれるだけで預かってもらえることはありませんでした。
母親も父親も息抜きできる環境を
ここ数年、実父が虐待者となる虐待死亡事件も増え、その割合が40%を超える年も出てきています。「イクメン」という言葉が浸透し、男性にも仕事と育児の両立を求める声が多くなっている今、父親にかかるストレスも大きくなっているのではないでしょうか?
母親だけ、あるいは父親だけが育児を背負い込むのではなく、世間の考え方や国のセーフティーネットが変化し、子育てを終えた人たちが手を差し伸べられる世の中になることを願います。そして筆者も、その1人になれるよう努力したいと思っています。
【参考資料】
「2019年度児童相談所所長研修(前期)児童家庭福祉の動向と課題(http://www.crc-japan.net/contents/situation/pdf/201804.pdf)」(厚生労働省)
「児童虐待死亡事例の検証と今後の虐待防止対策について(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/dv-01.html)」(厚生労働省)
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