「麒麟がくる」は中高年活躍社会。熟年サラリーマンは”謀叛”を起こせるか
LIMO / 2021年2月11日 19時35分

「麒麟がくる」は中高年活躍社会。熟年サラリーマンは”謀叛”を起こせるか
NHK大河ドラマ「麒麟がくる」がついに最終回を迎えました。明智光秀を主人公として戦国時代最大のミステリー「本能寺」を描いた本作。コロナ禍での越年など、いろいろありましたが、最終回の視聴率は18.4%。最近の大河のなかでは大健闘だったようです。
最終回は光秀生存説に含みを持たせ、ネット上でも賛否両論あるようですが、斬新な光秀像をつくりあげたことは確かだと思います。今回は、光秀の人間像と“中高年が活躍した戦国時代"を紹介します。
巧みな構成力で魅せた麒麟
「麒麟がくる」は近年の歴史学の更新情報を巧みに取り入れていました。
たとえば前半、見事な演技で物語をリードした本木雅弘さん演じる斉藤道三。以前は一代で油屋から国盗りを成し遂げたとされていましたが、近年は二代かかったとされています。麒麟でもこの説に準拠。八上城で磔にされる光秀の母という話もでてきませんでした。アレは伝承レベルの話ですから。
その一方で、話をつくり込むところは思い切りつくり込んでいました。個人的には光秀が京を放逐された足利義昭に鞆(とも・現広島県)まで会いに行く場面は見事でした。物語の構成上も重要で、光秀の心情からも「あったかもなぁ」と思ってしまいましたね。
明智光秀の人間像
本能寺の変の原因は、残された文献も少なく、真相は闇のなかです。以前は単独説・怨恨説が主流でしたが、近年は「黒幕説」が注目を集めています。その黒幕も諸説あって、「足利義昭説」「朝廷説」「イエズス会説」「四国説(長宗我部元親説)」などがあります。
麒麟の光秀も明快な黒幕説ではありませんでしたが、いろいろな人の思惑や期待に光秀が思い悩むという流れでした。
そのうえで、最終回の泣き所は、やはり本能寺で討ち果たした信長と光秀の間の“友情"ですよね。麒麟の描く光秀像は、信念を持ちつつ、いろいろな人の立場や気持ちがわかってしまうナイーブな魅力的な人物でした。
史料のなかでの光秀像は全く逆のものもあります。
宣教師ルイス・フロイスが記した貴重な同時代史料「日本史」のなかでは、以下のように描かれています『光秀は裏切りや密会を好み、刑を処するに残酷で、独裁的でもあった。己を偽装するのに抜け目がなく、戦争においては謀略を得意とし、忍耐力に富み、計略と策謀の達人であった』。
光秀は織田家に中途入社して、異常なまでの昇進スピードで高官になります。いまで言えば“役員"ですよね。いくら成果主義のベンチャー企業・織田家とはいえ、フロイスの指摘する過酷な面も、光秀は持ちあわせていたのかもしれません。
気になる登場人物の年齢
さて。本能寺の変(1582年/天正10年)時の主要登場人物の年齢をチェックしてみましょう。まず信長が49歳。羽柴秀吉が45歳、徳川家康は39歳です。光秀の年齢は諸説あるのですが、最有力といわれる光秀生年1528年(享禄元年)説で考えれば55歳ということになります。
光秀は信長の6歳年上ということになりますね。このへんは年齢や身分を全く気にしない織田株式会社の面目躍如です。他社(家)では考えられないことです。それこそ、いまでいう“ダイバーシティ(多様性)"の先取りと言えるかもしれません。
話が脱線しますが、いまの中途採用市場でも組織の“ナンバー2/右腕"ニーズは結構あります。たとえば新規事業立ち上げの場合などですが、結構、上に立つ人が「自分より年上は使いづらい」と年齢を気にするんですね。
もしかすると、現代は戦国時代より退化しているのもしれません。あるいは真の競争社会ではないのかもしれませんね。
そんな地位や名誉も得た55歳の光秀がなぜ謀叛を起こしたのか。なにが光秀を追い詰めたのか。このへんが本能寺の変の最大の魅力なのだと思います。
もしかすると光秀は初老期うつ病気味だったのではという気さえします。あまりにも突発的すぎる本能寺の変は、そのような病の影響があったかもしれません。ブラックな織田家での長年の勤めで、心をすり減らしていたのかもしれませんね。
中高年活躍社会だった戦国時代
実は戦国時代は中高年活躍社会でもありました。
55歳で謀叛をおこした光秀。三本の矢で有名な西国の雄・毛利元就が、厳島の戦いで歴史の表舞台に登場したのが59歳(1555年/天文25年)。徳川家康が大阪夏の陣で豊臣家を滅亡させたのが73歳です(1615年/慶長20年)。まさに中高年パワー炸裂の感があります。
多分、想像にするに昔は“超絶恐ろしい年寄り"がたくさんいたのかもしれませんね。21世紀の日本ではみんなが「愛される老人」を目指して、嫌われない老人になるために四苦八苦していますが、昔はそんなことはお構いなしだったのかも。
自分が子供の頃の昭和を思い出しても、結構、頑固な怖いお年寄りがたくさんいた気がします。戦国時代は、さらに400年前の話ですから。
それにしても、どうなんでしょうか。愛されるお年寄りに満ち溢れた社会って・・・ちょっと気色悪い気もするのですが。
もちろんアップデートできない困った老害政治家もいますが、本来はキチンとした理由でNOを言えるお年寄りは必要だと思います。実はその方が世の中としては活気がある気もします。
世界最高速で高齢化する日本。そこでマジョリティを構成する高齢者とその予備軍が、みんな愛される老人を目指す必要なんてないと思います。
55歳の光秀が地位も名誉も捨てて決然と自分の道を往く姿は、やはり感動的でした。当分、麒麟ロスが続きそうです。
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