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金(ゴールド)、「あわよくば年内2,000ドル達成」シナリオを描く上での留意事項

トウシル / 2021年7月13日 5時0分

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金(ゴールド)、「あわよくば年内2,000ドル達成」シナリオを描く上での留意事項

株も高いが金(ゴールド)も高い。7月の各種騰落率を確認

 7月に入り、NY金先物価格は、徐々に反発色を強めています(下図、赤丸参照)。

 6月16日(水)に、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長が会見でテーパリング(段階的な金融緩和の縮小)を示唆したことでドルが上昇し、金(ゴールド)相場は、「代替通貨」の側面から下落圧力を受けて下落しましたが、足元、この時の下落にあらがうように、反発してきています。

図:NY金先物価格(中心限月) 単位:ドル/トロイオンス

出所:ブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 また、以下の通り、7月のこれまでの値動きを変動率で比較すると、金(ゴールド)は、他の主要銘柄を上回る上昇を演じていることが分かります。この間の金の上昇率は、相次ぐ最高値更新で話題をさらっている米国の主要株価指数の一つ、ナスダックよりも高いことがわかります。

図:足元の主要銘柄の騰落率 (2021年6月30日と7月9日の終値で計算)

出所:ブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 パウエル議長のあの会見後、幾度も「FRBは金融政策の方針を変えた」「今後はドル高がやってくる」「そして金(ゴールド)は買われにくくなる」などのニュースを目にしましたが、実際のところ、金相場は底割れせず、今では逆に反発してきているのです。

 イメージと実態が異なっているわけです。なぜ、下落するイメージが先行する中でも、金相場は反発できるのでしょうか。

 そして、この反発が継続し、1,900ドルや2,000ドルといった、かつて達したことがある大台に再び達する可能性はあるのでしょうか。本レポートでは、これらの点について、考察します。

足元の金価格反発は、「代替通貨」「有事のムード」の側面からの上昇圧力で起きている

 足元、「FRBが方針を変えたため、ドルが上がり、金が下がる」というイメージが先行していますが、なぜ、金相場はそのイメージに反し、反発しているのでしょうか。その答えは、「代替通貨」と「有事のムード」の側面から注目することで見えてきます。

図:金(ゴールド)および、金と関わりが深い品目の価格推移

出所:ブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 上図は、金相場の値動きに、「米10年債利回り」(左上)、「ドル指数」(右上)、「ビットコイン」(右下)、「NYダウ」(左下)の値動きを重ねたものです。

 金相場と「米10年債利回り」および「ドル指数」からは、「代替通貨(ドルの代わり)」として金が買われているか(売られているか)を、「ビットコイン」は、「代替通貨」として、金とビットコインのどちらが買われているか(売られているか)が読み取れます。

 金相場と「NYダウ」からは、「代替資産(株の代わり)」として金が買われているか(売られているか)が読み取れます。足元、「株高・金高」が起きているため、金は「代替資産」の側面から、価格が下落するくらいの下落圧力を受けていないことがわかります。

「米10年債利回り」は低下、「ドル指数」は頭打ち、「ビットコイン」は低迷、という点から、足元、金は「代替通貨」として買われていると言え、このことが一因となり、価格が反発していると、言えます。

 また、「代替通貨」以外に、「有事のムード」起因の上昇圧力も存在すると考えられます。あのパウエル会見がもたらした「記録的な価格上昇を支えてきた金融緩和が終了するかもしれない」という観測は、株式、コモディティ(商品)、通貨、など、幅広い市場の下落要因となった2013年5月の「バーナンキ・ショック」を想起させ、市場関係者の間で、目下、大きな懸念点となっていると、考えられます。

「あのパウエル会見」や「バーナンキ・ショック」のような金融緩和縮小観測による混乱は、「テーパータントラム」と呼ばれます。テーパー(taper)は先細り(この場合は金融緩和の縮小)の意で、タントラム(tantrum)は「子供じみた怒りの爆発」なのだそうです。金融緩和が終わることが、お気に入りのおもちゃを取り上げられることに例えられているのでしょう。

 金融緩和はこれまで、金だけでなく、原油や銅、穀物市場、そして株式市場などに、緩和マネーが流入するきっかけとなり、幅広い市場の価格を底上げしてきました。この点は、以前のレポート「「ゲタ」?か「足かせ」か?米国の金融政策とコモディティ相場」 で「ゲタ」と表現しました。

 コロナ禍にあり、多くの市場関係者は、明るいニュースはできるだけ多い方がよい、と感じているとみられますが、こうした中にあって、幅広い市場の価格を底上げしてくれる(ゲタを履かせてくれる)金融緩和がなくなってしまったら、どうなるのか…。市場に不安が増幅するのも無理はありません。

 また、世界的に新型コロナの変異株が拡大している中、市民に「今、不安は存在しますか?」と問うた時、ないと答える人は少ないでしょう。

 つまり今、市民の間でも、市場関係者の間でも、さまざまな不安は存在するのです。社会には不安(有事のムード)が確かに存在し、資金を逃避させる需要があり、逃避先の一つとして金(ゴールド)が選好されていると考えられます。

 上記の通り、足元の金価格の反発は、「代替通貨」「有事のムード」の両面からの上昇圧力によって起きていると、考えられます。テーパリングに関する目立つニュースに目を奪われていては、足元で起きている金(ゴールド)価格の反発を説明することはできないでしょう。

「あわよくば年内2,000ドル達成」シナリオを描く上での4つの留意事項

 ここまで、足元の金相場の反発とその背景について述べました。ここからは、1,900ドル、あるいは2,000ドルといった大台に、再び達する可能性があるのかどうかについて、考えます。

 足元、金相場を反発させている材料が継続すれば、筆者は1,900ドルも2,000ドルもあり得ると、現状では考えています。足元の材料は、以下の4つです。

1.各種不安が大きくなる
2.ドル金利の低下傾向が続く
3.暗号資産への懸念が大きくなる
4.金融緩和時は、株高が続いても問題ない

1.各種不安が大きくなる

 世の中に存在するさまざまな不安(有事のムード)が膨れ上がることで資金の逃避先需要がさらに拡大し、金(ゴールド)が資金の逃避先として買われる動機が強まり、今にも増して、金相場に上昇圧力がかかる可能性があります。

 今後、「有事のムード」が拡大するかどうかを考えるためには、目下、世界各国で猛威をふるい続けている新型コロナの状況がどう変化するのかに注目しなければならないでしょう。

「ワクチン接種率の上昇」と「新規感染者数の減少」が、同時進行することで安心感が増幅する(有事のムードが後退する)とみられますが、目先すぐには、そのような傾向は見られない可能性があります。

図:英国の新型コロナ新規感染者数とワクチン接種率

出所:Our World in Dataのデータより筆者作成

 上図は、英国の新型コロナの新規感染者数とワクチン接種率の推移です。Our World in Dataによれば、同国のワクチン接種率(1回以上接種)は、6月20日(日)にワクチン先進国として名高いイスラエルを追い抜き、7月9日(金)時点で67%と、カナダ(69%)に次ぐ世界2位です。

 その英国の新規感染者数ですが、6月半ばから、増加が目立ち始めています。数千人規模だった日々の新規感染者数は、7月に入り3万人を超える日も出始めています。変異株の一つで、感染力が強いとされるデルタ株の感染拡大がみられています。

 このような動きを受け、当初6月21日(月)とされていたロックダウンの緩和が、7月19日(月)に4週間延期されました。

 ワクチン接種率の上昇と新規感染者数の減少が同時進行して初めて、不安が後退すると考えられます。その意味では、世界全体でも、まだまだコロナ起因の不安は払しょくできない可能性があります。

 このため、今後も、「有事のムード」起因の上昇圧力が、金(ゴールド)市場にかかり続ける可能性があります。

2.ドル金利の低下傾向が続く

 以下の図の通り、6月16日(水)のパウエル議長の会見直後に急上昇した米2年債と米5年債の利回りが、今月に入り、大きく低下している点に注目します。

図:米国債利回りの推移 (2021年6月15日を100として指数化)

出所:ブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 7月9日(金)時点で、米2年債利回りは急上昇分の半分が低下、米5年債利回りは急上昇分のほとんどが低下、米10年と30年債に至っては会見直前をも下回る、今年の2月中旬ごろの水準まで低下しています。

 このような動きを考えれば、あのパウエル議長の会見は、広範囲に強い思惑を振りまいたことは確かですが、今のところ、市場の値動きに大きな影響を与える要因にはなっていないと言えそうです。

 今後、FOMC(米連邦公開市場委員会)(年内は7月、9月、11月、12月)やジャクソンホールシンポジウム(8月26日~28日)などで、再びテーパリングの議論が噴出し、テーパータントラムが強まる可能性はあるものの、これらの会合が6月のあの会見を踏襲するサプライズ感のない会合となった場合は、米国債利回りの低下傾向は続くとみられます。

 同時に、ECB(欧州中央銀行)が引締め的な措置を開始することを示唆するなどして、ユーロに上昇圧力がかかれば、対ユーロの側面からドルに下落圧力がかかる可能性もあります。

 これらの点から今後も、ドル金利の低下傾向およびドル下落観測による「代替通貨」起因の上昇圧力が、金(ゴールド)市場にかかり続ける可能性があります。

3.暗号資産への懸念が大きくなる

 主要な暗号資産である「ビットコイン」「イーサリアム」「リップル」の値動きに注目します。暗号資産は、「無国籍通貨(いずれの国の信用の裏付けなしで存在できる通貨)」という、金(ゴールド)との共通点があります。

 ドルに先安観や金利低下観測が浮上し、ドルの代わりの通貨、つまり「代替通貨」を求める動きが強まった時、国の信用の裏付けなしで存在できる「無国籍通貨」の金(ゴールド)やビットコインが物色されることがあります。

 金(ゴールド)と暗号資産は「代替通貨」という分野で競合すると考えられるため、「代替通貨」の需要増加時、暗号資産が何らかの要因で資金流入が起きにくい事態が発生した場合、金への資金流入が加速することが想定されます。

 金(ゴールド)相場の反発が目立っている今、以下のグラフのとおり、ビットコインを含む主要な暗号資産の価格は、以前の急騰・急落が噓のように、穏やかな横ばいで推移しています。

図:主要暗号資産価格の推移 (2021年7月9日を100として指数化)

出所:ブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 一部の財政難に陥っている国を除き、主要国では程度の差はあれ、暗号資産を規制する方向で一致していることが主な要因とみられます。

 また、かつて「マスク相場」とやゆされた、米電気自動車大手テスラ社のCEOであるイーロン・マスク氏の影響力が低下しているとみられることも一因とみられます。

 暗号資産が小動きであることは、「代替通貨」で競合する金(ゴールド)の立ち位置を、相対的に向上させる要因になると考えられます。

 目先、引き続き、暗号資産が小動きで、かつ「代替通貨」の需要が継続して存在すれば、金相場に上昇圧力がかかる可能性があると、筆者はみています。

4.金融緩和時は、株高が続いても問題ない

 以前の本欄で申し上げてきたとおり、金融緩和実施時は、以下の仕組みで「株高・金高」が発生することがあります。

 本レポートの図「足元の主要銘柄の騰落率」と「金(ゴールド)および、金と関わりが深い市場価格の推移」で、NY金とNYダウが同時に上昇している様子を確認できます。

 金融緩和が続いていることが条件ですが、株が高く、金も高いことは、今後も起こり得ると、筆者は考えています。株高が金相場を強く押し下げる要因にならない状態が続く可能性があります。

1,900ドル回復、あわよくば年内2,000ドル達成は年内が有望!?来年では厳しい!?

 目先1,900ドル回復、あわよくば年内2,000ドル達成シナリオを描く上での、筆者が考える留意事項を述べました。まとめれば、以下のようになります。4つが同時進行することが重要ですので、どれかが欠けると、大台達成は難しくなるかもしれません。

図:目先1,900ドル回復、あわよくば年内2,000ドル達成シナリオを描く上での留意事項

出所:筆者作成

 例えば、ワクチン流通が進めば、いずれ、感染者の増加が止まる可能性があり(1の否定)、米国を含めた世界の景気が回復していけば、いずれ、金融緩和が終わる(金融政策の正常化が始まる)可能性があり(2の否定)、規制にのっとった、多数が認める運営がなされるようになれば、いずれ、暗号資産は代替通貨として再び金と競合する可能性があり(3の否定)、金融緩和が終われば、いずれ、株高の際、金安となる可能性があります(4の否定)。

 このように考えれば、4つの条件が足並みをそろえて、長期的に、存在し続けることは難しいように、感じます。

 しかし、時間軸を「年内」とした場合はどうでしょうか。「年内」という時間軸で、世界全体で感染者の増加は止まるでしょうか?、金融緩和は終わるでしょうか?、暗号資産が規制にのっとった通貨になるでしょうか? 答えはいずれも、NOだと筆者は考えます。

 年内であれば、上記の4つの条件の足並みがそろいやすく、つまり、金(ゴールド)価格が、上振れしやすく、1,900ドル回復、あわよくば年内2,000ドル達成シナリオを描きやすいと、現状では、考えています。

 [参考]貴金属関連の具体的な投資商品例

 楽天証券の純金積立「金・プラチナ取引」はこちらからご参照ください。

純金積立

金(プラチナ、銀もあり)

国内ETF/ETN

1326 SPDRゴールド・シェア
1328 金価格連動型上場投資信託
1540 純金上場信託(現物国内保管型)
2036 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ダブル・ブルETN
2037 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ベアETN

海外ETF

GLDM SPDRゴールド・ミニシェアーズ・トラスト
IAU iシェアーズ・ゴールド・トラスト
GDX ヴァンエック・ベクトル・金鉱株ETF

投資信託

ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジなし)
三菱UFJ純金ファンド

外国株

ABX Barrick Gold:バリック・ゴールド
AU AngloGold:アングロゴールド・アシャンティ
AEM Agnico Eagle Mines:アグニコ・イーグル・マインズ
FNV フランコ・ネバダ
GFI Gold Fields:ゴールド・フィールズ

国内商品先物

金・金ミニ・金スポット・白金・白金ミニ・白金スポット・銀・パラジウム

海外商品先物

金、ミニ金、マイクロ金(銀、ミニ銀もあり)

商品CFD(金・銀)

(吉田 哲)

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