1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. 経済

中東混迷で金(ゴールド)と原油急騰続く

トウシル / 2024年4月16日 7時30分

写真

中東混迷で金(ゴールド)と原油急騰続く

※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の吉田 哲が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
中東混迷で金(ゴールド)と原油急騰続く

金(ゴールド)と原油相場は暴騰状態

 足元、金(ゴールド)と原油相場の上昇が目立っています。世界の指標であるドル建て金(ゴールド)は目立った上昇が始まった2月29日からおよそ15%も上昇しています。原油は同10%前後、昨年末比では20%前後も上昇しています。

 ドル建てに追随する傾向があり、ドル円がその傾向に強弱を加えて価格が形成される円建て銘柄においては、金(ゴールド)の上昇率が同20%前後に達しました。足元で進行している円安が円建て金(ゴールド)の上昇率を高めています。

図:国内外の金(ゴールド)、原油、株価の動き(2024年1月4日を100、4月12日まで)

出所:QUICKおよびマーケットスピードIIのデータより筆者作成

 株価指数は、米国の利下げタイミングが遠のく懸念が生じたり、中東情勢が悪化したりして、国内外ともに3月下旬を機に反落しています。年初から株高、金(ゴールド)高、原油高が続いていましたが、このタイミングを機に株安、金(ゴールド)高、原油高の傾向が鮮明になりました。

 たった1カ月半で10%や20%も上昇した国内外の金(ゴールド)と原油相場ですが、一体何がこれらを上昇に駆り立てているのでしょうか。今後、上昇に駆り立てた要因はどう変化するのでしょうか。そして、金(ゴールド)と原油相場でどのような値動きを演じるのでしょうか。

中東情勢悪化は短期的・直接的な要因

 足元の中東情勢の緊迫化が、金(ゴールド)や原油の価格が上昇している主因だと言われています。1970年代後半に起きた中東情勢の緊迫化を連想した投資家が、短期的な価格上昇を見越して買っていると考えられます。

 1970年代後半といえば、第四次中東戦争、イラン革命、在イラン米国大使館人質事件などが起きた期間です。あの時、有事ムードの高まりで金(ゴールド)が、供給懸念で原油が、それぞれ短期的な急騰を演じました。

図:イランとイスラエル、イランが支援するイスラム武装組織「抵抗の枢軸」の直近の動き

出所:各種資料およびmap chartを用いて筆者作成 イラストはPIXTA

 足元、上図の通り中東のイスラエルと、イランおよびイランが支援する「抵抗の枢軸(すうじく)」と呼ばれる複数のイスラム武装組織との間で武力衝突が起きています。

「抵抗の枢軸」とは、ガザ地区を実効支配し、昨年10月にイスラエルを奇襲した「ハマス」、イスラエルの北部に隣接するレバノンに拠点を置く「ヒズボラ」、アラビア半島南部に位置するイエメンに拠点を置く「フーシ派」、シリアやイラクで活動する民兵組織、イラン革命防衛隊などです。

 昨年10月の奇襲以降、ハマスはイスラエルと交戦中です。以下の資料の通り、3月25日に国連安全保障理事会で両者の停戦決議が採択されたものの、イスラエルは、採択の際に棄権をして同国を擁護する姿勢を取らなかった米国に対して「明らかな後退」と反発するなど、戦闘を停止するそぶりは見られません。

 そればかりか、イスラエルは停戦決議採択後の同29日に北東部で隣接するシリアを空爆して「ヒズボラ」のメンバーを殺害したり、4月1日には在シリアイラン大使館をミサイルで攻撃して「イラン革命防衛隊」の司令官らを殺害したりするなど、次々にイランが支援する「抵抗の枢軸」を攻撃しました。

図:2024年年初からのイスラエルをめぐる動き

出所:各種資料より筆者作成

 そうしたイスラエルの行動に業を煮やしたイランはついに、4月13日、敵対し始めて45年目で初めて、イスラエルに本土攻撃を仕掛けました。前日にバイデン米大統領が「やめろ」「成功しないだろう」と自制を求めましたが、イランは聞き入れませんでした。

 同日、フーシ派もイスラエルにドローンを発射したり、ヒズボラも戦闘態勢を強めたり、イラン革命防衛隊がホルムズ海峡(中東産原油輸送の大動脈)付近でイスラエルに関わる船舶を拿捕(だほ)したりしました。イランによる本土攻撃、「抵抗の枢軸」による同時多発的な攻撃が、イスラエルを襲っていると言えます。

 金(ゴールド)と原油の価格が短期的な暴騰状態にあるのは、中東情勢が大規模な報復合戦に移行し、不安と供給懸念が拡大しているためだと言えます。

2010年の世界分断深化元年が事の発端

 足元の中東情勢の悪化は、どこから来たのでしょうか。今回の情勢悪化の主体であるイスラエルは、以前のレポート「第五次中東戦争か?どうなる金(ゴールド)相場」で述べた通り、国連決議を経てユダヤ人国家として1948年に誕生しました。

 その後、イスラエルは武力でユダヤ人居住区域を広げ(アラブ人の居住区域が縮小)、世界中に離散していたユダヤ人をかつてのパレスチナの地に呼び戻しはじめました(シオニズム運動)。国連安保理では何度も武力行使を止めるよう採決が行われましたが、そのたびに米国が拒否権を発動してイスラエルを擁護しました。

 足元の中東情勢の悪化は、イスラエルという国家の誕生を起点としたユダヤ人の帰還と武力によるアラブ人居住区縮小の歴史の延長線上にあると言えますが、筆者はこれに加えて、下図の通り2010年ごろに目立ち始めた「世界分断」が関わっていると考えています。

 リーマンショック後の西側の対応やSNSの普及が世界の分断を生み、そして深め、それが複数の戦争の勃発・激化の一因になった、という考え方です。

 リーマンショック後の西側の対応とは、ESG(環境、社会、企業統治)を武器として利用し、産油国や強権的な体制を敷く非西側の国々を強く批判したことです。ESGのビジネス利用によって経済回復・株価上昇は進んだものの、武器利用がもたらした負の影響によって、西側と非西側の分断は深まってしまいました。

 SNSの普及とは、スマートフォンの利用者が世界的に増加していく中で、同じ思想を持った者同士がつながり、異なる思想を持った人をリアルの場で攻撃して国家を転覆させたり(アラブの春)、ポピュリズム(大衆迎合)を逆手に取って選挙で勝利するリーダーが誕生したりする出来事(2016年の米大統領選でトランプ氏勝利)が目立ったことです。

 そして、世界の民主主義は行き詰まりを見せ始めました。

 これにより、民主主義を正義とする西側の影響力が低下し、西側と非西側の分断は深まってしまいました。民主主義の低下については以前のレポート「本当にある怖い原油高の話」内の図:自由民主主義指数0.4以下および0.6以上の国の数(1945年~2023年)で述べています。

図:2022年以降の金(ゴールド)、原油、米国株高の背景(筆者イメージ)

出所:筆者作成

 リーマンショック後の西側の対応やSNSの普及が生み、深めた西側と非西側の分断は、一時は西側の軍事同盟であるNATO(北大西洋条約機構)に加盟を検討し、現在でも西側諸国の支援を受けるウクライナと、歴史的に西側と相いれない関係にあるロシアとの間の戦争や、国家誕生に英国が深く関わり、誕生後も米国に擁護され続けてきたイスラエルと、1979年の革命後に改めて西側と反発し合う関係になったイランとの間の戦争勃発・激化の一因になったと考えられます。

 そしてその上で、足元、金(ゴールド)や原油の価格が上昇していると言えます。

情勢混迷で金(ゴールド)上昇は継続

 振り返ってみれば、3月25日の国連安保理での米国の棄権が報復合戦のきっかけになったのかもしれません。あの後、怒りをあらわにしたイスラエルは「抵抗の枢軸」をなりふり構わず攻撃し、その攻撃がきっかけで報復合戦がはじまった、と言えなくないためです。

 米国は、リーダーとして国際世論に応じ、これまで関わりが強かったイスラエルを制御しなければならない立場にある(だからイスラエルを擁護する意味の拒否権を行使せずに棄権をした)一方、11月に大統領選を控え、米国国内のキリスト教福音派(ユダヤ人の国イスラエルを尊ぶ人々)の支持を取り付ける必要に迫られイスラエルを無下にできず、大変に難しいかじ取りを迫られています。

 大規模な戦闘を避け、防空システムを活用してミサイルやドローンからイスラエル本土を守ることが、今の米国が選択できる唯一の策なのかもしれません。その意味では、現在の情勢が、かつてのような米国を主体とした多国籍軍が相手を一掃するような大規模な戦争には発展しないと言えます。

 大規模な戦争が勃発し、情勢悪化に終わりが見える事態にはならないのであれば当面、中東情勢は現在のような緊張の糸が張った状態が続く可能性があります。このことは、下図内の金(ゴールド)に関わる短中期のテーマの一つである「有事ムード」起因の上昇圧力が、まだしばらく続く可能性があることを示唆しています。

図:金(ゴールド)に関わる七つのテーマ(2024年 筆者イメージ)

出所:筆者作成

原油相場はイランの動向次第で一段高

 国連や米国などは2000年代半ばから断続的にイランに制裁を科しています。核開発を進めるイランをけん制するためです。米国が同盟国にイラン産原油を輸入しないことを呼びかけ、日本もそれに応じています。

 以下の図の通り、制裁をきっかけにイランの原油輸出量は目に見えて減少しています。2022年は2012年に比べ半分以下になりました、制裁がイランに与える影響は原油輸出量の減少やそれによる輸入総額の減少だけではありません。図中のオレンジの点線の通り、IMF(国際通貨基金)が公表しているイランの財政収支均衡に必要な原油価格を、上昇させます。

 イランの財政事情が急激に悪化する制裁時は、財政を安定させるために一定水準の原油価格が必要になります。原油輸出量が減少して失われる収入を、原油価格という単価を引き上げることで補う、という考え方です。

 2022年の同原油価格はおよそ260ドルでした。このデータは、原油価格がこのようなとてつもなく高い水準でなければ、イランの財政は均衡しないことを示唆しています。それだけ、制裁下にありイランの財政は危機的な状況にあると言えます。

図:イランの原油輸出量と財政収支均衡に必要な原油価格

出所:IMFおよびOPECのデータより筆者作成

 原油埋蔵量が世界第三位(オイルサンド除く)と、豊富な資源を持っているものの、思うように輸出できない環境を強いられている状態は、財政事情が悪化しているイランにとって本意ではないはずです。イランは今、こうした状況の中で、「抵抗の枢軸」を支援したり、イスラエルの本土を攻撃したり、核兵器開発をちらつかせたりしているのです。

 また、イランはOPECプラスの一員として産油国としての影響力を誇示したり、2024年1月よりBRICSプラスに加わったりして、非西側の急先鋒として頭角を現しています。イランは既に、近年目立つ、西側と非西側の分断の行方を左右し得る重要な立ち位置にあると言えます。

 このため、国際社会はイランの積年の恨みが顕在化するリスクを警戒しなければならない時期にいると筆者は考えています。

 Energy Instituteのデータによれば、中東地域からの原油輸出シェアはおよそ35%です(2022年)。

 イランが行使できる「ホルムズ海峡封鎖」は、イラン自身にもダメージを与える諸刃の剣ですが、イランがもし本気で、世界分断の一因をつくったり、イスラエルを擁護したり、ESGで産油国を攻撃したり、制裁を科して財政を悪化させたりして、西側への恨みをはらすことを優先した場合、封鎖しない保証はどこにもありません。

 原油高が、西側に高インフレをもたらし、経済不安だけでなく金融政策の方向性を不透明にするなどの複数の懸念をふりまくきっかけになることを、イランは当然知っているでしょう。イランが海峡封鎖のカードを切った場合、原油相場はもう一段(一段と言わず何段も)高になる可能性があり、注意が必要です。

[参考]貴金属関連の投資商品例

長期:

純金積立(当社ではクレジットカード決済で購入可能)
純金積立・スポット購入
・投資信託(当社ではクレジットカード決済、楽天ポイントで購入可能。以下はNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)対応)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
三菱UFJ 純金ファンド
ゴールド・ファンド(為替ヘッジなし)

中期:

関連ETF(NISA対応)
SPDRゴールド・シェア(1326)
NF金価格連動型上場投資信託(1328)
純金上場信託(金の果実)(1540)
NN金先物ダブルブルETN(2036)
NN金先物ベアETN(2037)
SPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト(GLDM)
iシェアーズ ゴールド・トラスト(IAU)
ヴァンエック・金鉱株ETF(GDX)

短期:

商品先物
国内商品先物
海外商品先物
CFD
金(ゴールド)、プラチナ、銀、パラジウム

(吉田 哲)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください