FIREするなら…税金を忘れないで(その2)リタイア生活の収入にかかる所得税・住民税は?
トウシル / 2021年8月6日 6時0分
FIREするなら…税金を忘れないで(その2)リタイア生活の収入にかかる所得税・住民税は?
FIRE後、収入と生活のプランニングは?
前回は、FIRE (Financial Independence、Retire Early:経済的自立と早期退職)生活スタート時や翌年の注意点をお伝えしましたが、今回は実際にFIREを達成し、その後の生活における税金面での注意点について、取り上げます。
FIRE生活時にかかる税金は、所得税や住民税のほか、固定資産税や消費税などさまざまなものが考えられますが、ここでは「生活費に回すことができる手取り収入はいくらか」を知るという意味で、所得税や住民税を中心に考えていきたいと思います。
FIRE生活をする際の生活費の工面としては、大きく「新たな収入を得る」ことと「保有する資産を売却したり、取り崩したりして充てる」ことに分かれます。
このうち、両方のケースとも、所得税や住民税が絡んでくる可能性があります。
今回は、このうち前者のケースについて見ていきます。
FIRE後の税金1:仕事での収入がある場合は?
FIRE生活をするにあたり、仕事は続けるというケースもあるでしょう。FIREは、必ずしも仕事を辞めないといけないという決まりなどないからです。企業に所属せず、自分のペースで自分のやりたい仕事だけをするのであれば、これもFIREの一つのあり方だと筆者は思いますし、おそらく筆者であればそんな生き方を望みます。
仕事での収入は大きく分けると「給与所得」と「事業所得」に分かれます。副業的なちょっとした収入であれば「雑所得」となるケースもあるかもしれませんが、雑所得の場合は金額的影響が小さいので、詳細は割愛します。
給与所得、事業所得とも、総合課税により所得税・住民税が課税されます。原則として、社会保険料控除などの所得控除を差し引いた後の所得金額が、基礎控除である48万円を超えた場合、所得税・住民税が生じます。
なお、給与の場合は給与所得控除があるため、その分だけ所得が小さくなります。よく「給与収入103万円以内なら課税されない」と言われますが、これは給与収入以外の所得が何もない場合です。給与収入以外に他の所得があるならば、給与収入が55万円を超えていれば課税される可能性があります。
FIRE後の税金2:給与・事業所得があるパターン・実際に税金はどのくらいかかる?
それでは、給与の金額が100万円、事業所得が500万円、社会保険料控除や基礎控除など各種控除が200万円の例で考えてみましょう。
給与所得は100万円-給与所得控除55万円=45万円なので、345万円が課税所得です。
課税所得:345万円=45万円(所得税対象額)+500万円(事業所得)-200万円(各種控除) |
※所得税の場合。住民税はこれとは多少異なる
課税所得345万円に対する所得税はおよそ27万円、住民税はおよそ35万円となり、合わせて62万円ほどの税金が課税されます。
総合課税は累進税率なので、所得が大きければ、30%、40%、もしくはそれ以上の高い税率で課税されるケースもあり得ます。また、前回お話ししたように、住民税は今年の分が翌年課税されるため、1年遅れで納税が必要です。
単に収入のみを見るのではなく、税金や社会保険料をどれだけ支払う必要があり、その結果手残りはどのくらいなのかをあらかじめシミュレーションし、思わぬ資金不足で想定外の預金の切り崩しにならないように気をつけてください。
FIRE後の税金3:不動産収入がある場合は?
FIREの収入源として代表的なものは、不動産を賃貸して収入を得ることだと思います。
不動産の場合、物件ごとに年間どのくらい賃料を受け取ることができるかが事前に把握しやすいので、プランニングが立てやすいという点で、FIREの収入源には向いています。
一方、個人で不動産を所有している場合は、「不動産所得」として他の所得と合算して総合課税により、所得税・住民税の課税対象となります。
受け取れる賃料を単に計算するだけでなく、諸経費を差し引いた所得の金額、そしてそこから所得税や住民税を差し引いた後の実際の手残りの金額を把握した上で、生活費として十分まかなえるかを考えておく必要があります。
例えば資産が1億円あり、年間に必要な生活費が400万円と試算されているとしましょう。
もし不動産から得られる賃料が年間500万円だとしても、そこから諸経費や社会保険料、税金を差し引いた手残りが300万円しかないとなれば、不足する100万円を切り崩すか、生活費を切り詰める必要が生じてしまいます。
とにかく税金や社会保険料などのコストがどのくらいかかるかをしっかり把握した上で、無理のないプランニングを立てるようにしましょう。
不動産の場合は、ある程度まとまった賃料収入があれば、法人を設立した方がトータルのコストが節減できる可能性が高まります。
もし、法人で不動産を保有し、その会社から給料を受け取ることにより収入を得るのであれば、前ページで説明した給与所得のパターンになります。
年間の賃料収入がいくら以上であれば法人設立が有利かは、人それぞれの状況により全く異なりますので一概には言えませんが、大体の目安としては年間1,000万円くらいです。
法人設立によるコスト節減に関心があるのであれば、公認会計士・税理士などの専門家に相談の上、シミュレーションしてもらうことをお勧めします。
FIRE後の税金4:上場株式の配当金による収入の場合は?
上場株式の配当金による収入を生活費に充当するというケースも少なくないと思います。給与所得、事業所得、不動産所得の場合と異なり、上場株式の配当金についてはかなり分かりやすいです。
上場株式の配当金は、受け取る際に20.315%の源泉徴収がされ、それで課税を完了させることができます。
ですから、年間の配当金が500万円であれば、手取り収入は約398万円となり、これが自由に使える金額となります。確定申告をしなければ、国民健康保険料の計算上、反映されることもありませんので、コスト面で考えるとかなり有利といえます。
もちろん、確定申告した方が有利であれば確定申告することもできます。事前のシミュレーションにより、税金や社会保険料といったコスト面でより有利となる方法を選びましょう。
なお、REIT(リート:不動産投資信託)の分配金は、不動産の賃料などから得られる収入ではありますが、不動産所得とはなりません。上場株式と同じ配当所得の取り扱いになり、20.315%の源泉徴収のみで課税を完了できます。
また、上場株式を法人で所有するという選択肢もありますが、個人所有の場合は税率が20.315%で済むのに対し、法人税はそれ以上の税率になりますから、多くの場合は個人所有のままの方が有利だと思います。
次回は、「保有する資産を売却したり取り崩したりして充てる」場合の税金の扱い、そして将来の収入の変動や税制面の変化にどのようにして備えておくべきかについて考えてみたいと思います。
(足立 武志)
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