1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. 経済

台湾有事の可能性。そのとき日本の安全は?【ペロシ・ショック続報】

トウシル / 2022年8月11日 6時0分

写真

台湾有事の可能性。そのとき日本の安全は?【ペロシ・ショック続報】

「台湾有事」を期待した中国人民

 先週、「ペロシ・ショック、台湾問題に前代未聞の緊張走る」と題して緊急レポートを配信しました。8月2日夜から3日にかけて、ナンシー・ペロシ米下院議長が国交のない台湾を訪問(約18時間滞在)したことで、台湾海峡を巡る緊張が一気に高まりました。ペロシ氏訪台に中国政府は激しく反発。経済制裁、世論的攻勢、そして台湾を取り囲むように、4日間の日程で大規模に行った軍事演習などを通じて、米国と台湾を批判、けん制しました。

 2日未明、私は中国国内にいる複数の知人と連絡を取り合っていましたが、皆「今夜動きがあるのではないか」という心境の下、スマートフォンにくぎ付けだったといいます。彼らが言う「動き」とは、ペロシ氏訪台を機に、中国人民解放軍が出動し、中国にとって悲願である台湾統一に一気に踏み切ることを指していました。仮にその動きが現実化すれば、それはすなわち、最近日本でも騒がれている「台湾有事」の勃発を意味します。

 先日、中国で長年ビジネスをしている東証プライム上場企業の経営陣とこの問題について意見交換をしました。うち一人が、「台湾有事が起これば、企業としてはどうすればいいんですかね? ずっと考えているのですが、答えが出ません。事前にどう備え、起こったときにどう動けばいいのか? 何もしないわけにいかないのは分かっているが、どこから手を付ければいいのか…」と途方に暮れていました。

 ペロシ氏が台湾を離れてから1週間がたちました。中国人民解放軍が台湾に武力侵攻することはありませんでした。それが引き金となり、解放軍と台湾軍が、米国軍を交える形で武力衝突に発展することもありませんでした。

 一方、先週の緊急レポートで現状を「prelude to war」(戦争の序曲)と修飾したように、「台湾有事」が現実のシナリオとして迫っている、ペロシ氏訪台がそれをより現実的なものにすることはあっても、その逆はないでしょう。

ペロシ訪台から1週間。この間に中国が行った三つの戦

 この1週間の間に何が起こったのかを振り返ってみます。端的に言えば、緊張は続いた。しかし、平和が崩れる危機的状況には至らなかった、となるでしょう。国際関係の分野において、平和とは「戦争が起こっていない状態」を指します。言うまでもなく、昨今の国際関係そのものは平和ではありません。ウクライナでいまだ戦争が続いているからです。ただ、少なくとも現時点において、台湾海峡が「第二のウクライナ」と化すことはなかった、ということです。

 中国は主に三つの分野で米国や台湾を批判、けん制し、圧力をかけ続けています。

 一つ目が「世論戦」です。外交部を中心に、中国側は集中的、持続的にペロシ訪台がいかに平和を脅かす危険な行為であったかを宣伝して回っています。ネガティブキャンペーンといわれるものです。直近の例をみてみると、8月9日、次期外交部長の呼び声も高い馬朝旭(マー・ジャオシュー)副部長が記者に対し、「米国こそが台湾海峡の平和に対する最大の破壊者であり、地域の安定にとって最大のトラブルメーカーである」とコメントしています。

 二つ目が「制裁戦」です。中国はペロシ氏訪台に対して一連の報復措置を取っています。経済的には、パイナップルケーキの販売で知られる人気菓子店やインスタント麺を扱う著名食品メーカーなど台湾の食品企業100社以上からの輸入を禁止する措置を取ったほか、建設業などに使用される天然砂の台湾への輸出も禁止しました。また、ペロシ氏およびその親族に対する制裁、米中間における軍指揮官対話、国防省間協議、気候変動協議の中止など8項目からなる制裁措置も発表されました。

 三つ目が「軍事戦」です。人民解放軍は8月4日から7日まで四日間にわたり、台湾を取り囲むように6カ所で大規模な軍事演習を行いました。この期間、中国軍の艦船や軍機は台湾海峡の「中間線」を何度も越え、台湾上空を飛行する弾道ミサイルも発射し、台湾本島を攻撃する演習も実施しました。ただこの演習は7日で終了せず、8日、9日も、対潜水艦作戦や海上における突撃行動訓練などが行われているのが現状なのです。

日本にとっても他人事ではない

 今後の見通しを三つの視点から解説していきたいと思います。

1.米中関係は悪化する

 ジョー・バイデン大統領率いる米国政府は、ペロシ氏訪台に対して少なくとも懐疑的な姿勢を示していました。ホワイトハウスや国務省といった政府機関は、ペロシ氏訪台が米国政府の立場を代表するわけではないこと、米国政府は引き続き「一つの中国」政策を堅持することなどを後手後手に弁明しました。中国政府もその点は理解していると思います。

 一方で、先述したように、中国政府の米国政府に対する報復措置は取られました。今後、軍事や外交分野を中心に、米中間の政府間協議は棚上げされ、相互不信は強まり、一方で、中国人民解放軍による台湾海峡付近での軍事活動は常態化していくでしょうから、米国軍との緊張は続きます。

 米中2大国が「対話なき緊張」の関係を続けることは、地域の平和や安定にとっては当然不利に働きますし、そのはざまで生きていかなければならない日本としても、非常に厄介な不安要素となります。

2.日本の安全は脅かされ、日中関係も悪化する

 中国人民解放軍による軍事演習は、台湾の東側でも行われましたが、発射された弾道ミサイルのうち5発が日本のEEZ(排他的経済水域)に撃ち込まれるという事態が発生しました。日本政府は中国側に抗議していますが、中国政府の立場は「中国と日本の関連海域における国境線はいまだ確定していない。よって、中国側は所謂『日本の排他的経済水域』という言い方を受け入れない」(8月3日、外交部記者会見、華春瑩(ファー・チュンイン)報道局長)というもの。

 つまり、そもそも中国には日本のEEZに撃ち込んでいるという認識すらないということで、このような事態は解放軍の同海域における軍事活動が常態化するに伴い、継続的に発生する可能性が高まったと言えます。南西諸島を中心に、日本の安全が脅かされるリスクも同時に高まるということです。

 また、先週、カンボジアで東アジアサミット外相会議が開催され、日中外相会談が予定されていました。中国の台湾海峡における軍事演習に対し、G7(主要7カ国)が「台湾海峡の平和及び安定の維持に関するG7外相声明」を発表、それに反発した中国側が同会談をキャンセルしてきたのです。

 これが何を意味するか。要するに、台湾問題を巡る米中間の事件に、日本が巻き込まれたということです。日本は米国の同盟国であり、西側先進国の一員であり、中国の拡張的行動に対して、一貫して団結した声を発していくのは当然の責務です。しかしながら、それによって、中国が日本に対して強硬姿勢を取り、それが日中間の民間交流や経済関係に影響してくるようであれば問題です。

 足元、「米中関係と台湾問題」が引き金となり、日本の安全は脅かされており、日中関係も悪化しています。

3.中国の内政にとっても不安要素が増大

 ウクライナやゼロコロナで不安視されてきた中国の国内情勢ですが、ペロシ訪台で、不安要素は増大したと言えます。秋には5年に1度の党大会が開かれます。中国にとって台湾問題は核心的利益であり、米中関係は最も重要な対外関係です。それらが同時に緊張化している現状は、習近平(シー・ジンピン)国家主席に難しいかじ取りを要求します。

 経済がなかなか上向いていかない状況下で台湾問題がヒートアップし、中国が国際的に孤立するような事態になれば、習主席の責任問題にまで発展します。党大会を跨いで、中国の政治経済、および国際社会における立ち位置に劇的な変化が生じる可能性もあるのです。

マーケットのヒント

  1. 米国と中国という世界二大国の関係悪化、緊張化は「究極のマクロリスク」になる
  2. 台湾問題を引き金に、日本の安全や繁栄が脅かされる可能性がある、という現実を直視すべき
  3. 向こう3カ月の中国国内情勢に要注目

(加藤 嘉一)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください