AI画像認識の中国「センスタイム」に粉飾疑惑浮上 アメリカの「空売り屋」が売り上げ水増しを指摘
東洋経済オンライン / 2023年12月15日 16時0分
AI(人工知能)を用いた画像認識技術で中国の草分け的存在である商湯科技(センスタイム)が、「ショートセラー(空売り屋)」の標的になった。アメリカの投資調査会社のグリズリー・リサーチが11月28日に発表したレポートで、センスタイムが顧客へ資金を提供して自社製品の販売契約を結びながら納品はしないという手口を使い、売り上げを水増ししていると指摘したのだ。
これに対してセンスタイムは、「(グリズリーの主張には)何ら裏付けがないばかりか、根拠のない臆測や誤解を招く見解が含まれる」と直ちに否定。「当社の取締役会がレポートの内容を審査しており、株主の利益を守るために適切な措置を採ることも検討している」との声明を出した。
【写真】センスタイムの粉飾疑惑を指摘したグリズリーは、疑わしい銘柄の調査レポートを発表すると同時に空売りをかける「ショートセラー」として知られる
取引先との訴訟に不正の痕跡
香港証券取引所に上場しているセンスタイムの株価は、レポートの発表後に一時9%近く下落。28日の取引の終値は前日比4.86%安の1.37香港ドル(約26円)で引けた。
グリズリーはレポートの中で、中国のメッセージアプリ「微信(ウィーチャット)」の投稿のスクリーンショットを引用。アメリカの金融メディア、キャピタル・ウォッチのCEO(最高経営責任者)が、「センスタイムは外部企業に投資するとともに、その企業からの同額の売り上げを計上している。だが、その取引に伴う納品は行われていない」と述べたとした。
レポートはさらに、(売り上げ水増しとの関連が疑われる)2件の訴訟について言及。そのうち1件は、センスタイムが取引先の精儀達科技を訴えたもので、精儀達科技が(売買契約をした商品の)納品をしていないとして代金返還を求めていた。
ところが中国の裁判所は、上述の取引について「発注書と請求書があるだけで、商品の受け渡しをしない架空取引」だったと認定。センスタイムの訴えを退けた。グリズリーは、この取引がセンスタイムと精儀達科技にもう1社を加えた3社による、売り上げ水増しのためのスキームの一部だったと主張している。
グリズリーは、センスタイムの売上高の4割が(スマートシティー・プロジェクトなど)中国の政府関連需要に依存していることも危険視。「中国の地方政府の主要な収入源(である土地売却収入)は大きく縮小しており、センスタイムの売掛金が回収不能になる恐れがある」とリスクを強調した。
政府需要依存からの脱却に苦戦
レポートは香港証券取引所の開示情報をもとに、センスタイムの支配株主である湯暁鴎氏や、中国のEC(電子取引)大手のアリババ・グループ、日本のソフトバンクグループが保有株の売却を始めているとも指摘した。
センスタイムはAI画像認識技術のなかでも顔認証技術に強みを持ち、IT技術を活用して都市の課題を解決するスマートシティー・プロジェクトのソリューションを中国各地から受注していた。
だが、スマートシティー関連の売上高は2022年を境に大幅な減少に転じた。センスタイムの2023年上半期(1〜6月)の決算では、スマートシティー部門の売上高は1億8300万元(約38億円)と前年同期の半分未満に落ち込んでいる。
(財新記者:杜知航、趙薇)
※原文の配信は11月28日
財新 Biz&Tech
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