東急「ホテルのサブスク」発端は新幹線通勤だった 一見コロナ禍の空室対策、実は発想は以前から
東洋経済オンライン / 2023年12月16日 6時30分
鉄道をはじめ、コロナ禍で利用者の減少など大きな影響を受けた業種は数多い。鉄道会社の系列も多いホテルはその1つだ。コロナの5類移行による訪日外国人観光客の増加などの追い風を受けて現在は活況を呈しているが、この数年は「冬の時代」が続いた。
そのさなかの2021年4月に東急が始めたのが、ホテルのサブスクリプションサービス「TsugiTsugi(ツギツギ)」だ。期間内に2泊・5泊・14泊や、30日間連続など複数のプランがあり、全国約130(2023年12月時点)のホテルに宿泊できる。当初は実証実験として開始し、2023年5月に正式事業化。9月には西日本鉄道(福岡県)グループの西鉄ホテルズと提携するなど対象施設を増やしている。
苦境に陥ったホテルの空室対策として考えられたかのように見えるこの事業。実はコロナ禍よりもだいぶ前、「新幹線で遠距離通勤」が構想の発端だった。
渋谷まで月15万円で通える街は
「東京生まれ東京育ちなので『いなか』がない。地方にずっと憧れのようなものがあった」。ツギツギの発案者で代表を務める川元一峰氏はこう語る。川元氏は2011年に東京急行電鉄(現・東急)に入社。最初からホテル事業に関心があったわけではなかったという。
現在のツギツギにつながるアイデアの発端となったのは、2016年度の税制改正だ。会社が個人に支給する交通費の非課税上限額が15万円に拡大されるという内容を見て、川元氏は「渋谷から月15万円で通勤できる地方都市」を調べた。適していたのが、北陸新幹線が通る上田(長野県)だ。
座席にコンセントを装備した北陸新幹線なら車内で仕事もでき、通勤は可能と考えた川元氏。実際に住んでみることも考えたという。だが、「賃貸物件があまりなく、地縁もないので購入するのも踏ん切りがつかなかった」。そこで浮かんだのが、地方に“お試し移住”ができる仕組みをビジネス化することだ。当時は現在のようなテレワークの発想はまだ浸透しておらず、あくまで東京圏に通勤するという考え方だった。
川元氏は2017年にこの案を、社内で新規事業の立ち上げを提案できる社内起業家育成制度に応募。だが、この提案は「交通費の課税額が15万円になっても、会社が実際に認める額は違うのではないか」「マネタイズは難しいのでは」などの指摘を受けて落選した。
その後も業務外でアイデアを練り続けていた川元氏が、現在につながる「サブスクリプション」のビジネスモデルに触れたのは、2018年にグループのケーブルテレビ会社イッツコムに異動した際だったという。ネットフリックスなど月額制動画配信サービスの普及でケーブルテレビ局が変化を求められる中、事業構造改革を担当することになった川元氏は月額課金制のビジネスモデルを研究。「せっかく身に付けた武器なので、これを自分のアイデアに生かせないか」と考えた。
ケーブルテレビとホテルの経験
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