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元パナ技術者「重度障害者に言葉を取り戻す」挑戦 独立してコミュニケーション支援に人生懸ける

東洋経済オンライン / 2023年12月17日 7時50分

ひらがなの50音の文字盤を使って意思を伝達する「ファイン・チャット」。多くの重度障害者にコミュニケーション手段を取り戻した(記者撮影)

病気や事故で脳に重い障害を負い、寝たきりで意識もないとされる状態を「遷延性(せんえんせい)意識障害」と呼ぶ。差別用語に当たるとして、用いられる頻度は減ったが、かつては「植物状態」とも表現されていた。

【写真】開発資金を集めるクラウドファンディングには1000万円を超える支援が集まった

実は医師にそう診断された患者の中にも、自力で表出できないだけで、意識がハッキリしている人が存在する。また、本人に意識があったとしても、体を動かせず、他者に思いを伝えるすべを持たない状態を「閉じ込め症候群」という。

大阪府茨木市のベンチャー企業アクセスエールは、そんな境遇に置かれた人たちがコミュニケーション手段を取り戻すために用いる意思伝達装置「ファイン・チャット」 の製造と販売を手掛ける。

社長の松尾光晴さん(58)はパナソニックでこの装置を開発、事業化にも携わってきた。だが、2019年にパナソニックが装置の生産を終了したことを機に独立。意思疎通ができなくなった重度障害者に、機械を通じて言葉を取り戻してもらいたいーー。この事業に人生を懸ける背景には、難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)で亡くした父親の無念があった。

スイッチ一つで言葉を紡げる

アクセスエールが製造するファイン・チャットの仕組みは、とてもシンプルだ。

ひらがな50音の記された文字盤が、音声ガイドと共に「あかさたな」の順に点滅する。任意の行が来た時にタイミング良くスイッチを押すと、次は「かきくけこ」というように、また順番に点滅する。

入力したい文字のタイミングで改めてスイッチを押すと、装置の画面上にその字が表示される。この繰り返しで言葉を紡いでいく。指先や頬、まぶたなど、体のどこかがほんのわずかでも動けば、症状に合わせた形状や強度のスイッチを選定し、取り付けることで、誰でも簡単に操作できる。

価格は1台40万円。自治体によって所得制限はあるものの、購入者が市町村の審査を受け、身体機能を代替する「補装具」と認められれば、約9割は公費負担となる。

ファイン・チャットの原型となったのは、かつてパナソニックが販売していた「レッツ・チャット」という装置だ。基本的な機能はほぼ同じで、旧松下電器産業の社員だった松尾社長が2003年、社内ベンチャーを立ち上げて開発した。

構造がシンプルな分、フリーズなどのトラブルは皆無。扱いやすさから高齢者や子供にも喜ばれ、多くの重度障害者に意思疎通の手段を取り戻してきた。松尾社長は業務の傍ら、全国の患者宅を飛び回り、装置の導入に奔走。これまでに支援したのは、会社員時代を含めて計1000人を超える。

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